「直径800mのホールケーキ四等分して、時計回りで地区を分ける」って感じです。
それでは、第五話どうぞ!
リーダーから認可を得て、フジキドは監視役のキダと共に、D地区に活動拠点を移すこととなった。新たな拠点で、フジキドたちは改めて顔を合わせる。「また一緒になったな、モリタさん」「ドーモ、キダ=サン。オタッシャでしたか?」再会のアイサツも実際大事である。「ゲンダーさんの代わりになれないが、仕事仲間としてよろしく頼む」「エエ、よろしくお願いします」礼儀を欠かさず、両者とも一礼した。
その顔合わせから九日後、フジキドたちは今までのように壊された所に行っては補修作業をして、テントに行っては重傷者の世話をする仕事ばかりしていた。「…便利屋、なんて言っているが、やってることはあまり変わり映えしないな」昼下がりの遅い昼食を食べながらキダはぼやいている。
派手な依頼より、信用を得なくてはならない。フジキドはそう思いながら、分け合っているレモン味のカロリーバーを食べ、片手間でいつもの報告書を書いているときだった。ドア代わりの布が押し上げられ、老人のオートマタが入ってくる。「ああ、食事中に失礼しました」「いえいえ!どうぞ、入ってください!」口に含んだままキダが慌てて応じた。
「それじゃあ、失礼します」軋んだ音を出しながら、オートマタは床に座る。「飯当番の依頼をしたいのですが」飯当番?食事を作る係がコミュニティに存在するのだろうか?「キダ=サン。飯当番とは一体…?」フジキドがキダの耳元に囁く。
キダは一瞬驚いた顔をして小声で返す。「モリタさん、知らないのか。飯当番はスラムの外から食料を貰ったり、取ってきたりするんだ。地区ごとの持ち回りで」キダは改めて依頼者に向き直る。「今週の飯当番はA地区ですよね?」キダはにこやかに尋ねる。
「はい、そうなのですが」深いため息をつき、依頼者は続ける。「未だに襲撃のケアや修繕で。手一杯になってしまいまして…子供や暇な年寄りでなんとか回しているのですが、最近の治安悪化もあって…私のような者ではとても…」
コミュニティといえど、スラムである。襲撃の影響もあってヨタモノが前よりも増えたことは、フジキドも耳にしていた。「引き受けましょう」昼食を飲み込んでフジキドが答える。キダも依頼に乗り気だ。「ありがとうございます。貯えも尽きかけでしたので…ありがとうございます」老人のオートマタは二度オジギした。
コミュニティの外、スラムの内。年季の入ったリヤカーを引く二人の男たち。古紙回収の業者であるか?いや違う。飯当番だ。「キダ=サン。引き受けてしまいましたが、飯当番はどうすれば」「うーん、ゲンダーさんが一番顔が広くて慣れてるんだが…まずは、俺に任せてくれ」
特にヨタモノに絡まれることなくスラムの外へ出ると、ゲヘナの街並みが広がっていた。スラムと違い、壁に書かれた落書きも、汚れたごみも、怪しい商売人の姿も殆どない。「モリタさん。車輪、引っ掛けないようにな」路面は日常的な銃撃戦によって穴が開いている。そこはスラムと同じだった。
歩くこと十数分。会社が入ったビル群の路地を二人は進んでいく。キダは地図もないのに慣れた足取りで先導していく。「調達場所には『穴場』って呼ばれる場所がある。そこまで行くぞ!モリタさん」「ハイ!」二人はマグロめいた動きで、止まることなく前へ進んでいく。
「ここら辺だ」キダが足を止めたのは、オフィス街を抜けた先にある少し寂れた商店街だった。「ここが、『穴場』ですか」飲食店、雑貨屋、個人商店が立ち並んでいるが、所々シャッターが閉まっている。キダは営業中の個人商店へ向かう。
「すみませーん、『回収』です!」店の裏手のドアをノックすると、年老いた鳥の獣人が出てきた。「はいはい、毎度。賞味期限切れだから早めに食べな」売れ残った物だろう缶詰やカロリーバーといった保存食がリヤカーに積まれる。
「ありがとうございます。じゃあ、これで」キダは懐からポーチを出して、ジャラジャラと1500円分の硬貨を手渡す。「ショッピングモールのせいで商売あがったりだからな。助かるよ」背中を曲げてオジギし、戸を閉めた。「と、まあ。こんな感じだ。モリタさんもやってみるか?」
