『無職転生 if ― もしシルフィが嫉妬したら ―』 作:takuya丸
今回は、そんなシルフィの相談相手としてアリエルを絡めた話です。
シルフィ自身はロキシーを嫌いになったわけでも、追い出したいわけでもない。
ただ、ルーデウスを誰にも取られたくない。
そんな気持ちを抱えたシルフィに、アリエルが少しずつ「自分の幸せを優先してもいい」と背中を押していったら……という妄想です。
優しいシルフィが、少しずつ「悪い子」になっていくところを楽しんでもらえたら嬉しいです。
共犯者
「……ボク、もう少し我慢した方がいいのかな」
アリエルの私室。
シルフィは紅茶に手を伸ばしたものの、口をつけることなくカップを見つめていた。
「どうしてです?」
「だって……ロキシーも悪くないから」
「ええ」
アリエルはあっさり頷いた。
「ロキシーさんは悪くないでしょうね」
「…………」
「では、シルフィも悪くないのでは?」
「え?」
「ルーデウス様を誰かに取られたくないと思うことが、どうして悪いのです?」
「でも……ボクは、ロキシーを追い出したいわけじゃない」
「なら、追い出さなければいいでしょう」
「……え?」
アリエルは微笑んだ。
「ロキシーさんを悪者にする必要はありません」
「…………」
「ただ、ルーデウス様に誰と一緒にいたいのか考えてもらえばいい」
「そんなこと……」
「できますよ」
「ボクには無理だよ」
「シルフィ」
アリエルの声が少しだけ低くなる。
「あなたは、ずっと我慢してきたでしょう?」
「…………」
「ルーデウス様のためなら何でも受け入れる。ロキシーさんが妻になることも、自分が傷つくことも」
「……だって、ルディが幸せなら」
「それです」
アリエルは苦笑した。
「その考え方が、私は少し嫌いです」
「アリエル様……」
「あなた自身の幸せは、どこにあるのです?」
シルフィは答えられなかった。
「ルーデウス様が幸せなら、それでいい」
「それだけでは駄目です」
「…………」
「シルフィも幸せになっていいんですよ」
しばらく沈黙が続いた。
「……じゃあ、どうすればいいの?」
その問いに。
アリエルは少しだけ楽しそうに笑った。
「そうですね」
それから、いくつかの方法を口にした。
直接ロキシーを悪者にする必要はない。
誰かに嘘を吹き込む必要もない。
ただ、ほんの少し。
ロキシーに対する印象を揺らして、少しずつ周りからの評価をさげる。
シルフィ自身が傷ついていることを、ルーデウスに見せる。
ノルンにも、何かを手伝ってもらうのではなく、それとなく自分で考えさせて誘導する。
そして、ルーデウス自身に結論を出させる。
「……そんなことして、大丈夫かな」
「大丈夫でしょう」
「本当に?」
「ええ」
アリエルは紅茶を一口飲んだ。
「だって、嘘はついていませんもの」
「…………」
「シルフィは、本当にルーデウス様が好きなのでしょう?」
「うん」
「本当に、ロキシーさんに嫉妬して傷つけられているのでしょう?」
「……うん」
「なら、それを隠す必要はありません」
「…………」
シルフィは俯いた。
自分の中にあった罪悪感が、少しずつ薄れていく。
それが良いことなのか、悪いことなのか。
まだ分からない。
「……ボク、嫌な人になっちゃうかな」
「さあ?」
アリエルは笑った。
「でも」
立ち上がり、シルフィの隣まで歩いてくる。
「少しくらい、嫌な人になってもいいのでは?」
「え?」
「完璧な妻でいる必要なんてありません」
「…………」
「嫉妬したっていい。怒ったっていい。ルーデウス様を独占したいと思ったっていい」
シルフィは小さく息を呑んだ。
「それが、人間というものでしょう?」
「……アリエル様」
「はい?」
「ボク、怖いよ」
「何がです?」
「これをやったら……本当に戻れなくなる気がする」
アリエルは少しだけ考えた。
「そうかもしれませんね」
「…………」
「でも、シルフィ」
アリエルは優しく微笑む。
「私はあなたの味方ですよ」
その言葉に、シルフィの目が少し潤んだ。
「……ありがとう」
「ふふ」
アリエルはシルフィの頭を撫でる。
「それに」
「?」
「私も、こういう話は嫌いではありません」
「……え?」
「王宮で人の心を読むより、ずっと面白いですから」
「アリエル様……」
「冗談ですよ」
そう言って笑う。
けれど、その目は少し楽しそうだった。
――それから数日後。
「……アリエル様」
「はい?」
「ボク、またロキシーさんのことを考えてたら、嫌なことを思いついちゃった」
「どんなことです?」
「……これをこうしたら、ルディがこう考えるんじゃないかなって」
アリエルは一瞬だけ目を丸くした。
そして。
「まあ」
嬉しそうに笑った。
「ずいぶん悪い子になりましたね、シルフィ」
「……やっぱり?」
「ええ」
「…………」
シルフィがしょんぼりする。
アリエルはそんな親友を見て、くすりと笑った。
「でも、嫌いではありませんよ」
「……本当に?」
「もちろん」
そして二人は、また小さな声で話し始めた。
誰にも聞かれないように。
二人は、一歩ずつ「共犯者」になっていった。
今回は、少し黒いシルフィを書いてみました。
ロキシーを直接追い出すわけじゃないけど、ルディの気持ちを少しずつ自分に向けさせようとする。
そんなシルフィと、それを楽しそうに手伝うアリエル。
この二人、意外と相性いいんじゃないかなと思います。
「共犯者」になった二人が、この先どんなことを考え始めるのか……自分でもちょっと見てみたいです。