フロントミッションサードの二次創作   作:シットライヌ

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第四話

秋晴れの空の下、神奈川県警のヴァンツァー格納庫には、のどかな(そして少し間の抜けた)やり取りが響いていた。

「……で? なんで国土交通省の役人様が、わざわざ県警の格納庫でメジャーを振り回してるんだ?」 整備用キャットウォークの上で缶コーヒーを飲みながら、白神慎之介は呆れたように下を見下ろした。 彼の愛機『強警』の足元では、スーツ姿にヘルメットと安全帯というアンバランスな格好の青年が、ブツブツと呟きながら装甲の隙間の寸法を測っている。

「ミリ単位の誤差が命取りになるんですよ、白神巡査長。この『強警』の大型シールド、規定のトレーラー幅から少しはみ出しています」

鞍馬拓海は、タブレット端末をせわしなく叩きながら眼鏡を押し上げた。

「いいですか? 皆さんが『アラート』を受けて出撃する際、我々国土交通省が専用の偽装トレーラーで機体を運びます。ですが、日本の道路交通法と橋梁の重量制限は極めて厳格だ。深夜の高速道路を、カメラの目を誤魔化しながらカモフラージュしたヴァンツァーを輸送する……それがどれだけ胃の痛くなるロジスティクスか、現場の人間にも少しは理解していただきたい」

「はいはい、お疲れさん。でも俺たちはお巡りだぞ。事件が起きれば交通法規より人命優先だ」

「そのセリフ、道路局の局長の前で言えますか? ……まあいいでしょう。サスペンションの調整とルート偽装は私(国交省)のほうで完璧に仕上げておきます。いざという時は、日本中どこへでも『最速で』お届けしますよ」

文句を言いながらも、鞍馬の目はどこか楽しそうだった。彼は根っからの輸送オタクなのだ。白神は「頼りにしてるよ」と苦笑し、残りのコーヒーを飲み干した。

一方その頃、静岡県・陸上自衛隊富士学校。 伊達健太は、薄暗いシミュレーター室で一人、滝のような汗を流していた。 『強盾』の操縦席を模したコックピット内で、彼は仮想敵の多脚戦車を相手に、ストイックに格闘戦の反復練習を繰り返している。無駄を極限まで削ぎ落としたアタッカーとしての動き。彼の呼吸は、機械の駆動音と完全に同期していた。

その時、メインモニターに突如としてノイズが走り、ポップな警告音と共に「GAME OVER」の文字が表示された。 「なっ……なんだ!? 訓練システムにエラーか?」

伊達がコンソールを叩こうとした瞬間、モニターの隅にワイプ画面が開き、ポテトチップスを咥えた女性が映し出された。

『あ、もしもーし。陸自の伊達サーン? 聞こえてますかー?』

「貴様、何者だ! 富士学校の閉鎖回線にどうやって……!」

『あ、怒らないでくださいよ。総務省の鳴海です。皆さんの通信インフラと電子戦をサポートするお姉さんです』

鳴海千夏は、キーボードを片手でカタカタと叩きながら気の抜けた声で言った。 『ちょっと新設された専用の戦術データリンクのテストをしてたんですよ。いやー、自衛隊のファイアウォール、ガバガバですね。3分で突破できちゃいました』

「……総務省が、何の権限で自衛隊の訓練施設をハッキングしている」

伊達の声がドス黒く沈むが、鳴海は全く気にした様子がない。

『権限なら上に通ってますって。いざって時の広域ジャミング対策ですよ。横須賀のテロみたいに通信を封じられたら、私がいなきゃ皆バラバラになっちゃうでしょ? ちなみに伊達さんの心拍数と血圧データもバッチリ受信できてます。めっちゃ健康ですね』

「切るぞ」

『あー待って待って! ちゃんと海保の水城サンと情報局の如月サンにもリンク繋いでるから!』

鳴海が操作すると、画面が四分割された。 一つには、洋上の巡視船の甲板で潮風に吹かれる水城凛。彼女は怪訝そうにスマートグラスに触れている。

『……総務省? 海上保安庁の暗号回線に割り込むとは、随分な真似をしますね』

水城の冷たい声が響く。

もう一つの画面では、洒落たカフェのテラス席で紅茶を飲んでいる如月玲奈が手を振っていた。

『やっほー千夏。相変わらず趣味が悪いわね。覗き見なんて』

『玲奈にだけは言われたくないなぁ。こっちは真面目に仕事してんの』

四人(+総務省の鳴海)の奇妙な電子会議が、なし崩し的に始まってしまった。 伊達は深くため息をついた。

「……それで、総務省の鳴海とやら。通信テストは済んだのだろうな。私は訓練に戻りたいのだが」

『あ、はいはーい。良好です。白神サンの回線は国交省の鞍馬クンが横にいるみたいだから繋がなかったけど、これで「広域対テロ遊撃班」のインフラはバッチリってことですね』

水城がスマートグラスを押し上げ、静かに口を開く。

『……名前もない特務部隊ですが、裏方がこれだけ優秀なら、いざという時の憂いはなさそうですね。ですが、鳴海さん。次からは正規の手順で通信してください』

『善処しまーす。じゃ、何かあったらすぐ呼ぶから、みんなスマホの電源は切っちゃダメですよー』

通信が一方的に切断され、シミュレーター室には再び静寂が戻った。 伊達は呆れ果てて額を押さえたが、ふと、自分たちが決して孤立しているわけではないのだという事実に、口元をわずかに緩めた。

前線で体を張る四人のパイロット。 そして、彼らを裏で支え、戦場へと送り出し、目と耳となる二人のスペシャリスト。

彼らの平穏な日常は、いつか必ず来る次の「アラート」までの、束の間の休息に過ぎない。しかし、今はまだ、その穏やかな秋の空気が彼らを包み込んでいた。

 

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