リヤカーを引くのを交代して、今度はフジキドが店を探す。そして一軒のコンビニを指す。「あそこはどうですか、キダ=サン?」『26』がロゴマークのコンビニ。フジキドは交渉とはいかずとも、廃棄品が手に入るかもしれないと考えていた。ネオサイタマでも浮浪者による廃棄品漁りは珍しいものではないという経験則からだ。
「あー、あそこはやめておけ。モリタさん」少し困った様子でキダが止めた。「ありゃ『カイザーコンビニエンス』、大企業のわりにケチ臭いし、セキュリティも堅い」そして顔をしかめて言う。「それに、あんまりいい噂の会社じゃないし。なにより『カイザー』ってだけで貰った飯食わない奴もいるからな」
ウカツ!出鼻を挫かれた。よりにもよって襲撃してきたカイザーを選んだ失態にフジキドは肩を落とした。「まあ、少し先に『エンジェル24』ってコンビニがあるから、そこにするか」落ち込むフジキドにキダがフォローを入れる。
「『エンジェル24』は廃棄弁当が手に入るけど、競争率が高いんだよなぁ」心配した様子で向かうキダ。だが、運悪く予想は当たってしまった。店の中には客がいないが、裏手ではコミュニティでは見かけない浮浪者たちが、我先にと店員に交渉している。ツキジのセリめいた交渉は暴力的であった。
「こっち!こっちは520円払うよ!」「どけ!700!700でどう!?」「ええい!900だ!」他の者を肘で押しのけ、硬貨を投げる者、店員にくしゃくしゃの紙幣を見せる者も現れる。皆の目は目当てである幕の内弁当のみに向いている。
「やめとくか…」「そうですね」リヤカーを引いて退散する。そうして二人はそのまま商店街の奥まった所にある個人経営のスーパーに向かう。キダは裏手の扉をノックした。「ちわー、『回収』です!」扉が開き、小太りのクマの獣人が出てくる。
「閉店時間に来なさいよ。バイト出てきたらどうするの!?」どうやら女性のようだ。フジキドの顔を凝視する。「見ない顔だね。ほら、貰うよ」キダが2000円分の紙幣を渡す。開店中に来た分の迷惑料も含んだ金額だ。「悪くないね、ほら行きな」
開店中の店からバイトの若い声がする。「てんちょー、どうしたんですか?」「何でもない!…ほら、さっさとお行き」手で『あっちへ行け』とジェスチャーし、扉のすぐ近くにある私有地のゴミ捨て場に急いだ。
「さて。失礼」キダがネットを外し、食料品が詰められた白いごみ袋をリヤカーに積んだ。力仕事がメインなだけあって、二人は軽々と持ち上げて積んでいく。満杯になると、リヤカーにテープで繋いであるブルーシートを被せ、帰路に就いた。
行きと同じ道をたどり、スラムに入るころには日も暮れて暗くなっていた。「結構ありますね」「この量ならすぐに底をつく。もって三日ってとこだろうな」ひっそりとした落書きだらけの廃墟が並ぶ道を進んでいく。
だが、ここはスラム。安全で帰れるなど殆どあり得ないのである。廃墟の陰からヘルメットを被った集団がリヤカーの前に立ち塞がる。「おい、そこの積み荷のもん降ろしていけ」赤いフルフェイスのヘルメットをした人物が傲慢に言い放った。
「へへへ、朝から目ぇつけといてよかったぜ」「痛い目見たくなかったら、寄越せ!」手下だろうか、黒いヘルメットをした者たちが銃を向けている。「やりますか?キダ=サン」「よせ、この数だ」小声でコミュニケーションする二人。状況はまさに背水の陣、絶体絶命だ。
「おい!ひそひそ喋ってんじゃねぇぞ、寄越すのかハッキリ言えや!」赤ヘルメットが語気を強め、近くの廃墟の壁に発砲する。威嚇射撃。だが廃墟の壁は削れ、撃たれてしまえばひとたまりもないだろう。
「分かった、俺たちは荷物から離れる。好きに取っていけ」「キダ=サン!なにを!?」キダが両手を上げて、銃を捨てる。さらにキダは積み荷から離れる。「物分かりがいいじゃねぇか。お前もどくんだよ!」フジキドもキダの様に手を上げ、渋々従う。互いの位置が入れ替わる様に、ヘルメットの集団は積み荷の方へ、キダ達は集団がいた場所に下がっていく。
