え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~ 作:猫豆腐
グランドファルコが雛鳥を連れて空に消えていくのを全員で見送った。
雛鳥のピィーっという高い鳴き声が空から聞こえてくる。
グランドファルコが一度だけ首をこちらに向けて振り返った。
誰を見たのかは分からない。
それが感謝なのか、あるいは「次は殺す」という警告なのか、俺には判別がつかなかったし、正直に言えば判別する気も起きなかった。
そしてすぐに加速して姿が見えなくなる。
「……行ったな」
ディアがぽつりとこぼす。
「行っちゃいましたね」
レヴィが自分の両手を見る。
さっきまで雛鳥がいた場所だ。
「……疲れた」
「親元に戻れてよかったわね」
メイとリーダーがレヴィの肩に手を添える。
みんなが感傷に浸る中、俺は一人振り返った。
地面に転がっている男が七人。
縛ってある。数人はまだ意識がないまま時折うめき声が聞こえてくる。
目が覚めている奴らは俺たちを睨みつけていた。
リーダーたちは命をとったりはしていない、全員時間がたてば動けるだろう。
多少の生傷と土に汚れた連中の目はまだ闘志に燃えていて、きっと縄をほどいたら今にも襲い掛かってくるであろう雰囲気を醸し出していた。
さて、面倒くさい事後処理のターンがきてしまったか。
「リーダー、こいつらどうする?」
「決まってるわよ」
リーダーが七人の前に向き直る。
声が三段階下がった。
あっこれ本気で怒っている時のやつだ。
「衛兵に突き出す前に、少し…話してもらいましょうか」
笑顔で言ってるけど、その目は全く笑っていない。
男たちは固唾を呑んでリーダーたちの剣呑な雰囲気を感じ取っているようだが、それでも黙っていた。
悪いことは言わないからさっさと事情やバックボーン全部吐いてくれ、実力行使にでたら俺じゃ止められる自信がない。
余計な血を見ないためにもさっさとゲロっちまえ。
ディアが首をごきりと鳴らしながら横に立ち、「はーん、黙ってんのか」と言いながらにやつきが止まらない。
ダメだ、こいつの中ですでに暴力に訴える前提になっている!
こいつは本当にこういう時が一番楽しそうだな。
ディアと同じくスラム出身だが同列に扱われたくないな。
メイも無言で刀の柄に手をかけている。
たとえ抜いてはいなくとも、真剣に手をかけている事実で圧には十分すぎる。
全員で圧を送る中嫌な緊張感と硬直に包まれる。
そこまできてようやく、男の一人が震える声を絞り出した。
「……へ、へへっ言わないとどうするってんだ。俺たちは拷問にだって耐えてやるぞ。それくらいの覚悟はある」
場が静まり返る。この場の温度がさらに数度下がった気がした。
拷問、か。
こいつらは分かっていない。
リーダーたちが悪意を持って痛みを与えるなんて、そんな面倒な工程選ぶはずがないだろ。
リーダーがゆっくりと目を細める。
口元は貼り付けた弧を描いたままだ。
「拷問? そんな非効率なことしないわよ」
リーダーの言葉にディアの笑顔が深くなる。
メイの指が柄をわずかに押し上げた。
「ここら一帯を焼き払って何もなかったことにしちゃうの」
あぁ始まってしまった。
普段ディアやメイに隠れているが、命を最も区別して生きているのはリーダーだ。
勇者と魔王、おとぎ話の
はるか昔から勇者に憧れているらしいこいつは、自称勇者の通り一般人や力を持たない者の味方の側面と。
裏の側面として、敵と判定したものに対する情というのがほぼ持っていない。
むかし、それに突っ込んでみたことがあるが返ってきたのは『勇者はそういうものじゃない。何言っているの?』だった。
あまりにも純真無垢に言い切るその姿を見て、いろいろ諦めた記憶を思い出した。
今言ったのもきっと脅しとかじゃなくて本気で実行を考えているんだろうな。
だからいつもそうならないように。そうさせないようにしているのが俺だ。
そう思っていると何人かが強気になりだす。
「焼き払うだぁ?脅しは効かないと言ったろ!」
「そ、そうだ!そんなことをしたらお前らのギルドや国が黙ってないだろうが」
「あまりふざけたこと言ってんじゃねーぞ!」
俺の顔に冷や汗が伝った。
