冒頭/或る南方大陸の青年
青年は必死に逃げる。
地面はますます熱気を帯びて、いつ
青年は村の方へ脇目も振らずに走っていく。
櫓からは離れたが、まだ目で見える範囲にある。
青年のすぐ後ろで、蒸気が地面を突き破って勢いよく噴き出す。
村に伝えなくてはならない。
子を孕んでいる者は、
命が保っても、食の精霊が寄り付かなくなる者や水の精霊が寄り付かなくなる者も増えると聞く。
しかし青年の脚は止まる。
また別の命の危機が青年に降りかかっていることを本能が捉えたのだ。
足音の聞こえる距離で、敵対する村の男たちが隊列を成して林を歩いてくる。
しかも、最前の過度に派手な頭の装飾から察するに、敵村の長がこちらへやって来ている。
「(どうしてこんな時に……!)」
そのうえ、妙な連中まで混ざっている。
どの族ともどの村とも決して似つかない異様な服。
何かの皮のような茶色をした装飾のない冠。
顔にも何の模様の化粧もしておらず、その代わり、上半身の服に宝石がくっ付いていて眩く太陽の光を帯びる。埋め込まれてあるのだろうか。
そして、両手に携えた取っ手の付いた黒い筒。武器にしては短すぎるし、木ならば折って運んでいるだろう。それにあんな黒い木は見たことがない。
その妙な格好をした者が別の妙な奴に近づいて二言三言何かしら話す。
それから、そいつも別の奴に話す。そして最後の奴があの敵村の長と話している。
伝言がいくらかあったあと、何かの大きな音がして、急に周囲の音が聞こえなくなる。
──黒い筒が
そう青年は直感した。
青年は強大な力をすぐさま感じ取り、そしてかつてない危機に村が飲み込まれていることを確信した。
すぐにここから離れなくてはいけない。
いずれにしても、村の一大事だ。長老が何かに巻き込まれていないといいのだが。
「〈あァ、何だよ、
妙な男は伝言をせず黒筒を構える。
青年はこのような遠距離武器は知らないし、知るべくもない。
黒い筒が、どの鳥よりもけたたましい声でもう一度鳴いた。
背中から溢れ出た血と痛みのせいで、銃、というものを果たして青年が二度と知ることはできなくなった。
敵村と奇怪な格好の者どもは禁じられた土地へ、荒ぶる神の土地へ歩を進め続ける。
怒れる土地へ誰も知らぬまま進み続ける。
それでも、何も知らぬままで心の優しい青年は、最期、背中の風穴から溢れる息が切れる前に、
生者たちの国のあらゆる生者が、荒ぶる神の怒りから逃れんことを
と思った。