え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~   作:猫豆腐

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お久しぶりです
少し書き溜められたので投稿再開します


第26話:冒険者ってなんだっけ?

「金がねぇ!」

 

 ホームの居間で俺の声がむなしく響いた。

 

「朝からうるさいわね、金がないのはいつものことでしょ」

 

 リーダーが耳に手をあてながら不快そうな顔で見てくる。

 いや、金欠がいつものことなのは避けたいんだけどな。

 

「そうじゃない。金欠くらいなら俺も言わないさ」

 

「ってことは結構ヤバい感じか? この間の遠征報酬なかったもんな」

 

 ディアも会話に入ってくる。

 俺の書きかけの帳簿を見ているがきっと理解はしていないだろう。

 

「ヤバい。非常にヤバい」

 

「あーもう、どれくらいヤバいのか、もったいぶらないで言いなさいよ」

 

「このままだと今月の生活ができない……」

 

「そんなに?」

 

「そんなにだ」

 

「そうは言ってもなんとか」

 

「ならない」

 

 広い居間に沈黙が流れる。

 

 かくしてサイレントプレーンは依頼どうこう以前にバイトをする必要が出てしまった。

 

 

 

 

 とか言っていたのがつい2週間ほど前の出来事で、現在は各人バイトの成果報告のためにホームに集まっている。

 

「第一回! サイレントプレーン・バイト収支報告会よ!」

 

 第二回があってたまるか。

 

 ノリノリで「おー!」と手を叩いているディアに、とりあえず「お、おー」と消極的に乗ってみるレヴィ、そしてまばらな拍手をするメイといった、いつも通りの面々だ。

 

「さぁって、まずは私からと言いたいところだけど、私はすごいから最後にするわ、モブからお願い」

 

 バイトの稼ぎの報告でもったいぶるってなんだよ、よっぽど稼ぎよかったのか? リーダーが働いて?

 だめだ皿割ったりマイナスにしている姿しか想像できない。

 まぁリーダーが最後に言うなら大人しく待つか。

 

「俺は普通に近所の飯屋でバイトしていた」

 

 テーブルの上に財布を乗せて銀貨を取り出す。十数枚だが自分の生活をしながら2週間での稼ぎなら、いい方だと思う。

 

「やっぱそんなもんなのね」

 

 鼻で笑ったリーダーを思わず睨んだ。

 ほう、言ってくれるじゃないか、これで俺より少なかったらめちゃくちゃバカにしてやるからな。

 

「なかなかやるなモブ、でも今回はあたしの方が上だな」

 

 ディアの方へ目を向けると革袋をテーブルの上に置いていた。ジャラリと、明らかに重みを伴った音が聞こえてくる。

 

「これがあたしの稼ぎだ!」

 

 ディアが紐をほどくと袋いっぱいに銀貨が入っていた。

 

「わぁ、すごいですねこんなに」

 

「よくやったわディア!」

 

「…………」

 

 黙ったまま拍手をするメイにならって俺もする。

 まばらな拍手の音が聞こえた。

 

「いったいどうやってこんなに稼げたの?」

 

「それは秘密だ。まぁいつものバイトだよ」

 

 そう言いながら得意げに鼻の下を擦る。

 

 ディアは時々バイトと称して数日から数週間ホームを空けることがある。帰ってくるときの状態は様々だが大抵は血で汚れた服装だ。

 最初は怪我でも負ったかと全員で心配もしたもんだが、それがディア自身のじゃなくて誰かの返り血であったことが分かって、それが毎回続くもんだから今じゃ誰も心配なんてしない。

 

 隠しちゃいるが大方表じゃなくて裏の人間の護衛とか用心棒としてだろうな。

 

 隠したいことや言いたくないことは誰にだってあるんだ。たとえ共同生活を送ってたとしても、相手の不可侵領域には極力踏み込まないようにしている。

 このパーティの暗黙の了解だ。

 

「あたしは自分の分は確保したから、これはパーティに使ってくれ。モブ、これで足りるか?」

 

「ああ、とても助かる。正直これだけでもほぼ資金としては十分だ」

 

「ならよかった。あいつを消さないで済みそうだ。解放しても問題ないな」

 

 は? 消す?

 ディアが笑顔で言うけど、内容が物騒すぎる。お前のバイト本当に何しているんだよ!

 

 パーティの暗黙の了解とか知らねーよ、気になりすぎる。

 逆にそいつを消したら金がもらえるのか、お前本当にこのパーティにいて大丈夫なんだよな?

