ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第二十五章:解体稼業と二人の盗賊
前回の「古水路の点検」で発見した密輸組織の帳簿は、ロマール市警備隊による迅速な摘発に繋がり、街の裏社会にちょっとした波紋を呼んでいた。
その余波が思わぬ形で「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」に転がり込んできたのは、数日後のことである。
「みんな、とびきり美味しい仕事を見つけてきたぞ!」
宿屋《錆びた錨亭》の食堂。朝食の硬いライ麦パンをかじっていたライシンたちのテーブルに、ロロが興奮した面持ちで依頼書を叩きつけた。
【元・密輸組織のアジト(地下倉庫)の残存罠解除および証拠品の回収】
依頼主: ロマール市警備隊・および差し押さえ物件を購入した商人
報酬: 銀貨百五十枚(回収した物品の価値により上乗せあり)
備考: 内部には極めて悪質な物理トラップが多数設置されている。負傷時の治療費は自己負担とする。
「警備隊が踏み込んだはいいが、入り口の矢罠と落とし穴で数人が重傷を負ってな。奥に進むのを諦めたらしい。普通の冒険者パーティーも『怪我の治療費とポーション代で赤字になる』と敬遠して、数日間放置されていたんだ」
ロロの言葉に、カイルがニヤリと笑ってリュートの弦を弾いた。
「なるほど。つまり『魔物は出ない』『罠さえ解除すればいい』『競争相手がいない』ってわけだ」
「その通り!」
罠の解除に失敗すれば大怪我だが、彼らにはシーフ技能を持つ者が二人もいる。武器も防具も消耗せず、純粋な技術だけで稼げるこの依頼は、まさに彼らの基本方針に合致する「隙間産業」であった。
◇
旧市街地の外れにある、一見するとただのうらぶれた倉庫。
その地下へと続く階段の前で、五人は慎重に陣形を組んだ。今回はライシンが一番後ろに下がり、前衛をロロとカイルの「シーフコンビ」が務める。
「シリア、空気の流れはどう?」
ロロが小声で尋ねると、シリアは静かに目を閉じ、精霊語の呪文を紡いだ。シャーマン技能が上がった彼女は、微細な風の精霊(シルフ)の動きをより正確に感知できる。
「……生き物の呼吸はないわ。魔物や見張りが潜んでいる可能性はゼロ。ただ、階段の途中と扉の前に、不自然に風が淀んでいる場所がある」
「了解。僕とカイルで片付ける」
ロロは最近習得したばかりのレンジャー技能の知識を活かし、床のわずかな埃の不自然な途切れや、壁の傷跡を観察。怪しい箇所を特定すると、カイルがシーフツールを取り出して素早く作業に取り掛かる。
「ロロ、この仕掛けのワイヤー……」
「ああ、バネの張力からして、東部式のクロスボウ連動トラップだ。セージ技能の初歩的な知識でも分かる。解除ピンは右下だね」
「ビンゴ。……よし、無力化完了」
二人のシーフ技能レベル3による息の合った連携は、まさに芸術的だった。
ロロが知識と観察眼で罠の構造を看破し、カイルが持ち前の器用さで毒針やワイヤーを次々と無効化していく。
「見事な手際ね」
松明を掲げながら後ろを歩くメリッサが、感嘆の息を漏らす。
「昔のカストゥール王国の魔法罠なら私の出番だけれど、近代的な盗賊ギルドの物理罠なら、二人に任せておけば安心だわ」
「俺の剣の出番がないのは平和でいいことだ。研ぎ石も減らないしな」
ライシンも、マジックブレイドの柄に手をかけたままリラックスした様子で頷いた。
地下倉庫の最奥。
厳重な鉄格子の奥に、密輸組織が残していったと思われる黒塗りの大きな宝箱が鎮座していた。
「最後の仕上げだな。……メリッサ、この鍵穴の周りに刻まれている文字、読めるか?」
カイルの問いかけに、メリッサが前に出る。セージ技能を持つ彼女は、一瞥しただけでその正体を見抜いた。
「古代語の暗号ね。『三つの星が重なるとき、死の顎が開く』……おそらく、鍵穴を回す順番か、ダミーの鍵穴の警告よ。右端の鍵穴以外をいじると、毒ガスか酸が噴出する仕掛けになっているわ」
「完璧だ。それじゃあ、右端の鍵穴を……開ける!」
カチリ、と重々しい音が響き、宝箱のロックが解除された。
中に入っていたのは、警備隊が探していた密輸品の証拠となる追加の書類と、裏帳簿、そして少なからぬ金塊だった。
「ミッション・コンプリートだ!」
カイルが明るく宣言したが、ロロの目は宝箱ではなく、道中で解除してきた罠の残骸に向けられていた。
「おいおいカイル、まだ仕事は終わってないぞ。行きに解除したクロスボウの部品、仕掛け線の極細ワイヤー、それから毒針の先の麻痺毒。これらも丁寧に回収して持ち帰るんだ」
「……本気かい、ロロ?」
「当たり前だ! 道具屋や狩人に『素材』として売り払えば、さらに銀貨数十枚の利益になる! 経費削減どころか、落ちているものは骨の髄までしゃぶり尽くすのが『擦り減り銀貨隊』だろ!」
その徹底した商人魂(がめつさ)に、ライシンたち三人は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
◇
その日の夕方。
市警備隊の詰め所に現れた五人は、依頼されていた証拠品の回収を完璧にこなした上、誰一人としてかすり傷一つ負っていないことで警備隊長を大いに驚かせた。
さらにロロは、回収した罠の部品を警備隊の技術班に「防犯設備の研究素材」としてちゃっかり売りつけることにも成功し、特別ボーナスをせしめていた。
「宿代の安い《錆びた錨亭》に泊まり、戦闘を避けてポーションを節約し、廃品の罠まで売り払う……。ふふ、ロマールでの資金稼ぎもすっかり軌道に乗ったわね」
宿に戻る道すがら、メリッサが金貨の入った袋を鳴らして微笑む。
「ああ。この調子で、怪我なく手堅く、ロマールの『誰もやりたがらない美味い仕事』を根こそぎ頂いていこうぜ」
ライシンの言葉に、五人はロマールの夕日に向かって力強く頷いたのだった。