え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされていますが、いつの間にか立場逆転しそうです。そんなことよりポーションの補充します~   作:猫豆腐

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第2話:守銭奴とはこいつのことを言う

 

「だーかーらー、戦場に行って功績を上げた方が、お金がいいんだから!」

 

 俺の所属する極貧パーティのリーダーが、また訳の分からん無茶を言い出していた。

 

「今の時代、“戦場帰り”って肩書きのひとつもないと、かっこつかないでしょ!」

 

「いや、結局金だろ」

 

「当たり前でしょ!」

 

 即答かよ。

 

 その日、俺はホームの隅のテーブルで、干し肉の端っこを齧っていた。

 硬い。安い。味がしない。

 食欲減退三重苦だな、端的に行って肉の質がよろしくなかった。

 

「……これ、保存食っていうより、拷問具だな」

 

 肩をすくめ、心の中でため息をつく。

 戦場に出れば金は入る。だが、その前にこの干し肉と戦わなければならないのか。

 顎が痛くなりそう。

 

 向かいに座っていたリーダーが、がりがりと音を立てて黒パンを噛み砕いた。

 

「もうこんな固いパンをかじる生活はイヤなの!」

 

 まぁその気持ちは俺も分かるが……。

 

 俺たちのパーティは、いわゆる万年金欠の極貧パーティだ。

 

 理由は簡単で、稼ぎ頭がいない。

 

 リーダーは剣士だが、強いかと言われると微妙だ。

 弱くはない。むしろ魔力出力で見たら上の方だと思う。

 

 ただ、無駄が多い。

 力任せで、考えなしで、勢いだけで突っ込む。しかも止まらない。

 

 結果、勝てる戦いを長引かせ、余計な被害を出し、修理費と治療費で報酬が消える。

 典型的な冒険者あるあるだ。

 

 他のメンバーについても同じように欠点があって、実力があるのにどうにもパッとしないパーティ。

 それが俺たちだった。

 

「で、その戦場ってどこの地域なんだ?」

 

「よく聞いてくれたわね! 見つけてきた私に感謝しなさい!」

 

 そう言って募集の紙を机に叩きつけるリーダー。

 どうせろくな事書いてないんだろうなと思いつつ、目を通す。

 

 大募集!

 今ならなんと入隊祝い金20銀貨支給(規定あり)

 くすぶっている冒険者も、一発当てたい民間人も、日中暇な奥さんも経験は問いません!

 合わなければすぐにやめても大丈夫!(一定期間勤務後)

 さぁ、戦場があなたを待っている!

 アットホームな勤務です。簡単な作業をしてもらいます。

 給料1日2銀貨(残業含む)

 

 ……これは。

 

 軽く見ただけでも、まともなクエストの紙ではなかった。

 

「リーダー、これ絶対書いてある金額もらえないか、めちゃくちゃ激務だと思うぞ」

 

「なに、私がいい案件見つけてきたからって、いちゃもんつける気!」

 

 いや、どう見てもブラックだろ!

 

「一応聞いておくが、配属地域は?」

 

「魔王軍周辺」

 

 おぅふ。

 

 俺は思わず、干し肉を落とした。

 

「いやいやいやいや。無理だろ。俺、荷物持ちだぞ!」

 

「知ってるわよ」

 

「知っててなら、なおさら無理だって」

 

 たまにリーダーは、戦闘力のない俺をやんわりと殺そうとしているのではないかと疑うときがある。

 

「今回は労災も出るらしいわ。やることも簡単な作業みたいだし、楽勝ね」

 

 あっ、ダメだ。もう話聞かないモードに入ってる。

 こうなると、ただの荷物持ちに決定権などない。

 

「はぁ……。俺は賛成はしないが、持っていく荷物の確認だけは俺にやらせてくれ」

 

「それと、他のメンバーにも聞いておくように!」

 

 頼むから誰か反対してくれ。

 でもたぶん、五人中リーダーも入れて三票は「行く」に投じるんだろうなぁ。

 

 特に、あの脳筋ゴリラが聞いたら、真っ先に喜びそうな内容だし……。

 

 なんて思っていると、早速そいつが赤い髪を靡かせながらギルドに帰ってきた。

 最悪なタイミングだ。

 

「よーっす! どうしたモブ、そんな辛気臭い顔して」

 

「ディア、リーダーを止めてくれ。魔王軍関連の戦場に行くと言い出したんだ……」

 

「なるほどなぁ。それでそんな顔をしていると」

 

 ディアがにやつき、ギザ歯を見せながら覗き込んできた。

 赤い髪によく似合う勝気な目が近づく。

 

 こいつ、思ったよりまつげ長いな、とか、黙っていれば美人だよな、とか、思わず考えてしまった。

 

 ディアはふーんと鼻を鳴らし、顔を遠ざけたあと、聞きたくなかった宣言をする。

 

「いいじゃねぇか、戦場。行こうぜ」

 

 こうなるから、お前にはこの話を聞いてほしくなかったんだよ。本当。

 

「やっぱりディアは、モブと違って話が分かるわね!」

 

「戦えるっていうんなら、どこにだって行くぜ」

 

 この能天気どもめ。

 戦場なんて俺たちに向いていないこと、分かりきっているのに。

 

「あとはメイとレヴィが賛成なら、全員一致ね」

 

 ちょっと待て。俺、いつの間にか賛成にされてないか?

