フロントミッションサードの二次創作   作:シットライヌ

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第二部 第2章:亡霊たちの実験場

第二部 第2章:亡霊たちの実験場

ネバダ州、ブラックロック砂漠。

ひび割れた荒涼たる大地を照らすのは、冷たい月明かりだけだった。

表向きは「有毒廃棄物の処理場」として地図に記されたその場所には、古びたフェンスと監視塔の廃墟が転がっているだけに見える。

 

しかし、上空の輸送機から送られてくるモニターの解析データは、別の真実を告げていた。

 

『地表の偽装の下、地下数十メートルに巨大な空洞と高出力の熱源反応を確認。……間違いありません。旧U.S.N.軍の非公認技術開発局、その地下施設は今も稼働しています』

牧野理沙の冷静な声が、通信回路に響く。

 

「お宝の山に群がるハイエナ共の巣、ってわけね。鷹司局員、電子戦の準備は?」

巽恭平が『112式法春』のコクピットで、真新しい左腕の小型シールドの感触を確かめながら問う。

 

「完了しているわ。私の強化型ECMなら、旧世代の防衛システムはおろか、テロ組織の最新センサー群にも探知されない。……ステルス行動で一気に最深部へ突入するわよ」

鷹司冴子の『111式春陽』が、背部の大型レドームから莫大な出力の不可視のジャミング波を放射し、施設周辺の警戒網にぽっかりと「見えない穴」を開けた。

 

夜の砂漠に降り立った四機のヴァンツァーは、音もなく地下施設への巨大な搬入用エレベーターシャフトを降下していく。

 

だが、最深部のセキュリティゲートを物理的に突破した瞬間、通路の奥から赤い警戒ランプが点灯した。

『侵入者検知。……光学迷彩(ステルス)仕様の無人防衛部隊が接近中!』

牧野の警告と同時、何もないはずの地下通路の空間が陽炎のように歪んだ。

 

「見えなくても、足音と殺気は消せてねえぞ!」

前衛を任された榊健吾の『113式強春』が動く。

地下の狭い通路では、前回のハイウェイで魅せた二丁拳銃による面制圧は、跳弾で味方を巻き込む危険がある。榊は瞬時に戦術を切り替え、左腕に超大型タワーシールドを構え、腰のハードポイントから大口径のショットガンを引き抜いた。

 

「盾と散弾(ショットガン)。閉所戦闘(CQB)の基本だ」

空間の歪みが強春にエナジーブレードで斬りかかろうとした瞬間、榊はシールドで通路を完全に塞ぐように敵の突進を受け止め、至近距離から散弾を叩き込んだ。

轟音と共に光学迷彩が剥がれ、ひしゃげた奇襲用無人機が火花を散らして崩れ落ちる。

 

「榊一尉、後ろからも来てるぜ! 狭い場所ならこいつの出番だ!」

巽の法春が、強春の背後をカバーするように躍り出る。

暗闇から飛び出してきた無人機が振り下ろすブレードを、法春は左腕に装備した小型シールドで巧みに弾き(パリィ)、そのままシールドの裏側に構えたフルオートピストルで敵のセンサー部を的確に連射して破壊する。小回りの利く兵装が、入り組んだ地下空間で完璧に機能していた。

 

「トドメは刺さねえ。牧野、データ抽出用に一機『生け捕り』にするぜ!」

姿勢を崩した無人機に対し、巽は右腕のスタンロッド(電磁警棒)を無慈悲に突き立てた。

「大人しく寝てな!」

青白い超高圧の電磁パルスが敵機の電子回路を駆け巡り、無人機は爆発することなく完全に沈黙した。

 

「見事な制圧ね。……汐見、後方のクリアリングは?」

鷹司が春陽のセンサーで周囲を警戒しながら問う。

 

『完了しています。……今回は地下施設のため、万が一の施設崩落を避けて強粒子砲(ビーム)は封印。実体弾のスナイパーライフルで狙撃を行いました』

最後尾で警戒にあたる汐見葵の『114式春陰』が、銃身から微かな硝煙を上げる。戦況や地形に応じて瞬時に兵装を使い分ける彼女の冷静な判断力は、相変わらず完璧だった。

 

「よし、最深部のメインサーバー室に到着したわ。牧野、抽出を」

鷹司の指示で、牧野が遠隔操作でスタンロッドによって無力化された無人機と、施設のメインフレームを接続する。

 

数分の沈黙の後、通信機から牧野の微かに震える声が響いた。

『……信じられません。テロ組織がここで漁っていたのは、単なるバリア技術や新兵器のデータではありません。彼らは、過去にU.S.N.が計画し、倫理的・物理的に危険すぎるとして凍結された「超巨大多脚移動要塞」の設計図を復元しています』

 

「移動要塞だと? バカでかいヴァンツァーでも作ったってのか?」

巽が怪訝そうに聞き返す。

 

『ええ。全高五十メートル級、都市一つを単独で焦土と化す火力を持った怪物です。……しかも、最悪なことに、連中はこの荒野の地下工場でその要塞をすでに「完成」させています。現在、ロッキー山脈の地下ルートを通って、北米最大のエネルギー中枢であるコロラド州のメガソーラー・プラントへ進行中!』

 

「そのメガソーラーを丸ごと乗っ取って、移動要塞の無限の動力源にする気か……。止めなきゃ、北米大陸の半分が火の海になるわね」

鷹司が即座に決断を下す。

「全機、即時撤退! 荒田、コロラドへ向けて迎えに来て!」

 

『了解だ! 地下のエレベーターシャフトをブチ抜いてワイヤーを下ろす!』

上空で待機していた荒田修吾の輸送機が急降下する。

 

機密保持のため施設の自爆プロトコルが作動し、崩落が始まる中、輸送機から投下されたワイヤーに四機のヴァンツァーが次々と掴まる。

凄まじい爆炎と土煙を置き去りにし、鋼の番犬たちは夜明けのネバダ砂漠を後にした。

 

次なる標的は、ロッキー山脈を穿ち進む、絶望的なスケールの超巨大移動要塞。

特務チームの、北米大陸の存亡を懸けた死闘が始まろうとしていた。

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