バカかこいつら、リーダーの『本気』をただの『脅し』だと思いやがった。
リーダーを見ようとするが錆びついた鉄のように首が回らない。俺の体が拒絶している。
ようやく向けた視線の先で見ることができたリーダーの顔は、建前の笑顔すらなくなり完全な無の表情をしていた。
「焼き払うわ。焼き払ってまっさらにして何もなかったってことにするの、最初から悪人はいなかった。あなた達の組織にも警告になるでしょ?」
やっぱり本気だよなぁ。
どうやって止めるか、今すぐにでもこいつらが口を割ってくれれば問題ないんだが。
「拷問するよりよっぽど人道的で簡単じゃない!」
俺が何か考えようとする間に、もうリーダーの中で結論が出てしまったらしい。
人間が言葉通り消し飛ぶことを決して人道的とも言わないし、勇者としても失格なんじゃないかそれ。
「はっ、正気かお前ら」
さすがに本気で言っているとようやく理解したらしく密猟者の顔から、一気に血の気が引いていく。
ディアが横で「はは、いいなそれ! 人間がどこまで炭にならずに耐えられるか賭けようぜ!」と楽しげに笑う。
まじでお前ら頭がおかしいと思います。
「というわけで『奥の手』を使うからみんな下がり――「ダメだ」
被せるように俺が口を挟む。
リーダーが呆けたような顔をする。
「なさ、い?」
奥の手はダメだ。
それだけはもう使わせない。前に使ったときにも言ったのにもう忘れてんのかこのバカは。
「さすがに更地はまずいだろ、たとえ相手が犯罪者であっても」
それに人権無視する勇者とか聞いたことねぇよ、勇者に退治される側だろそれ。
「じゃあどうするのよ」
「俺が聞きだす」
リーダーを押しのけて前に出た。
「お前ら、ここまで追い詰められても言う気はないんだな?」
「あ、当たり前だ! 俺たちにだって仲間意識くらいはあるんだ、売るわけがな――」
喋っている途中で悪いが、言っても全然聞かないバカにちょっとイライラしているんでね。
意思を確認した以上時間はかけてらんない。
魔力糸を指先から出して男たちに向ける。
「そうか、なら言うまで付き合ってもらうからな」
俺は出した魔力糸を男の脇腹のあたりへ添わせる。
五秒後、男が笑い出した。
「ちょ、な、なんだこれ、やめ、やめろ、わ、笑えない、やめ――っ!」
「いいやお前には思う存分笑ってもらおうか、この魔術糸くすぐりでな」
「ひゃーはっはははは、はーっ」
「ほら糸は一本だけじゃなくてまだまだあるぞ、まとめて相手してやるよ」
数秒後大の大人のあまり聞けないような笑い声が重なって聞こえてくる。
あぁこれが美少女相手とかならやる気でるのになぁ、なんで俺はおっさん相手にやってんだろうなー。
そんなことを思いながら無心で作業を続けていると、俺の耳にひそひそと声が聞こえてきた。
「ねぇあれってモブの趣味かしら」「あーそうじゃねぇのか?じゃないとあんな精密な動き出来ないだろ」「てことはあの動き夜な夜な練習されていたんですかね」「………異常性癖」「引くわー」
お前らの手を汚さないためにやったってのに、俺が何をしたっていうんだよ。
泣きたくなる。
「わかった! 話す! 話すから!!もう勘弁してーはははは!」
数分後、密猟者たちは、誰が最初に裏切るかを競うようにして、雇い主と拠点の場所を吐き散らした。
◇
結局あの後洗いざらい情報を吐いた密猟者たちは、現在俺たちの手で詰所まで同行してもらっている。
手だけ拘束して互い縄同士を結んでいるが男たちの足取りに力はなく、トボトボと俺たちに合わせて歩を進めていた。
男たちの先ほどまでの燃えるような目は現在、笑い疲れか、はたまたプライドがへし折れたのか知らないが、一様に死んだ目をしておとなしく連行されていた。
最初からゲロっていればこんなことにはならなかったし、俺も変な疑いかけられることはなかったのに。
密猟者だと思っていた男たちの素性は、どうやら街の東の倉庫街に本拠がある犯罪組織の下っ端らしく、好事家からかなりの高値でグランドファルコの注文がついたらしい。
親鳥に不意打ちを仕掛けてなんとか犠牲(余談だが何人か食われたらしい)を出しながらも捕獲に成功したのだが、親鳥が捕まる前にあの雛鳥を逃がしたのが事の顛末だそうだ。
あの鳥やっぱり人間喰うじゃねーか! 怖っ!
