え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~ 作:猫豆腐
街道を高速で突き進みどれくらい経過したかわからない。
焦りから体感数時間にも感じるが、実際1時間も経っていないかもしれない。
リーダーたちで何とか飛びかかるモンスターは撃退できているがいつまで持つかわからない。
追いかけてくるモンスターは既に百はかるく越えていると思う。
今のバランスが少しでも崩れた瞬間に蹂躙されることは確実だ。
「悪いリーダー! 魔力が切れそうだ」
ディアが水球で撃ち落しながら叫ぶ。
「わたしもそろそろ切れそうです」
レヴィまで魔力切れか、頼みの綱はリーダーだが。
「二人とも下がってポーション飲んで回復! それまで私とメイで何とか持ちこたえる、いけるわねメイ!」
「……まだ、余裕」
メイがモンスターの腕を切り、リーダーの光弾がぶち込まれて吹っ飛ぶ。だけどモンスターの数からしたら焼け石に水だ。
正直二人で長時間維持できるとは思えない。
まずいな、バランスが崩れ始めた。それもこちらが悪い方にだ。
荷台の入り口からディアとレヴィが下がってくる。
「悪いが積荷で手がいっぱいだ。俺のバッグからポーションとって自分で飲んでくれ」
「はいよ」
バッグの中に勢いよく手を突っ込んで、赤色のポーションを取り出し一気に飲んだ。
「ディア、レヴィ早く来て、手が足りないの!」
二人が戻り代わりにリーダーが来てポーションを飲む。
残りは三本しかない。
もっと用意しておけばよかった。結果論か。
ポーション使い切ってから考えたら間に合わない。
親方には悪いが。
「親方! こっちがじり貧だ。対処しきれない。選んでくれ!」
「選ぶって、何を……ああそういうことかよ!」
御者台の方から何かを叩きつけた音が聞こえた。
この状況でキャラバンの速度を上げる方法はもう一つしか残されていない。
これ以上速度をあげられないのならおもりを減らす。
つまり――
「……だぁもう! 大赤字だよクソっ、積荷を全部捨てやがれ!」
「すまない親方」
積荷の護衛で依頼主に積荷を捨てさせるなんて、冒険者としてド三流もいいとこだがいまさら気にしている余裕もない。
「本当に捨てていいのね」
「それしかもうないだろ、リーダーこの状況どうにかできるか?」
「無理よ。……依頼は失敗。でも命が優先ね」
少しだけ物憂げな表情を見せたと思ったら真剣な表情に変わる。
「リーダーとして命じるわ! 生き残るために積荷を捨てるわよ!」
わざわざ宣言しなくたって俺の判断で捨てたってことにしてもいいのに。
こういうときだけちゃんとリーダーするのはずるいぞ。
「モブ、手伝いなさい!」
「もうやってる」
荷台の近い方の積荷に、糸を複数本まとわせて持ち上げ、引き寄せていく。
今回運ぶ目的であった食物、装飾品、素材、魔道具、中身関係なく、入り口からモンスターたちに向けて投げ捨てる。
積荷が減って重量が軽くなった分だけ、少し速度が上がった気がした。
積荷を捨てるついでに、ダメ押しでバッグから自衛用の火炎瓶も後方に投げ捨てる。
炎が街道を横断して前列のモンスターが一瞬だけ怯んだ。
続いて閃光石を一個放つ。白い光が弾けてまた少し距離が開く。
それでも稼げた時間は一秒か二秒、気休め程度だがそれでもかまわない。距離が少しでも離せれば。
半分以上の積荷を投げ捨てて、ようやく飛びかかってくるモンスターの数が減ってきた。
こっちの速度が出てきている証拠だ。
リーダーも荷台の入り口に戻り、今はまたディアがこちらに来ている。
「なぁモブ、なんかここ暑くねぇか」
「ああ? 焦っているからだろ? いいからポーション飲んだらレヴィに渡してやれ」
レヴィがディアの後ろから前に出てきて口を開く。
「いえ、たしかに暑いですよここ、不思議なくらいに」
「そんなこと今はどうでも――」
そこまで言って頭の中に数日前の記憶が駆け抜ける。
『積荷の一つが熱を持っているみたいで、確認してもらえるか』
『黒金樹の木材で作った箱でな、この木は気温の変化で熱を持つ性質があるんだ』
心臓が飛び跳ねる感覚があった。
俺が今思っていることは完全に勘だ。
根拠がない。でも無視するにはあまりにも状況が整いすぎている。
俺は急いで魔力糸を例の黒金樹の箱にまとわせて積荷の奥から手繰り寄せる。
途中で積荷の一部が崩れるが気にしない。
「っ熱!」
木箱に手を触れた瞬間にわかるほどの異常な高温、モンスターに関係しているかわからないが明らかに異常なことが起きていた。
「親方! 黒金樹が異常に熱い、やけどしかけるくらいだ! 通常ここまでなるか?」
「やけどするくらいだと!? 聞いたことねぇ、モブ! 積荷に何が起きてんだ!」
「俺が知りたいから聞いたんだよ、この箱開けるからな!」
手で触れられないので魔力糸を使って黒金樹の箱を開けると、熱気が溢れてくる。
やっぱり箱じゃなくて中身が原因かよ。
中には人の頭ほどの黒い球のようなものが入っていた。
中心部が赤色に強く光っている。
なんだこれは、見たことがないけど魔道具か?
