フロントミッションサードの二次創作   作:シットライヌ

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第3章:密林の機械獣

第3章:密林の機械獣

アフリカ大陸中央部、コンゴ盆地に広がる熱帯雨林。

太陽の光すら遮る鬱蒼とした大樹の天蓋(キャノピー)の下は、まとわりつくような湿気と腐葉土の匂いに満ちていた。

 

「虫と泥とスコール……。シンガポールの裏路地が天国に思えてくるぜ」

マチェーテで目の前の巨大なシダの葉を切り払いながら、巽恭平が忌々しげに顔の汗を拭った。迷彩服はすでに泥と汗で重く肌に張り付いている。

 

「泣き言を言うな。テロ組織がこのジャングルを選んだのは、衛星からの光学迷彩と、レーダーを乱す分厚い樹冠があるからだ」

後方を警戒しながら進む榊健吾が、油断なくアサルトライフルを構える。

 

二人は生身による強行偵察の最中だった。目標は、旧独裁政権が遺した放棄された地下軍事施設。現在は無人機(ドローン)の大量生産プラントとして稼働している「悪意の心臓部」である。

 

『……前方に人工的な地形の歪みを発見。偽装ネットと、巨大な排熱ダクトの痕跡です』

数キロ離れた大樹の枝に擬装ネットを張って潜伏している汐見葵から、狙撃用スコープ越しの情報が入る。

 

「ビンゴね。巽、榊、慎重に接近して。……牧野、周辺の熱源反応は?」

上空で待機する指揮車両から、鷹司冴子が通信で問いかける。

 

『地表の温度が高すぎて赤外線センサーが乱れていますが……妙ですね。施設の周囲に、生命反応の無い局所的な熱源が複数、高速で移動しています』

牧野理沙の無機質な声に、僅かな疑念が混じった。

 

その直後だった。

頭上の樹冠が不自然に揺れたかと思うと、音もなく「それ」が降ってきた。

 

「上だ、巽ッ!」

榊が叫ぶと同時にライフルを連射する。

木々の上から襲い掛かってきたのは、緑色のジャングル迷彩を施された、猿のような長い腕を持つ異形の無人ヴァンツァーだった。両腕にはパイルバンカー型の格闘武器が握られている。

 

「チッ、密林戦(ジャングル・ウォーフェア)仕様のカスタム機か!」

巽が間一髪で真横に飛び退き、マグナムを抜いて敵機のカメラアイに弾丸を撃ち込む。しかし、無人機は痛覚を持たず、バランスを崩しながらも即座に次の攻撃モーションへと移行する。

 

「鷹司局員、お出迎えだ! すぐに『春』を降ろせ!」

 

『了解したわ。荒田!』

 

『オーダー受信! だが、こんな木が密集してる場所に落としたら、機体が枝に引っかかって大破するぜ!』

上空の輸送機で操縦桿を握る荒田修吾が叫ぶ。

 

「心配無用だ。私が的(マーカー)になる……強春の装甲なら耐えられる!」

榊が発煙筒(スモーク)を起動し、足元の泥濘へ投げ捨てた。

 

『チィッ、イカれた連中だぜ! 落下(ドロップ)!』

 

荒田の神業的な操縦により、輸送機が樹冠の隙間を縫うように高度を下げ、四つのコンテナを投下する。

バキバキと巨大な枝をへし折りながら落下してきたコンテナから、四機のヴァンツァーが密林の泥濘へと降り立った。

 

「いくぞ、鉄クズども!」

巽と榊が即座に搭乗し、機体を起動させる。

 

『113式強春』が立ち上がり、超大型タワーシールドを頭上に掲げて落下してくる倒木や枝を全て弾き飛ばす。その安全圏から、巽の『112式法春』が弾丸のように飛び出した。

 

四方八方の木々から、猿型の無人機部隊が両腕のパイルバンカーを駆使して立体的な波状攻撃を仕掛けてくる。

 

