『無職転生 if ― もしシルフィが嫉妬したら ―』   作:takuya丸

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今回は、前回の「積もる――シルフィエットside」と対になる、ルーデウスsideのお話です。

同じ出来事でも、立場が変われば見えるものも変わる。

シルフィの中では、ナナホシへの嫉妬や寂しさが少しずつ積もっていた。

けれど、ルーデウスはそれに気づいていない。

むしろルーデウス自身は、家族を大切にしたいと思っていて、シルフィのことを心配している。

それなのに、なぜか二人の間には少しずつ距離ができていく。

今回は、そんな**「気づいているのに、何が起きているのか分からないルーデウス」**の視点から書いてみました。

シルフィsideでは描かれなかった、ルーデウスの知らないところで積もっていくもの。

そして、二人の「積もる」がどこですれ違っていたのか。

そんなところを意識して読んでもらえればと思います。

※本編とは異なる展開を描いた、個人的なif妄想SSです。


積もる――ルーデウスside

無職転生――ルーデウスside

 

『積もる』

 

 最近、シルフィが少し変だ。

 

 そう思い始めたのは、いつ頃だっただろう。

 

「ただいま」

 

「おかえり、ルディ」

 

 いつも通り。

 

 笑ってくれる。

 

 いつもと変わらない。

 

 だから最初は、気のせいだと思っていた。

 

 子どもたちも大きくなってきたし、家のこともある。

 

 疲れているだけなのかもしれない。

 

「今日はどうだった?」

 

「いつも通りだよ」

 

「そっか」

 

 シルフィは笑う。

 

 でも。

 

 なんとなく、その笑顔が少しだけ遠く感じる。

 

 昔なら、もっと自然に話してくれていた気がする。

 

 ……いや。

 

 俺がそう思っているだけかもしれない。

 

 家族になって、長い時間が経った。

 

 毎日一緒にいるからこそ、変化には気づきにくいのかもしれない。

 

 そう考えていた。

 

 あの日までは。

 

⸻

 

「ルディ、またナナホシのところに行くの?」

 

「ああ。研究のことで聞きたいことがあるんだって」

 

「そっか。いってらっしゃい」

 

「ありがとう、シルフィ」

 

 いつもの会話。

 

 いつもの朝。

 

 なのに。

 

 シルフィが笑ったあと、一瞬だけ目を伏せた。

 

「……?」

 

 気になった。

 

「どうした?」

 

「え?」

 

「いや。なんでもないよ」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 シルフィはまた笑った。

 

 だから俺も、それ以上は聞かなかった。

 

 聞けばよかったのかもしれない。

 

 でも、その時の俺には分からなかった。

 

 シルフィが何を隠しているのか。

 

⸻

 

 ナナホシのところへ向かう途中。

 

 ふと、シルフィの顔が頭に浮かんだ。

 

 最近、少し元気がない。

 

 ちゃんと休めているだろうか。

 

 帰ったら聞いてみよう。

 

 そう思った。

 

 ナナホシとの話が終わったら、なるべく早く帰ろう。

 

 夕食は一緒に食べたい。

 

 最近は子どもたちと過ごす時間も減っている。

 

 もっと家族との時間を大切にしないとな。

 

 そんなことを考えながら歩いていた。

 

 俺は知らなかった。

 

 その頃シルフィが、

 

 俺とはまったく違うことを考えていたなんて。

 

⸻

 

 ナナホシの研究の相談は、思ったより長引いた。

 

「……もうこんな時間か」

 

「遅くなっちゃったわね」

 

「いや、大丈夫さ。気にするな」

 

「そうね。感謝するわ」

 

 

「ねぇ、……ルーデウス」

 

「ん?」

 

「最近、家のほうはどう?」

 

「家?」

 

「シルフィとか」

 

「……」

 

 少し考える。

 

「元気だと思う」

 

「本当に?」

 

「え?」

 

「いや……」

 

 ナナホシが少し迷うように言った。

 

「最近、シルフィ。私と話すとき、少し変じゃない?」

 

「そうか?」

 

「私の気のせいならいいんだけど」

 

 俺は考えた。

 

 確かに。

 

 最近のシルフィは、ナナホシと話すとき少し静かかもしれない。

 

 でも。

 

「シルフィは優しいからな」

 