「おお、めっちゃ入ってんじゃん」「ホタテ缶あるぞ」「おい、ジュース取るなよ」円になって積み荷に群がるヘルメット集団。ブルーシートを引っぺがし、戦果のように食料を見せつけあっている。「キダ=サン。なぜ?」「黙ってろ」フジキドの言葉をキダが封じると、近くにある不法投棄の鉄パイプを握る。
「グレープ味、私のな!」「ふざけんなよ、私のだって!」油断した赤ヘルメット。キダはその後頭部に近づき、鉄パイプを振りかぶる。「オラァ!」後頭部にフルスイング。鉄パイプが鈍い音を立てて当たる。
「「「「グワーッ!」」」」赤ヘルメット中心にドミノめいて倒れていく。「今だ!モリタさん、押せ!」フジキドは瞬時に理解し、地面を蹴ってリヤカーの持ち手を思い切り押して、全力で逃げる。
「おい!ふざけんな!止まれ!」激怒したヘルメット集団が一斉に発砲する。跳弾がリヤカーの車輪に当たりかける。だが、狙いは定まっていない。「モリタ!走れ!俺が盾になる」リヤカーの後ろに鉄パイプを捨てたキダがついてくる。キダの背中に銃弾が当たる音が時々聞こえるが、まだ耐えられる。
コミュニティの入り口に近づくと発砲は止まった。分が悪いと悟ったヘルメット集団は舌打ちをしながら離れていった。「キダ=サン!ダイジョブですか!?」片膝を着き、うずくまるキダにフジキドが近づく。「大丈夫だ。へへっ、タフに作られてて助かったぜ。」
撃たれた背中には所々、真新しい銃痕が残っている。「こんなもん。食って寝てればすぐ直る。それより食料は…平気か?」少し顔をしかめながら言うキダ。リヤカーには傷一つなく、荷物も無事だった。「ええ、無事です。帰りましょう、キダ=サン」二人はD地区の事務所へと戻っていった。
事務所の道途中、テントの前を通る。「モリタさん。最近、ゲンダーさんとこ行ってないだろ?」そう言うとキダはリヤカーから手ごろなリンゴを投げた。見事なアンダースローだ。「飯当番の特権の先取りだ。俺は先戻るよ」リヤカーをテントの前に置いて、キダは先に帰った。お言葉に甘えさせてもらおう。
テントの中は前よりも幾分か整理されていた。完全に治療しきった者は復帰し、襲撃で亡くなった者たちが弔われ、フートンに空きができている。だが、ゲンダーのいるフートンは未だに空くことはなかった。「ゲンダー=サン。お久しぶりです」フジキドはゲンダーに近づく前に一礼。そして隣に座った。
右腕は外されたままだが、包帯は取れており、足の布は黄色だった。「ドーモ、ゲンダー=サン。ゲンダー=サンは元気ですか?私は元気です」ゲンダーに話しかけてみるが返事は無い。世話人から借りたナイフでリンゴの皮を剥く。「今日は、飯当番をしまして…ゲンダー=サンはスゴイですね…」リンゴを六等分する。
「ゲンダー=サン。起きたら貰ってきたベントー食べましょう」一切れ食べる。繊維質な触感だが、ほんのり甘い。「また顔を見せます。オタッシャデー…」残りの五切れを置いてあったプラスチックのボウルに入れて、立ち去った。
「お帰り、モリタさん。あ痛たたた…」猫背のキダがフジキドを迎える。寝る前に背中に残った銃弾を取っていく。「そういえば、キダ=サン。カイザーはヨタモノ集団では?」カラン、と銃弾が取れる。「いや、企業だな。手を汚さないためにチンピラ使うとかは聞いたことあるけど」カラン、銃弾が全て取れる。「まあ、昼のコンビニのことは引きずり過ぎるなよ」
「おう、ありがとう。ちょっと療養のために先に寝るわ、おやすみ」そう言うと、キダは糸が切れたように眠った。フジキドは一人、報告書を書く。
[報告書] イチロー・モリタ
(『飯当番』の依頼を同僚のキダと共に達成。行きの道は問題なかったが、帰りは食料目当ての強盗が現れ、同僚が軽傷を負う事態となった。新規ルートか、用心棒、武装の強化を改善案として出す)
その後は簡単な体調などの作業チェック項目を入れ。フジキドも泥のように重い体を横にして眠った。
キダ=サンは「モリタさんの仕事の手伝いを一緒にしてあげて」としか言われてない人です。
フジキドのやったことに関しては、一切知らされてない同僚です。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。次回もお楽しみに、合掌!