ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第六章:オーファン街道と通り雨
オーファンへと続く街道沿い。突然の土砂降りを避けるため、五人は街道脇に残された古い関所の石壁の陰へと滑り込んだ。
「ふぅ……間一髪だったな。だが、雨宿りにしては先客がいるみたいだぜ」
壁の奥へ視線を向けたロロが、油断なくクォータースタッフ(六尺棒)を握りしめる。
ロロの視線の先。薄暗い石壁の陰には、雨を避けるようにして蹲る二つの人影――いや、緑褐色の肌と尖った耳を持つ、二匹のゴブリンの姿があった。手には錆びた鉈(なた)を握り、人間の突然の闖入に黄色い目を剥いている。
「チッ、野盗の真似事でもしているはぐれゴブリンか」
カイルが舌打ちをし、即座にショートソード(小剣)を抜き放つ。
「陣形を組むぞ。だがここは狭い、大振りな攻撃は味方に当たる。突きと小回りで仕留めろ」
ライシンが低く指示を出し、素早くマジックブレイドを鞘から引き抜いた。前衛の三人が横並びになり、後衛のシリアとメリッサを庇うように壁を作る。
「ギャギャッ!」
雨宿りの場所を奪われまいと、二匹のゴブリンが金切り声を上げて襲いかかってきた。
「私の弓はここでは長すぎるわ。前衛、お願い!」
シリアはショートボウを背中に庇い、腰のダガー(短剣)を引き抜いて警戒態勢をとる。ハードレザー(硬い革鎧)に雨粒が弾けた。
「こっちの奴は俺が押さえる!」
左に陣取るロロが、向かってきたゴブリンの首元へクォータースタッフの先端を的確に突き入れた。ゴブリンが怯んだ隙に、杖の柄を滑らせて壁際へと強引に押し込み、その動きを完全に封じる。
「ナイスだ、ロロ! こっちは……っと!」
右側のカイルが、もう一匹のゴブリンが振り下ろした鉈をバックラーで斜めに受け流す。金属同士が擦れる嫌な音と共にゴブリンの体勢が崩れた瞬間、カイルはショートソードの切先を相手の胸へ鋭く突き込んだ。
「ガハッ……」
一匹が絶命して崩れ落ちる。
「……シッ!」
すかさず中央のライシンが踏み込んだ。狭い空間に合わせて剣の軌道を絞り、コンパクトかつ鋭い袈裟斬りが、ロロに壁へ押し付けられていた残りの一匹の脳天を正確に叩き割る。
短い悲鳴と共に、石壁の陰に再び雨音だけが戻った。
「怪我はないか? 荷物の防水布は破られていないわね?」
メリッサがホッと息をつきながら、五人の無事と食料の安全を確認する。
「ああ、問題ない。返り血も雨が洗い流してくれたしな」
ライシンが濡れた刀身を布で手早く拭い、カチリと鞘に納めた。
「こいつらの懐、小汚い銅貨が15枚と、干し肉の切れ端くらいしか入ってねぇな。まあ、今日の雨宿り代とでも思っておくか」
ロロが手慣れた様子で死体をあさり、小銭を懐にしまい込む。そして、邪魔になったゴブリンの死体を杖の先で壁の外、雨の降る草むらへと転がした。
「それにしても、ひどい降りね。通り雨とはいえ、しばらく足止めになりそう」
シリアがどんよりと重い灰色の空を見上げる。
「まあ、急ぐ旅でもないさ。風邪を引かないように、少し休んでいこうぜ」
カイルが背嚢から油紙で大切に包んでいたリュートを取り出した。雨空の下、狭い石壁の陰に、ポロロンと軽やかで優しい弦の音が響き始める。
「いい音色だな。カイルの音楽をタダで聴けるなんて、雨宿りも悪くない」
ライシンが石壁に背を預け、目を閉じて僅かな休息を取る。
「そうだろ? 吟遊詩人(バード)の腕前も磨いておかないと、オーファンの大きな酒場じゃ稼げないからな」
カイルが弦を弾きながら笑う。
その横で、ロロが銅貨の枚数を数えながらボヤいた。
「俺たちの目標はもっと大きな『日銭』だ。……いつか俺が自分の商会を立ち上げるための、デカい元手(資金)を稼ぐためにもな。オーファンに着いたら、もう少し割のいい仕事をギルドや宿で探り当ててみせるさ」
「ロロ商会、か。その時は私たちが特別価格で護衛を引き受けてあげるわよ」
メリッサがライトメイスを膝に置きながら、くすりと笑った。
「おっ、言ったな? 賢者様の言質(げんち)は取ったぜ」
冷たい雨の降る街道。しかし、石壁の陰で身を寄せ合う五人の冒険者たちの間には、確かな信頼と温かな空気が流れていた。
雨が上がれば、剣の国オーファンはもう目前である。