では続き2話をお楽しみください。
「ほらよ、こんなものしかねぇけど」ゲンダーのテントに戻り、ゴザと「号外!先生の赴任!」と書かれた新聞紙が敷かれている床に座る。差し出されたのは乾パンとゼリー飲料だった。「いえ、ゲンダー=サン。頂けません」手を出してフジキドが断る。ここで即座に受け取るのは蛮人、受け取ってしまえば奥ゆかしさのなさから即ムラハチにされるだろう。
「いいから、食っとけ」再度、ゲンダーが差し出す。「では、ありがたく頂きます」フジキドが手を合わせ、感謝して受け取る。ネオサイタマのサラリマン時代に培ったマナーだ。ジッサイ奥ゆかしい。
乾パンを口に放りゼリー飲料で喉を潤す。ニンジャのエネルギー源であるスシほどではないが僅かに気力が戻る感じがする。「ゲンダー=サンは、オートマタであるのに食事ができるのですね」安物のブロック栄養食を食べているゲンダーに質問する。
「そんな不思議か?まあ、動力になるわけじゃないが味覚はあるし腹が減ることもある」なんと、キヴォトスのオートマタには生物に近い機能を有しているのだ。キヴォトスにおける機械技術はネオサイタマと同等か、それ以上なのだろう。
「まあ、エネルギーは電気だな。あれが無いと幾ら食っても動けねぇ」口にブロック栄養食を含んだまま話すゲンダー。キヴォトスの超技術にフジキドは驚きが隠せない。「何だよ、そんな驚くかよ。俺たちは機械だけど、人権?…オートマタ権?は保証されてる社会の一員なんだよ。こんなところにいるけどな。」ブロック栄養食を飲み込む。
「モリタも食い終わったな。今日はコミュニティの集会があるから挨拶回りがてら紹介しに行くぞ」ゲンダーを先頭に、テントを出る。見渡してみるとコミュニティというだけあり、他の浮浪者が住んでいるトタン屋根の家や剥げた壁のぼろ家が、所狭しと並んでいる。
「ゲンダー=サン。集会というのは一体?」「ああ、ここに住んでる奴は多くてな。いくつか地区に分かれてるんだ。んで、地区ごとのリーダーが二週間に一回集まって報告するのが集会だ」ゲンダーが少し先にある大きいテントを指さす。「あそこが会場だ。なに、緊張すんな。ウチのコミュニティは〈来るもの拒まず〉がモットーだ。」ゲンダーがフジキドの肩をたたいて元気づける。
ゲンダーのテントから20分ほど歩き、集会所に到着した。「ちわー、お疲れ様です。新しい奴が入ってきたので紹介しに来ました」ゲンダーが入り口に立ち、入る許可を貰う。「ゲンダー、珍しいな。4月に新しい奴が来るのは。」ヨレたシャツを着た犬の獣人が座りながら話しかける。キヴォトスは獣人も存在するようだ。
地区のリーダーはフジキドたちを囲むように、円になって座っており、足元には「A地区」「B地区」「C地区」「D地区」と札が置かれていた。円の中心でフジキドは一礼した。「ドーモ、ハジメマシテ。イチロー・モリタです。」
「礼儀正しい奴だな、C地区のオリタだ。」先ほどの獣人が笑顔で答える。「私はA地区のオオギタです、よろしく」女性的なオートマタが静かにオジギする。「B地区のアキダっす、よろしくお願いしやす」この中で一番若い栗毛の猫の獣人が軽くオジギする。「D地区、ヤスモリです」片腕のないオートマタがフジキドの目を真っすぐ見てオジギする。
「さて、モリタ。ここに住むのは構わない。だが、共に生活するには仕事をしてもらう必要がある」笑顔だったオリタが真顔になって言う。「モリタは何ができる?コミュニティに住んでる者は日雇いで労働したり、子供や老人でさえも廃材や空き缶拾いで生活を支えている」
フジキドは少し考え、口を開いた。「カラテをやっています。体力に自信があるのと、少し事務作業ができます」「空手?体格がいいと思ったが、武道をやってたのか」ゲンダーが驚く。「そうか、空手か。パトロールとかか…?」オリタが数回頷いて考える。
その横から「それならモリタさん。補修作業、手伝ってもらえますか?ちょっと人手不足で。昼から作業するんで、お願いしたいっす」軽く手を上げてアキダが発言する。フジキドは集会でリーダーの認知とコミュニティでの仕事を得られた。アブハチトラズ!
