第二部 第1章:鋼鉄の暴走車列
見渡す限りの赤茶けた荒野を、一本の太いアスファルトの帯が貫いている。北米大陸中西部——U.S.N.(ニューコンチネント合衆国)が誇る、完全自動運転専用のメガ・ハイウェイだ。
その直線を、土煙を上げて爆走する巨大な車列があった。
数十両に及ぶ軍用規格の大型装甲トレーラー群。本来は大陸間の物流を担う無人車両だが、今は荷台に仮設のガトリングタービンや対空ミサイルを増設され、異形の「走る要塞」と化している。
「……標的の車列を視認した。相変わらず、無人機(ドローン)の群れが親ガモみたいに護衛してやがる」
上空を飛行する輸送機から見下ろし、巽恭平が通信機越しに呟く。
『テロ組織のAIネットワークに乗っ取られた暴走車列です。積載されているのは、近隣の化学プラントから強奪された高濃度の可燃性化学物質。……このまま時速150キロでハイウェイを南下し、人口密集地のジャンクションへ突入する「自爆テロ」が連中の狙いと推測されます』
指揮車両のモニター越しに、牧野理沙が淡々と状況を報告する。
『都市部に到達するまで残り十分。後続のU.S.N.正規軍の到着は間に合いません。我々だけでこの車列を物理的に停止させます』
鷹司冴子の鋭い声が響く。「全員、支給された『新装備』のテストにはもってこいの舞台ね。いくわよ!」
『ハッチ全開! 北米の風を存分に味わってきな!』
荒田修吾の合図と共に、四機のヴァンツァーが荒野を走るハイウェイへと次々と投下された。
着地の衝撃でアスファルトが砕け散る中、最後尾のトレーラーを守る護衛無人機群が一斉に特務チームへ牙を剥く。
「まずは、敵の『目』と『耳』を塞ぐわ」
鷹司の『111式春陽』が、背部の大型レドームを展開する。先の戦闘データを元に牧野の手でさらに強化されたECM(電子妨害)装置が、莫大な出力で広域ジャミングを放った。
空を飛んでいた護衛ドローンの群れが、見えない壁に激突したかのように次々と制御を失い、ハイウェイの脇へと墜落していく。
「よし、露払いは済んだ。……お巡りさんの検問だ、止まりやがれ!」
巽の『112式法春』がスラスターを吹かし、時速150キロで爆走する装甲トレーラーの側面に並走する。
自動防衛システムが作動し、トレーラーの荷台から無数の銃口が法春を狙う。だが、巽は新設された「左腕の小型シールド」で牽制の銃弾を的確に弾きながら、シールドの裏側に構えたフルオートピストルで敵の銃座を蜂の巣に変えた。
小回りの利くピストルによる制圧射撃の隙を突き、法春がトレーラーの屋根へと跳躍する。
「化学物質が積んであるんだ、爆破はできねえ。……なら、これで『眠らせる』までだ!」
巽が右腕に装備された武装——スタンロッド(電磁警棒)を振り下ろす。青白い放電を纏ったロッドがトレーラーの制御ブロックに深々と突き刺さると、超高圧の電磁パルスが車体の電子回路を完全に焼き切り、巨大なトレーラーは火を吹くことなく安全に急停止した。
「一丁上がりだ! だが、前方の車列はまだ止まらねえぞ!」
『正面から大型の迎撃部隊が来ます。……車列を護衛する、重装甲の無人ヴァンツァーです』
牧野の警告と同時、前方車両のコンテナが開き、四機の重装甲無人機がハイウェイ上へ降り立った。
「相手が重装甲なら、こちらは手数で粉砕するまでだ」
榊健吾の『113式強春』が、アスファルトを削りながら前衛に躍り出る。
敵無人機が放つロケット弾を、強春は超大型タワーシールドで真正面から受け止める。爆炎が晴れる前に、榊は即座に腰のハードポイントに手を伸ばした。
