異世界に、脳を焼いた君がいた   作:カユキ

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初めての公認デート!/デタミネート・マインド

 

 

 扉を出るとそこは森だった。

 永遠に続く黄昏が私達を照らす。

 ヨスガが私の方を向いて聞いてきた。

 

「そういえば、あの光がどこ行ったか分かるか?」

 

 最もな疑問だった。

 この森の中で小さな光がどこに行ったかなんてわかりっこない。

 

「私もわからないよ」

「詰んだ?」

「だーいじょーぶ」

 

 私たち二人じゃ無理でも、やりようはあるのだ。

 私はすぐ近くにいた光に話しかけた。もちろん、教室からついてきた子じゃなくて、この森にいた子だ。

 

「すみませーん、佐藤大輔くんを探してるんだけど……」

 

 森の精霊(先輩の光)に話しかけると、すぐに応えが返ってくる。

 光が使うコミュニケーションは音じゃない。意思だ。

 私が聴きたいことを伝えると、光が私に伝えたいことがなんとなく頭の中に入ってくる。

 私はそれを汲み取っていく、ふむふむ。

 

「あっちの方に行ったんだって」

「知ってるのか、ありがとな」

 

 なおヨスガは光の意思は分からない。これは多分2年一緒にいた私だから分かるだけだと思う。

 でも光はヨスガの言ってることが分かるから、感謝されてうれしそうだった。

 

「~♪」

 

 私達は光にさよならと言ってから、教えてくれた方に歩き出した。

 しっかし、とヨスガは呟いた。

 

「俺たちこのまま遊んでていいのか?」

「何が?」

「いやだってさ……時間ないんだろ?」

 

 この世界はもうすぐ終わる。私が終わらせる。

 じゃないと色んな人に迷惑をかけてしまう。

 だから、決断した。

 

「うん」

「お前も」

「うん」

「死ぬんだろ?」

 

 私はこの世界を管理している。

 同時に、私はこの世界でしか生きられない。

 だから世界が終わるということは即ち私の終わりを意味する。

 

「うん」

 

 私は即答した。ヨスガの目を決して見る。

 もう決めたことだから。私は揺るがない。

 ヨスガは私のことを少しだけ見て、口を開いた。

 

「わかった」

「え?」

「お前は決めたんだろ。俺はもう何も言えないわ」

「ヨスガ……」

「だけど、一つだけ約束してくれ」

「何?」

 

 ヨスガも私を見据えて続きを言った。

 

「絶対に最後まで一緒にいるって」

「……!」

 

 なんて答えるかとっさに言葉が出てこない。

 だって、私は一人で死ぬつもりだったから。

 恥ずかしいし、辛くなる。

 でもそう言ってくれて嬉しかった。

 

「……それならいいよ」

「いいのか?」

「うん、いいよ」

「じゃあ約束だな」

「そうだね」

 

 ヨスガが小指を立てる。

 私もそこに小指を絡める。

 

「俺は最後までお前の傍にいる」

「……私も一緒にいる」

 

 そこで指をパっと切った。

 

「嘘ついたらハリセンボン飲むからな」

「何それw飲ませるんじゃないの?」

「だって危ねえだろ?」

「ヨスガが飲んでも危ないでしょ」

 

 そこで精霊が呼びかけてきた。

 気付かない間に立ち止まっていたらしい。

 私達は再び歩き始めた。

 

「そういえばさ」

「うん?」

「なんで教室なんだ?」

「何が?」

「地獄エリアの入り口。なんで教室しかないんだろうなって?」

「だって……うーん、楽しかったから?」

「嘘だろ? 教室が楽しかっただって?」

「だって授業は楽しいし、放課後何するとか昨日のテレビの話とか……ヨスガは?」

「俺は全然」

「どうせ寝てたんでしょー」

「寝てねえがー?」

「うそだー」

「……寝てた」

「ほらね」

 

 空を仰ぐと、夕焼けで赤くなった雲が見えた。

 そういえば、小学校の帰りってこんな感じだったな。

 

「私あれ楽しかったなー」

「どれ?」

「ヒーローごっこ」

「え、お前んとこにもあったの?」

「うん……っていうか私とヨスガって同じ小学校だよ?」

「……まじ?」

「まじ」

「ごめん」

「いいよ」

 

 絶対忘れてると思ったし。

 でもちょっと悲しかったから意地悪しよ。

 

「小さい頃のヨスガもノリノリだったよね。俺、参上! って」

 

 ビシっとポーズを取って決め台詞を言ってみる。

 するとヨスガは冷や汗を垂らし始めた。

 

