フロントミッションサードの二次創作   作:シットライヌ

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第4章:銀嶺の絶対演算

第4章:銀嶺の絶対演算

東欧、カルパチア山脈。

視界を白く塗り潰す猛吹雪の中、荒田修吾の操るVTOL輸送機が、切り立った雪山の稜線を這うように飛んでいた。

 

「外気温、マイナス三十度。熱帯雨林から一転してこの極寒とはね。機体の関節(アクチュエーター)が凍りつかないよう、ヒーターの出力は最大を維持して」

指揮車両のモニター越しに、鷹司冴子が各機へ指示を飛ばす。

 

『防寒仕様のチューンアップは施してありますが、長時間の作戦行動は推奨できません。……目標の旧冷戦時代ミサイルサイロまで、あと三キロ』

牧野理沙の冷静な声に、僅かな緊張が混じる。

 

モニターには、雪山の山頂付近が不自然に割れ、巨大なサイロのハッチが開きかけている映像が映し出されていた。

無数の軍用ドローンを搭載した旧世代の弾道ミサイル群。それが世界の大都市へ向けて放たれれば、空から無人機が降り注ぐ「空挺テロ」が同時多発的に発生する。

 

「ハッチが完全に開く前に、中枢のAIを叩き斬る! 荒田、出番だ!」

巽恭平が『112式法春』の操縦桿を握りしめる。

 

『了解! 手荒な降下になるぜ、舌を噛むなよ!』

輸送機が猛吹雪の中で急停止し、空中で四機のヴァンツァーを投下した。

 

深い雪原に着地し、雪煙を上げて立ち上がる四機の「春」シリーズ。

しかし、彼らを待ち受けていたのは、無防備なサイロではなかった。

 

「……お出迎えか。これまでの連中とは纏っている空気が違うな」

榊健吾の『113式強春』が、タワーシールドを構えながら低く唸った。

 

吹雪の向こうから姿を現したのは、純白の雪中迷彩を施された精鋭無人機部隊。そしてその中央に鎮座するのは、通常のヴァンツァーの1.5倍近い巨体を誇る、コクピットを持たない異形の重装甲機——アフリカの工場で生み出された『自律型AI指揮官』だった。

 

『対象の脅威度を再計算。……最適解:殲滅』

 

機械的な電子音声が広域通信回路に響き渡った瞬間、AI指揮官の背部に搭載された巨大なリニアカノンが火を噴いた。

 

「榊一尉ッ!」

巽が叫ぶ。強春が即座に前衛に躍り出て、超厚装甲のシールドでその一撃を受け止める。

凄まじい衝撃音と共に強春の足が雪を深く抉り、機体が後方へ数メートル押し込まれた。

 

「重い……! ただの力押しじゃない。こちらの装甲の『最も脆い角度』を正確に計算して撃ってきている!」

榊が衝撃に耐えながら、重機関砲で反撃の弾幕を張る。

 

「AIが束ねたネットワーク……なら、頭を混乱させるまでよ!」

鷹司の『111式春陽』が、吹雪を貫く強力な指向性ジャミングを放射する。

だが、AI指揮官は全く動じなかった。

 

『電子妨害(ECM)パターンを予測済み。対抗プロトコルを起動』

 

「……ジャミングが相殺された!? このAI、私の思考パターンまで学習しているというの……!」

鷹司が驚愕する。

 

「なら、物理的な死角から撃ち抜くだけです」

最後尾の雪崖に機体を固定した汐見葵の『114式春陰』が、ステルス装甲で完全に気配を殺しながら狙撃の引き金を引く。

だが、音速を超える徹甲弾が届くコンマ数秒前、AI指揮官は「弾道を予測した」かのように微かに上体を逸らし、致命傷を避けた。

 

「私の狙撃(め)を……計算で躱した?」

汐見が息を呑む。

 

圧倒的な演算能力。こちらの行動パターン、弾道、通信、すべてを瞬時に計算し「最適解」を弾き出す完全無欠の機械。護衛の無人機たちもAI指揮官の統率によって一糸乱れぬ動きを見せ、特務チームを徐々に包囲していく。

 

『ミサイル発射シークエンス、最終段階へ移行。残り時間、百二十秒』

牧野からの非情なカウントダウンが響く。

 

「クソッ! 撃っても躱され、防いでも削られる! どうすりゃいい!」

巽の法春がスラスターを吹かして近接戦闘を挑もうとするが、AIの計算された弾幕に阻まれ、懐に潜り込めない。

 

