『無職転生 if ― もしシルフィが嫉妬したら ―』   作:takuya丸

6 / 14
今回は、ノルンsideのお話です。

真面目で優しいけれど、自分の思ったことを比較的ストレートに口にしてしまうノルン。

そんなノルンだからこそ、シルフィの抱えているものを知ったらどうするんだろう。

空気を読んで黙っているというより、思ったことをそのままぶつけてしまう。

そんな、ある意味で真っ直ぐなノルンの視点を書いてみたくて、作ってみました。

※本編とは異なる展開を描いた、個人的なif妄想SSです。


言ってしまう――ノルンside

無職転生――ノルンside

 

『言ってしまう』

 

 私は、ミリス教徒だ。

 だから、一夫多妻をあまり良く思っていない。

 

 今でも。

 

 ロキシー姉さんが、兄さんの第二夫人になった時も最初は、大反対した。

 

 もちろん、今はロキシー姉さんのことが嫌いなわけじゃない。

 

 エリス姉さんだって、もう家族だと思っている。

 

 でも。

 

 やっぱり。

 

 シルフィ姉さんが、一番兄さんのことを支えていると思う。

 

 家のこと。

 

 子どもたちのこと。

 

 兄さんのこと。

 

 いつも笑って。

 

 いつも優しくて。

 

 何でも受け入れて。

 

 だから私は。

 

 シルフィ姉さんは、幸せなんだと思っていた。

 

 ――あの日までは。

 

⸻

 

 廊下を歩いていると、シルフィ姉さんの声が聞こえた。

 

「……ナナホシが来るんだね」

 

「ああ。研究の相談があるみたいなんだ」

 

 兄さんが答える。

 

「そっか」

 

 いつもの声。

 

 いつもの笑顔。

 

 私はそのまま通り過ぎようとした。

 

 でも。

 

 なぜか足が止まった。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 兄さんが歩いていく。

 

 シルフィ姉さんは、その背中を見送っていた。

 

 笑っている。

 

 だけど。

 

 その笑顔が。

 

 なんとなく寂しそうに見えた。

 

⸻

 

「シルフィ姉さん」

 

「ん?」

 

「……兄さんのこと、好きなんですよね?」

 

「え?」

 

 シルフィ姉さんが目を丸くする。

 

「何、急に?」

 

「いや……」

 

 私は少し迷った。

 

 でも。

 

 聞いてしまった。

 

「他の人とも結婚してるの、嫌じゃないんですか?」

 

 シルフィ姉さんの笑顔が、一瞬だけ止まった。

 

「……どうして?」

 

「だって」

 

 私は言った。

 

「私だったら嫌だから」

 

「……」

 

「ロキシー姉さんが第二夫人になった時も、私、嫌だったし」

 

「うん」

 

「今はもう、ロキシー姉さんのことも好きですが」

 

「うん」

 

「エリス姉さんも好きです」

 

「うん」

 

「でも……」

 

 私はシルフィ姉さんを見る。

 

「やっぱり、シルフィ姉さんが一番の兄さんの奥さんなんですよね?」

 

「……そうだね」

 

「じゃあ」

 

 私は聞いた。

 

「なんで、そんなに我慢できるんですか?」

 

「……」

 

 シルフィ姉さんは、少しだけ笑った。

 

「我慢なんてしてないよ」

 

「嘘です」

 

 言ってしまった。

 

「……え?」

 

「だって、シルフィ姉さん、最近ちょっと変です」

 

「そうかな?」

 

「はい」

 

「ノルンちゃんには分からないよ」

 

「分かります」

 

 私は自分でも驚くほど強く言った。

 

「私、そういうの分かります」

 

 シルフィ姉さんが黙る。

 

「ロキシー姉さんが、兄さんによく相談されてること」

 

「……」

 

「それにナナホシさんも」

 

 シルフィ姉さんの表情が変わった。

 

「……ナナホシ?」

 

「はい」

 

「なんで?」

 

「だって、兄さん、ナナホシさんのことになるとすぐ心配するじゃないですか」

 

「……」

 

「研究の手伝いでよく一緒にいるし」

 

「……」

 

「病気になった時なんて、あんなに必死になって助けようとしてたし」

 

「ノルンちゃん」

 

 シルフィ姉さんが、小さな声で私の名前を呼んだ。

 

「もういいよ」

 

「……」

 

「その話は」

 

「でも――」

 

「もう、いいんだよ」

 

 笑っている。

 

 なのに。

 

 目には涙が溜まっていた。

 

⸻

 

「……シルフィ姉さん」

 

「大丈夫だから」

 

「でも」

 

「大丈夫」

 

「……本当に?」

 

「うん」

 

 少し間があった。

 

「ボクは、ルディが好きだから」

 

「……」

 

「ルディが幸せなら、それでいいんだよ」

 

「でも」

 

 私は言った。

 

「シルフィ姉さんが幸せじゃなかったら、意味ないじゃないですか」

 

 シルフィ姉さんが、何も言わなくなった。

 

「……ボクは」

 

 しばらくして。

 

「ボクは、ルディには迷惑かけたくないんだよ」

 

「迷惑?」

 

「うん」

 

「どうして?」

 

「だって……」

 

 シルフィ姉さんは俯いた。

 

「ルディは、みんなのことを大切にしてるから」

 

「……」

 

「ナナホシも」

 

「ロキシーも」

 

「エリスも」

 

