『無職転生 if ― もしシルフィが嫉妬したら ―』   作:takuya丸

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今回は、ナナホシsideです。

異世界に来てから、彼女の頭の中には常に「日本へ帰る」という目的がある。

そのために研究を続ける毎日。

でも、長くこの世界で暮らしているうちに、少しずつ変わっていくものもある。

ルーデウスたちとの時間。
この世界でできた居場所。
そして、いつの間にか生まれていた「ここを離れることへの寂しさ」。

帰りたい。

でも、帰れるようになった時、自分は本当に迷わず帰れるのだろうか。

そんなナナホシの葛藤を書いてみました。


馴染む――ナナホシside

無職転生――ナナホシside

 

『馴染む』

 

 私は、この世界に馴染みたくない。

 

 この世界が嫌いだからじゃない。

 

 むしろ逆だ。

 

 嫌いになれないから。

 

 たしかに、この世界には私の好きじゃないところがたくさんある。

 

 食事は日本ほど美味しくない。

 

 医療だって、元の世界と比べればずっと遅れている。

 

 価値観だって違う。

 

 時々、本当に理解できないこともある。

 

 だから。

 

 私は、この世界に来たことを喜ぶことができなかった。

 

 帰りたい。

 

 でも、ここには、私を助けてくれる人がたくさんいる。

 

 研究を手伝ってくれるルーデウスやクリフ、ザノバ。

 

 日本食を作ってくれるシルフィ、アイシャ。

 

 ルーデウス邸では、お風呂まで貸してもらってる。

 

 だから。

 

 ここでの生活が当たり前になってしまうことが怖い。

 

 私は帰らなければならないから。

 

 日本へ。

 

 そのために、ずっと研究している。

 

⸻

 

「ナナホシ、ここなんだけど」

 

「見せて」

 

 ルーデウスから資料を受け取る。

 

「……ここ、計算が違う」

 

「やっぱり?」

 

「やっぱりじゃないわよ。前にも言ったでしょ」

 

「すみません」

 

「謝る暇があるなら直して」

 

「はい」

 

 ルーデウスは素直に資料を直していく。

 

 私はその様子を見ながら、少しだけ息を吐いた。

 

 こういうところは助かる。

 

 変に遠慮してこない。

 

 分からないことは聞いてくる。

 

 間違っていれば直せる。

 

 研究相手としては、とてもやりやすい。

 

「……でも、前よりはいいわよ」

 

「おっ」

 

「そこで喜ばない」

 

「はい」

 

 私は少し笑った。

 

⸻

 

「ナナホシ、夕食できたよ」

 

 シルフィが声をかけてくる。

 

「今日も日本食にしてみたの」

 

「ルディに教えてもらって」

 

 テーブルを見る。

 

 見慣れた料理。

 

 この世界では、なかなか食べられないものだ。

 

「……助かるわ」

 

「よかった」

 

 シルフィが笑う。

 

「いっぱい食べてね」

 

「感謝するわ」

 

 私は席につく。

 

 シルフィはいつもこうだ。

 

 私がルーデウス邸に来るようになった頃から。

 

 困っていれば助けてくれる。

 

 食事を用意してくれる。

 

 体調が悪ければ心配してくれる。

 

 研究で夜遅くなれば、

 

「今日は泊まっていったら?」

 

と言ってくれる。

 

 私は何度も断っている。

 

 それでも。

 

「そっか。じゃあ気をつけて帰ってね」

 

 いつも笑っている。

 

 ……本当に。

 

 よくできた人だと思う。

 

⸻

 

「ナナホシお姉ちゃん!」

 

「何?」

 

 食後。

 

 ルーシーがやってきた。

 

「日本のお話して!」

 

「また?」

 

「うん!」

 

「この前もしたじゃない」

 

「まだ聞いてない話あるでしょ?」

 

「いくらでもあるけど……」

 

「じゃあ聞きたい!」

 

「仕方ないわね」

 

 私は日本の話をする。

 

 学校。

 

 電車。

 

 コンビニ。

 

 テレビ。

 

 ルーシーは目を輝かせて聞いている。

 

「日本ってすごいね!」

 

「別に。普通よ」

 

「行ってみたい!」

 

「……そう」

 

 私は少しだけ黙った。

 

「日本はね」

 

 私は言う。

 

「私が帰る場所だから」

 

「うん!」

 

「だから、いつか帰る」

 

「そっか」

 

 ルーシーは寂しそうにした。

 

 

「まだ帰ってないでしょ」

 

「そうだけど」

 

「変なの」

 

 私は笑った。

 

⸻

 

「ナナホシ」

 

 今度はララ。

 

「何?」

 

「占ってあげる」

 

「いらない」

 

「まだ何も言ってない!」

 

