エルステッド嬢(以下、エル)
エル どうせ書かなくちゃいけないし、今のうちに一応さらっておくか。
エル さて、干渉のためにまず同位相の波を用意する必要がある。これは最初のスリットを作ったことでそこから同じ波が広がるから良し。
エル それから二重スリットに通す。これも良し。これで波源が二つになって干渉するわけだ。異なる方向から二つの波が一緒に訪れるので、場所によって両方山になったり、両方波間になったり、山と波間が重なったりする。
エル 二つの波源からの距離の差が分かれば、その地点に来ている二つの波が互いにどの程度ズレているか分かる……まあ、そうだな。元が同じ波なんだから、その地点で同じ波がどれほどズレて重なっているか、というだけの話だ。それはズレている距離さえ分かればその長さだけ波をなぞって分かる。
エル 光の波が両方山でやって来れば、最も明るい。当たり前のことだな。その山の間隔がすなわち縞の間隔になる。
エル さて、波源の二重スリットの板から銀塩紙の貼ってある板までの垂直距離を$L$、二重スリットの隙間と隙間のあいだの長さを$d$とすると、二重スリットの中点から真っ直ぐ銀塩紙に降りた点では、両方の距離が等しくなり、距離の差は0だ。
二重スリットからの距離の差を三平方の定理できちんと書くと、
$$\sqrt{L^2+\bigg{(}\frac{d}{2}\bigg{)}^2} - \sqrt{L^2+\bigg{(}\frac{d}{2}\bigg{)}^2} = 0$$
エル この点から銀塩紙上を$x$動いた点は、片方のスリットから近づき、もう片方から遠ざかる。距離の差は0にならず、
$$\sqrt{L^2+\bigg{(}x+\frac{d}{2}\bigg{)}^2} - \sqrt{L^2+\bigg{(}x-\frac{d}{2}\bigg{)}^2}$$
根号の中身を$L^2$でくくって$L$を出すと
$$L\bigg{(}\sqrt{1+\bigg{(}\frac{x+\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2} - \sqrt{1+\bigg{(}\frac{x-\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2}\bigg{)}$$
エル そして、ここで使うのが統合王国の数学者が何やらやってた近似だな。*1また統合王国か……向こうの学会にも機会があれば行ってみるかね。
エル 今回使うのは一般にはこんなところか。xが十分に小さいと
$$(1+x)^a \sim 1+ax $$
平方根となると二分の一乗だから、
$$(1+x)^{\frac{1}{2}} \sim 1+\frac{x}{2} $$
エル だから、先ほど距離の差として出した
$$L\bigg{(}\sqrt{1+\bigg{(}\frac{x+\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2} - \sqrt{1+\bigg{(}\frac{x-\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2}\bigg{)}$$
は、$\frac{x+\frac{d}{2}}{L}$が十分に小さければ
$$L\bigg{(}\bigg{(}1+\frac{1}{2}\bigg{(}\frac{x+\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2\bigg{)} - \bigg{(}1+\frac{1}{2}\bigg{(}\frac{x-\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2\bigg{)}\bigg{)}$$
つまり
$$L\bigg{(}\frac{1}{2}\bigg{(}\frac{x+\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2 - \frac{1}{2}\bigg{(}\frac{x-\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2\bigg{)} $$
$$= \frac{L}{2}\bigg{(}\bigg{(}\frac{x+\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2 - \bigg{(}\frac{x-\frac{d}{2}}{L}\bigg{)}^2\bigg{)}$$
括弧の内側を整理すると
$$\frac{L}{2L^2}\bigg{(}\bigg{(}x+\frac{d}{2}\bigg{)}^2 - \bigg{(}x-\frac{d}{2}\bigg{)}^2\bigg{)}$$
$$= \frac{1}{2L}\bigg{(}\bigg{(}x^2+xd+\frac{d^2}{2^2}\bigg{)} - \bigg{(}x^2-xd+\frac{d^2}{2^2}\bigg{)}\bigg{)}$$
$$= \frac{1}{2L}\cdot 2xd$$
$$ = \frac{xd}{L}$$
エル つまり、銀塩紙上で$x$だけ中心からズレれば、二つの波が辿る道筋は$\frac{xd}{L}$だけズレることになる。
エル 何が知りたかったかというと、入ってきた波の波長なわけだ。
エル われわれは銀塩紙上の縞を観測できて、銀塩紙上の縞の間隔を計測できる。縞の間隔は二つの波が辿ってきた道筋がちょうど波の山1つ分ズレる場所に相当するわけで、さっきの計算から、銀塩紙上の長さから二つの波が辿ってきた道筋のズレを推定できる──というわけだ。
エル 銀塩紙上の縞の間隔の長さが分かると、縞を作るまでに辿ってきた長さの差が計算出来て、縞1つ分が波の山1つ分に相当するわけだから、そこから波長が導ける……よく出来てるもんだな。
エル まあこんなところでいいだろう。
エル そろそろ窓の近くに居るのも飽きてきた。
エル 今日は天気がいいからな。散歩でもしてみようか。
本編には関係しない半メタ的幕間です。
次回からは増えた登場人物たちが喋ります。