それはそうと、今作のスタンスとして「タイトルでスレイヤーと書いているので、『殺すときは殺す』」という方向で行きます。
ブルアカ自体は全年齢作品なので、原作とのギャップが大きいと思いますが、二次小説であると思って読んでいただけると幸いです。
それでは遅くなりましたが、第四話どうぞ!
フジキドは暗闇から起き上がる。しかし、目が覚めた先は現実世界ではなく、精神世界のチャノマだった。狭いチャノマにはザブトン、カケジク、ダルマ、チヤブダイが置かれている。その空間にはフジキドともう一人。影がザブトンに座っていた。ちょうどフジキドの居るチャブダイの向かい側だ。「ナラク…?」フジキドは問いかける。
だが影は動くことも、話し出すことも無く、ただそこに座っていた。 フジキドが回り込んで影に触れてみようとするが、手のひらは空を切る。確かに存在しているはずなのに何の感触もない。影は形が変わることもなくただ佇んでいるのみであった。
不意に、フジキドはチャノマの壁を見た。フスマがかすかに開いているのだが、今まで壁にフスマは無かった。不審に感じて、一歩、二歩と近づき、引手に手が掛かる瞬間。フジキドの体と意識は錐揉み回転して落ちるように沈んでいった。
脇腹が、足全体が燃えるように痛い。体全体から微かに刺すような痛みを感じ、今度は現実の世界で目を覚ました。「ここは、テントか?」コミュニティの中心に位置する、リーダーの集会所。そのテントの中はノレンのようなカーテンで仕切られ、薄っぺらいフートンが横一列で並べられている。フジキドはその一つで眠っていた。足には急病人の証である黄色い布が巻かれ、包帯で傷口を縛られている。
カーテンが開かれる。入ってきたのはC地区のリーダー、オリタだ。オリタはフジキドの隣に腰掛けた。「よう、モリタ。起きたか。傷が開くから動くなよ」オリタはいつもの調子で話しかけてくるが、その顔にはいつもの笑顔はなく、強張った表情で話しかけてくる。「オリタ=サン。ゲンダー=サンはどうしたのですか?」
あの襲撃の夜。フジキドがキヴォトスで初の殺人をした日。覚醒する前のフジキドを守ろうとして、手榴弾の傷を負ったままゲンダーは銃弾を受けた。オートマタとはいえゲンダーは無事ではないだろう。 「……………」長く、重い沈黙がフジキドとオリタの間に流れる。「ゲンダーは、生きてはいる。呼吸もしている……だが、意識は戻っていない…」
ブッダシット。ゲンダーは無事ではない、そう感じてはいた。だが事実は重く、暗い影をフジキドに落とした。「…モリタ。お前に聞きたいことがある」オリタはフジキドの顔を正面から見つめて質問した。「覚えていたら、で良い…ゲンダーとお前が倒れていた所に、死体があった。」ふっ、と息を吐くオリタ。「首の無い死体と、心臓がない死体だ」――――――――――――――――― 「誰がやったんだ…?」
「……私が、殺しました」言い訳も、嘘をつく事もなく、フジキドの低い声が真実をオリタに伝える。衝撃的な事実を伝えた。だが、オリタは静かだった。「そうか。モリタ、お前が殺したか」オリタの黒い目がフジキドを見つめる。笑い皺が特徴的な顔からは何も読み取れない。安心しているのか、失望しているのかさえも分からない。『殺し』という事実はそれほど重く、キヴォトスにとっても例外であるのだ。
「モリタ。お前はここの住人として。いや、人として禁忌のことをやった」ああ、コミュニティから追放か、居られるとしても忌避されるのか。いずれにしても罪から逃れる事はできない。甘んじて受け入れる覚悟はフジキドにはできていた。
オリタは続けた。「だが、あのまま放っておけばコミュニティは崩壊か、大損害は免れなかった」……?「良かった、とは言わない。けれど、感謝する」オリタが頭を下げる。「オリタ=サン、顔を上げてください。私は…殺しました。襲撃者たちを」「分かってる、食い止めたからといって、お前がやったのは殺しだ。殺人だ」ふう、とオリタは息を吐く。「快楽のために、殺したくて殺した訳じゃないだろ?」
「私は、昔のことを…繰り返さないために。殺しました…」拾ってくれたコミュニティで後悔を繰り返さないために、やったのだ。「詳しくは聞かん。お前が分かっているならそれで良い」カーテンを捲ってオリタは出た。
一週間後、フジキドの体は自由に歩ける程度は回復した。フートンの敷かれたところから立ち上がりカーテンの外へ初めて出ると、テントは端から端まで並べられた病床が限界まで詰められているのが分かる。病床から呻き声が今までより、さらに明確に聞こえてくる。フジキドはゲンダーが眠る病床へ向かう。
道中、カーテンが開かれフートンに眠る者たちが目に入る。巻かれた包帯から見える肌は焦げており、足に巻かれた布は黒。すなわち死亡を意味していた。ゲンダーの病床に着きカーテンの中に入るフジキド。「 」言葉が出なかった。足に巻かれた布は赤。ゲンダーの右腕はフレームが歪み、修理のために外されていた。治りきっていないことを示すように破片が刺さった腹の包帯は新品だった。