捕獲に成功して輸送中、ちょうど一息ついたところに俺たちが遭遇したという流れらしい。
「ふぅ、やっと着いたな」
衛兵所に着くと、担当の衛兵が七人の男を見て何事かと顔色を変えて近づいてくる。
「グランドファルコの密猟をしていた犯罪組織の下っ端です。情報もあります」
手帳のメモを渡した。
衛兵が読んで、また顔色を変えた。
「これは私ではなんとも……少々お待ちください」
衛兵は男たちを連れて奥に引っ込んだ。
早めに戻ってきてくれると嬉しいが役所系は長いのが相場だからなぁ。
待合の長椅子にディアが腰を下ろして腕を組んだ。
メイが壁際に立って目を閉じている。
リーダーは俺の隣でそわそわしている。
「報奨金もらえるかしらね」
金の心配かよ。でも確かに言われてみればレヴィの迷子探しの手伝いで結果金もらえるなら棚ぼたか。
そのきっかけのレヴィはどこだ。
あたりを見回すと衛兵所の入口近くで布を手に持ったまま立っていた。
「レヴィ」
「はい」
「それ、まだ持ってるのか」
レヴィが布を見る。
それはさっきまで雛鳥を包んでいた布だった。
「……気づいてませんでした」
「雛鳥がひっかいてボロボロだな。捨てるか?」
「いえ、持って帰ります」
「そうか」
それ以上はお互いなにも言わず、沈黙が落ちる。
リーダーが近づいて話しかけてきた。
「ねねっモブ、今回の件、報奨金とかどれくらいもらえるかしら」
「さぁな、でもまぁ少なくとも勇者的な行動だったんじゃないか?」
「勇者! ふふ、さすが我らがパーティね、みんなお疲れ様!」
リーダーが胸を張り、満足げな顔をしてみんなを見る。
「特にレヴィ!今回はあなたのおかげで無事に親鳥に返してあげることができたわ」
「いや全くだ。モブなら喰われてただろうな」
ディアがにやついてこちらを見てきた。
縁起でもないことを言うなよ。
ディアのいじりに呆れつつ、リーダーの満足気などや顔を見ていると「今回はモブの功績も大きいわね!」と言ってくれた。
「モブ!、ほめて遣わすわ!」
「はいはいどういたしまして自称勇者様」
「自称じゃないわよ!」
じゃあさっさと本物になってくれよ。
リーダーとくだらない会話をしていると、いつの間にか衛兵が戻ってくる。
「情報料として報酬が出せます。本人たちに事実確認するのでお時間をいただければ」
「報酬キター! やったわね!」
またこいつは…、衛兵が目の前にいるんだからあまりその場でいうのはやめてほしい。
「消し炭にしないでよかったわねモブ!」
バッカお前!