「シールド、パージ。……面制圧に移行する!」
強春が巨大な盾を背部マウントへ跳ね上げ、代わりに腰から引き抜いたのは、大口径のショットガンだった。
右手に重機関砲(マシンガン)、左手にショットガン。重装甲機体による、圧巻の二丁拳銃スタイル。
「吹き飛べッ!」
マシンガンの絶え間ない連射で敵機の姿勢制御を崩し、懐に潜り込んだ瞬間にショットガンの至近距離射撃を叩き込む。装甲の薄い関節部を散弾で粉砕され、二機の無人ヴァンツァーがスクラップとなってハイウェイを転がっていった。
「榊一尉、残りの二機を頼む! 俺は先頭のトレーラーを止める!」
巽の法春が、強春の援護射撃を背に受けながら、車列の先頭を走る巨大なコマンド・トレーラーへと肉薄する。
しかし、先頭車両の周囲には、青白く発光する特殊なエネルギーシールドが展開されていた。
「チッ、U.S.N.軍の最新型バリアかよ! スタンロッドもピストルも弾かれちまう!」
巽が舌打ちをする。
『巽巡査部長、射線を空けてください。……新兵器の出力テストを行います』
後方の荒野の岩山。そこに陣取った汐見葵の『114式春陰』が、いつもの狙撃用ライフルではなく、新装備である『強粒子砲(ビーム砲)』の巨大な砲身を構えていた。
「大気の屈折率、エネルギー減衰率、計算完了。……ジェネレーター直結、最大出力」
春陰の漆黒の機体が、膨大なエネルギーの充填によって微かに明滅する。
「——貫きます」
引き金が引かれた瞬間、音もなく放たれた極太の光の奔流が、北米の荒野を一直線に薙ぎ払った。
強粒子砲の圧倒的な熱エネルギーは、時速150キロで逃げるコマンド・トレーラーのエネルギーシールドを紙切れのように蒸発させ、分厚い装甲ごとメインエンジンを完全に貫通した。
「ナイスショットだ、汐見!」
エンジンを失い、慣性で進む先頭トレーラーへ巽の法春が飛び乗る。左腕のシールドで火花を防ぎながらスタンロッドを叩き込み、暴走車列のマスター制御を完全にシャットダウンさせた。
連なる数十両のトレーラー群が、凄まじいブレーキ音を立てて北米のハイウェイ上で次々と停止していく。
『全車両の停止を確認。化学物質の漏洩もありません。……ミッション・コンプリートです』
牧野の報告が入り、特務チームの通信回路に安堵の空気が流れた。
「やれやれ。広大なアメリカのハイウェイで大立ち回りとは、まるで映画のアクションスターだな」
榊が強春の二丁の銃をハードポイントに収めながら、軽く息を吐く。
「新しい装備、悪くないわね。私たちの戦術の幅が格段に広がったわ」
鷹司が春陽のECMを解除し、停止した車列へと歩み寄る。
「だが、なんでテロリストどもがU.S.N.の最新鋭バリアなんぞを持っていたんだ?」
巽の疑問に、上空の輸送機から牧野が答える。
『この自動運転トレーラー群……発着履歴を解析したところ、ネバダ州の砂漠地帯にある「U.S.N.軍の廃棄された技術開発局」から出発しています。どうやら連中は、北米大陸の軍事遺産を我が物顔で漁っているようですね』
「ネバダの軍事施設跡地……U.S.N.のお膝元で堂々とテロの準備とは、随分と舐められたものね」
鷹司が、モニターに新たな目的地を転送する。
「荒田、針路変更。ネバダの砂漠へ向かうわよ」
『了解! ラスベガスでルーレットでも回したいところだが、お預けだな!』
荒田の操る輸送機が、夕日に染まる北米大陸の空を旋回する。
新たな武装と戦術を手に入れた鋼の番犬たちは、テロ組織の影を追い、荒涼たるネバダの砂漠地帯へと向けて再び飛び立った。