ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第二十章:悪徳鑑定士と石レンガの真価
《風化の塔》第一階層での任務を無傷で終えた五人は、ずっしりと重い石レンガの入った麻袋を担ぎ、ベルダインの大通りにある冒険者の宿へと戻ってきた。
「へへっ、怪我も武器の消耗もなく銀貨150枚(ガメル)のお買い上げだ。最高の隙間仕事だったぜ」
ロロがホクホク顔で、依頼窓口の横に併設された鑑定所へ麻袋をドサリと置いた。
カウンターの奥から現れたのは、依頼主の代理人を務める初老の鑑定士だった。彼は片眼鏡(モノクル)を指で押し上げながら、嫌悪感も露わに泥のついた石レンガを検分し始めた。
「ふむ……。巨大ムカデの巣窟からよく持ち帰ったとは思うがね。残念だが、君たち、これはハズレだ」
鑑定士は大げさにため息をつき、石レンガを一つ横に退けた。
「ハズレって、どういうことだ?」
ライシンが低く凄みのある声で尋ねる。
「これは古代カストゥール王国の本物の石レンガではない。後世の人間が遺跡を模倣して作った、ただの古い石材だ。依頼主の探している歴史的価値はない。……まぁ、手間賃として報酬の半分、銀貨75枚なら引き取ってやってもいいがね」
「はぁ!? 半額だと!? ふざけるな、依頼書には『古代の石レンガ』としか書いてなかったぞ!」
ロロがカウンターに身を乗り出して激怒する。
「本物を見分けられなかった君たちの落ち度だ。嫌なら別の鑑定所に持っていくがいい。誰もただの石コロなんぞ買い取らんがね」
鑑定士は薄ら笑いを浮かべ、値切りの定石通りに突き放してきた。
観察と知識の連携
「……ちょっと待って。その石レンガ、よく見せて」
メリッサがロロを制し、横に退けられたレンガを手に取った。彼女はセージの知識を総動員し、石の表面の微かな加工痕を指先でなぞる。
「カイル、彼をどう見る?」
メリッサが視線を落としたまま問うと、少し離れた位置に立っていたカイルがニヤリと笑った。
「バードの目は誤魔化せないぜ。視線が俺たちの持ってきた麻袋に釘付けだ。ただの石コロなら、そんなに欲しそうに見るはずがない」
「な、何を馬鹿な……!」
鑑定士の額にじわりと脂汗が浮かぶ。
「その通りね。これは紛れもなく、古代カストゥール王国の第三期に用いられた『魔力定着用の特殊な石材』だわ」
メリッサが石の断面を鑑定士の目の前に突きつけた。
「この微細な結晶構造の配合は、現代の石工技術では絶対に再現できない。セージである私の目は誤魔化せないわよ」
「ち、知ったかぶりをするな! 素人のセージ風情が、ベルダインの鑑定士である私の見立てに口出しする気か!」
鑑定士が声を荒げ、奥に控えていた二人の用心棒を呼ぼうとした、その時だった。
『欠けた石版亭』の威光
「……その見立てに口を出したのは、私一人じゃないわよ」
メリッサがふっと冷たい笑みを浮かべる。
「実は、ここに持ってくる前に、私たちの宿の主人にこのレンガを見せておいたの。彼も私と全く同じ見解だったわ。『素晴らしい保存状態だ』ってね」
「宿の主人だと? 安宿の親父の言うことなど……」
「その宿の名前は『欠けた石版亭』。主人の名前は、マクミラン氏よ」
その名前が出た瞬間、鑑定士の顔からサァッと血の気が引いた。
「マ、マクミランだと!? あの、ベルダインの考古学界隈で『生ける古文書』と恐れられる、あの偏屈な天才学者の……!?」
「ええ。彼が今のあなたの『ただの石材だ』という鑑定結果を聞いたら、学会でどう触れ回るかしらね。依頼主の学者にも、彼から直接手紙を書いてもらおうか?」
シリアが腕を組み、トドメを刺すように冷ややかに言い放つ。
「ま、待て! 待ってくれ! わ、私の見間違いだったようだ! 老眼が進んでいてね……!」
鑑定士は慌てふためき、用心棒を下がらせると、震える手でカウンターの下から銀貨の袋を取り出した。
「ほら! 規定通りの銀貨150枚だ! いや、見事な品を持ち帰ってくれた特別ボーナスとして、さらに銀貨50枚上乗せしよう! だからマクミラン先生には……」
「商談成立だな」
ライシンが銀貨200枚の入った袋を素早く奪い取り、有無を言わさずに背を向けた。
知識という名の最強の武器
冒険者の宿を出た五人は、大通りの喧騒の中で顔を見合わせて笑い声を上げた。
「あっはっは! あの鑑定士の顔、見ものだったぜ! 完全に足元を見て買い叩こうとしたのに、自爆しやがって!」
ロロが銀貨の袋をチャリンと鳴らしながら喜ぶ。
「セージの知識と、カイルの観察眼の勝利ね。それに、あの宿の親父さんがそんなに有名な学者だったなんて、思わぬ拾い物だったわ」
シリアが感心したようにメリッサを見る。
「ええ。今朝、親父さんが私たちの持っていたレンガを見て、一人でブツブツと年代考証を始めていたのを覚えていたのよ。まさかこんなに早く彼のハクが役に立つとは思わなかったけれど」
メリッサが眼鏡の位置を直し、誇らしげに微笑む。
「相手の嘘を見抜き、威圧とハッタリで報酬を釣り上げる。武器を一振りもせず、魔法のMPすら消費せずに銀貨200枚(ガメル)を分捕った」
ライシンが満足そうに頷く。
「これぞ我ら『擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊』の戦い方だ。ベルダインでも、この調子で賢く稼いでいくぞ」
五人の財布はさらに重くなり、彼らは夕食のメニューに少しだけ高価な『ベルダイン風のスパイス焼き』を追加することを全会一致で決定した。
鑑定士の悪巧みを知恵と観察、そして拠点である「欠けた石版亭」の主人のハクを利用して見事に退け、追加報酬まで手に入れました。