ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚   作:シットライヌ

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第四十五章:連続器物損壊と完璧なアリバイ――劇場に潜む幻の怪人

第四十五章:連続器物損壊と完璧なアリバイ――劇場に潜む幻の怪人

オランの華やかな中心街にそびえ立つ大劇場。その豪華なロビーで、支配人は冷や汗を拭いながら『擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊』の五人を待ち構えていた。

「助けてくれ! いよいよ明日に迫った大作の新作公演だというのに、夜な夜な舞台裏の衣装がめちゃくちゃに切り裂かれ、重要小道具が破壊される嫌がらせが続いているんだ! 犯人を引っ立てたいのはヤマヤマだが、衛士隊や車輪の騎士団を呼んで大騒ぎになれば、劇団の評判は地に落ちておしまいだ。どうか、外部に漏らさず、静かに犯人を特定して止めてほしい!」

依頼料の金額を確認したロロは、算盤を弾きながら不敵な笑みを浮かべた。

「お任せな、支配人の旦那。秘密厳守、非破壊、そしてスマートな解決こそ俺たちの得意分野だ。……ただし、劇場に泥を塗らないための『特別コンサルタント料』は、それなりに弾んでもらうぜ」

依頼が成立すると、五人は直ちに劇場内での極秘捜査を開始した。 メリッサは愛用のスクロール(巻き物)を広げ、劇場の複雑な見取り図と、これまでの事件発生時刻を綿密に書き込んでいく。彼女のセージ技能による論理的な分析の末、容疑者は三人に絞り込まれていた。

――「実力派だが主役を奪われかけているライバル女優」、「多額の借金を抱え、裏方仕事に不満を持つ音響・舞台装置担当の男」、「前回の公演で理不尽に解雇された元・看板役者」。

しかし、どの事件が起きた夜も、その三人にはそれぞれ「鉄壁のアリバイ」が証明されていた。女優は劇団の宴会で全員の目の前におり、裏方は施錠された準備室で作業をしていた記録があり、元役者に至っては夜通し別の酒場で泥酔していたという。

「全員にアリバイがあるなんて、まるでお伽話ね。物理的に考えて、分身でもしない限り犯行は不可能なはずだわ」

メリッサが羽ペンを噛みながら首をかしげる。

「なあに、人間わざじゃないってなら、からくりがあるのさ」

ロロが薄笑いを浮かべ、シリアと共に劇場の屋根裏や客席の死角へと素早く姿を消した。レンジャーとシーフのコンビは、誰にも気付かれることなく劇場の梁の上からすべての動線を監視し、床に落ちたわずかな繊維や足跡を拾い集めていく。

一方、カイルは新米の吟遊詩人として劇団の楽屋に入り込み、人懐っこい笑みを振りまきながら容疑者たちに近づいていた。彼は歌の合間に、心理的な揺さぶりをかける絶妙なフレーズを混ぜ込む。 「――いやあ、不思議なものですねえ。いくら頑丈な錠前がかかっていても、自然と溶けていくものを使えば、夜中に部屋を抜け出す必要すらないんですから」

カイルが何気なく放ったその言葉に、裏方の男の手元がわずかに震えたのを、シリアの視線が梁の上から見逃さなかった。

「……見えたわ」 スクロールを覗き込んだメリッサが、鮮やかに真相を導き出す。

「アリバイのトリックは『遅延工作』よ。彼は夜の作業室にいる時、熱でゆっくりと溶ける氷のストッパーや、水時計を応用した時限式の仕掛けを使って、何時間も経ってから衣装を切り裂くからくりを作動させていたのよ! 本人はずっと部屋にこもっていながら、遠隔で犯行を成し遂げていたってわけ!」

「なるほどねえ。アリバイ作りのために頭をひねる暇があったら、真面目に仕事でもすりゃよかったのにさ」

ロロが呆れたように鼻を鳴らす。

そして、ついに新作公演の幕が上がる夜がやってきた。 華やかな音楽と観客の歓声が劇場を包み込む中、舞台裏では最後の陰謀が静かに動き出そうとしていた。裏方の男が、密かに仕掛けた舞台装置のメインロープを焼き切るための「時限式の火種(ルーンの罠)」を作動させたのだ。このままでは、劇のクライマックスで巨大な天井装飾が主役の頭上に落下し、劇団は致命的な大惨事に陥る。

「……時間だ」 舞台袖の暗がりから、前衛のライシンが静かに一歩踏み出した。 彼は観客席や他のスタッフの視線がすべて舞台に注がれている一瞬の隙を突き、腰のマジックブレイドに手を添える。

「我は刃に魔を宿す者。空間を断ち、遠き敵を討て(リープ・スラッシュ)……!」

放たれた見えない真空の刃は、劇場の壁や柱を一切傷つけることなく、正確に舞台裏の天井に潜む「時限式仕掛けの歯車」の軸だけをピンポイントで打ち抜いた。 チリッ、と小さな摩擦音が響いた直後、落下しかけていた巨大装飾はピタリと静止し、完璧な安全が維持された。火種は誰にも気づかれることなく、ただの消えた炭へと変わる。

「……っ!?」 舞台袖で仕掛けの成功を確信してニヤついていた裏方の男は、装飾が落ちなかったことに青ざめ、その場に崩れ落ちた。待ち構えていたシリアとロロが音もなく背後に回り込み、彼の両腕を軽く拘束して無力化する。

「お疲れさん。お前の仕掛けた工作は、全部お見通しってわけさ」

劇は大成功のまま幕を閉じ、観客たちの割れんばかりの拍手と歓声が劇場を満たした。 事件の真相が外部に漏れないよう密かに処理されたこと、そして何より劇団の危機が救われたことに安堵した支配人は、約束以上の報酬と特別ボーナスを快くロロの懐に滑り込ませた。

「血も流さず、劇場の壁一枚傷つけず、見事に謎を解いて大金ゲット。……やっぱり、頭を使う仕事は効率が良くて最高だな、みんな!」

ロロが満足げに算盤を弾く音を背に、五人は次の現場へと軽やかな足取りで消えていくのだった。

 

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