「分かった、悪かった。俺が忘れてましたまじですまん!」

「いいよ別に」

 

 でも……

 

「かっこよかったよ。ヒーローのヨスガ」

「嘘だろ、あれ黒歴史だぞ」

「嘘じゃないよ。考える前に動くってカンジ、あれすごかったよ」

「……あれか。上級生殴ったやつか。負けてたし、怒られたわ」

 

 知ってる。その後、ヨスガが人と関わらなくなったのも。

 

「でもヒーローだったよ、私にとっての」

「今も俺はヒーローだと思うか?」

「全然?」

「はぁ?」

「でも私は今の方が好きだよ」

 

 私の言葉にヨスガの動きが止まった。

 すぐに調子を取り戻して悪態をつき始めた。

 

「なんだそれ、わかった。揶揄ってるんだろ」

「褒めてるんだよ」

「じゃあ素直に褒めろよ」

「ヨスガだし、いいでしょ?」

「良くねえが?」

 

 フフっと思わず息が漏れた。

 高校生の頃もこんな感じのばっかりしてたなぁ。全然建設的なあれこれとかしないで、くだらないことで弄ってた。

 

「それに今は私の方がヒーローだしね」

「ほんとか?」

「今精霊の声を聴いてあげてるのは誰かな?」

「キッカさんまじヒーローっす」

「まぁでももうすぐヒーロータイムは終わりかな」

「それって……ああ、なるほど」

 

 私の指の先には一本の木があった。

 その木のうろの中に、私達が探していた光がいた。

 今更だけど、私はどの精霊が誰か見分けがつく。いや目で判断しているわけじゃないんだけど、とにかく分かるのだ。

 

「ヨシ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃーい」

 

 私はヨスガをここまで案内した。だけど、あの光の子と仲直りできるかどうかはヨスガ次第だ。

 私は信じてヨスガをただ見守った。

 

 しばらくすると、うろの中から出てきた精霊と一緒に戻ってきた。

 仲直りできたっぽい? 

 

「仲直りできた?」

「ううん、喧嘩中」

「え?」

「とりあえず俺にぶつかりまくって鬱憤を晴らしていいってことで合意した」

「???」

 

 よく見ると精霊はヨスガにぶつかっては弾かれてまたぶつかっている。

 でも行動とは裏腹にもうそこまで悪感情は抱いてなさそうだったから、いいのかな? 多分いいか。お互い不満じゃなさそうだし

 

「そうだ、キッカ」

「何?」

「ありがとな、お前がいなかったらこいつとも会えなかった」

「……! ううん大丈夫だよ!」

 

 ヨスガにぶつかっていた精霊もヨスガに呼応するように明滅した。もちろんその間は動きを止めていた。

 

「それで、この後どうしよう。何かしたいこととかある?」

「あー、そうだな……」

 

 ヨスガは少し腕を組んで悩んだ後、こう言った。

 

「映えスポット、とかどうだ?」

「フフッ」

「おい待てなんで笑った」

「だってヨスガTwitterしかやってないのに映えスポットが出てくるなんて思わなくて」

「はー? インスタもアカウントは持っていますがー?」

「どうせ更新まともにしてないんでしょ?」

「うっせうっせ」

 

 その時、ヨスガにぶつかっていた精霊が私の元へやってきた。

 伝えたいことがあるみたいだ。ふむふむ。

 

「映えスポットっていうのはね、景色が綺麗な場所って意味……え? 良い場所を知ってる?」

 

 まさに渡りに船の耳よりな情報! 

 やっぱり人助けはするもんだね。

 

「ヨスガー映えスポットあるってー……ヨスガ?」

 

 ヨスガに教えようとしたら、ヨスガは何故か明後日の方向を向いていた。

 

「何? 何かあるの?」

「ああ、いや何でもない」

 

 怪しい。

 そう思ってヨスガの見てた方を見たけど、何もなかった。

 ふむ、本当に何もない? 限りなく怪しい……

 

「で、映えスポット見つかったのか?」

 

 んーまぁいいや、後で周りの精霊に根掘り葉掘り聞けばいいんだよ! 

 

「うん。この精霊が知ってるんだって」

「へー案内してくれるのか?」

 

 精霊がもちろんと言わんばかりに、移動し始めた。

 私達もその後に付いていく。

 なんか周りの精霊が付いてきてないのが気になるけど、大丈夫だよね? 

