え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~   作:猫豆腐

22 / 23
第22話:残業代って出て……くれないよな

 

 王都の門が見えた時、正直ほっとした。

 

 キャラバンを引くラプチャーの足取りが重い。

 あれだけの速度で走らせ続けたんだ無理もない。逆によくここまで引っ張ってくれたと思う。

 

 親方が一言も言わずに手綱を力強く握り続けている。

 表情からは感情を察することができなかった。

 

 検問のためにキャラバンが門の前で止まる。

 他のキャラバンもあるが夜ということもあってすぐに順番が回ってきそうだ。

 

 門付近では魔導式の街灯が整然と並んでいる。

 一定間隔で橙色の光が灯っていて、街道の輪郭がくっきりと浮かび上がっている。

 

 昼間に見たぽつぽつとした路面灯とは密度が違う。

 夜なのに明るさがあり王都はこれが当たり前らしい。

 田舎者みたいな感想だが、初めて見ると少し圧倒される。

 

 さっきまでの状況との差に緊張が少しほぐれた気がした。

 地響きはもう聞こえない。

 積荷を捨てたせいで依頼としては完全に失敗ではあるが、門を通り過ぎれば一応依頼は終わり……なのか?

 

「なんとか着いたわね」

 

 リーダーの独り言が聞こえてくる。

 いつもの声量より少し低い、疲れているような声色。

 俺が奥で積荷と向き合っている間、ずっと応戦していたのはこいつらだ。

 

 魔王軍との戦場以来、久しぶりに命の危険を感じた。

 誰も余計な行動はせず自分ができることをやれた結果だ。

 

 今回に限ってはこいつらでよかったと思う。

 普段からこの感じであってくれれば言うことなしだが、性格上無理か。

 

「……なんかこのまま飯食う雰囲気でもねぇよな」

 

 ディアの方を振り向くと、荷台の縁に肘をついて外をぼんやり眺めていた。

 メイは刀に手がかかったまま目を閉じている。寝ている?

 荷台の入り口ではレヴィが俺たちが来た道、モンスターがいた方を黙ってみていた。

 

 全員、疲れてはいるが怪我はない。

 

 それだけ確認して俺は前を向く。

 

 目の前にある積荷は既に半分になっており、遠征前にパンパンだったバッグも今やほぼ空っぽだ。

 空間が増えて、荷台がやけに広く見える。

 十日間ずっと積荷の固定を確認し続けてきた場所だからこそ妙な感覚を覚えてしまう。

 

 親方が手綱を引いてキャラバンが止まった。

 

 荷台からのぞくと門の前に騎士団員が十数人立っていた。

 夜の門番にしては人数が多い。

 

 少し見ていると様子がおかしく、落ち着きがない。

 あちらこちらと走り回っている。

 たまに怒声が入りながら何かを早口で話し合って、もう一人が街道の方角を何度も確認している。

 

 これはあれか? モンスターがらみか?

 

 でも確認している方向は俺たちが来た道とは違う方角だ。別件か?

 

「なんか騒がしいな」と騎士達の剣呑な雰囲気を感じ取ったのかディアが目を細める。

 

 騎士団員の一人がこちらに気づいて近づいてきた。

 

「通行の方ですか? 今夜は王都周辺で大規模なモンスターの出没が確認されています。街道を通られてきたなら何か見ませんでしたか」

 

 めちゃくちゃ見てきました。というか襲われて追われて逃げてきました。

 

「華麗に撒いてきたところよ!」

 

 リーダーの発言で騎士団員の目が変わった。

 

 ◇

 

 あの後リーダーの発言を聞いた騎士団員が、門の脇の詰所に入っていった。

 すぐに大柄な体格の隊長格の男が出てきて、俺たちの経験したことを話す。

 街道で大群に追われたこと、積荷の一つが原因だと判断して捨てたこと、捨てた場所の大まかな位置。

 すべて話した。

 

