ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚   作:シットライヌ

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第二十六章:貴族の愛玩獣と沈黙の護衛

第二十六章:貴族の愛玩獣と沈黙の護衛

 

「旅人の国ロマール」の下町にある冒険者の宿《錆びた錨亭》に、場違いなほど豪奢な身なりの使者が訪れたのは、昼下がりのことだった。彼らが持ち込んだ依頼書を前に、ロロは目を輝かせ、ライシンは腕を組んで眉をひそめていた。

 

依頼主はロマール市参事会に名を連ねる有力貴族。内容は「本邸から別荘まで、我が家の至宝を護衛してほしい」というものだ。これだけならよくある話だが、問題はその「至宝」の正体と、提示された奇妙な条件である。

 

「護衛対象は、南方の孤島から取り寄せたという希少生物『月光眠り猫』……。そして条件は『対象を決して驚かせないこと』『戦闘行為は一切禁止』『大きな音を立てた時点で報酬は全額没収』か」

メリッサがセージ技能の豊富な知識を引き出しながら呟く。

「月光眠り猫は極めて繊細な魔獣よ。強いストレスや騒音を浴びると、毛並みに宿る魔力が散逸して価値が暴落してしまうの。だから、血の匂いや金属音を嫌って、普通の荒くれ傭兵ではなく私たちに白羽の矢が立ったというわけね」

 

「素晴らしい! つまり、武器を抜くことも、防具が傷つくことも、ポーションを消費することも絶対にない。完全なる『非戦闘任務』ってことだ!」

ロロが机を叩いて歓喜した。提示された報酬は銀貨三百枚。経費ゼロで挑める仕事としては破格である。

 

かくして、擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊の五人は貴族の馬車に同乗し、豪奢なクッションの上で丸くなる白銀の猫を囲んで、息を殺しながらロマールの大通りを進むこととなった。

 

「前方の交差点、酔っ払いの喧嘩が発生してる。このまま進めば怒声で猫が起きるぞ」

馬車の屋根に張り付いていたカイルが、シーフ技能とバード技能で養われた耳を澄ませて警告を下し、即座に動いた。

カイルは窓越しにリュートを優しく爪弾き、魔法の呪歌(子守唄)で猫をより深い眠りへと誘った。

 

「喧嘩を避けて迂回するわよ。ロロ、路地の安全確保とルート選定を」

「任せな。レンジャーの知識で、一番舗装が綺麗で馬車が揺れない道を選んでやる」

ロロが先行して馬車の進路を的確に誘導し、ライシンは御者台の横で周囲に鋭い眼光を飛ばす。路地裏から飛び出そうとした野犬の群れや、怪しい影を落とすチンピラたちも、ファイターとして修羅場を潜ってきたライシンの無言の威圧感と静かな殺気を当てられ、悲鳴一つ上げずに道を開けていった。

 

武器がすれ違う音も、魔法の爆発音もない。ただ究極の「平和と静寂」だけを維持する、異常なほどに張り詰めた護衛劇。

 

数時間後。郊外の別荘で出迎えた貴族は、一仕事終えたとは思えないほど衣服に汚れ一つない五人と、心地よさそうに喉を鳴らす愛猫を見て感嘆の声を上げた。

「おお……見事だ! あの喧騒の街中で一度も騒ぎを起こさず、これほど完璧に運んでのけるとは! 君たちこそ真のプロフェッショナルだ!」

 

「ええ、我々は『無傷で確実』をモットーとしておりますので」

ライシンが涼しい顔で一礼する裏で、ロロは心の中でガッツポーズを決めていた。研ぎ石の消費ゼロ、ポーションの消費ゼロ。これぞ究極の経費削減ミッションである。

 

静かなる大金星を挙げた彼らだが、この完璧すぎる仕事ぶりが、ロマールの貴族社会で「どんな厄介ごとも静かに処理する腕利き」という奇妙な噂として広まっていくことを、今はまだ知る由もなかった。

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