深夜の国土交通省、特務情報室。モニターの青白い光に照らされた鞍馬拓海は、無機質な物流データの羅列の中に、微かな「淀み」を見つけていた。
「……民間規格の大型バッテリーと、農業用ドローンの予備パーツ。それにしては、特定のダミー会社を経由する搬入ルートが複雑すぎますね」
鞍馬がイントラネットから総務省の暗号回線を叩くと、すぐさま鳴海千夏のけだるげな声が返ってきた。
『こんな夜中に何? こっちはネクサス・ダイナミクスの残党の裏口座を洗ってて忙しいんだけど』
「その残党絡みかもしれません。この三ヶ月間の、関東臨海部における不審なコンテナの動きを追ってほしい。バラバラに輸入された民生品ですが、組み上げれば……」
数分後、鳴海の叩くキーボードの音が劇的に早くなった。
『ビンゴ。ダミー会社の裏帳簿を抜いたわ。これ、農業用なんかじゃない。軍事転用可能な自律制御ドローンと、装甲車両(テクニカル)の組み立てラインよ。しかも、海外からの違法な火薬の横流しルートと見事に交差してる』
翌日。霞が関の地下深く、存在しないはずの防音会議室に、特務遊撃班『鵺』の六人が集められていた。
重い扉が開き、現れたのは隙のないスーツを着こなす初老の男と、冷徹な目つきをした女性秘書だった。「現政権の官房長官の懐刀」と称されるこの男こそが、極秘裏に『鵺』を創設した張本人にして最高責任者である。
「懇親会の直後に済まないね、諸君。だが、事態は一刻を争う」
男が静かに告げると、女性秘書がメインスクリーンに情報を投射した。
「鞍馬監査官と鳴海情報官の調査により、ネクサスの残党と結託した武装グループの動きが確認されました。目標は今週末に開催される都内の国際平和シンポジウム。奴らは大量の武装ドローンとテクニカルを用いて、要人ごと会場を物理的に制圧する算段です」
「敵側に、搭乗型のヴァンツァーの配備はないのか?」と、伊達が鋭く問う。
「ええ。ですが油断は禁物です」秘書が淡々と答えた。
「統制された無人兵器と装甲車両による『物量戦』は、時に単機のヴァンツァーを凌駕する脅威となります」
「生身の捜査権限を持つ白神、水城、如月、伊達の四名は、各自の身分を活かして直ちに臨海部のダミー倉庫群を洗ってくれ。敵の最終拠点を特定次第、ヴァンツァーによる無力化を許可する」
男の鋭い眼光が、六人を順に見据えた。
「特務遊撃班『鵺』、これより活動を再開する。頼んだぞ」
「足で稼ぐ捜査なら、警察(サツ)の十八番だ。任せとけ」
白神が首の骨を鳴らして不敵に笑う。見えないテロの脅威を炙り出すための、組織の壁を越えた前代未聞の合同捜査が幕を開けた。