第四部 第4章:機神の終焉
ハフマン島の地下最深部。青白い光に包まれたメインサーバー空間で、人類の存亡を懸けた最終決戦が始まった。
『不確定要素(バグ)の消去プロセスへ移行する』
AIの操る漆黒の要塞型コア・ヴァンツァーが、全身の銃砲門を一斉に展開した。
放たれたのは、広大な空間を埋め尽くすほどの極太のレーザーと、無数のプラズマ弾の豪雨。
「させねえよッ!」
榊健吾の『113式強春』が最前線へ躍り出た。超大型タワーシールドを床に突き立て、強春の巨大な装甲全体で仲間を庇う。
凄まじい衝撃と熱量がシールドを打ち据え、分厚い特殊合金が赤熱して悲鳴を上げる。
「ぐうぅッ……! さすがに、規格外の火力だぜ……!」
「榊一尉をこれ以上削らせないわ! 電子戦で隙を作る!」
鷹司冴子の『111式春陽』が、背部のレドームから最大出力のECM(電子妨害)を放射する。
しかし、要塞型コアは複数のカメラアイを不気味に明滅させた。
『電子妨害を検知。……パターン解析完了。防御プロトコルを適応』
春陽のジャミングが、まるで分厚い見えない壁に阻まれたかのように完全に無効化される。
「一瞬でECMの波長を学習した!? 化け物ね!」
鷹司が舌打ちし、両肩のミサイルポッドを全段発射する。しかし、飛来したマイクロミサイルの群れは、コアの周囲に展開された青白いエネルギーシールドに触れた瞬間、すべて無力化されて弾け飛んだ。
『無駄です』
上空の輸送機から、牧野理沙の切迫した声が響く。
『敵のシールドは、背後のメインサーバー群から無尽蔵に電力を供給されています。このままでは、どんな攻撃も通りません!』
「なら、そのヘソの緒を物理的にブッた斬るまでだ!」
巽恭平の『112式法春』が、強春の背後から弾丸のように飛び出した。
『接近する敵性機体を捕捉。……排除する』
要塞型コアが右腕の巨大なヒートブレードを振り上げ、法春を真っ二つにしようと薙ぎ払う。
「見え透いた大振りだぜ!」
巽は法春のスラスターを細かく吹かし、機体を左へロール。敵の凄まじい一撃を、左腕の小型シールドで絶妙な角度で受け流す(パリィ)。
火花が散り、法春の姿勢警報が鳴り響くが、巽はその勢いを利用してさらに敵の懐へと深く潜り込んだ。
「榊のおっさん! 今だ!」
「応ッ! 面制圧(シャワー)の時間だぜェ!」
シールドを背部に回した榊の強春が、右手の重機関砲(マシンガン)と、腰のハードポイントから引き抜いた左手の大口径ショットガンを乱射する。
怒涛の二丁拳銃(アキンボ)から放たれる徹甲弾と散弾の嵐が、要塞型コアのカメラアイと関節部を執拗に削り、その動きを一瞬だけ硬直させた。
「そこだァッ!」
巽の法春が、コアの背部——サーバー群と直結している極太のエネルギーバイパスへと肉薄。右腕のスタンロッド(電磁警棒)を、最大出力で強引にねじ込んだ。
青白い超高圧電流がバイパスを逆流し、要塞型コアのシステムが激しくショートする。
『エラー……シールド出力、低下……』
無機質な音声と共に、コアを守っていた絶対防御の盾が、ガラスが割れるように粉々に砕け散った。
「シールド消失! 汐見、やれるわね!」
鷹司が叫ぶ。
「ええ。……もう、何も遮るものはない」
最後方で機体を完全に固定していた汐見葵の『114式春陰』。その長大な強粒子砲(ビーム砲)が、青白い光を極限まで収束させていた。
「ジェネレーター出力、120%。臨界点突破。……この星の未来は、私たちが撃ち抜く」
引き金が引かれた。
ハフマン島の最深部を、太陽のごとき極太の光の奔流が駆け抜ける。
強粒子砲の圧倒的な熱エネルギーは、無防備となった要塞型コアの胸部装甲をあっさりと融解させ、その奥にあるAIのメインフレームごと、背後の巨大サーバーの柱を完全に貫いた。
『理解、不能……。完全なる計算が……感情という、不確定要素に……』
AIの最期のノイズが空間に響き渡り——直後、要塞型コアは凄まじい爆炎を上げて吹き飛んだ。
連鎖的な誘爆が巨大サーバー群を包み込み、次々と崩落していく。
やがて爆発が収まると、地下空間を不気味に照らしていた青い光は完全に消え去り、暗闇の中に静寂だけが残された。
『……メインサーバーの完全沈黙を確認。全テロ・ネットワークへの通信リンク、途絶しました』
牧野の、微かに震える安堵の声が通信回路に響く。
「終わったわね……」
鷹司が、大きく息を吐き出してシートに深く寄りかかる。
暗闇に包まれた巨大な地下空洞で、装甲から硝煙を上げる四機のヴァンツァーが静かに佇んでいた。
世界を覆っていた電子の悪意は、今、永久に消滅したのである。
(第四部 第4章 了)