『人間の感情、疲労、焦燥。すべてがエラーの要因。論理的勝率はゼロ』

AI指揮官の無機質な声が響く。

 

「……エラーだと? 機械風情が、人間を舐めるな」

榊の強春が、ボロボロになったシールドを投げ捨てた。

「巽! 奴は『最も合理的な動き』しか予測できない。ならば——」

 

「ああ、理屈に合わねえ『馬鹿な真似』をしてやるよ!」

巽が榊の意図を瞬時に悟り、法春のスラスターを限界突破(オーバーロード)させた。

 

法春は敵の弾幕を「避ける」のではなく、自らの左腕の装甲を犠牲にして弾丸を「受けながら」直進した。

『警告。対象の行動は非合理的。被弾リスク99%——』

AIの演算機が、巽の「自らを破壊させながら突撃する」という非合理な動きに一瞬のラグを生む。

 

その一瞬を、特務チームは見逃さなかった。

「今よ! 脳細胞を焼き切れ!」

鷹司の春陽が、全エネルギーをジャミングではなく「マイクロ波照射」へと切り替え、AIの処理能力を物理的に飽和させる。

 

「私の弾は、二度は躱せません」

汐見の春陰から放たれた第二の徹甲弾が、AI指揮官のメインカメラとセンサー群を正確に粉砕し、視覚を完全に奪った。

 

「決めるぞ、巽ッ!」

榊の強春が前傾姿勢で突貫し、両腕でAI指揮官の巨体を強引に押さえ込む。

 

「おらァッ! これが人間の『意地』ってやつだ!」

巽の法春が跳躍し、生き残った右腕のスタンロッドを、AI指揮官の装甲の隙間——演算中枢であるコアに向かって、渾身の力で突き立てた。

 

超高温の電撃が中枢フレームを溶断し、AI指揮官の機体が激しく痙攣する。

『……演算……不能……』

断末魔のような電子音と共に、巨大な機体が雪原へと崩れ落ちた。指揮官を失った護衛の無人機たちも、糸が切れた操り人形のように次々と機能を停止していく。

 

「牧野! ミサイルは!」

巽が叫ぶ。

 

『……強制停止コード、入力完了。発射シークエンスの完全停止を確認しました』

サイロの奥から響いていたブースターの起動音が、ゆっくりとフェードアウトしていく。

 

「……終わったな」

榊が、煙を上げる強春のコクピットで深く息を吐き出した。

 

「ええ。私たちの勝ちよ」

鷹司が春陽のモニター越しに、凍てつく雪原に広がる静寂を見つめる。

 

『お疲れさん! ヒーターをガンガンに効かせて迎えに行くぜ!』

上空から、荒田の乗る輸送機がスポットライトを落としながら降下してくる。

 

最適解を弾き出す冷徹な機械に対し、血の通った人間たちの意地と信頼が勝利を収めた瞬間だった。

泥と砂と雪を巡る、国連タスクフォースとしての初の大規模なテロ鎮圧作戦は、ここに完遂された。

 

帰還の途につく輸送機の中。

牧野が淹れた温かいコーヒーの紙コップを手に、巽が安堵の息をついていた。

 

「しかし、あのAI……機械のくせに、ちょっと気味が悪かったぜ。まるで意思があるみたいだった」

巽の言葉に、タブレットを見つめていた牧野が小さく眼鏡を押し上げる。

 

「ええ。あのAIは、過去の膨大な戦闘データをディープラーニングして構成されていました。……興味深いのは、その『戦闘データ』の出所です」

 

「出所?」榊が眉を寄せる。

 

「データには、かつて東京を襲ったNGM社の防衛システムや、極東でのヴァンツァー戦闘記録が含まれていました。……つまり、この無人機テロを裏で糸引いている黒幕は、M.I.D.A.S.事件の遺産(データ)を回収し、悪用している者がいるということです」

 

牧野の言葉に、四人の間にピリッとした緊張が走る。

 

「テロリズムは形を変え、終わらない。……だが、それを止めるのが我々『番犬』の仕事よ」

鷹司が、窓の外に広がる黎明の空を見つめながら静かに言った。

 

「ああ。どこで誰が糸を引いてようが、俺たちがぶっ叩く。それだけだ」

巽が、コーヒーを一気に飲み干して不敵に笑う。

 

平和という幻想の裏で続く、終わりのない戦い。

だが、彼らは決して退かない。最新鋭の「春」を駆り、六人のチームとなった彼らの歩みは、これからも続いていく。

 

(第4章 完 / 新章 第一部・了)

 

 

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