「どうせ変なこと言うんでしょ」

 

「失礼!」

 

 ララは頬を膨らませる。

 

「じゃあ、勝手に占う」

 

「どうぞ」

 

 ララはしばらく私を見る。

 

「……ナナホシは、帰る」

 

「当たり前じゃない」

 

「でも」

 

「何?」

 

「帰りたいのに、帰るのがちょっと寂しい」

 

「……」

 

「何よ、それ」

 

「占いだから」

 

「適当ね」

 

「当たってる?」

 

「……知らない」

 

 私は立ち上がった。

 

「もう帰るわ」

 

「また来る?」

 

「研究があるから」

 

「ふーん」

 

 ララが笑う。

 

「じゃあ、また来るんだ」

 

「……たぶんね」

 

⸻

 

 玄関。

 

「ナナホシ」

 

 シルフィが見送りに来る。

 

「今日もありがとう」

 

「ううん」

 

「食事、美味しかったわ」

 

「本当? よかった」

 

「お風呂もまた借りに来てもいい?」

 

「もちろん」

 

「じゃあ、またお願いするわ」

 

「うん。いつでもきて」

 

 シルフィは笑う。

 

「研究、頑張ってね」

 

 

「早く帰れる方法が見つかるといいね」

 

「……ええ」

 

 その言葉だけは。

 

 いつも少し胸に刺さる。

 

 この人は。

 

 本当に私が帰ることを願ってくれている。

 

 

「じゃあね」

 

「うん。またくるわ」

 

 私は家を出る。

 

⸻

 

 帰り道。

 

 ふと思う。

 

 私は。

 

 この家に来ることが増えた。

 

 研究の相談。

 

 食事。

 

 お風呂。

 

 日本の話。

 

 子どもたちとの会話。

 

 シルフィとの何気ないやり取り。

 

 全部。

 

 最初は「助けてもらっているだけ」だった。

 

 でも。

 

 最近は。

 

 研究で行き詰まると、

 

「ルーデウスに聞こう」

 

と思う。

 

 日本食が食べたくなると、

 

「シルフィに頼もう」

 

と思う。

 

 ルーシーに日本の話をしてほしいと言われると、

 

「仕方ないわね」

 

と言いながら嬉しくなる。

 

 ララにからかわれると、

 

「本当に面倒な子」

 

と思いながら、少し笑っている。

 

 ……まずい。

 

 私は立ち止まった。

 

「……馴染んでる」

 

 この世界に。

 

 この家に。

 

 この人たちに。

 

 私は日本へ帰りたい。

 

 それは変わらない。

 

 絶対に。

 

 なのに。

 

 ここで過ごす時間も。

 

 少しずつ。

 

 私の生活になっている。

 

⸻

 

 私は首を振る。

 

「……駄目」

 

 帰る。

 

 私は帰る。

 

 だから。

 

 あまり考えない。

 

 研究をする。

 

 転移魔法陣を完成させる。

 

 それだけ。

 

 それでいい。

 

 ……なのに。

 

 帰る方法が見つかったその時。

 

 私は。

 

 この家を出る時に。

 

 何を思うのだろう。

 

 ルーシーは泣くだろうか。

 

 ララは何か変なことを言うだろうか。

 

 シルフィは。

 

 いつものように笑って、

 

「よかったね」

 

と言うのだろうか。

 

 そして。

 

 ルーデウスは。

 

 何と言うのだろう。

 

「おめでとう」

 

 きっと。

 

 そう言う。

 

 私は。

 

 その言葉を聞いた時。

 

 嬉しいと思えるだろうか。

 

 それとも。

 

 少しだけ。

 

 寂しいと思ってしまうだろうか。

 

 分からない。

 

 まだ。

 

 分からない。

 

 だから私は。

 

 研究の続きをする。

 

 帰るために。

 

 帰る場所を失わないために。

 

 そして。

 

 いつの間にかできてしまった。

 

 もう一つの居場所から。

 

 目を逸らすために。




今回は、ナナホシsideを書いてみました。

ナナホシにとって、日本に帰りたいという気持ちは変わらない。

家族や友人に会いたい。
故郷に帰りたい。

そのために、ずっと研究を続けている。

でも、この世界で過ごす時間が長くなるにつれて、ルーデウスたちとの日々も、少しずつ大切なものになっていく。

だからこそ、

「帰りたい」

という気持ちと、

「ここを離れるのは寂しい」

という気持ちが、同時に存在するようになる。

今回は、そんなナナホシの葛藤を書いてみたかった話です。

帰るために研究しているはずなのに。

その先にある「別れ」を、少しずつ意識するようになってしまう。

そんな変化が、ナナホシの中で積み重なっていく感じを描いてみました。
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