ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第七章:剣の国の洗礼と仕掛けられた蔵
建国の王・リチャードが治める、アレクラスト大陸有数の軍事国家「剣の国オーファン」。
その王都の正門をくぐった五人は、行き交う人々の活気と、武装した傭兵や冒険者たちの数の多さに圧倒されていた。
「ラムリアースとは比べ物にならない人の多さね。すれ違う人の半分くらいが武器を帯びているように見えるわ」
シリアが周囲を見回しながら、背中のショートボウをマントで軽く覆い隠す。
「ここは実力主義の国だからな。腕に覚えのある荒くれ者たちが、大きな手柄と富を求めて大陸中から集まってくる」
メリッサがセージ(賢者)の知識を口にしながら、喧噪を避けるように道の端を歩いた。
「手柄や名声はどうでもいいが、金回りの良さそうな街なのは大歓迎だぜ。まずは俺たちの拠点になる『冒険者の宿』を探そう。高すぎず、かといって質の悪い輩がたむろしていない、堅実な宿をな」
ロロが目を光らせて裏通りへと歩を進める。
幾つかの宿を品定めした末、五人が拠点に決めたのは、王都の南区にある「欠け銅貨亭」という小さな冒険者の宿だった。
主人は片足を悪くした引退済みの老傭兵で、口数は少ないが、提供される豆と麦のスープは温かく、何より宿泊代がラムリアースと大差ない手頃な価格だった。
「よし、本日の宿と飯は確保した。さっそくオーファンの稼ぎ口を見繕ってみようぜ」
荷物を部屋に置いたカイルが、一階の酒場スペースにある大きな掲示板へと向かう。
掲示板には所狭しと依頼書(羊皮紙)が貼られており、「凶悪なオーガの討伐(報酬:金貨10枚)」「貴族の屋敷の護衛(報酬:金貨5枚)」といった、華やかで危険な仕事が目立つ。
しかし、五人が探すのはそういった「英雄の仕事」ではない。
「……これなんかどうだ?」
ロロが一枚の羊皮紙を引き剥がしてきた。
「『王都郊外にある廃屋の地下蔵から、隠された木箱を回収してほしい。ただし、盗難防止の罠(トラップ)が多数仕掛けられている。報酬は銀貨200枚(ガメル)』」
「罠つきの回収依頼か。オーガを倒すよりは安全だが、200ガメルとは破格だな」
ライシンが白湯の入った木の杯を置き、目を細める。
「裏があるのよ」
メリッサが依頼書の端に書かれた小さな追記を指差した。
「『追記:昨日、別の冒険者が挑んだが、罠にかかって酷い悪臭液を浴び、逃げ帰ってきた』……なるほど。腕自慢の戦士たちからすれば、命の危険はないが悪臭で装備が台無しになるような地味な罠は、割に合わないと敬遠されているのね」
「へっ、上等じゃないか」
ロロが腰のシーフツール(盗賊道具)をポンと叩く。
「オーファンの冒険者どもが力任せの仕事に夢中になっている間、俺たちがその『隙間産業』をいただこうぜ。腕を上げた俺とカイルの二人体制なら、どんな罠も丸裸にしてやる」
「罠の解除と荷物の回収。まさに俺たちの得意分野だな。決まりだ」
ライシンの言葉に全員が頷き、五人は王都郊外へと向かった。
二人の盗賊と地下の死角
目的の廃屋は、王都の城壁から少し離れた荒れ野にぽつんと建っていた。
床板は腐り落ち、地下蔵へと続く石段が黒々と口を開けている。微かに、昨日の冒険者が浴びたと思われる刺激的な悪臭が漂っていた。
「ここから先は俺たちの仕事だ。カイル、まずは階段の段差を調べよう」
ロロが指輪のコモンルーンで微弱な光を灯す。
「任せとけ。……っと、さっそくビンゴだぜ。三段目の石が微妙に浮いてる」
カイルがショートソード(小剣)の柄で石段を軽く叩く。彼の目は、鋭く人工的な違和感を見抜いていた。
「圧力をかけると、側面の壁から悪臭液の入ったガラス玉が飛び出す仕組みか。原始的だが嫌らしいな」
