ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第二十四章:旅人の国の隙間と水路の秘密
「旅人の国ロマール」。東方貿易の要衝であり、無数の欲望と金が渦巻くこの大都市に足を踏み入れた「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」がまず行ったのは、英雄的な名声を馳せることでも、暗黒街の噂を追うことでもなく、徹底的な「宿探し」であった。
「日当たりが悪くて大通りから一本入った路地裏。だが、掃除が行き届いていて南京虫が出ず、一泊の値段が銀貨三枚以下……よし、ここだ!」
ロロがセージ技能で培った情報収集力と、商人ならではの嗅覚で見つけ出したのは、下町地区にひっそりと佇む冒険者の宿《錆びた錨(いかり)亭》だった。頑固そうな元船乗りの店主は、身なりは質素だが装備の手入れが行き届いている五人を見て、満足そうに鼻を鳴らした。
「部屋は清潔に使えよ。で、仕事を探してるなら掲示板を見な。威勢のいい連中が蹴飛ばしていった『ドブさらい』なら、売れ残ってるぜ」
店主が指さした張り紙を、五人はさっそく囲んだ。
他の荒くれ冒険者たちが「報酬が安すぎる」「魔物が出ないから退屈だ」と見向きもしなかったその依頼は、【旧市街地下・古水路の崩落点検および簡易図面の作成】というものだった。市議会の下請け技師からの依頼で、報酬は銀貨三十枚。五人で割れば大した額ではないが、注目すべきは注記欄だ。
『作業に必要な油、松明、筆記具は依頼主側で支給。危険な魔物の生息報告なし』
「経費が一切かからない……!」
ロロの目が怪しく光った。
「しかも支給された松明や油が余ったら、交渉次第でそのまま貰えるかもしれないわね」
メリッサもラーダの神官らしく、無駄のない着眼点で頷く。
「よし、決まりだ。ロマールでの初仕事は、この水路点検で行こう」
リーダー格のライシンが静かに宣言した。
◇
翌日、一行は市議会技師から支給された点検道具を手に、旧市街の地下へと降り立った。
ひんやりとした湿った空気が漂う薄暗い水路。一歩間違えれば足をすくわれそうな暗闇だが、擦り減り銀貨隊の足取りに不安はない。
「先頭は僕が行くよ。床の崩落や仕掛けには気をつける」
シーフ技能が熟練の域に達したロロが、クォータースタッフで足元を叩きながら先行する。さらに、最近身につけたレンジャーの知識で、湿気や風の流れから地下の空気の滞留を察知していた。
「この先の分岐、左からの風が微かに甘い匂いがする……うん、ドブ臭さとは違うな。何かが腐敗してるか、古い木箱でもあるかもしれない」
「待って、精霊に聞いてみるわ」
シリアが弓を背負い直し、小さな声で精霊語の詠唱を始める。シャーマン技能が高まった彼女は、周囲に漂う微細な風と水の精霊(ウィル・オー・ウィスプやウンディーネ)の囁きをより深く聴き取れるようになっていた。
「……左の水路は途中で瓦礫が詰まっていて、水が澱んでいるみたい。右のルートが安全よ」
「助かるよ、シリア。無駄な歩数を減らせる」
最後尾を警戒していたカイルが、リュートを背中に固定し直しながら笑う。カイルもまたシーフ技能に磨きがかかっており、後方の暗がりから忍び寄る気配がないか、耳をすませていた。
やがて一行は、水路の広い交差点に出た。ここが技師の言っていた「旧時代の接合部」だ。
メリッサが支給された松明を掲げ、古びた石造りの壁面をセージの知識で入念に観察する。
「このアーチ構造は、二百年以上前のカストゥール末期の建築様式ね。表面の劣化は激しいけれど、主軸の石組みはしっかりしているわ。……ただし、あそこ」
メリッサがライトメイスの先端で指し示した天井の一角には、大きな亀裂が入っていた。
「あの亀裂は水圧によるものね。放っておけば近いうちに崩落して、上の通りを巻き込むわ。図面に『要補強・緊急度高』と記載しておきましょう」
「完璧な分析だな、メリッサ」
ライシンが感心したように頷く。彼自身もファイターとしての場数を踏み、洞窟や狭小空間での立ち回り・危険予知の能力が高まっていた。腰のマジックブレイドを抜くまでもなく、場の安全性を冷静に判断している。
だがその時、ロロが水路の隅で足を止めた。
「……ん? ライシン、ちょっと来てくれ。ここに変なものがある」
壁の隙間に、比較的新しい金属製のフックと、滑車を取り付けた痕跡が残されていたのだ。
「これは……密輸人が使っていた隠し仕掛けだな」
ロロとカイルが同時に膝をつき、シーフツールを取り出した。二人の熟練した手つきにより、壁の石版が一枚、カチリと音を立ててスライドする。
中に隠されていたのは、古びた皮袋と、密輸組織の古い取引帳簿だった。
「待って、皮袋の中身は……銀貨と、加工前の小さな半貴石ね。放置されてから随分経っているわ」
メリッサが帳簿の日付を確認して言った。
「密輸組織が摘発された際に見落とされた隠し財産でしょうね。法律上、発見された無主の遺失物は、市への報告と引き換えに三割の報奨金が得られるわ。……もちろん、この帳簿も合わせて提出すれば『密売ルート解明の功績』として追加の謝礼が見込めるわね」
ロロの顔に、この日一番の笑みが浮かんだ。
「素晴らしい! ドブさらいのついでに、臨時ボーナス確定だ!」
◇
数時間後。
一行は一切の怪我もなく、一滴のポーションも消費せず、水路の完全な点検図面を携えて地上へ戻った。
支給された油や松明は半分以上余っており、ロロの交渉によって「丁寧な作業の謝礼」としてそのまま譲り受けることに成功。さらに、技師に提出した崩落危険箇所の指摘と、市警備隊へ届け出た密輸帳簿・遺失物によって、当初の報酬三十枚に加え、四十枚の特別謝礼が支払われることとなった。
「おいおい、あのドブさらいで銀貨七十枚と資材を手に入れて帰ってきたのか!?」
《錆びた錨亭》に戻った五人を見た店主は、目を見開いて驚いた。
「ええ。ついでに水路の清掃もしておいたので、これからは宿の裏の手押しポンプの水の通りも良くなるはずですよ」
カイルが陽気にウィンクしてみせると、店主は「大した連中だ」と感服したように笑い、自家製の麦酒を一杯ずつサービスしてくれた。
タダで手に入った冷えた麦酒を傾けながら、ロロが満足そうに金貨袋を叩く。
「武器の研ぎ直しゼロ、防具の修繕ゼロ、ポーション消費ゼロ。そしてタダ酒と予備の松明をゲット……うん、ロマールでの出だしとしては最高だな!」
「無茶な戦闘を避けて、知識と手先で稼ぐ。これぞ『擦り減り銀貨隊』の真骨頂ね」
メリッサが微笑み、シリアとライシンも深く頷いた。
大都市ロマールの陰に潜む数々の危険や陰謀。しかし、堅実さと隙間産業狙いを徹底する彼ら5人にとって、この街はまだまだ「稼ぎ甲斐のある宝の山」に違いないのだった。
【更新後の技能レベル】
ライシン: ファイター Lv3 / ソーサラー Lv1
シリア: レンジャー Lv3 / シャーマン Lv2
メリッサ: セージ Lv3 / プリースト(ラーダ) Lv2
カイル: シーフ Lv3 / バード Lv2
ロロ: シーフ Lv3 / セージ Lv1 / レンジャー Lv1