衛兵が困惑する。
「消し、え?」
「身内の話しです。晩飯で使う炭の」
「はぁ」
一応は誤魔化せたみたいだが本当にやめてくれ。
有頂天なリーダーに代わってディアが前に出た。
「なぁ衛兵さんよ、報酬もらうまでにどれくらいかかるんだ?」
「3日後くらいには確認が取れてお渡しができるかと」
「おっ思ったより早いな、なら今日は豪勢に打ち上げしようぜ!」
晩飯か、さっき言葉に出したせいか確かに腹が減った。
「……お肉がいい」
「「賛成」」
「買って帰るか、では三日後に来ます」
思わぬ報酬だ。
借金はあっても今日くらいは贅沢しても罰は当たらんだろ。
みんな頑張ったのは事実だしな。
結果論とは言え金になった密猟者どもには少しだけ感謝しよう。
衛兵所を出ながら、俺は先ほどから黙っているレヴィをちらりと見た。
だが、髪が影になっていてその表情はわからなかった。
◇
みんなで帰る道は疲れているせいか、いつもより少し長く感じた。
来た時と同じ道を戻るだけなのに、なんか遠く感じて足が重い。最後尾でついて行くのがやっとだ。
今日は朝から山岳だの密猟者だの鳥だの詰所だの流石に動きすぎた。
「あー全然動き足りなかったなー、なぁリーダー?」
「そうね、本当に歯ごたえのない連中だったわね」
「しかしグランドファルコが去るときの動き速かったなー。ああいう動きは久しぶりに見た」
ディアが機嫌よく嬉しそうに言った。
「あの鳥も襲ってきてくれればなー」
「ちょっとディアそれは」
リーダーがディアに指摘してレヴィを見る。
「あ、あぁ悪いな、魔獣ボコりたいって意味じゃなくて――」
「大丈夫です。ちゃんとわかっています」
少し間があった。
「今日、みなさんに来てもらえて助かりました。ありがとうございます」
レヴィが深く頭を下げる。
なんとなくだが、こいつ無理してないか?
それからしばらく歩いているとレヴィが隣に来た。
「モブさん」
「なんだ」
「今日はありがとうございました」
「別に依頼じゃないし、俺は荷物持ちだから行かなくてもよかったんだけどな」
「でも来てくれたじゃないですか」
しばらく黙って歩く。
木々の間から夕日が差し込んでいる。橙色が地面に伸びていた。
鳥の声が聞こえて雛鳥の姿が脳裏に浮かぶ。
「寂しいですか」
「何が」
「あの子がいなくなって」
俺が寂しいわけがないだろ。
一晩いただけの魔獣の雛鳥にさすがに情は移らない。
むしろ寂しいのは。
「寂しいのはお前の方なんじゃないのか?」
レヴィの表情が固まった。
「寂しい……実は、寂しくなると思っていたんですけど、そう思わなかったんです」
レヴィが少し考えるように視線を落とす。
「親が心配してて、あの子も恋しがってて親元に戻れてよかったって、それだけ思えたんです。
寂しいなんて思いませんでした」
「そうか、ならよかった。てっきり寂しがって落ち込んでいるんじゃないかと」
「モブさんは、親鳥が最後に振り返ったの見ましたか」
「ああ見たな」
あれは結局雛鳥に手をだしたら殺すっていう警告だったのか?
密猟者食ったらしいし。
「あれ、ありがとうって言ってたと思います」
「……根拠は」
「なんとなくです」
なんとなく、か。
俺には分からない。
魔獣がお礼をするかどうかも、あれが誰に向けた振り返りだったかも。
だけど専門家であるレヴィには、何か感じ取れたものがあったのかもな。
この機会だ、気になったことを聞いておくか。
「親鳥の前に出た時、怖くなかったのか」
「そりゃ私も怖かったですよ、ペットの子達とは違いますから、魔獣の危険性は私が一番よく把握しています」
そりゃそうか、好きだからこそその危険性も把握している。
当然だ。
「じゃあなんで出た」
グランドファルコに雛鳥を返すとき、あの時俺は危険だと思ってレヴィに警告しようとした。
でもレヴィは、あの目からは決してその場から動かないという強い意志を感じたんだ。
「そんなの決まっています。私が怖かったとしてもあの子は親の元に戻るべきだったからです」
「それだけか」
「それだけです」
聞いて損したような。レヴィの本質を少しわかったような、そんな不思議な感覚を覚えた。
