ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚   作:シットライヌ

9 / 12
第八章:森の追跡行と確かな成長

第八章:森の追跡行と確かな成長

剣の国オーファンでの初仕事を無傷で終わらせてから数日。

「欠け銅貨亭」の隅のテーブルで、五人は新たな依頼書と向き合っていた。先の地下蔵での経験は彼らに確かな成長をもたらし、それぞれの身のこなしや纏う空気には、以前よりも一層の自信と余裕が漂っている。

 

「今回はこれだ。王都の北西にある『静寂の森』へ逃げ込んだ、荷馬車の捜索と積荷の回収。報酬は銀貨300枚(ガメル)」

ロロがテーブルの上に羊皮紙を広げた。

 

「荷馬車の捜索? オーファンの冒険者なら見向きもしないような地味な仕事ね」

シリアが呆れたように言うが、その表情はどこか楽しげだ。

 

「そこがいいんだ。積荷は高価な香辛料と絹織物らしいが、盗賊に襲撃されて馬だけが森へ逃げ込んだらしい。討伐任務じゃないから血の気の多い連中はスルーするが、積荷が無事なら実入りは大きい」

ロロがニヤリと笑う。

 

「森の追跡なら、私の出番ね。最近、森の息遣いや足跡の微かな痕跡が、前よりずっとはっきりと掴めるようになったの」

レンジャー技能を向上させたシリアが、自信に満ちた声で請け負う。

 

「よし、経費ゼロで手堅く稼ぐぞ。出発だ」

ライシンの短い号令で、五人は王都の喧騒を背に北西の森へと向かった。

 

森の追跡と賢者の眼力

「静寂の森」は、その名の通り鬱蒼とした木々に覆われ、昼間でも薄暗い。

しかし、シリアの足取りに迷いはなかった。

 

「……こっちよ。馬の蹄の跡と、折れた枝。昨夜降った雨のせいで他の冒険者なら見落とすだろうけど、私にははっきり見えるわ」

先頭を進むシリアは、立ち止まることなく的確にルートを絞り込んでいく。その洗練された追跡技術は、もはや熟練の森の民と遜色ない。

 

「すごいなシリア。迷う素振りが一切ないぜ」

最後尾で警戒にあたるカイルが感嘆の声を漏らす。

 

「待って。馬の足跡の横に、別の足跡が混じり始めたわ。……四足歩行の獣ね」

シリアが地面を指差す。

 

メリッサが静かに歩み寄り、足跡の深さと周囲に残された微かな獣毛を観察した。

「……この毛の硬さと足跡の歩幅。間違いないわ、『ブラックウルフ』よ。数は三頭。ゴブリンよりは厄介だけど、群れとしては小規模ね」

セージ(賢者)として一段と知識を深めたメリッサの分析は、迅速かつ正確だった。

 

「馬はそいつらに追われているのか。積荷を荒らされる前に片付けるぞ」

ライシンが腰の刀の柄に手を添え、陣形の維持を指示した。

 

鉄壁の陣形と冴え渡る身のこなし

森の奥、小さな岩場の陰で、怯えて動けなくなっている荷馬車を発見した。

そしてその周囲には、漆黒の毛並みを持つ巨大な狼——ブラックウルフが三頭、よだれを垂らしながらじりじりと距離を詰めている。

 

「陣形展開! 獲物を横取りさせてもらうぜ!」

ロロの掛け声と共に、前衛の三人が横一列に並び、ブラックウルフたちの前に立ち塞がった。

 

「グルルゥゥッ!」

怒り狂った狼たちが、鋭い牙を剥いて一斉に飛びかかってくる。

 

「速いが……単調だな」

ライシンが冷静に呟き、刀を抜き放つ。ファイターとしての実力を高めた彼の眼には、獣の直線的な動きがスローモーションのように映っていた。

飛びかかってきた中央の狼の牙を刀の腹で軽々と弾き返し、そのまま手首を返して、無駄のない軌道で狼の首筋を深々と斬り裂く。一撃必殺。

 

「左は俺が抑える!」

ロロがクォータースタッフを回転させ、牽制の打撃を放つ。シーフとしてさらなる身軽さを手に入れたロロの回避行動は完璧だった。狼の噛みつきを紙一重で躱し、カウンターで鼻先に痛烈な一撃を見舞う。

 

「右は俺だ! そら、こっちだぜ!」

カイルもまた、向上したシーフの身のこなしとバックラーによる防御で、右の狼の攻撃を完全にいなしていた。

 

「シリア、お願い!」

「ええ、貰ったわ!」

 

メリッサが戦況を完璧に把握し、シリアへ攻撃の指示を出す。

前衛三人が完全に敵の足を止めたことで生じた、痛いほどの隙。シリアの放った矢が、ロロに怯んだ狼の眼窩へ吸い込まれるように命中した。

 

残る一頭——カイルに気を取られていた狼が、危機を察知して逃げようと背を向けた瞬間。

「逃がすか」

ライシンが踏み込み、鋭い袈裟斬りで最後の一頭を沈めた。

 

戦闘時間はわずか数瞬。

魔法を使うまでもなく、誰一人としてかすり傷一つ負うことのない、圧倒的で一方的な制圧だった。

 

経費削減の極意

「ふぅ……一丁上がりだ。前衛の安定感が前より格段に増してるな。俺もロロも、かなり楽に立ち回れたぜ」

カイルがショートソードの血糊を拭き取りながら笑う。

 

「それぞれの腕が上がった証拠ね。メリッサの事前の魔物分析があったから、心構えも完璧だったわ」

シリアがショートボウを背中に戻し、安堵の息をつく。

 

「さあ、積荷の確認だ。……よし、香辛料も絹織物も無事だ。馬も怪我はない」

ロロが荷馬車を点検し、満足げに頷いた。

 

「怪我人がいないから、《キュア・ウーンズ》の精神力消費もゼロ。武器の刃こぼれも最小限。まさに我々の目指す理想の仕事だったわね」

メリッサがラーダの聖印を撫でながら微笑む。

 

「ああ。手柄は地味だが、確実な銀貨300枚だ。上等すぎる結果だろう」

ライシンが刀を鞘に納め、空を見上げた。

 

力任せの英雄的行為がもてはやされる剣の国オーファンにあって、五人の冒険者は自らの強みをさらに研ぎ澄まし、「怪我なく確実な日銭を稼ぐ」という信念を今日も見事に貫き通したのだった。

 

ライシン,ファイターLv2

シリア,レンジャーLv3

メリッサ,プリーストLv2

カイル,シーフLv2

ロロ,シーフLv3

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。