「……と、まとめるとあなた方は急にモンスターに襲われて、心当たりはなかったが、軽くするために捨てた積荷が原因かもしれないと」

 

「間違いねぇ、おかげでこっちは大赤字だぜ」

 

 親方が肩をすくめて話すが隊長の反応は薄い。

 

 隊長ができたばかりの記述書を見ながら口を開く。

 

「あー、気分を悪くしないでほしいんだが、あんた達が引き起こしたってことは」

 

「襲われたんだ! そんなわけないだろ!」

 

 間髪入れずに親方が返す。

 隊長の疑いは確かに理解できないこともないが、当事者としては面白くない話だ。

 

「すまない、形式上の確認だ。あんたたちが仕組んだなんて別に思っていない」

 

 だがと前置きして

 

「今みたいな報告が複数確認されているんだ。こっちも何が起きているか少しでも情報が欲しい」

 

 同じことが複数だって?

 

 なら俺たちが体験したあれが王都周りで同時多発的に発生しているということか。

 それは、つまりとんでもなくヤバい状況になっているのでは。

 

 俺たちは原因っぽい魔道具を捨ててきたけど、他の人はできたのか。

 王都内にすでに持ち込まれている可能性はないのか?

 

 隊長の懐から音が鳴って現実に戻される。

 隊長がそれを耳元にもっていって話始める。

 通信機なのか、あれは。

 

「ああ、俺だ。確認が取れた。こっちでも同じだ。原因は例の新型魔道具らしい」

 

 何か指示を受けているようだが内容までは聞き取れない。

 隊長が通信機を離しこちらに向き直る。

 

「すまない他の隊からの通信だ」

 

「新型魔道具、ということは複数の商人に同じものが渡っていたということですか」

 

「完全に事態を把握しているわけではないがそうらしい。商人に紛れて運ばれるため我々も把握が遅れてしまった」

 

 隊長格の男がばつの悪そうな顔で言った。

 

 つまり今夜起きていることの原因は、俺たちが捨てた木箱だけじゃない。

 同じものが王都周辺のあちこちに撒かれていて、それぞれが大群を引き寄せている。

 王都周辺が同時多発で動いている、ということか。

 

「とりあえず中で確認することは終わったからキャラバンに戻っていい。そこの冒険者たちもだ」

 

 変に疑われなかったことに安堵し、隊長に促されて扉を抜けて階段を下りた。

 

 詰所から外へ出ると先ほどよりもあわただしく騎士団員が動き回っている。

 

「大変ね」

 

「次はギルドへの報告か? 面倒くせぇ」

 

 リーダーとディアも外へ出てくる。

 メイが無表情のまま騎士団員たちの動きを目で追っていた。

 

 レヴィが「王都で打ち上げ出来なさそうですね」と小声でつぶやく。

 割と楽しみにしていたらしい。

 

 飯を食おうにもこの騒ぎじゃ市内もいつも通りってわけじゃないだろうからな、打ち上げはお預けだ。

 

 騎士団員を見ると何人かが魔導通信機に向かって早口で話していた。

「東……繋が……ました!」「副団長……連……を」「副団長は今どこだ!」「南側の対処中です!」「そ……が終……次第こちらに……」

 声が重なって全部は聞き取れなかったが、向こうも手が足りていないのは理解できた。

 

 副団長。

 つまり王国近衛騎士団副団長のことだ。

 時期勇者候補だの言われている人物。

 

 おとぎ話や英雄譚から出てきたようだと噂されていて、いけ好かないと思ってしまう。

 だが今の状況においては近くにいてほしかったと同時に思った。

 

「ちょっと、聞いているの!」

 

「ああ悪いボーっとしていた。どうした」

 

「だから隊長がまだ話しがあるんだって」

 

 このタイミングでさらに話すことなんて内容が限られている。

 俺の長年連れ添った嫌な予感が警鐘を鳴らし始めている。

 

