『無職転生 if ― もしシルフィが嫉妬したら ―』 作:takuya丸
しっかり者だからこそ、自分で自分に「こうあるべき」と求めてしまう。
そんなルーシーが、ララの何気ない一言に揺さぶられる。
すぐに考え方を変えるのではなく、むしろ反発してしまうところも含めて、ルーシーらしさを描いてみたかった話です。
誰が決めたの――ルーシーside
『誰が決めたの』
私は、ちゃんとしなければならないと思っている。
パパの娘だから。
姉だから。
兄弟の中でも、年上なのだから。
パパは忙しい。
だから、私がしっかりしなければならない。
パパは、たくさんの人を救ってきた。
だから私も、恥ずかしくない娘になりたい。
……そう思っている。
でも。
時々、不安になる。
パパは、私に何を期待しているんだろう。
私に何かをしてほしいと思っているんだろうか。
それとも。
何も期待していないんだろうか。
⸻
「ねえ、ララ」
「なに?」
「パパって、私たちに何を期待してると思う?」
「知らない」
「……少しくらい考えてよ」
「なんで?」
「だって、パパはすごい人だから」
「うん」
「私たちにも、何かできるようになってほしいと思ってるんじゃないかな」
「パパ、そんなこと言った?」
「……言ってないけど」
「じゃあ、なんでそう思うの?」
「……」
私は答えられなかった。
「私は、パパに認めてもらいたいの」
「認めてもらってるじゃん」
「そういうことじゃないよ」
「じゃあ、どういうこと?」
「……ララには分からないよ」
「何が?」
「ララは、そういうこと気にしないでしょ」
「うん」
「だから分からないんだよ」
ララは少し考える。
「ルーシー姉は、パパに期待されたいの?」
「……うん」
「なんで?」
「パパの娘だから」
「だから?」
「……ちゃんとした娘でいたいから」
「なんで?」
「……」
同じことを聞かれて、私は少し苛立った。
「だから、ちゃんとしなきゃいけないの」
「なんで?」
「姉だから」
「それ、誰が決めたの?」
「……」
言葉が出なかった。
「パパ?」
「……違う」
「じゃあ、ルーシー姉?」
「……」
「ルーシー姉が決めたの?」
「……もういい」
「え?」
「ララには分からないよ!」
私は立ち上がった。
「私はララみたいに、何も考えずに好きなことしてるわけじゃないの!」
「……」
「ちゃんとしなきゃいけないの!」
それだけ言って。
私は部屋を出た。
後ろから、ララが何か言っている。
でも、聞かなかった。
⸻
廊下を歩く。
「……何よ」
胸の奥が、まだざわざわしている。
ララに腹が立った。
何も分かっていないくせに。
私がどれだけ考えているかも知らないくせに。
……なのに。
どうして。
「……誰が決めたの」
あの言葉だけが、頭から離れない。
「私が……決めたわけじゃ……」
そう言いかけて。
言葉が止まった。
誰かに言われたわけじゃない。
パパに言われたわけでもない。
私はただ。
自分でそう思っていただけなのかもしれない。
「……違う」
私は首を振った。
そんな簡単な話じゃない。
私は姉だから。
パパの娘だから。
ちゃんとしなければならない。
そう思うことは、間違っていない。
……間違っていないはずだ。
⸻
夕食の時間。
「ルーシー?」
「なに?」
「今日は静かだな」
「……そう?」
「ああ」
パパが心配そうに私を見る。
「何かあったか?」
「何もないよ」
「そうか?」
「うん」
私は笑った。
「大丈夫」
パパは少しだけ考えてから。
「無理するなよ」
「……うん」
その言葉が。
なぜか胸に残った。
⸻
夜。
ベッドに入っても眠れなかった。
昼間のことを思い出す。
「誰が決めたの?」
私は答えられなかった。
だから、怒った。
ララに言い返せなかったから。
「……ララのくせに」
小さく呟く。
腹が立つ。
でも。
もっと腹が立つのは。
あの言葉が。
まだ私の中に残っていることだった。
今回は、ルーシーの「真面目さ」に焦点を当ててみました。
ララのように、思ったことをそのまま受け入れられる性格ではないからこそ、図星を突かれると反発してしまう。
でも、言い返したからといって、その言葉が消えるわけではない。
そんな、ルーシーの中に残り続ける小さな引っかかりを描いてみました。