ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
特別編:銀貨が擦り減り始めた日
すべてが始まったのは、豊かな交易と魔術が交差し、王城が聳え立つラムリアース王国の王都――その路地裏に佇む冴えない冒険者の宿《銅貨と水筒亭》の喧騒の中だった。
薄暗い酒場の片隅で、異国情緒あふれる東方の剣士が一人、一杯の白湯で一時間を粘っていた。イーストエンド島の魔法戦士の家系に生まれたライシンである。
彼が遠い海を越えてラムリアースまでやってきた目的は、ただ一つ。数代前に途絶えてしまった師匠の家伝の秘伝——剣術と古代語魔法を織り交ぜて遠方の敵を絶つ遺失魔法「リープスラッシュ」の使い手がこの国に在命し、その使い手から遺失魔法を教わることだった。
無事に目的を達成することが出来たのだが、長旅で懐は寒く、無駄な宿代や情報料を払う余裕は一切なかった。
その向かいのテーブルでは、派手な上着を着た吟遊詩人がリュートを爪弾き、投げ銭を求めて陽気な小曲を奏でていた。カイルである。持ち前の器用さと口八丁で各国を流浪してきた彼だったが、直前滞在していた街で気取った貴族の醜聞をそのまま歌にしてしまい追放。手元に残ったのは数枚の銅貨のみで、当面の路銀と手軽な稼ぎ口を心の底から欲していた。
そこへ、一人の少女が大きな羊皮紙の束を抱えて入ってきた。知識神ラーダの聖印を胸に掲げたメリッサだ。彼女は神殿の静寂な書庫に籠もりきりの研究生活に限界を感じていた。
「文字の上の歴史ではなく、この目で古代の遺構を見たい」
そう願って冒険者の仲間を探しに来たのだが、酒場にいる荒くれ者たちは「戦利品の横取り」や「力任せの破壊」ばかりを口にし、知識と歴史を尊重するセージの探求心に応えてくれる者は皆無だった。
さらに、宿の入り口で風に揺れる暖簾をくぐったのは、深緑の外套を羽織ったシリアだった。彼女は元々、王国の森林衛士隊で期待される見習いだった。しかし、森の境界線を巡る政治的な争いや、古く厳格すぎる軍隊の掟に息苦しさを覚え、隊を飛び出したのだ。
「もっと広い世界で、縛られることなく自由な精霊たちの声を聞きたい」
そう決意して冒険者の宿の門を叩いたものの、一匹狼で生きていくには限界があることを察し、信頼できる旅の連れを探していた。
そんな、目的も出身もバラバラな四人の視線が交錯する店のカウンターで、一人の小柄な青年が羊皮紙を見ながら思案していた。
閉鎖的な悪意の砂漠カーンでの部族の生活を嫌い、「自らの商会を設立する」という野望を抱いて旅をしてきたロロである。
ここから物語は第0章につながる。