 

「ここに立て?」

「うーん一回そうしてみよっか」

 

 精霊はさっき自身が入っていた樹の根っこの上をくるくると回っている。

 私達はその根っこの上に立ってみる(私は浮いているから雰囲気だけ)と、精霊はスィーッと上に昇って行った。

 何をするんだろうと思っていたら……

 

 突然ヨスガが消えた。

 

「え?」

「うわ!」

 

 見ると私達が立っていた根っこが割れていた。ヨスガは地面が無くなって落ちていったのだ。私は浮かんでいたから助かったみたい。

 

「ヨスガ!」

 

 悩んでる暇はなかった。私もヨスガを追いかけて地面の下に勢いをつけて落ちていった。

 地面の下は何もなくてただ真っ暗闇に満たされている。これは単に地面の下まで描画するだけのリソースが私の夢になかったからである。

 そして私は眩い夕日に包まれた後、空に投げ出された。

 

「は? ナニコレどうなってるんだ!?」

 

 少し下の方にヨスガが見えた。やっと追いつけた。

 でもヨスガは混乱しているみたいだった(混乱しない人なんていないだろうけど)。

 私はさらに落下速度を上げてヨスガの近くに寄った。

 

「ゲームみたいに言うとY0座標を突破したから座標数値がオーバーフローした……みたいな!」

「そんなバカな!」

 

 ヨスガが絶叫した。だけど、言葉とは裏腹に顔を見ると案外楽しそうだ。

 理由はきっと簡単で、身体を包む空気の感覚、まぶしいくらいに照らす夕日、足元に広がる大森林、奥に見える学校、そのすべてが合わさって写真では言い表せないくらいの映えスポットになっていた。

 

 私達は次第に大の字の姿勢を取っていた。空気抵抗を受けやすい姿勢。きっと考えていることは同じだった。

 

「ねえ、ヨスガ!」

「なんだ!?」

「鳥! 鳥がいるよ!」

「は? 見えねえよ!」

「あそこだって!」

 

 浮遊の力を使って、ヨスガの肩を掴んで指をさした。

 

「……うわ、あんな下のところにいるんだけど!」

「だって空のてっぺんにいるんだもん!」

「……ところで着地ってどうすればいいんだ?」

「私は浮けるよ!」

「お、れ、の、話!!」

「地面すれすれで日本に帰ればいいんだよ!」

「いや、お前、それだとデートが」

 

 ヨスガが顔を伏せた。

 私はそれを掴み上げた。

 

「いいの!! よくないけどいいの!! だってヨスガ、こんな景色他に見られる!? こんな体験他にできる!?」

 

 夕日が、空が、私達を祝福していた。

 

「できるわけないだろ!」

「なら一緒に楽しもうよ! 一生に一回だけの最高の紐なしバンジーを!!」

「怖いからフリーフォールって言ってくれ!!」

 

 ヨスガの顔から手を放す。自由になった手で今度はヨスガの手を握った。

 ヨスガもそれを拒むことはせず、握り返した。

 

「キッカの手、あったかいんだな」

「こんな時に言うセリフ?」

 

 あまりにも場違いな言葉に思わず笑ってしまった。

 私は意地悪するように聞き返した。

 ヨスガは一瞬だけバツの悪い顔をした

 

「違……くない。そうだよ! お前の手ぇ温かいよ!!」

「どうしたの、急に!」

 

 

「だからさ、お前生きてるよ!」

 

 

 目を見開いた。

 まぶしくなって目を閉じそうになる。

 

「お前と話して、過ごして、確信した! キッカはやっぱり菊花だ! 何も変わってない!」

「でも私足ないし、浮いてるよ?」

 

 思わず緩んだ手をヨスガは強く握り返した。

 

「浮いてるからなんだよ! 俺なんてずっと教室で浮いてただろ!!」

「フフッ確かに」

「俺はずっと孤独で、でもお前は俺に話しかけた! 話しかけてくれた! すげーし、頼りにしてる!」

 

 ヨスガは一呼吸して、身体を割いてく風に負けないように叫ぶ。

 

「お前は頼りになる菊花本人だ!! 間違いない!!!」

 

 その言葉はどこまでも、私の奥深くに突きこまれた。

 手が震えそうになる。目の端が滲んだ。でもそれを気づかれないように声を上げる。

 

「そんなの私がいっちばん分かってるよ!」

「……!」

 

 ヨスガの目が泳いだ。きっと謝罪の言葉を探してる。でもそれを私は待ちたくない。

 

「でも、ヨスガに最初に言ってもらえてうれしかった! ありがとう!」

「……キッカ!」

 

 深く息を吸って、吐く。

 空気が少し吸いやすくなった気がした。

 もう地上までかなり近くなっていた。

 