「お腹すきましたね」
レヴィが話題を強引に変える。
「あぁ本当にな」
「帰ったら何か作りますね」
「助かる。楽しみだ」
また会話が途切れ、俺とレヴィ2人そろって黙って歩く。
帰り道も終盤に差し掛かったところでレヴィが足を止める。
顔はうつむいており髪も相まって表情が見えない。
前を歩いていたみんなが連動するように自然と足を止めた。
「……きっとどうなっても結局は親元に返したんでしょうけど」
誰も何も言わなかった。
レヴィの口から続く言葉を待っていた。
「たぶん……昔の私だったら、返すときに寂しさを覚えちゃって。
一人だったら、ちょっとだけ迷っちゃったと思います」
ディアが鼻を鳴らして何か言いかけて、やめた。
「でも今日は迷わなかった。最後まであの子を家族の元に返してあげなくちゃって思って……元の居場所に返せて心からよかったと思うことができました」
一拍置いて、レヴィが続ける。
「そう思えたのはみなさんと会えたからだと思うんです」
レヴィが顔を上げた。
その顔はとてもうれしいことを報告するような顔じゃなくて、むしろ悪いことをして親に怒られるのを待っている子供のような。
不安げな表情に見えた。
「だから、今日みたく面倒くさいことに巻き込んじゃうかもしれないですけど……どうか、これからも私をこの場所にいさせてください」
沈黙が落ちる。
「……レヴィ」
こいつ、ずっとそれを抱えていたのか。
追放されて、一人になって、ここでも同じになるんじゃないかってずっと。
雛鳥を拾ってからのレヴィを振り返るとこいつは『居場所』に強いこだわりを見せていた。
こいつの今までの経歴とこのパーティに入るまでの経緯を考えれば、その気持ちはわからんでもないが。
気持ちはわからんでもないがレヴィはまだまだこのパーティをわかってない。
そんな不安一人で抱えなくても、
「なーに言ってるのよ。あなたも私の家族の一員なんだから、今日みたいに助けるのはとーぜんでしょ!」
「そうだぜレヴィ、あたしたちだって迷惑かけるときもあるんだ。お前だけじゃない、ここはみんなで一つのパーティだからな」
「…………どっか行ったりしちゃ……いや」
ほらな。
むしろお前が出ていきたいと言ったとしても、こいつらはしつこいから簡単には抜けさせてくれないぞ。
心配しなくてもお前の『居場所』は間違いなくここだよ。
◇
あの後涙が止まらなくなったレヴィを、全員で落ち着くまで待ってから帰路に就いた。
もちろん途中で肉は買った。
ホームが見えてきた頃、リーダーが口を開く。
「今日は戦闘よりもあちこち歩いて疲れたわね」
「だな、けど暴れたりねー」とディアが言った。
俺も珍しくリーダーに同意見だ。
今日は相当動いたからな。
ちなみに断じてディアには同意できない。
ホームの扉を開けると、ペット(比較的小型の魔獣)たちが玄関に集まってきた。
レヴィの帰りを待っていたらしい。レヴィが「ただいま」と言いながらしゃがんで全員を撫でる。
ペットたちが足元でうろうろしている。
すっかり元通りだな、いつものレヴィだ。
「お腹すいたー、早く食べましょーおにくー」
「宴だ宴! 肉食うぞ!」
「今お夕飯作りますから少し待っててくださいね」
「………至急」
レヴィが立ち上がり台所に向かう。
それにペットたちがぞろぞろとついていく。
おい待て。
「ペットは台所に入れるなよ」
「はーい」といいつつそのままペットたちと台所に入っていった。
何回注意しても聞きやしない。
最近思うがレヴィの中で俺の優先順位はたぶんペット以下なんだと思う。
ディアが椅子に座って腕を伸ばした。
メイが居間の隅で刀を鞘から出して刀身を確認している。
リーダーが髪を直しながら手鏡を覗く。
俺は机に座って帳簿を開いた。
今日の出費と収入を書き込む。
衛兵への情報提供、報酬は三日後。
今回の交通費、徒歩なのでゼロ。昼食の携帯食は……消耗品費として計上する。
「モブ、また帳簿つけてるの?」
暇なのかリーダーが覗き込んできた。
「今日の分だ」
「真面目ねぇ」
これをやらないと後で困るし俺の日課だからやってるだけ、別に真面目だからじゃない。
