ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第三十五章:賢者の依頼と遺跡都市の死角
オランの路地裏にある新たな拠点、訳ありの冒険者の宿の特別室で、ロロは一枚の依頼書をテーブルに広げた。
「今回の依頼主は『賢者の学院』の魔石晶研究室だ。標的は、遺跡都市パダの地下区画に潜む古代の魔法生物『ルーン・ハウンド』。他の冒険者たちは『ただの崩れた石像』だと見落としているか、頑丈すぎて武器が欠けるのを嫌って放置している代物さ」
ロロの言葉に、メリッサが真新しい高品質の筆記具を走らせ、羊皮紙のスケッチブックにパダの地下構造とルーン・ハウンドの推測図をサラサラと描き出す。
「動力源となっっている『特殊な魔晶石』が必要なのね。石の装甲を力任せに叩き割ればコアも砕けるわ。関節の隙間、装甲の継ぎ目だけを正確に狙う必要がある」
「だからこそ、俺たちの出番ってわけだ」
ロロが不敵に笑い、五人は遺跡都市パダへと向かった。
かつての空中都市レックスが墜落した跡地であるパダは、瓦礫と魔力が入り混じる迷宮だった。他の冒険者たちが諦めた強固な魔法扉の前に立つと、ロロは指にはめたコモン・ルーンの指輪をかざす。「アンロック」の微弱な魔力が錠の構造を狂わせ、重厚な扉は音もなく開いた。
「……足跡はないわ。でも、風の精霊が奥で重い空気が滞留していると伝えてきている」
シリアが囁き、弓の弦を確かめる。薄暗い広間の奥、瓦礫の山に擬態するように、四つ足の巨大な石の獣が眠っていた。
「中に入ったら、すぐに陣形を組むぞ」
ライシンが低い声で全員に指示を出した。彼の中で、この五人の持ち味と新しい装備を最大限に活かす配置がすでに組み上がっていた。
「俺が中央で仕掛ける。ロロ、お前は杖のリーチで左翼の壁になれ。カイルは右翼から牽制しろ。メリッサとシリアは後方支援だ」
「カイル、まずは気付けの一曲を頼む」
ロロの合図で、カイルが高品質のリュートを爪弾き、鋭い不協和音(ノイズ)を響かせた。耳障りな音にルーン・ハウンドが目を覚まし、激昂して飛びかかってくる。
「左は通さねぇよ!」
ロロがクォータースタッフを鋭く突き出し、獣の突進の軌道を強引に逸らす。
「右もお断りだね!」
カイルがショートソードとバックラーで立ち回り、装甲の硬い部分を滑らせるように受け流す。
完璧な左右の壁によって、ハウンドの動きが中央へ真っ直ぐに固定された。その瞬間、後方からシリアが高品質のショートボウを引き絞り、矢を放つ。しなりと張力を増した新調の弓から放たれた矢は、狂いなく獣の眼球――装甲のない唯一の感覚器を正確に射抜いた。
「ギガァッ……!」
ハウンドが苦痛に上体を仰け反らせ、首元の装甲の継ぎ目が無防備に晒される。
中央で完全に自由を得たライシンは、高品質のマジックブレイドの柄を握りしめ、古代語の呪文を静かに、しかし流れるように紡ぎ始めた。
「……我は刃に魔を宿す者。空間を断ち、遠き敵を討て(リープ・スラッシュ)……!」
刃こぼれ一つない極上の白刃が暗闇を切り裂き、放たれた真空の刃が、ハウンドの首の関節という数センチの隙間だけを完璧に通り抜けた。
硬い石の装甲を叩く不快な音は一切なく、重たい頭部だけがズン、と床に転がり落ちる。
わずか数合の交差。
誰一人として血を流すこともなく、武器を痛めることもなく、五人は連携の歯車を完璧に噛み合わせ、無傷の魔力コアを回収してみせた。オランの地下遺跡でも、彼らの「絶対に消耗しない」緻密な計算と戦術は、最高額の報酬を叩き出していた。
今まで不定期連載でしたが、今後は週末に一話づつの連載とさせて頂きます。