ロロが手慣れた手つきで石の隙間に細い金属棒を差し込み、カチリと音を立てて仕掛けのバネを無力化する。ロロの指先には、もはや一切の迷いがない。
「よし、解除完了だ。だが、この調子だと地下蔵の扉や箱そのものにも仕掛けがありそうだな」
「慎重に進むぞ。陣形はいつも通りだ」
ライシンの指示で、狭い階段を前衛三人が横並びになり、後衛二人が続く。
地下蔵の奥に辿り着くと、そこには目的の木箱が積まれていたが……同時に、暗がりから低い唸り声が響いた。
「……罠だけじゃなかったようね。奥に三匹、人型の影がいるわ」
シリアが弓に矢をつがえながら警告する。彼女の索敵能力は、完全な暗闇であっても微かな体臭と呼吸音を正確に捉えていた。
「グルルォォ……!」
暗がりから姿を現したのは、ゴブリンよりも一回り大きく、筋肉質な体躯を持つ『ホブゴブリン』の三人組だった。手には無骨な幅広の剣(ブロードソード)が握られている。
「密輸団が残していった番犬ってところか。カイル、ロロ、少し押し込まれるぞ。踏ん張れ!」
ライシンが刀の柄に手をかけ、姿勢を低くする。
ホブゴブリンの一匹が、雄叫びと共にライシンへ向かって重い剣を上段から振り下ろしてきた。ゴブリンとは比較にならない、風を切る重い一撃。
「……見える!」
しかし、ライシンの目には、その大振りな軌道がはっきりと見えていた。
彼は鞘走りの勢いを利用し、抜刀の瞬間の刃の角度でホブゴブリンの重い剣を斜めに受け流す。金属が激しくぶつかり合う火花が散り、ホブゴブリンの体勢が大きく前へ崩れた。
「シリア!」
「そこっ!」
ライシンの受け流しで作られた完璧な隙。後方のシリアが放った矢が、崩れたホブゴブリンの眼球を正確に貫いた。巨大な体がドサリと崩れ落ちる。
「左右も行かせねぇ!」
ロロがクォータースタッフで左のホブゴブリンの足を払い、バランスを崩させる。
同時に右側のカイルが、バックラーで強烈な突きを逸らしつつ、ショートソードを相手の脇腹へ深く突き刺した。
「グルァッ!?」
手負いとなった右のホブゴブリンが激高し、カイルへ無理やり剣を振り回す。
「させないわ!」
メリッサが後方から聖印を掲げ、鋭く声を上げた。
「知識と平穏の神ラーダよ、我が仲間に癒しを! 《キュアウーンズ》!」
カイルの身体を癒やしの光が覆う。ホブゴブリンの剣がカイルの肩を掠めたが、浅い傷は速やかに回復した。
メリッサだからこそ行使できる、的確な防御支援だった。
「助かったぜ、メリッサ!」
カイルが後退して距離を取ると同時に、中央のライシンが静かに息を吐いた。
流れるような動作で刀を鞘に納め、腰を深く落とし、身を沈めて深く息を吸い込む。古代語の呪文が、疾風のごとき速さで紡がれる。
「……我は刃に魔を宿す者。空間を断ち、遠き敵を討て(リープ・スラッシュ)……!」
カチリ、と鍔(つば)が鳴る。 ライシンが静寂を切り裂くような居合の動作で、鞘から刃を全速力で抜き放った。
目に見えぬ真空の刃が空を割り、横薙ぎに放たれた白刃が、体勢を立て直そうとしていた右のホブゴブリンの胸元を正確に一閃し、さらにそのまま刃を返して、ロロに足払いを受けていた左のホブゴブリンの首を正確に跳ね飛ばした。
静寂が地下蔵に降り下りる。
「……ふぅ。ホブゴブリン相手に、この程度の傷で済んだのは上出来だな」
カイルが肩の浅い傷あとを押さえながら笑う。
「さて、魔物も片付いたし、本命のお宝(依頼品)を開錠させてもらおうか」
ロロが木箱の前にしゃがみ込み、シーフツールを取り出した。彼は箱の鍵穴の奥に仕掛けられた毒針の罠をわずか数秒で無効化し、見事に鍵を開けてみせた。
「よし、回収完了だ。傷も経費の消費も最小限。オーファンでの初仕事としては完璧な滑り出しだぜ」
力と魔法がぶつかり合う華やかな王都の地下で、五人の冒険者は今日もまた、徹底した知恵と連携で泥臭く、そして堅実に銀貨を稼ぎ出していた。