「ゲンダー=サン。すまない…すまない。ゲンダー=サン…」守れなかった者たち、そしてゲンダー。フジキドは静かに涙を流した。悔み、悔み、悔み、悔み、また同じ後悔を繰り返したことに泣いた。
そうして決意した。「カイザー…殺すべし」亡くなった者たちは戻らない。ただの自己満足の復讐になるかもしれない。けれども、フジキドはできることをしなくては。いや、その義務がある。そう確信した。ゲンダーの病床を後にして、リーダーたちが集う場所を目指した。
テントから少し離れた住居に『集会所』と書かれた札が垂れ、フジキドはそこに入る。「モリタさんですか。あのケガから一週間で動けるとは」D地区リーダーのヤスモリが驚いたようにフジキドに声をかける。だが、全員フジキドに若干の警戒心を滲ませていた。「ドーモ、ヤスモリ=サン」フジキドがアイサツをする。
「襲撃の件は聞いています。それで、何の用ですか?モリタさん」ヤスモリがそのまま口火を切った。「私は、この通り回復しました」フジキドの目はヤスモリを見据える。そして、直角90度に腰をまげてオジギした。「私に、何か。いや、できることを何でもさせて下さい!」ドゲザせんばかりの気迫である。ニンジャへの復讐とは違う、自分自身や弔いのためだけではない。今生きている者たちのためにもやる必要がある。
「何でも、か。要は便利屋のような仕事をするということか?モリタ?」オリタはフジキドが言った言葉を組もうと、反応した。「現状が最悪っすからね。人手は欲しいっす…」アキダが世間話の様に遠い目をしながらつぶやいた。好印象を持ったB地区とC地区のリーダーたち。
しかし、A地区とD地区のリーダー。オオギタとヤスモリの反応は違った。「その提案はとてもありがたいことですが、私としてはあまり…。モリタさんの行動と、殺せるほどの未知数の力は正直に言って怪しく、恐ろしいです」ヤスモリの言葉は至極まっとうだ。スラムとはいえリーダーなのだ、皆を統治しながら安全を考える立場にある。「私も同意見です。関わりの少なさもありますが、モリタさんの素性は分からない。故に、仕事を回すのも危険と判断しています」オオギタはフジキドをじっと見つめて言う。
集会所はリーダー同士の対立が静かに始まろうとしていた。「待てよ、モリタの仕事ぶりは俺が保証する。短い間柄だが、ゲンダーと上手くやってきた。B地区の補修作業も、初めましての状態でうまくこなした器用さもある!」オリタは証明するかのように、二人のリーダーに言い放った。「補修作業やったキダさんも、『頼りがいのあるいい奴』って言ってました。…俺は、モリタさんを信じたいっす」リーダー内で最年少のアキダも加勢した。
「しかし、彼は信用できません。第一、殺人犯が人の役に立ちたいと言って『はいどうぞ』なんて言えるわけないじゃないですか!」段々と語気が強くなるヤスモリ。その指はフジキドを指していた。「私も、モリタさんの真意は一切分からない。短い付き合いだけでは認めることはできません。あなたの本意は一体何なのですか?」不信感を含んだ言葉だった。お前の意思を答えろ、と言っているようだ。
「私は、コミュニティを守る。それが本意です」フジキドの目はリーダーたちを見据える。「守るために、また殺すのでは?」「カイザーは殺したい」リーダーたちの顔が強張る。その中でもオリタは顔をしかめている。「今ではありません。ゲンダー=サンのような人たちを。生きている人たちを守るのが先です」フジキドの本意はこれで全部だ。オリタが二人に問う。「だそうだ。どうする?オオギタ、ヤスモリ」
オオギタは静かに口を開いた。「…完全に。とは言えませんが、少しだけ信じます。オリタさんとアキダさんを見るに、それが本意なのは分かりました」「モリタさんの考えは分かりました…ですが、その力は注意すべきものです…」まだ警戒心のあるヤスモリの心には迷いが生じていた。
まだ平行線の話し合いにまた沈黙が流れる。「うーん…」アキダは眉間にしわを寄せ俯いて唸り、そして言った。「それじゃあ…モリタさんに監視。タッグを組ませるのはどうっすか?キダさんとか」出てきたのはどちらの意見も通すための、妥協案だった。「なるほど。では追加で、活動した報告書を書くことを求めます」オオギタも乗っかった。最後に残るのはヤスモリだけだ。
「…分かりました、その条件なら…不実行の場合はオリタさんが責任をもって中止、モリタさんの追放も考慮してください」「分かった。しっかりやれよモリタ」「はい」フジキドは手を合せオジギし、集会所を出た。
こうして、不完全な信用の上でフジキドの便利屋活動が始まった。
しばらくは平和回(バトルシーンなし)が続くと思います。最新話は、1週間で投稿する予定ではあります。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
では次回もお楽しみに!合掌!