ありがたい。だがフジキドは不思議に思っていた。「質問よろしいですか?なぜ、皆さんは私を助けてくれるのですか?」至極まっとうな疑問である。行き倒れの人間に飯と仕事と住むところを与えるなど、普通、有り得ない話である。「ここにいる奴らは全員、訳アリだ。借金で来た奴もいる。退学になって行き場を失った奴もいる。家を勘当された奴もいる」アキダが姿勢を崩して答える。「境遇は違うが、みんな仲間だ。掲げている〈来るもの拒まず〉も仲間意識からなんだ」その言葉で納得したフジキドは一礼してテントを去った。
昼の時刻となり、フジキドは事前に伝えられたB地区の場所へと向かう。「あんたがリーダーが言ってたモリタさんか。よろしく!」現場作業用だろうか。今まで見てきた中で一番大きい、年季の入ったオートマタと数人の獣人が出迎えた。「ドーモ。イチロー・モリタです」合掌して一礼。「聞いてた通り、礼儀正しいな。どうも、キダです」キダが軽く頭を下げる。実際、コミュニティの住人には奥ゆかしさがある。
「モリタさんにやってもらうのは建材運びなんだが。ヘイローも無いからな……少しずつでいいから、こっちに持ってきてくれ」ヘイロー?聞き慣れない単語が出たが、今は仕事に集中するべきだ。「分かりました」廃材置き場に行き、建材になるものを探す。フジキドはニンジャになれるほどは回復していないが、鍛え抜かれた肉体により150㎏、約バイク一台分の重さなら運搬することができる。
「イヤーッ!」20㎏はあるであろうトタンの束を片手で持ち上げ、柱になる金属製パイプを30㎏抱える。壊れたコミュニティの家を補修しているキダのもとへ戻る。「早いな、そこに置いといてくれぇ…えええええええ!?」キダはうっかり補修用の釘を落としかけるほど驚いた。
「無理せず、一遍に運ばなくてもいいからな!」その言葉にフジキドは首を振る「いえ、こちらの方が早いかと。状況判断です」キダは混乱したが、納得するしかなかった。コワイ。「お…おう、そうか……ありがとうな…」キダは引きつった笑いをしながら作業を再開した。
太陽が沈み、日が暮れるころ。フジキドたちは作業を切り上げた。「おいおい、今日でこんな進んだのかよ」作業員たちは、通常であればゆうに一日はかかる住居の補修作業が、わずか六時間足らずで殆ど完了したことに感嘆の声を漏らしていた。
キダが手を叩いて注目を集める「よし、今日の作業終わり!みんなで風呂行くぞ!」A地区とB地区の境まで歩くこと15分。他の建物より一層外から見られないよう厳重にシートが垂らされた建物には「風呂」と書かれた看板が掛けられていた。
「コミュニティに風呂があるとは」フジキドが驚愕する。「労働者も多いからな、風呂が無いとやってられん。さ、モリタさんも。入るぞ」キダが先導し、一同はシャワーを浴びて、風呂に入る。かなり広く、十数人程度なら入りそうだ。風呂の壁面は廃墟のコンクリート片が継ぎはぎに固められており、スプレーで申し訳程度の青い山が描かれていた。
「つってもシャワー熱すぎねぇか?」「水道水貯めるタンクが小せぇから温度調節はセルフで、って知り合いの配管工が言ってた」「その配管工、赤い帽子とひげ生やしてねぇか?」「青帽子の無精ひげのおっさんだな、ダハハハハ!」共に仕事をしていた仲間の談笑が響き渡る。コミュニティの平和がそこにはあった。
「すげぇなモリタさん。作業があんな進むとはな、腰痛めてないか?」浴場の中でキダがフジキドに話しかける。キダは現場監督として的確な指示、作業員のケア、自身で現場に立つなど、まさにタツジンである。そんな彼は謙虚にフジキドの功績をたたえる。
「いえ、ダイジョブです。お気遣いありがとうございます」「そうか、リーダーに報告しておくよ。良かったって」親指を立てる。グッドサインだ。ユウジョウ!「仕事終わりに、ちょっと吞まないか?」「いえ、少し用があるのでお先にシツレイします」風呂から上がり一礼してフジキドは去る。
誰もいないゲンダーのテントに戻ると彼はザゼンを組み、目を閉じる。己の精神内部へと意識を向けると狭いチャノマ空間が現れる。しかし、彼一人だけである。本来フジキドの中にいるニンジャソウル、即ちナラクニンジャが居なかった。「声がしないと思ったが…まさか居ないとは」ナラクが存在しないのならば、ナラクに乗っ取られることは無い。だがそれはニンジャになれないのと同義である。
目を開け、帰ってきたゲンダーと夕食を済ませて、眠った。こうしてフジキドのスラムでの長い一日が終わった。
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