本当は俺だって面倒くさいけど俺の役割だからな、やらないわけにはいかない。
それに他のメンバーには任せられない。絶対にめちゃくちゃになる。
「ねえ、グランドファルコって売ったらいくらになるの」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「気になっただけよ」
「めっちゃ高い」
「どのくらい」
「俺たちが五年かかっても稼げない額だ」
「ひえー」
ディアが「そりゃそうだよな」と言った。
「返して正解だったわ」
「いや最初からそういう話だったろ」
「いや、そうなんだけどね。もし雛鳥を返さないで捕まえてたら面倒なことになってたわよね」
それは確かにそうだ。
密猟で捕まったら報酬どころじゃない。損得で言っても正解だった。
「リーダーにしては珍しく合理的な判断だ」
「失礼ね」
帳簿をつけ終わるころ台所からいい匂いが部屋全体に漂う。
匂いに反応して全員の腹が鳴った。
俺もだいぶ腹が減っていたことを思い出す。
「お待たせしました。できましたよ」
レヴィが台所から顔を出した。
それを合図に全員が立ち上がってテーブルに移動する。
俺も帳簿を閉じて向かう。実は俺も限界に近い、早く肉食いたい。
次々に用意される多様な肉料理を前に全員で手を合わせて「いただきます」と唱和する。
「肉!肉!肉!」
「あー!ディア!それわたしが狙っていたやつ!」
「ふるへー、はやひほのあいあんあよ」
何言ってるのかわかんねーよ、飲み込んでから喋れ。
がっつくように食べ始めるリーダーとディアから視線を外して、俺も目の前の料理に目を向ける。
厚切りにスライスされた肉から焼いた肉の香ばしい匂いと、香辛料の香りが漂ってきた。
腹を刺激する匂いに思わず我慢ができなくなり、手に持ったフォークで肉を一口に詰め込む。
あの短時間で仕込みをしたのか肉質も柔らかくなっていて、歯で簡単に嚙み切れる。
口の中であふれだす肉汁と香辛料の刺激に食欲が止まらない。
これはたまらん、いくらでも食べられそうだ。
やっぱりレヴィはこのパーティに必要だよ。
少なくともレヴィの料理に胃袋を掴まれている俺にとっては必須だ。
夕飯に舌鼓を打っているとディアが今日の戦闘の話を始めて、リーダーが「私の方が速かったわ」と張り合いだした。
メイは無言で飯を食っている。レヴィがペット用に取り分けた分を持って庭に出た。
「しっかしレヴィって本当に魔獣好きなんだな」
ディアがレヴィの後を目で追って言う。
「みたいだな」
それは分かる。
「魔獣しか好きじゃないって将来が心配だぜ」
俺もさっきまでそう思っていた。
「だけどたぶん、今は魔獣だけじゃないぞ」
「どういう意味だ?」
わからんならいい、教える義理もない。
レヴィが庭から戻ってきた。手が汚れたらしく袖で拭いている。
「ちゃんと手は洗った方がいいぞ」
「あっすみません」
これは反省してないときの顔だ。
「レヴィ、なんかかんや長いこといるんだ、反省してないのバレてるからな」
「あはは、バレてましたか」
「顔に出てる」
「ならバレたついでにこれは気づいてましたか?
わたしが親鳥から逃げなかったのそうするべきだったからと言いましたけど、あれちょっとだけ嘘ついちゃいました」
「嘘?」
「逃げなかった理由は……モブさん、実はわたし……好きなんです」
ッブーーーー!
レヴィの言葉にディアから勢いよく茶が噴出される。
またベタな反応を。
「な、ななななな」
顔を赤くしたディアがうろたえているがいいかげん学べ。
これは言葉が欠けているだけだ。
「俺もレヴィほどじゃないけど好きだよ。ここの『居場所』は」
「はい! だからみんなを守るためにもあそこでわたしは引けないなと思ったんです!」
今日一番の笑顔を咲かせるレヴィの横で、ディアが唖然とした表情で俺とレヴィを交互に見ていた。
だから言ったろ。
レヴィが好きなものは魔獣だけじゃないって。
「ほらまだバレてないじゃないですか」
少しだけ頬を赤らめたレヴィが小さくそんなことを言った気がした。
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