ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第三十六章:賢都の追跡劇と弁償金ゼロの制圧戦
オランの路地裏にある拠点の宿。その特別室で、ロロは一枚の羊皮紙をテーブルに叩きつけた。
「いいか、今回の依頼主は『賢者の学院』の錬金術科の教授だ。盗み出された『不安定な火晶石』(火の精霊を宿した水晶)の入ったガラス瓶を、裏組織のオークションにかけられる前に奪還する。報酬は破格の銀貨五百枚だ」
「車輪の騎士団の出番じゃないの?」
メリッサが淹れたての茶をすすりながら首を傾げると、ロロは算盤(そろ盤)を弾いてみせた。
「騎士団が鎧を鳴らして強行突入なんてしてみろ。焦った盗賊が瓶を床に落とせば、街の一角が吹き飛ぶ大惨事になる。だからこそ、音も立てずに忍び込み、確実に『無傷で』品物を取り返せる俺たちに白羽の矢が立ったのさ」
オランは巨大な都市ゆえに、光が強ければ影も濃い。華やかな大通りの下には、複雑に入り組んだ下水道と地下空間が広がっており、裏社会の連中がそこを根城にしていた。
「微弱だけど、不自然な火の精霊(サラマンダー)の魔力残滓を感じるわ。こっちよ」
地下水路の悪臭の中、シリアが精霊の囁きを頼りに追跡ルートを特定していく。やがて五人は、地下倉庫を改装し廃棄された、盗賊ギルドの隠しアジトへと辿り着いた。 鉄格子の奥には、高価な密輸品の木箱が山積みになり、その中央のテーブルで、屈強な用心棒五人に守られた盗賊のボスが、赤い水晶の入った瓶を値踏みしている。
「作戦通りに行くぞ」
ライシンが低く囁く。
「ロロ、周囲の密輸品や木箱には絶対に傷をつけるな。後でギルドや持ち主から弁償金を請求されたら、経費が嵩んで赤字になるからな」
「分かってる。器物損壊ゼロ、完全制圧だ」
カイルが鉄格子の錠にシーフツールを差し込み、わずか数秒で無音のまま開錠する。扉が開いた瞬間、カイルは新調した高品質のリュートを鋭くかき鳴らし、耳を劈くような不協和音(ノイズ)を放った。
「な、なんだ!?」 用心棒たちが耳を塞いで怯んだ隙に、前衛の三人が一気にアジトへ雪崩れ込む。
「壁や木箱にぶつけるなよ!」
ロロは飛びかかってきた用心棒の剣をクォータースタッフで器用に受け流し、相手の体勢を崩して床へ静かに、しかし確実にうつ伏せに叩きつける。 カイルもバックラーで攻撃を逸らし、ショートソードの柄頭で敵の鳩尾を正確に突き上げ、声を出させることなく昏倒させた。
「残るはボスと、護衛二人よ!」
後方からシリアが高品質のショートボウを引き絞る。放たれた二本の矢は、護衛たちの持つ武器の柄を寸分違わず射抜き、彼らの手から剣を弾き飛ばした。
「ヒッ……! くそっ、動くな! 近づけばこの瓶を叩き割るぞ!」
追い詰められたボスが、火晶石の瓶を頭上に掲げて叫んだ。瓶が床の石畳に触れれば、全員が木端微塵だ。
一瞬の静寂。しかし、中央に立つライシンは微塵も動揺していなかった。 彼は刀の柄に手をかけたまま、静かに古代語の呪文を紡ぐ。
「……我は刃に魔を宿す者。空間を断ち、遠き敵を討て(リープ・スラッシュ)……!」
抜刀の閃きとともに、目に見えない真空の刃がアジトの空間を駆け抜けた。 それはボスの首を狙ったものでも、胴体を両断したものでもない。極限まで練り上げられた精密な一撃は、ボスの頭上に掲げられた「手首の筋」だけを、ほんの数ミリの深さで正確に断ち切ったのだ。
「あ……がっ!?」 ボスは激痛に目を見開き、力が抜けた指先からガラス瓶がすっぽりとこぼれ落ちる。
「カイル!」
「任せな!」
床に激突する寸前、滑り込んだカイルが、敷かれていた高級絨毯ごと柔らかく魔液の瓶を受け止めていた。チャプン、と中の赤い液体が揺れただけで、爆発の気配はない。
「よし、奪還完了だ。周囲の木箱の破損ゼロ、壁の傷もゼロ。被害総額ゼロの完璧な仕事だったな」 ロロが算盤を鳴らしながら、気絶した盗賊たちを見下ろして満足げに笑う。
大都会オランの暗部で繰り広げられた、一触即発のシティアドベンチャー。しかし「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」にかかれば、それすらも弁償金と経費を極限まで抑え込んだ、完璧な利益追求の舞台に過ぎなかった。
技能レベルアップ
ライシン: ファイター Lv4 / ソーサラー Lv1 / セージLv1
シリア: レンジャー Lv4 / シャーマン Lv3
メリッサ: セージ Lv4 / プリースト(ラーダ) Lv3
カイル: バード Lv4 / シーフ Lv3
ロロ: シーフ Lv4 / セージ Lv2/ レンジャー Lv2