ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第三十三章:砂漠の遺失物と賢者の国への投資
エレミアの商人ギルドが頭を抱えていた最後の難題は、「悪意の砂漠」カーンの流砂に飲み込まれた宝石商の隊商から、積荷の金庫を引き上げることだった。流砂の底には巨大な魔物アリジゴクが巣食っており、並の傭兵では足元の振動で気付かれて飲み込まれるだけだ。しかし、完全無血の隙間産業を掲げる「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」にとって、これは高報酬が約束された絶好の標的だった。
「流砂の周期とアリジゴクの活動時間は、砂漠生まれの俺の肌が覚えている」
ロロがレンジャーの知識で安全地帯と侵入のタイミングを的確に割り出す。シリアがシャーマンの力で風の精霊を操り、足元の砂の振動を完全に遮断。アリジゴクの微細な感知器官を無効化している間に、カイルとロロがシーフの身のこなしで音もなくすり鉢状の砂の縁へ滑り降りた。
「メリッサ、引き上げの張力計算を!」
「滑車をあの岩の角度三十度に固定して。ロープの摩耗を最小限に防げるわ」
セージの知識で完璧な力学構造を組み上げ、前衛のライシンが静かなる怪力でロープを引く。剣を抜くことも、ポーションを一滴消費することもなく、重厚な金庫は音もなく砂の底から回収された。流砂の主が異変に気づいた頃には、五人の姿はすでに安全圏の彼方である。
この砂漠ならではの難題を無傷で解決した彼らは、莫大な特別報酬を手にした。そして彼らの次なる目的地は、大陸一の大都会であり知識と冒険者の最高峰、オラン王国である。
「オランの『賢者の学院』や遺跡都市パダで立ち回るなら、一流の道具への投資は不可欠だ。今まで溜め込んだ資金、ここで一気に解放するぞ!」
ロロの号令のもと、エレミアの誇る名工たちの工房を巡り、五人は己の商売道具を劇的に更新した。
ライシンが手に入れたのは、刃こぼれ一つない職人特製の高品質のマジックブレイド。いざという時の威圧感と刃の強靭さが格段に増した。
シリアは、砂漠の乾燥や強い風にも耐えうる、しなやかな張力を持った高品質のショートボウを背に負った。
メリッサは、オランでの高度な文献調査や図面作成を見据え、書き心地の滑らかな高品質の筆記具(羽ペン、インク)と羊皮紙で出来た分厚いスケッチブックを揃え、知的な微笑みを浮かべた。
カイルの胸元には、エレミア特有の異国情緒あふれる美しい装飾が施され、より深い音色を響かせる高品質のリュートが輝いている。
そしてロロ自身は、遺跡探索における鍵開けの経費削減と時間短縮をさらに極めるべく、魔力で錠を操るコモン・ルーンの指輪(ロック、アンロック)を両手にはめて不敵に笑った。
「これぞ究極の先行投資だ。さあ、次は賢者の国オランの裏の裏までしゃぶり尽くすぞ!」
研ぎ澄まされた新たな装備を纏い、擦り減り銀貨隊は熱気帯びる砂塵の王国を後にして、大陸最大の都市を目指す新たな旅路へと歩みを進めた。