ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第二十二章:贋作の石版と足で稼ぐ真実
「欠けた石版亭」での静かな朝。
五人がいつものように薄い麦粥をすすっていると、宿の主人であり高名な学者でもあるマクミランが、丸めた羊皮紙をテーブルに叩きつけた。
「……忌々しい。ギルバートの奴め、またふざけたホラを吹きおって!」
「親父さん、朝から随分と血圧が高いな。どうしたんだ?」
カイルが尋ねると、マクミランは忌々しそうに羊皮紙を広げた。
そこには『世紀の発見! 古代カストゥール第三期の完全なる石版、ギルバート教授によって発掘さる!』という、明日の学会発表を告げる派手な見出しが躍っていた。
「奴は私のライバルを自称する三流学者だ。だが、この『完全なる石版』とやらは十中八九、贋作(フェイク)だ。奴に古代語の完璧な翻訳などできるはずがない。……君たち、ベルダインの街を歩き回って、これが贋作である『決定的な証拠』を集めてきてくれないか? 報酬は銀貨400枚と、今月の宿代・お湯代の全額免除だ」
「宿代とお湯代がタダ!? やる! 絶対にやるぞ!」
ロロが食い気味に立ち上がり、かくして「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」は、ベルダインの街を舞台にした本格的な情報収集(シティアドベンチャー)に乗り出した。
適材適所の情報収集網
巨大な都市国家ベルダインで、一つの贋作の証拠を見つけるのは砂漠で針を探すようなものだ。しかし、彼らには徹底された「専門スキルの分業」があった。
1. 吟遊詩人の耳と舌(カイル)
カイルはギルバート教授の助手たちがよく通う酒場へ赴き、上質なリュートの弾き語りで彼らを上機嫌にさせた。
「いやぁ、ギルバート先生の偉業に乾杯だ。……で、あの見事な石版、どこで見つけたんだい?」
カイルの巧みな話術(バード技能)に乗せられた酒に酔った助手は、「発掘じゃないさ。職人街の裏にある『彫刻工房』に何度も通って……おっと秘密だぞ」とあっさり口を滑らせた。
2. 野伏の追跡術(シリア)
助手の言葉を受け、シリアが職人街の裏通りを探索する。
「レンジャーの嗅覚なら分かるわ。古代の石レンガを人工的に風化させる時に使う『硝酸』の匂い……この地下室からよ」
彼女は裏路地の石畳に残された微細な硝酸の跡と、石粉の匂いを的確に追跡し、秘密の工房を特定した。
3. 盗賊の目利きと帳簿(ロロ)
工房の裏口から忍び込んだロロ(シーフ技能)は、職人が不在の隙を突いて作業台の引き出しをピッキングで開錠した。
「ビンゴだ。ギルバートの名前で『古代石材の加工と酸による風化処理』の依頼書が出てきたぜ。おまけに支払い証明書(レシート)までご丁寧に残してやがる」
無血の制圧と論理の刃
証拠の書類を懐に収めたロロが外に出ようとした瞬間、工房の職人が数人の用心棒を連れて戻ってきてしまった。
「おい! そこで何をしてる!」
用心棒たちが武器に手をかけるが、工房の入り口にはすでにライシンが静かに立ち塞がっていた。
「……俺たちは探し物を見つけただけだ。血を流す必要はない。道を開けてもらおうか」
ライシンはマジックブレイドを抜かず、ただ鞘に手を添えただけだったが、ファイターとしての圧倒的な死線の経験が、実力差という名の重圧を周囲に放つ。凄みに気圧された用心棒たちは一歩後ずさり、五人は一切の戦闘を避けて悠々とその場を後にした。
4. 賢者の証明(メリッサ)
宿に戻った彼らは、集めた証拠をテーブルに並べた。
メリッサがセージの知識を用いて、ロロが持ち帰った工房の記録と、ギルバートが発表予定の石版の拓本を照らし合わせる。
「完璧ね。この彫刻工房で使われたノミの角度と、拓本に残された彫り跡が完全に一致するわ。さらに、古代カストゥール語の文法として、第三期には存在しない『助詞』が使われている。学術的にも物理的にも、贋作である証明は揺るがないわ」
足で稼いだ圧倒的黒字
翌日の学会。
意気揚々と「完全なる石版」を発表したギルバート教授の前に、マクミランが五人の集めた完璧な証拠(職人の依頼書、酸の購入記録、文法的な矛盾の指摘)を突きつけた。
ギルバートは一言の反論もできず、その場で膝から崩れ落ちた。
「見事な調査だった! 暴力に頼らず、これほど緻密で確実な証拠を足で集めてくるとは!」
意気揚々と宿に戻ってきたマクミランは、約束の銀貨400枚に加え、最高級のワインを五人に振る舞った。
「武器の修理代ゼロ、怪我人ゼロ。そして何より……今月の宿代とお湯代が全額浮いた!」
ロロが銀貨を抱きしめながら、感極まったように叫ぶ。
「それぞれの得意分野(スキル)を活かした完璧な連携だったわ。街中の調査任務も、私たちの『隙間産業』にはうってつけね」
メリッサがワイングラスを傾け、全員が笑顔で頷き合った。
「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」は、遺跡の街ベルダインの裏社会と学術界隈の双方に、静かに、しかし確かな名を轟かせ始めていた。