「……そうね」

 

「ナナホシのことを嫌ってるとか、そういうのは絶対ないと思う」

 

「私も、そう思ってる」

 

 ナナホシは少しだけ笑った。

 

 俺も笑った。

 

 それで話は終わった。

 

 ……終わったと思っていた。

 

⸻

 

 家に帰る。

 

「ただいま」

 

「おかえり、ルディ」

 

 シルフィが迎えてくれる。

 

 やっぱり笑っている。

 

「遅くなってごめん」

 

「ううん。大丈夫だよ」

 

「シルフィ」

 

「なに?」

 

「最近、疲れてないか?」

 

 一瞬。

 

 本当に一瞬だけ。

 

 シルフィの表情が止まった。

 

「……どうして?」

 

「いや。なんとなく」

 

「大丈夫だよ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 そして、いつもの笑顔。

 

「ルディこそ、疲れてるんじゃない?」

 

「俺は大丈夫」

 

「ふふ。ならよかった」

 

 シルフィはそう言って、俺の手を取った。

 

 温かかった。

 

 いつものシルフィだった。

 

 だから俺は、それ以上聞かなかった。

 

⸻

 

 夜。

 

 シルフィは隣で眠っている。

 

 俺は天井を見ていた。

 

 やっぱり、何かがおかしい。

 

 何かを抱えている。

 

 でも、それが何なのか分からない。

 

 俺はシルフィに、もっと頼ってほしいと思っている。

 

 家族のことでも。

 

 俺自身のことでも。

 

 何かあれば言ってほしい。

 

 俺にできることなら、何でもしたい。

 

 ……なのに。

 

 どうして言ってくれないんだろう。

 

「シルフィ……」

 

 小さく呟く。

 

 返事はない。

 

 眠っている。

 

 俺は手を伸ばして、その髪に触れた。

 

 昔と変わらない。

 

 俺が一番大切にしたい人。

 

 なのに。

 

 最近、少しだけ遠く感じる。

 

⸻

 

 翌朝。

 

「シルフィ」

 

「なに?」

 

「今日、ナナホシのところに行ってくる」

 

「……うん」

 

「研究のことで相談があるんだ」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 シルフィが笑う。

 

 俺も笑う。

 

 そして、家を出た。

 

 扉が閉まる。

 

 歩きながら、ふと思った。

 

 ……やっぱり。

 

 何かがおかしい。

 

 でも、俺には分からない。

 

 シルフィが何を考えているのか。

 

 何を怖がっているのか。

 

 何を我慢しているのか。

 

 分からない。

 

 ただ一つだけ分かることがある。

 

 俺は、シルフィに笑っていてほしい。

 

 無理をして笑ってほしいんじゃない。

 

 本当に笑っていてほしい。

 

 だから。

 

「……帰ったら、ちゃんと話してみるか」

 

 そう呟いた。

 

 その時の俺はまだ知らなかった。

 

 俺が「ちゃんと話そう」と思ったその頃には。

 

 シルフィの中には、もう長い時間をかけて積もったものがあったことを。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、前回の「積もる――シルフィエットside」と同じ時間を、ルーデウス側から描いてみました。

シルフィsideでは、

「またナナホシ」
「どうしてボクじゃないの?」
「ボクだって、ルディに必要とされたい」

そんな感情が少しずつ積もっていました。

一方で、ルーデウスはというと。

シルフィを大切に思っている。
家族との時間も大切にしたい。
シルフィが疲れていないか心配している。

それなのに、シルフィが何を抱えているのかには気づけない。

ここが今回、一番書きたかったところです。

ルーデウスからすると、

「シルフィはいつも笑っている」
「大丈夫だと言っている」
「だから、大丈夫なんだろう」

となってしまう。

でも、その「大丈夫」の裏側では、シルフィの中にいろいろなものが積もっている。

どちらも相手を大切に思っているのに、肝心なところですれ違ってしまう。

そんな二人を書いてみました。

そして最後の、

「帰ったら、ちゃんと話してみるか」

というルーデウスの言葉。

ルーデウスはようやくシルフィの変化に気づき始めています。

ただ、その時にはもう、シルフィの中には長い時間をかけて積もったものがある。

ここから二人がどう向き合うのか。

その先もまた、妄想してみたいと思います。
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