「子どもたちも」

 

「だから……」

 

 涙が落ちた。

 

「ボクが嫉妬してるなんて知ったら、きっと困るでしょ?」

 

 私は何も言えなかった。

 

「だから、言わなくていいよ」

 

「ずっと?」

 

「うん」

 

「これからも?」

 

「……うん」

 

 私は、胸が苦しくなった。

 

「そんなの……」

 

 思わず声が出た。

 

「そんなの、ずるいです」

 

「え?」

 

「シルフィ姉さんばっかり我慢するなんて」

 

「……」

 

「兄さんだって知らないんですよね?」

 

「うん」

 

「じゃあ、兄さんはずっと知らないままじゃないですか」

 

「……それでいいんだよ」

 

「よくないです」

 

 シルフィ姉さんが顔を上げた。

 

「ノルンちゃん……」

 

「だって」

 

 私は思ったことを、そのまま口にした。

 

「お兄ちゃん、シルフィ姉さんにもっと相談すればいいのに」

 

「……」

 

「ロキシー姉さんには相談するのに」

 

「……」

 

「ナナホシ姉さんには相談するのに」

 

「……」

 

「どうしてシルフィ姉さんには相談しないんですか?」

 

 シルフィ姉さんは答えなかった。

 

「家族なのに」

 

「……」

 

「奥さんなのに」

 

「……」

 

「一番そばにいるのに」

 

 シルフィ姉さんの目から、また涙が落ちた。

 

⸻

 

 私は、その時。

 

 言ってはいけないことを言った気がした。

 

 でも。

 

 止まらなかった。

 

「私だったら……」

 

「うん?」

 

「私だったら、ナナホシさんが嫌いになると思います」

 

「……」

 

「兄さんがあんなに大切にしてたら」

 

「……」

 

「私だったら、絶対嫌です」

 

「……ノルンちゃん」

 

「だから、シルフィ姉さんがそう思うのも普通だと思います」

 

「……」

 

「別に、悪いことじゃないです」

 

 シルフィ姉さんは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……ボクも」

 

 小さな声。

 

「そう思えたら、楽だったのかもしれないね」

 

「え?」

 

「ナナホシが嫌いなら」

 

 シルフィ姉さんは、涙を拭った。

 

「全部ナナホシのせいにできるから」

 

「……」

 

「でも、ナナホシは悪くない」

 

「ルディも悪くない」

 

「ロキシーも」

 

「エリスも」

 

「子どもたちも」

 

「誰も悪くない」

 

 そして。

 

「だから、ボクだけが悪いみたいに思えてくるんだ」

 

「……」

 

「この気持ちを持ってるのは、ボクだから」

 

⸻

 

 私は、何も言えなかった。

 

 シルフィ姉さんは、いつものように笑った。

 

「ありがとう、ノルンちゃん」

 

「……何がですか?」

 

「ボクのこと、心配してくれて」

 

「……」

 

「でも、この話は誰にも言わないでね」

 

「分かりました」

 

 私は頷いた。

 

 ――その時は。

 

 本当に、そのつもりだった。

 

⸻

 

 その日の夕食。

 

 全員が集まっていた。

 

 兄さん。

 

 シルフィ姉さん。

 

 ロキシー姉さん。

 

 エリス姉さん。

 

 子どもたち。

 

 そして、私。

 

 いつも通りの食卓。

 

「今日はナナホシが来てさ」

 

 お兄ちゃんが話し始める。

 

「研究がかなり進んだらしいんだ」

 

「へえ」

 

 ロキシー姉さんが答える。

 

「よかったですね」

 

「うん」

 

 シルフィ姉さんも笑っている。

 

「よかったね、ルディ」

 

 その瞬間。

 

 私は思ってしまった。

 

 昼間のことを。

 

 シルフィ姉さんの涙。

 

 我慢していること。

 

 そして。

 

 兄さんが何も知らないこと。

 

 私は口を開いた。

 

「兄さん」

 

「ん?」

 

「シルフィ姉さんにも、もっと相談したらいいんじゃないですか?」

 

「……え?」

 

 食卓が静かになった。

 

 シルフィ姉さんが私を見る。

 

 目が大きく開いている。

 

「あ」

 

 私は気づいた。

 

 言っちゃった。

 

「いや……その……」

 

 取り繕おうとする。

 

 でも。

 

 もう遅かった。

 

 兄さんがシルフィ姉さんを見る。

 

「……シルフィ?」

 

「……」

 

「何か、俺に相談してほしいことがあるのか?」

 

 シルフィ姉さんは笑った。

 

「ううん」

 

「そう?」

 

「何でもないよ」

 

 そう言って。

 

 いつものように笑った。

 

 でも。

 

 私は知ってしまった。

 

 その笑顔の奥に。

 

 何があるのかを。

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、ノルンの「真面目で優しいけれど、思ったことをストレートに言ってしまうところ」を書いてみたくて作りました。

シルフィの気持ちを知ってしまったら、ノルンはどうするんだろう。

きっと、黙って見ていることはできないんじゃないかなと思っています。

そして、言うつもりはなかったのに、夕食の席でつい口に出してしまう。

「……言っちゃった」

みたいなノルンを書きたかったです。

シルフィからすれば、「言わないでね」とお願いした相手に、まさかその日のうちに言われるとは思わないですよね。

今回はそんな、ちょっと不器用だけど真っ直ぐなノルンのお話でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。