『無職転生 if ― もしシルフィが嫉妬したら ―』   作:takuya丸

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ルーデウスがオルステッドの配下になったばかりの頃。

本編ではルーデウス視点が中心なので、その時、シルフィや周囲の人間がオルステッドをどう感じていたのかをもっと見てみたいと思い、シルフィsideを書いてみました。

オルステッドは世界最強クラスの存在です。

そんな相手を前にして、シルフィがすんなり受け入れられるとは思えない。

「怖い」「逃げたい」と思いながら、それでもルーデウスについていく。

そんなシルフィを描いてみました。


オルステッドの配下ーーシルフィside

オルステッドの配下ーーシルフィside

 

 オルステッドが去った。

 

 それだけなのに、シルフィはしばらく動けなかった。

 

「…………」

 

 身体から力が抜けている。

 

 座り込みたい。

 

 今すぐ、この場から離れたい。

 

 できれば、あの男が向かった方向とは反対へ。

 

 どこでもいい。

 

 遠くへ。

 

 遠くへ逃げたい。

 

 そんな考えが、頭から離れなかった。

 

 オルステッド。

 

 龍神。

 

 この世界で、最強の一角にいる男。

 

 

 強いという話もルディから聞いていた。

 

 でも。

 

 シルフィが感じている恐怖は、そんな知識から生まれたものではなかった。

 

 見た瞬間に、身体が理解してしまった。

 

 ――あれは駄目だ。

 

 ――近づいてはいけない。

 

 ――逃げなければならない。

 

 頭で考えるより先に、そう感じた。

 

「シルフィ?」

 

 ルーデウスがこちらを見る。

 

「大丈夫?」

 

「……うん」

 

 反射的に答えた。

 

 けれど。

 

 大丈夫なわけがなかった。

 

 シルフィはルーデウスの顔を見る。

 

 ルディは疲れている。

 

 当然だ。

 

 あれほどの相手と戦闘をしていたのだから。

 

 それでも、どこか冷静だった。

 

 まるで、もう受け入れているように見えた。

 

「……ルディ」

 

「ん?」

 

「本当に、あの人の配下になるの?」

 

「うん」

 

 迷いのない返事だった。

 

「……ずっと?」

 

「たぶん、そうなる」

 

「…………」

 

 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。

 

「やめようよ」

 

「え?」

 

 言ってから、自分でも驚いた。

 

 こんなことを言うつもりではなかった。

 

「……いや」

 

 一度、口を閉じる。

 

 けれど、止まらなかった。

 

「やめよう、ルディ」

 

「シルフィ?」

 

「オルステッドから離れよう」

 

 ルーデウスが黙った。

 

「ボクたちだけじゃなくて、みんなで」

 

「…………」

 

「ルーシーも、ロキシーも、ノルンちゃんも、アイシャちゃんも、……エリスさんも」

 

 考えれば考えるほど、言葉が出てくる。

 

「みんなで遠くに行こうよ」

 

「シルフィ」

 

「シャリーアから出てもいい。もっと遠くでもいい。どこかに隠れて暮らせばいい」

 

 声が震える。

 

「ルディはもう十分頑張ったじゃん」

 

「…………」

 

「家族がいるんだから。みんなで暮らせる場所を探そうよ」

 

 ルーデウスは何も言わない。

 

 それが怖かった。

 

「ねえ、ルディ」

 

「うん」

 

「逃げよう?」

 

 自分でも情けないと思う。

 

 けれど、本当にそう思った。

 

 今ならまだ間に合う。

 

 今なら。

 

 オルステッドが去ったばかり。

 

 なら。

 

 逃げればいい。

 

 戦わなければいい。

 

 関わらなければいい。

 

 それで済むなら、それが一番いい。

 

「……無理だ」

 

 ルーデウスは静かに言った。

 

「どうして?」

 

「さっきも、オルステッドが言ってただろ」

 

「逃げても、追いつかれる」

 

「でも、世界は広いよ」

 

「シルフィ」

 

 ルーデウスはこちらを見た。

 

「オルステッドから逃げ切れる場所なんて、この世界にはない」

 

「…………」

 

「俺たちがどこに逃げたって、あいつなら見つけられる」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 シルフィの中で、何かが冷たくなった。

 

「……そんなの」

 

「うん」

 

「そんなの、やってみなきゃわからないよ」

 

「わかる」

 

 ルーデウスの声は、優しかった。

 

 だから余計に嫌だった。

 

「俺は、あいつから逃げることがどういうことになるのか知ってる」

 

「……」

 

「逃げるだけじゃ、家族は守れない」

 

 シルフィは俯いた。

 

 わかっている。

 

 ルディが何も考えずに配下になったわけではない。

 

 それくらい、わかっている。

 

 でも。

 

「……怖い」

 

 声が漏れた。

 

「うん」

 

「すごく怖い」

 

「うん」

 

「オルステッドが、怖い」

 

「……うん」

 

「ルディが、あの人の命令でどこかに行っちゃうのも嫌」

 

「うん」

 

「いつか、あの人に何かされて……ルディが傷つくのも嫌」

 

「……うん」

 

 ルーデウスは否定しない。

 

 それが少しだけ救いだった。

 

 でも。

 

「それでも、逃げられない」

 

「……そうだね」

 

 シルフィは顔を上げた。

 

 ルーデウスの顔を見る。

 

 その顔には、諦めがあるわけではなかった。

 

 覚悟だった。

 

 それが、シルフィには怖かった。

 

 自分には見えていないものを、ルーデウスだけが見ているような気がした。

 

「……ルディは」

 

「うん?」

 

「あの人を、信じてるの?」

 

「……信じてる、とは違うかな」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「俺たちが生き残るために必要だから」

 

「…………」

 

 その答えが、嫌だった。

 

 オルステッドを好きだからでもない。

 

 尊敬しているからでもない。

 

 ただ必要だから。

 

 そんな理由で、あの男の隣に立つ。

 

 それがシルフィには理解できなかった。

 

 怖いものは、怖い。

 

 危険なものは、危険だ。

 

 それなのに、ルーデウスはそこへ進んでいく。

 

「……ボクは」

 

 シルフィはルーデウスの服を掴んだ。

 

「ボクは、ルディについていくよ」

 

「うん」

 

「でも……」

 

 言葉が詰まる。

 

「オルステッドのことは、まだ無理」

 

「……うん」

 

「怖いって思う」

 

「それでいいよ」

 

 その言葉を聞いて、少しだけ涙が出そうになった。

 

 ルディは、自分に「怖がるな」と言わなかった。

 

 信じろとも言わなかった。

 

 ただ、自分が怖がっていることを、そのまま受け止めた。

 

 シルフィは、もう一度ルーデウスの手を握った。

 

 怖い。

 

 今でも怖い。

 

 できることなら、みんなで逃げたい。

 

 オルステッドなんて知らない場所へ行って、家族だけで暮らしたい。

 

 それが本音だった。

 

 でも。

 

 逃げられないのなら。

 

 せめて。

 

 ルディの隣にいるしかない。

 

 怖いものを怖いと思ったまま。

 

 オルステッドを信じられないまま。

 

 それでも、ルディを一人にはしない。

 

 それが、この時のシルフィにできる精一杯だった。




今回は、ルーデウスがオルステッドの配下になった直後のシルフィが、実際にはどんな恐怖を感じていたのかを想像して書いてみました。

「ルディが信じているから、自分も大丈夫」

そんな簡単なものではなく、頭では理解していても、身体が本能的に「あの人は怖い」と拒絶してしまう。

それでも、ルディから離れることは選ばない。

このあたりを意識してみました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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