「モブさんそれなんでしょうか?」
「それが熱の原因か?」
ディアとレヴィが横から覗いてくる。
俺は魔道具に糸をまとわせて魔力を確認した。
用途は不明、使用方法も不明、情報としてわかったのはこれが暴走とかでなく安定していて、現在起動状態になっているということだ。
贈呈品だと親方は言っていたがそれでないことは確かだ。
積荷は半分以下でこの後も捨てる必要があるかもしれない。
今更積荷の管理なんて必要ないから俺がここにいる必要もすでにない。
それよりも親方に確かめることがある。
俺は積荷を隙間を通り抜けてキャラバンの先頭、親方のいる御者台に向かった。
「親方、聞きたいことがある」
「どうしたモブ、モンスターたちはどうなっている? 何とか振り切れそうか?」
「親方、黒金樹の積荷、中身贈呈品じゃなくて魔道具だった。何を隠している?」
「魔道具? あいつは確かに貴族への贈呈品だと言っていたが何も隠していることはねぇよ」
「……あいつって依頼主か?」
「ああ、積荷を載せているときに急に現れて、報酬は前払いするから一緒に王都まで送って欲しいって来たんだ。たまにある話しだ」
「そいつの名前とか顔とか把握しているか?」
「いや、匿名希望だそうでな、金払いもよかったからわざわざ追及はしなかったんだ」
そこまで会話して顔に汗が垂れてくる。
普段見かけないはぐれの出現。その後の大群。街道の荒れた跡。
見かけない魔道具とそれが今起動中になっていること。
匿名希望で中身を詐称してまで親方に渡したこと。
そして、俺たちの目的地。
頭が明滅するような感覚を覚えて、物事が最悪の形でつながってしまった気がした。
外を見る。
整理された街道、街灯もだいぶ増えている。
王都にだいぶ近づいていた。
「親方、王都まであとどれくらいだ」
「今の速度であと二時間といったところだ。いったい何するつもりだ」
「黒金樹の積荷を捨てる」
「そいつは前払いで受けた品だぞ! 貴族宛ての品が届かないなんてことになったら」
「分かっている。でもこれが原因だ……と思う。」
親方が目を見開いて一瞬だけ黙り俺を振り返る。
俺は親方の目を見た。
「……なら話は早い。さっさと捨てやがれ」
魔道具が入った状態の黒金樹の箱を荷台の端まで引き寄せ、箱を後方の街道に落とした。
大群の先頭がキャラバンを急に無視して、落とした黒金樹の箱に群がっていく。
それに続いて後列も、横列も、次々に向きを変えて街道に落ちた木箱に集まっていく。
波が引くように、追跡が止まった。
地響きが遠ざかっていった。
◇
息を切らしたリーダーがこちらに近づいてくる。
「何したの」
「捨てた」
「何を」
「問題の魔道具を」
リーダーが後方を見ると大群が木箱に群がっているのがまだ見える。
だがモンスターどもが追ってくる気配はもうなかった。
「……あれが原因だったの?」
「たぶん。確証はないが見ての通りだ」
レヴィとメイが荷台入り口から戻ってくる。
「なんだ、あいつら急にあたしらに興味をなくして」
「……ずっと、何か変だった」
レヴィが最後にこちらに戻ってきて、後方をもう一度確認した。
「……ごめんなさい。安全だと思っていたのに間違えました。」
「レヴィの判断は間違っていなかった。あれはイレギュラーだ」
「でも」
「あの箱が積荷になければ、お前の見立て通りだったはずだ」
レヴィが少し黙る。それ以上は言わなかった。
依頼の積荷は半分以上捨てた。自衛用のポーチも空だ。
親方が前で何も言わずに手綱を握っていた。
「すまない。積荷を半分以上捨てることになった」
「いや」と親方が言った。「命があったんだ。それ以上言うな」
ラプチャーの息が少しずつ落ち着いく代わりに地響きは遠ざかっていった。
気が付くと日が完全に落ちて視界が悪くなっている。
暗くなった街道を照らすように、王都の魔導式街灯が前方に並んでいるのが見えた。