 拒否権がないだけで、スタンスは一貫して拒否しているからな!

 

 とりあえずレヴィは、まだ帰ってきていないからいいとして。

 

「メイ、そろそろなんか言ったらどうだ?」

 

 俺はホームの隅で、黙々と刀を磨いているメンバーに声をかけた。

 

「…………」

 

 無視かよ。

 

「…………行く」

 

 いや、反応が遅いだけかよ!

 紛らわしいんだよ、いつも。無視されたのかと不安になるだろ。

 

 そして、やはりお前も賛成か……。

 ほらな、これで賛成三人だ。

 

 残るは、うちのパーティ内で唯一、俺と同じ目線(のはず)のメンバーだ。

 

「メイも賛成なら四人ね。レヴィもきっと賛成してくれるわ」

 

「あたしもそう思うぜ。最近、ペットたちを外で運動させてあげられてないって言っていたからな」

 

 やっぱり俺も賛成で話が進んでいるじゃねーか。

 あと、その情報は初耳だ。

 

 それが本当なら、もう俺に拒否権なんてない。

 

 うちのパーティのルールでは、クエスト受注時はメンバー全員の了解を取ることになっている。

 誰か一人でも拒否すれば受けないルール。

 

 ……そのルールが俺に適用された試しはないがな。

 

 少し時間が経ち、日も暮れるころ、魔獣使いのレヴィが帰ってきた。

 

「あ、あのう……」

 

 横目に見ると、濃い紫の髪をびちょびちょに濡らして、泣きそうな顔でこちらを見ている。

 

「雨なら降っていないが、どうしたんだ?」

 

「ついさっきホームに入ろうとしたら、上から大量の水が降ってきて……わ、私も分かりません……」

 

 もしやと思う。

 直後、ホームの屋上から大きな水音が聞こえてきた。

 

「見ろよリーダー、あたしの新しい技だ! このドラゴンの形をした造形、いかすだろ!」

 

「ディア、あなた天才ね! 『ドラゴンストライク』って名前はどう?」

 

「そ、その名前は保留させてもらおうかな……自分で考えるよ」

 

 あの馬鹿ども、屋上で技のお披露目をしているらしい。

 メンバーがいるときはやめてくれって言ったはずなんだが……。

 

 期待した俺が悪いか。

 ていうか、またリーダーの中二病が発動している。他人の技に勝手に名前をつけるのはやめなさい。

 

 とりあえずレヴィにタオルを渡す。

 

「災難だったな」

 

「いいんです。ディアさんが眠ったあとに、ちゃんと報復しますから」

 

 いい笑顔だが、目が笑っていない。結構怒ってるな、レヴィ。

 

 俺はレヴィから帽子を預かり、水を拭き取りながらクエストについて聞くことにした。

 

「またリーダーが無茶を言い出してな。今度は魔王軍との紛争地帯に出稼ぎに行くらしい」

 

「あはは、リーダーの急な思いつきは、いつものことですもんね」

 

 同じ目線で共感してもらえるって素晴らしい。

 これならレヴィは反対してくれるかもしれない。

 

「でも、今回は私も賛成です。ペットたちが最近、暴れられてなくてイライラしているので」

 

 お前も賛成かよ。

 お前の飼っている魔獣、とても「ペット」の分類に入れちゃいけないような奴らだろ。

 

「レヴィ〜、モブから話聞いた〜? 戦場に行きたいんだけど、どうする〜?」

 

 リーダーとディアが下りてきた。

 

「レヴィも賛成だとよ」

 

 リーダーは満足そうに頷いた。

 

 すべてがこいつの思い通りに進んでいくのが、非常に癪だ。

 あんなに怪しさマックスの求人なのに、どうして誰も突っ込まないんだ?

 俺がおかしいのか?

 

「あとはモブが賛成なら、反対なしで決定ね!」

 

 リーダーのまとめに入った声。

 あぁ、悪夢だ。

 

「……はぁ。分かったよ。これで全員一致で、戦場行き決定だ」

 

 気持ちを切り替えることにした。

 行くのは、もうしょうがない。

 

 大切なのは、非戦闘員がどうやって戦場で生き残るかだ。

 何の対策もなしにこいつらに付き合っていたら、命がいくつあっても足りない。

 

「ただ、俺は非戦闘員だからな。戦場に行っても、前線には絶対にいかないからな!」

 

 こうして、俺も含めた全員一致で、戦場行きが決まってしまった。

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