ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚   作:シットライヌ

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第四十四章:密室金庫の消失マジック――見えない泥棒のトリック破り

第四十四章:密室金庫の消失マジック――見えない泥棒のトリック破り

オラン商業区の一角にある老舗の宝石店。その地下深くに位置する金庫室の前で、店主の男は胃を痛めたように腹を抱え、蒼白な顔で『擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊』の五人を迎え入れた。

「車輪の騎士団の連中は『お前が狂言誘拐ならぬ狂言窃盗を仕組んだのだろう』の一点張りで話になりません! ですが、誓って私はやっていないのです! この地下金庫は厳重な魔法錠と二重の物理鍵で閉ざされ、入口には警備員が二十四時間詰め詰めておりました。なのに……金庫の最奥に保管していた無傷の極上ダイヤモンドだけが、跡形もなく消え失せてしまったのです!」

店主が泣きつくのも無理はない。もし内部犯の疑いをかけられたまま事件が立ち消えになれば、店は信用を失い破産する。犯人の逮捕よりも、まずは「いかにして盗まれたか」という密室のトリックを解明し、盗まれた宝石を取り戻すことが最優先だった。

「安心しな、店主の旦那」 ロロが算盤を弾き、薄笑いを浮かべた。 「騎士団のガチガチの頭じゃ解けない謎も、俺たちの観察眼と知恵にかかればただの安手品だ。事件の解明と宝石の奪還、引き受けてやる。……ただし、俺たちの提示する『解決コンサルタント料』と、犯人捕捉時の特別手当は安くないぜ?」

店主が二つ返事で契約書にサインすると、五人は即座に地下金庫の現場検証に入った。

メリッサがスクロール(巻き物)を大きく広げ、羽ペンで金庫室の精緻な三次元図面を描き出していく。彼女は知識神ラーダの教えとセージ技能に基づき、部屋全体に残留する魔力濃度を細かく測定した。

「……古代語魔法による『空間転移』や『物品の縮小化』の痕跡は一切存在しないわ。犯人は魔法で宝石を消したわけではない。純粋に物理的な方法で持ち出しているわね」

「物理的って言っても、扉の鍵は一度も開けられた形跡がないぜ? シーフツールでこじあけようとした傷一つない」

最後尾を警戒していたカイルが、扉の頑丈な錠前を検分しながら首をひねる。

「……ここよ。人間の目では絶対に見落とすわ」

中衛のシリアが、金庫室の隅にある直径数センチほどの小さな換気用の通気口にかがみ込んだ。彼女はレンジャーの鋭い観察眼で床の僅かなチリを検分し、ダガーの先で何かをすくい上げた。

「……微細な動物の毛。それと、精霊(シルフ)の囁きによれば、この通気口の奥から微かなオイルの匂いがするわ。不自然な風の吸い込みもある」

同時刻、オランの裏社会や酒場を巡って情報収集を行っていたカイルが、軽快な足取りで地下へと戻ってきた。

「面白い噂を掴んできたよ。最近、裏通りで『フェレットに似た訓練された小動物』を飼っている怪しい手品師風の男が、羽振りを良くしているらしいんだ」

「繋がったわね」

メリッサがスクロールの図面にすばやく線を書き足す。

「犯行の手口はこうよ。犯人は通気口から細い糸を付けた小さな訓練動物を侵入させた。その動物が金庫内の宝石を粘着性のオイルで絡め取り、通気口の反対側から糸を巻き取って回収したのよ。人間が入る必要なんて最初からなかったの」

「なるほどな! だが、通気口の先は厚いレンガの壁の裏だ。外からじゃ手が出せないよう、壁の内部に自動の糸巻き取り装置(リール)を埋め込んで逃げたってわけか」

ロロがニヤリと笑った。

「壁をぶち破れば大工事になって余計な経費がかかる。……ライシン、出番だぜ」

前衛の要であるライシンが、静かに一歩前に出た。彼は腰のマジックブレイドの柄に手を添え、メリッサがスクロール上で指定した「壁の裏側の座標」をじっと見つめた。

「壁の破壊は無用。仕掛けの核だけを断つ」

ライシンが集中を高め、深く静かな呼吸を置く。

「……我は刃に魔を宿す者。空間を断ち、遠き敵を討て(リープ・スラッシュ)……!」

暗闇の中で、目にも留まらぬ抜刀術が繰り出された。 放たれた見えない真空の刃は、分厚いレンガの壁を一切傷つけることなく透過。壁の裏側に隠されていた犯人の回収装置の糸と、ギアの回転軸だけを、数ミリの狂いもなく正確に切断した。

「手応えありだ」

直後、通気口の奥からカチャリと小さな部品が壊れる音が響き、糸の張力が失われた。逃げ場を失い、通気口の中で立ち往生した小動物を、シリアが傷つけないよう優しく捕獲する。その首輪には、盗まれたばかりの極上ダイヤモンドがしっかりと巻き付けられていた。

「よし! 宝石の無傷奪還完了! 現場の損達ゼロ、ポーション消費ゼロだ!」

ロロが歓喜の声を上げて宝石を掲げた。

「さて、この小動物の足についた特殊な香料の匂い……風の精霊を辿れば、犯人のアジトを特定するのは簡単ね」

シリアが静かに告げると、カイルもリュートを軽く鳴らす。

「よし、アジトに踏み込んで、犯人グループからは『騎士団に突き出さないための口止め料』をたっぷりいただくとしようか」

その夜。無事に手元に戻ってきたダイヤモンドを抱きしめて涙を流す店主から、莫大なコンサルタント料と奪還報酬を受け取り、さらにアジトを突き止めた犯人たちからも高額の口止め料を合法的に(?)巻き上げたロロの懐は、過去最高の黒字を記録していた。

「血を流さず、壁一つ壊さず、謎を解いて大儲け。やっぱりシティアドベンチャーは経費がかからなくて最高だな!」

夜のオランの街並みを歩きながら、ロロの弾く算盤の音が、心地よいリズムとなって響き渡っていた。

 

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