ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚   作:シットライヌ

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第三十二章:絡繰り金庫と無血の防犯テスト

第三十二章:絡繰り金庫と無血の防犯テスト

 

「つまり、この新造した巨大金庫を『一切傷つけずに』開けてみせろ、という依頼だな?」

 

エレミアの港に面した巨大な工房で、ロロは目の前に鎮座する鋼鉄製の絡繰り金庫を撫でながら目を輝かせていた。

依頼主は、職人ギルドでも指折りの錠前技師。南海のロードス島と取引する大商会から特注された「絶対に破られない金庫」を納品する直前、最終的な防犯テストを外注してきたのだ。腕力で破壊しようとする荒くれ者ではなく、ギルドの掟に従い「傷一つつけずに挑む」と評判の擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊が指名されたのである。

 

「報酬は銀貨二百五十枚。しかも完全な屋内作業で、魔物との遭遇率ゼロ。まさに俺たちのためのボーナスステージだ」

ロロの号令で、五人の完璧な分業が始まった。

 

「シリア、内部の構造はどうなっている?」

カイルがシーフツールを取り出しながら尋ねると、シリアは金庫の表面にそっと耳を当てた。

「……ダメね、内部は精霊も入り込めないほどの密閉構造になっているわ。ただ、微かな金属の軋みから、三層の回転シリンダーが連動しているのが分かる」

 

「なら、私が表面の暗号を解くわ」

メリッサが金庫のダイヤルに刻まれた精緻な幾何学模様を見つめる。セージの高度な知識が、職人の思考の癖を読み解いていく。

「これはカストゥール時代の天球図を模しているわ。ロードス島の星の配置……つまり、南十字の角度に合わせてダイヤルを『右に三、左に七、右に二』よ」

 

メリッサの指示に従い、ロロとカイルが左右の鍵穴に同時にツールを差し込む。熟練したシーフの指先は、まるで一つの生き物のように完璧にシンクロしていた。カチリ、という小気味よい音が工房に響き、分厚い扉がゆっくりと開き始める。

 

しかしその瞬間、金庫の内側から不穏な機械音が鳴り響いた。防犯用のダミートラップとして仕込まれていた、強力なバネ式の回転槍が飛び出してきたのだ。

職人が叫ぶよりも早く、最後尾にいたライシンが動いた。彼は腰のマジックブレイドには触れず、足元に落ちていた「銅貨一枚の価値もない木の端材」を蹴り上げ、回転槍の根本にある歯車の隙間へと正確に突き立てた。

 

ガガッ、と鈍い音がして、罠は完全に沈黙した。剣を傷つけることなく、歯車の動きを物理的にロックして未然に防いだのである。

 

「見事だ! 私の最高傑作を、文字通り『無傷で』破ってみせるとは!」

職人は悔しがりながらも、彼らの洗練された手際に惜しみない拍手を送った。

 

「研ぎ石の消費ゼロ、ツールの破損ゼロ。そして木の破片一つで報酬確定だ!」

ロロが職人から受け取った報酬袋を掲げると、仲間たちから歓声が上がる。潮風の香るエレミアの港町でも、彼らの「絶対に消耗しない」冒険は確実な日銭と周囲の感嘆を稼ぎ出し続けていた。

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