フロントミッションサードの二次創作   作:シットライヌ

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第7章:旧軍港の亡霊

第7章:旧軍港の亡霊

九州西端、長崎県・佐世保。

入り組んだリアス式海岸と深い入り江に抱かれたこの街は、古くから天然の良港として海軍や旧日防軍、そしてU.S.N.軍の艦隊を迎え入れてきた。その奥深く、地図上からはすでに抹消されている旧地下潜水艦ドック跡地が、特務チームの次なる標的だった。

 

「ひどいカビと錆の匂いだな。いつ崩れてもおかしくないぜ」

 

巽恭平が『強警』のメインカメラを切り替え、暗視モードで巨大な地下空間をスキャンする。コンクリートの壁面には無数のひびが走り、滴り落ちる地下水が不気味な反響音を立てていた。

 

「警戒を怠るな。ここはかつて、日防軍とU.S.N.が極秘裏に共同使用していたいわくつきの施設だ。NGM社が網を張るには絶好の隠れ家と言える」

榊健吾の『強盾』が、慎重にシールドを構えながら先行する。

 

最深部の巨大な空間。そこには、外部から持ち込まれた真新しいプラント設備と、煌々と稼働するサーバー群が鎮座していた。松山で建造されていた「器」に搭載されるはずだった、M.I.D.A.S.のコアを精製するための特殊プラントだ。

 

「ビンゴね。プラントの制御用メインフレームに、三つ目の分割データが保管されているはずよ」

鷹司冴子の『炎陽』が後方から指示を出す。「巽巡査部長、榊一尉の援護下でアクセスを――」

 

鷹司の言葉を遮るように、地下空間の天井付近にある通気口から、複数の炸裂弾が特務チームの足元へ雨あられと降り注いだ。

 

「伏せろッ!」

 

榊の『強盾』が瞬時に強警の前に立ち塞がり、分厚い装甲とシールドで爆風を殺す。濛々たる粉塵の中から姿を現したのは、無骨で実用性を極限まで高めた濃緑色のヴァンツァー部隊だった。

 

「この機体フォルム……O.C.U.(オシアナ共同連合)の正規軍モデルよ! 所属マークは偽装されているけれど、間違いないわ」

高所への展開を諦め、瓦礫の陰からライフルを構えた汐見葵の『陣陽』が報告する。

 

「O.C.U.だと……! 日本に逃げられた腹いせに、わざわざ泥棒稼業のお出ましってわけか!」

巽がショットガンを構え直し、舌打ちをする。

 

日本がO.C.U.から離脱したことは、同連合にとって極東における極めて大きな軍事的・経済的損失だった。彼らにとって、日本発のM.I.D.A.S.再生産を自らの手で掌握することは、失地回復と新たな加盟国(シベリア連合等)への強力な示威行為になるのだ。

 

『裏切り者の日本人どもが。その厄災の種、我々O.C.U.が管理してやる』

 

外部スピーカーから響く傲慢な英語の罵声と共に、O.C.U.部隊が地下空間の閉鎖環境を活かした面制圧の重火器掃射を仕掛けてくる。

 

「閉所での撃ち合いなら、こっちの土俵だぜ!」

巽の『強警』がスラスターを細かく吹かし、コンクリートの柱を蹴って立体的に機動する。弾幕の隙間を縫うように敵陣の懐へ飛び込み、格闘用ロッドでO.C.U.機の重機関銃をへし折り、そのままコクピットへショットガンのゼロ距離射撃を叩き込んだ。

 

「前衛を押し返す! 汐見三保正、狙撃の射線は取れるか!」

榊の『強盾』がマシンガンを唸らせながら、残る敵機を壁際へと追い込んでいく。

 

「柱が多くて狙えません。ですが……『反射(リコシェ)』なら!」

汐見の『陣陽』が、敵機ではなく壁面の頑強な鉄骨に向けてトリガーを引く。放たれた大口径の特殊徹甲弾は鉄骨で跳弾し、予測不能な角度からO.C.U.機の背部センサーを見事に撃ち抜いた。

 

「見事よ。私も天井を崩さない程度に炙り出させてもらうわ」

鷹司の『炎陽』が、爆発範囲を極小に抑えた徹甲マイクロミサイルを精密射出し、O.C.U.部隊の足並みを完全に崩す。

 

「おらよッ! これで終わりだ!」

体勢を崩したO.C.U.の隊長機に、巽の強警が飛びかかり、その頭部をロッドで完全に粉砕した。指揮官を失った残存機は、這うようにして地下水路の奥へと撤退していく。

 

「片付いたな。鷹司局員、データの抽出を!」

榊が周囲の警戒を続ける中、鷹司は炎陽のマニピュレーターを精密操作し、NGM社のプラントから三つ目のキー・データを吸い上げた。

 

「……抽出完了。これで三つ目。残るデータはあと一つよ」

鷹司の声にはしかし、安堵の色はなかった。彼女はホログラムモニターに日本地図を投影し、赤い光点を点滅させた。

 

「どうやら、NGM社はデータの分散送信と同時に、物理的な『M.I.D.A.S.のコアパーツ』そのものも分割して移送しているようね。ここ佐世保のプラントから、すでに重要部品を積んだ高速ステルス輸送船が出港した形跡があるわ」

 

「海路で逃げたってことか。汐見、追えるか?」

巽の問いに、汐見はすぐさま海域データをスーパーインポーズする。

 

「対馬海峡を抜け、日本海側へ北上するルートを取っています。目星はついています。彼らの次の寄港予定地は……島根県・浜田市。浜田港の沖合に、不自然な停泊座標が設定されています」

 

「浜田港……日本海側の海上交通の要衝か。おそらくそこで四つ目のデータと合流し、コアを完成させる気だわ」

鷹司が即座に決断を下す。

 

「全機、これより日本海側へ進路を取るわよ。O.C.U.もザーフトラも、そしてまだ姿を見せていない勢力も、全て日本海へ集結しつつある。……ここから先は、一瞬の油断が命取りになるわ」

 

暗く冷たい佐世保の地下ドックを後にし、四機のヴァンツァーは再び夜空へと舞い上がった。

次の戦場は日本海。島根県・浜田市を皮切りに、北上を続ける死のルートが彼らを待ち受けていた。

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