「動きは早いが、結局は『木から飛び降りる』っていう物理演算の枠内だ!」

巽の法春がスラスターを吹かして泥濘を滑り、振り下ろされるパイルバンカーを左腕の装甲で滑らせて受け流す。そのまま懐に飛び込み、スタンロッド(電磁警棒)を敵機の胴体に深々と突き刺し、内部フレームごと焼き切った。

 

「数は敵が上だ。囲まれる前に視界を開く!」

榊の強春が、シールドで敵機の突進を跳ね飛ばしながら、重機関砲でジャングルの大樹を根元から薙ぎ払う。木々が倒れ、鬱蒼とした密林に一筋の「空間」が生まれた。

 

『空間、確認しました。——これなら、通せます』

数キロ離れた高台で、汐見の『114式春陰』がライフルを構える。木々がなぎ倒されて生まれたわずかな射線を縫うように、春陰の徹甲弾が音もなく密林を駆け抜け、空中で跳躍していた無人機の頭部を正確に撃ち抜いた。

 

「仕上げよ。敵のネットワークの中枢を焼くわ」

鷹司の『111式春陽』が前線に合流し、強力な指向性ジャミングを放射する。無人機たちの動きが鈍ったその瞬間、両肩のミサイルポッドから放たれたマイクロミサイルが、残存する敵機と、偽装された地下工場の分厚い防爆扉を同時に吹き飛ばした。

 

「扉が開いたぜ! 一気に制圧する!」

巽の法春と榊の強春が、黒煙を上げる地下工場へと突入する。

 

内部に広がっていたのは、無人のまま煌々と稼働を続ける巨大なオートメーション・ラインだった。アームロボットが休むことなくパーツを溶接し、新たな無人機を次々と生み出している。

 

『メインフレームにアクセス成功。……自爆プロトコルを停止し、製造ラインの制御を奪取しました。これでこの工場は完全に沈黙します』

牧野の遠隔操作によって、工場の照明が落ち、巨大な機械群が活動を停止した。

 

「終わったな……。これでテロ組織の『手足』はもがれたはずだ」

榊が強春の武装を下ろし、周囲を警戒する。

 

しかし、通信機の向こうの鷹司の声は、氷のように冷たかった。

 

『……いいえ。手足はもがれたけれど、一番厄介な「牙」は、すでにここを出発した後よ』

 

「なんだと?」巽が眉をひそめる。

 

『牧野がサーバーのログを解析したわ。この工場はただの量産拠点。テロ組織はここで生み出した無人機の中で、最も学習能力の高い個体群(エリート・モデル)を束ね、一つの巨大な「自律型AI指揮官」として統合したらしいの』

 

『……そのAI指揮官と精鋭無人機部隊は、すでにアフリカを離れています』

牧野が言葉を引き継ぐ。

『行き先は、東欧。カルパチア山脈の奥深くに放棄された、旧冷戦時代の巨大なミサイルサイロ基地です。彼らはそこにある旧世代の弾道ミサイルに無人機を搭載し、世界の主要都市へ同時降下させる「空挺テロ」を計画しています』

 

「無人機がミサイルに乗って、世界中に降ってくるってのか!? 冗談じゃねえぞ!」

巽が法春のコクピットの壁を叩く。

 

「急ぎましょう。AIがミサイルの発射シークエンスを完了させる前に、私たちがそのサイロを完全に破壊する」

鷹司の決断に、迷いはなかった。

 

『了解! 輸送機のエンジン、限界までぶん回してやるよ!』

上空の荒田が力強く応える。

 

灼熱の砂漠、そして湿気と泥濘の密林。

過酷な大自然を舞台にした局地戦を乗り越えた四人の特務部隊は、息つく間もなく、次なる決戦の地——東欧の雪深い山脈にそびえる、旧時代の遺物へと向けて飛び立った。人間対AIの戦いの幕が上がろうとしていた。

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