「キッカ、楽しかったか? 今日のデート」

「もちろん、ヨスガも楽しかった?」

「当たり前だ」

 

 私は頭を下に、身体を縦にゆっくりと倒す。

 ヨスガも追いていかれないように身体を倒していく。

 

「最初のデートでさいっこうのデートだったね」

「何言ってんだ、ディズニーも行ってないのに」

「知ってた? 初デートでディズニーは失敗するんだよ?」

 

 ドンドンと、森の木が近くなっている。

 もうすぐ激突するけど、お別れを言う時間くらいはあると思う。

 

「ヨスガ、じゃあ」「キッカ! 死ぬなよ!」

 

 ヨスガが私の手を振り払った。

 少しずつヨスガとの距離が遠くなっていく、でもヨスガはずっと笑ってた。

 

「俺が絶対助け出すから!」

 

 そう言ってヨスガは樹に激突する直前に消えた。

 

 私は浮遊することもできないまま、墜落した。

 何本も枝を巻き込んで、地面を砕いた。

 周囲から心配するように精霊が集まってきた。

 痛みのない身体を起こして、呟いた。

 

「お別れ言えなかったじゃん、馬鹿」

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 日本に戻ってきた。

 直前までの浮遊感とスピード感が消えて倒れそうになったが、隣にあった肩を掴んで持ち直した。

 

「金森、いつから見てた?」

 

 金森もあの世界にいた。

 俺が気づいたのは落下する直前。偶然、人影が見えたからもしやと思った。

 

「すみません……心配で、学校から出てきたあたりから」

 

 俺は立ち上がって金森に手を差し出した。

 

「いい。っていうか謝るのはこっちの方だ」

「それはどういう……」

 

 金森が立ち上がったのを確認したところで、俺は頭を下げた。腰を折って丁寧に謝る。大学生になってから……もしかしたら高校生のときからしたことがなかった謝り方。

 

「ヨスガくん!?」

「昼間は悪かった。俺は俺のことしか考えてなかった」

 

 菊花のためだなんて口では言って、俺が助けることしか考えてなかった。

 だから学校エリアで金森と菊花が話しているのをみてイライラしたんだ。

 俺は、傲慢だった。

 ただそれだけによって俺は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。

 

「最期まで一緒にいるって言ったけど、絶対キッカは一人で事を終わらせる気だ」

 

 約束をしたとき、キッカはこう言っていた。

『最後まで一緒にいる』

『……私も、一緒にいる』

 態々最後までと言っていなかったことを俺は覚えいる。

 

「菊花を助けるためには俺一人じゃ力が足りない。虫が良い話なのは分かってる力を貸してくれ」

 

 長い沈黙が訪れた。

 ジーッという虫の音が耳を突く。

 最高気温をたたき出した熱帯夜はサウナというより刑罰に近かった。

 いや、これは刑罰じゃない。ただ判決を待っているだけ、それにすら俺は慣れていなかった。

 

「ヨスガくん」

「なんだ?」

「まず、頭を下げただけで許してもらうって都合がよすぎだと思います」

「……そうだよな」

 

 虫が良いのはどこかで分かってた。

 だから俺は諦めて立ち去ることにした……

 

「だから、三本です」

「なんだって?」

「僕と、キミと、菊花さんの分、ジュース奢ってください」

「……いいのか?」

「良いも何も、僕だって菊花さんを助けたいんです。むしろ手伝わせてください」

「ありがとう……」

「それで、上からの物言いになってしまうんですが……あるんですか? 救出の方法。私に思いつかなかったんですが」

「ないことはない」

 

 部室で見つけたノート。

 世界を作るための依り代。

 この世界から消えたから捧げられたと勘違いしただけで、実は異世界には残っているんじゃないか? 

 

「そこにキッカの魂が残っているかもしれない」

 

 そして依り代に検討は付いている。

 

『それに! 私の家にはゲーム機があるんだよ!』

 

 森エリアは(学校エリアとの出入口である扉を除いて)その世界観に沿うものだけで構成されていた。

 だから、現代的なゲーム機の名前が出てきた時はひどい違和感を覚えた。

 あの時は異世界だしそういうものかと思っていたが、依り代というものを知った今、そのゲーム機がキッカの家にあるという状況はかなり怪しい。

 

「博打もいいとこですね、それ。本当にゲーム機が依り代なのか、そもそも魂を見つけたところでどうすればいいのか」

「そうだな」

 

 でも、そうだとしても……

 

「賭けるだろ?」

「当然です」

「決まりだな」

 

 俺たちは、世界が終わっても、キッカを救う。

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