ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第二十七章:闇市の目利きと自滅の罠
「見てごらん、この輝き! 古代カストゥール王国の偉大なる魔導士が遺した『万能の浄化結晶』だ! これさえあれば、濁った水も一瞬で清らかな聖水に変わり、あらゆる病や毒を遠ざける! 本来なら金貨十枚の品だが、今日は特別に銀貨五十枚で譲ろう!」
「旅人の国ロマール」の名物闇市。威勢のいい口上に誘われ、人集まりができている露店を、買い出し中の「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」が通りかかった。
買い出し袋を抱えたロロが、セージ技能の初歩的な洞察力とシーフの鋭い眼光で露店を一瞥し、鼻で笑う。
「嘘八百だな。ただの粗悪な明礬(みょうばん)の塊に、薄い発光塗料を塗っただけだ。原価は銅貨三枚ってところか」
「それだけじゃないわ」
メリッサがセージ技能の膨大な知識を元に、呆れ顔で付け加えた。
「カストゥール時代の浄化結晶は、表面に特有の古代語ルーンが刻まれているはずよ。あの石に彫られているのは、ただのデタラメな模様。知識神ラーダの御名において、あんな子供騙しがまかり通るなんて許せないわね」
立ち去ろうとした五人だったが、露店の前で世間知らずな様子の若い駆け出し冒険者が、全財産らしき銀貨の袋を取り出そうとしているのが目に入った。さらに周囲には、露店商の仲間と思われる「サクラ」の男たちが「安いぞ!」「俺も買った!」と群衆を煽っている。
「……ライシン、どうする?」
カイルがリュートを肩に掛け直し、ニヤリと笑う。
「見過ごしても損はしないが、あの詐欺師ども、昨日の夜からあの場所で若い冒険者や老人ばかり狙って稼いでいるらしいぜ。ロマールの市警備隊に突き出せば、詐欺行為の通報謝礼金が出るんじゃないか?」
「懸賞金か」
ロロの耳がぴくりと跳ね上がった。
「警備隊への情報提供と手引きなら、銀貨二枚相当の謝礼が出る規則だ。それに、あの詐欺師が貯め込んだ不当な利益が没収されれば、被害者への返還以外の『発見協力金』として一割が支払われる可能性がある!」
「決定ね」
シリアが弓の弦の張りを確かめながら頷く。
「でも、市場で大立ち回りを演じたら警備隊に事情聴取で半日潰されるわ。武器も傷つくし、無血で自滅させましょう」
「了解だ。各員、作戦開始」
ライシンの静かな合図とともに、五人は完璧な「分業体制」に入った。
まず動いたのはカイルとメリッサだ。カイルは陽気な声を張り上げながら人ごみに割り込み、鮮やかな手つきで注目を集めた。
「やあやあ皆さん! 素晴らしいお宝だね! だけど、本物の古代の秘宝なら、風の精霊もその聖なる輝きに祝福を与えるはずだと思わないかい?」
人々の視線が集まった瞬間、背後に立ったシリアが静かに呪文を唱える。シャーマン技能によって呼びだされた微風の精霊(シルフ)が、露店の上にふわりと舞い降りた。
精霊の起こした不自然な風が「万能の浄化結晶」を包み込むと、水で溶ける性質の発光塗料がみるみるうちに剥げ落ち、ただの白っぽく濁った雑石が露わになった。
「な、なんだこれは!? 光が消えたぞ!」
群衆からどよめきが上がる。焦った詐欺師が
「風のせいだ! 粗暴な精霊のせいで魔力が乱れた!」
と誤魔化そうと叫ぶが、そこへメリッサが進み出た。
「見苦しい言い訳はおやめなさい」
メリッサはセージの厳格な口調で、結晶のデタラメな成分と古代語の矛盾を、市場全体に響き渡る朗々とした声で解説し始めた。学術的かつ論理的な指摘に、群衆は完全に納得し、詐欺師への怒りの声へと変わっていく。
「騙しやがったな!」「金を出せ!」
パニックに陥った詐欺師とサクラの男たちが商品と売上金を持って逃走を図ろうと飛び出したが、その退路には、すでにロロとライシンが回っていた。
ロロは足元の暗器やクォータースタッフを使うまでもなく、レンジャーの観察眼で詐欺師の逃走経路を完璧に予測。足元にさりげなく転がした果物の皮に、詐欺師の親玉が見事につまずいて派手に転倒した。
起き上がろうとした親玉の視界を塞いだのは、仁王立ちするライシンの圧倒的な威圧感だった。
ライシンは剣を抜くことすらしない。ただ冷たい眼光で下し見るだけで、親玉とサクラたちは恐怖で腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「騒がしいと思えば、なんだこれは!」
事態を聞きつけた市警備隊の巡視兵たちが駆けつけてきた時には、詐欺行為の決定的な証拠である偽の宝石と、押収された売上金、そして縄で縛られた詐欺グループが完璧に揃っていた。
「見事な手際だ、冒険者諸君! 街の治安維持に大きく貢献してくれた」
感謝する警備隊長から、不法行為の通報謝礼金と発見協力金として、合計で金貨二枚(銀貨二十枚相当)が提示された。
さらに、詐欺から救われた隊商の商人たちの長から
「害虫を追い払ってくれたお礼だ」と、日持ちする最高級の燻製肉と干し魚、上等なオリーブオイルの詰まった大きな樽が贈られた。
その日の夕方。《錆びた錨亭》の食堂で、タダで手に入った豪華な食材のスープを囲み、五人は乾杯を交わした。
「剣を一回も振らず、魔法の消費も最小限。それでいて現金と一ヶ月分の極上スープの具材をゲットだ!」
ロロが満足そうに干し肉をかじりながら笑う。
「あの若い冒険者も全財産をスられずに済んだし、ラーダの教えにも叶う良い仕事だったわね」
メリッサが温かいスープを啜り、シリアとカイルも楽しそうに頷いた。
自由都市ロマールの市場の賑わいの中、擦り減り銀貨隊は今日も一切の消耗なく、賢く着実に日銭と成果を稼ぎ出していた。