 聞かずに無視して王都市内に行きたい。

 けどここで逃げたらなんて言われるか分かったもんじゃない。

 最悪事件関係者にされたり……聞くしかないか。

 

 その場で待っているとリーダーの背後から隊長が近づいてくる。

 

「一つ頼まれてくれないか、依頼という形でもいい」

 

 その頼みってまさかとは思うが案内しろとかじゃないよな。

 

「積荷を捨てた場所まで、案内してほしいんだ。現地の状況を把握したい。そこの商人も一緒に」

 

 そう言って隊長が親方を見る。

 親方は力なく詰所の横に座り込んでこちらを見ていた。

 

 やっぱりそういう話になるか。リーダーが安請け合いする前に口を挟まなくては。

 

「俺たちは護衛の依頼で来ただけです。案内まで含まれていません」

 

「承知の上でだ。現場の位置を正確に把握しているのはあなた方だけで」

 

「地図に描きます」

 

「夜道の街道で地図だけでは」

 

「……」

 

 ちくしょう……言い返せなかった。

 向こうの言い分は正しい。

 

 暗い街道で地図だけ渡されても、場所の特定に時間がかかる。

 時間をかければその分後手に回って大群が動く。

 

 都合よく場所を把握している当事者にB級冒険者パーティがいる。

 そりゃ案内しろって言うか、でも嫌だ。本当に嫌だ。

 

 魔力が全員残っていない。体力も使っている。夜間戦闘に慣れていない。断る理由はいくらでもある。

 手が足りないのはわかるが、それに同情して手伝う義理はないはずだ。

 

 断ろうとして座っている親方が視界に入った。

 表情は読めない。

 何を考えているのか、俺には分からなかった。

 

 今夜、この人は被害者だ。

 見知らぬ誰かから荷物を預かって、それが原因で大群に追われて、積荷を捨てられた。

 

 王都に着いたからはいさよなら。

 放っておいて王都の宿に押し込めばいいという話じゃない。

 

 十日間短い期間ではあるが親方を見てきた。

 関わってしまった。

 

 親方に許可はもらったが積荷を捨てたのは俺だ。

 依頼の荷物を半分以上捨てて、親方を赤字にした。

 その判断は正しかったと思っている。だけど後始末まで放り投げていいかというと、そうじゃない。

 

「……親方」

 

「なんだ」

 

「王都に残ってくれ。宿を取ってラプチャーを預けて休んでてほしい」

 

「お前たちは」

 

「戻ります。いいよなリーダー?」

 

「当たり前でしょ、勝手に隊長と話し始めるから、モブが断ろうとするんじゃないかとヒヤヒヤしていたわ。

 親方はモブのいうように休んでて頂戴。平和を守るのは勇者の仕事よ」

 

 それでいいわねとリーダーがみんなを見まわす。

 否定する人間はその場にいなかった。

 

 親方が俺たちを見た。何か言いかけて、やめる。

 

「……気をつけろよ」

 

 それだけだった。

 

 隊長と目を合わせて向き直る。

 

「案内、頼めるか」

 

「わかりました、案内します。ただし条件があります。

 非戦闘員が一人います。戦闘になった場合の保護は騎士団側でお願いします」

 

「途中までかっこよかったのに……」

 

「自分の保身かよ」

 

「まぁでもあの数だと気づいたらモブさんやられてそうですし」

 

「……締まらない」

 

 こうでもしないとレヴィの言う通り数の暴力に飲まれる気がするんだよ、なんとでも言ってくれ。

 

「それともう一つ今回の報告書、王国騎士団の署名付きでください。積荷の依頼元に説明するのに使います」

 

 隊長が少し驚いた顔をして「そういうことなら」と了承する。

 

 親方に積荷の金は入らないかもしれないけど、これで少しでも負担を減らすことができればいいが。

 

 リーダーが「モブって交渉する時だけ別人みたいね」と小声で言った。

 

 だけとはなんだ、いつもこうだろうが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。