 ある日突然衛兵が訪ねてくるとか嫌だぞ。

 ちゃんとそいつ解放しろよな。

 

「じゃ、じゃあ次はわたしですね」

 

 レヴィが懐を探っている。

 

 なんでさっきのディアの発言をみんなスルー出来るんだよ。

 

「わたしはディアさんと比べると少し少ないのですが」

 

 そういって懐を探り続けている。

 

「ペットのみんなにも協力してもらって」

 

 ゆったりとしたローブのような服についているポケットを裏返す。

 

「確かにしっかり確実に稼いで」

 

 レヴィの顔色がだんだんと悪くなり、目に涙がにじんできている。

 

「確かにポケットに入れて確認したのに」

 

 これはやってしまったかレヴィよ。

 

「あーレヴィ言いにくいんだが、もしかして……やらかしたか?」

 

「モ、モブさん。すみません。でもあるはずなんです。あったはずなんです!」

 

「謝んなくていいから、周り見てみろ。怒っているやつなんていないから」

 

「そうよ、不可抗力ならしょうがないわ」

 

 実際レヴィの分がまるっきり無くなったのは痛いのは痛いけど、ディアの稼ぎがあるから問題ない範囲だ。

 

「わたしの革袋。この前買ったばかりのお気に入りの、小さくて、紫の革袋。革袋……」

 

 レヴィがすっかりうなだれてぶつぶつと独り言を繰り返している。

 よほどショックがでかいんだな。あとで一緒に探してやるか。

 誰かに盗られてないといいが、まぁ期待はできないな。

 

「……次はメイ」

 

 そう言って箱を取り出してふたを開けると、銀貨と銅貨が詰まっていた。

 俺以上ディア未満といったところか。

 バイトの内容はたぶん用心棒だろうな、出会った当初のことを思い出す。

 

「……頑張った」

 

 薄い胸を張って言う姿に、思わず頭を撫でたくなる。こいつはふとした瞬間に小動物的になるから侮れん。

 懐柔されてしまいそうになる。

 実際は血みどろの抗争に伴う小型肉食獣なのに見た目がそれを許してしまう。ずるいと思った。

 ディアにその和ませる空気を分けてやれ、あいつは物騒すぎる。いや、物騒さで言えばお前も変わらないか。

 

「満を持して私ね! これを見なさい」

 

 そう言いながらリーダーが手をテーブルに叩きつける。

 

 なんだ数枚の銀貨か? 2週間でリーダーの浪費も考慮すると想定内の範囲だが。

 

 リーダーが手をどかして、テーブルに置かれていたのは2枚の金貨だった。

 

 金貨!?

 

 あのリーダーが金貨を稼いできただと!

 

 しかも2枚とかこの前の遠征で言われていた報酬より多いじゃないか。いったいどうやって。

 

「リーダー、これどうやって」

 

 手を口に当てながらディアが問う。

 

「ま、私にかかればこれくらい余裕ってことよ」

 

 いや本当にどうやって稼いだんだ?

 

 ディアやメイみたく裏相手に用心棒とかやったのか。

 

 ダメだ見当もつかない。

 

「これだけの稼ぎがあれば、しばらくは借金返しながらでも楽できるでしょ」

 

「確かにこれだけあれば楽はできるが」

 

「みんな、私に感謝しなさい。家計を救った救世主よ!」

 

 手を胸に当ててそう宣言した。

 

「とりあえず全体の集計はモブ、お願いね」

 

 そう言ってテーブルを背にリーダーが振り返る。はらりと、ポケットから紙切れが落ちた。

 

「リ、リーダー。何か落ちましたよ」

 

 レヴィがそれを拾い上げた瞬間に、すごい勢いでリーダーが近づいてレヴィの手から紙を奪い取る。

 そして紙をそのまま手の中に握りしめた。

 

「あ、ありがとうねレヴィ。そ、それじゃ私は戻るから」

 

 怪しい。

 

 何か隠している。

 

 しかもばれるとリーダーが都合悪くなるようなことだ。

 今回の稼ぎと関連している感じか。

 目の前に地雷がおいてあるなら、踏む前に除去するのは普通だよな。

 

「待てリーダー、手に握ったその紙。なんだ?」

 

「気にしなくていいから、ただの領収書よ」

 

 隠す気だ。少し意地悪だが俺の稼ぎを鼻で笑った罪がある。

 暴かせてもらおうか。

 

 俺はメイに目配せする。

 メイもこちらと目を合わせて、なんとなく意思疎通が取れた気がした。

 

「リーダー」

 

「何よ、もう戻るわよ」

 

 テーブルにあった金貨を1枚掴んで、リーダーに向かって軽い力で投げる。

 

 金貨は緩く放物線を描いてリーダーに向かった。

 

 冒険者とかやっていると反射神経の良さが却って仇になることがある。

 たとえば今みたいに物が顔に向かってきた場合に、反射的に掴んでしまったりとかだ。

 

 リーダーが金貨を掴もうと手を広げた瞬間、メイが一瞬のうちに手の中にあった紙を奪う。

 

「あっ! ちょっとメイ返しなさい」

 

 リーダーが詰め寄ろうとするが、止めるには遅すぎた。

 メイが紙を広げるとそこには領収書ではない、別の刻印が記されたものだった。

 

 これは賭博場の入場券か?

 

「リーダー? もしかしてだけどその稼ぎって」

 

 リーダーに全員の視線が集まるが、当の本人は誰とも目を合わせようとせず、全力で目が泳いでいた。

 わかりやすいほどに動揺だ。

 

 ギャンブルで増やしたのかよ。

 

「な、何よ、稼いだのは事実でしょ。なら結果オーライよ、別にいいじゃない」

 

 おまけに開き直りやがった。

 バイトの稼ぎが少なくてギャンブルで増やしましたと、最初からおとなしく言えばいいのに。

 隠すからいつも印象がどんどん悪くなるんだぞ。

 

「まぁ自分で稼いだ金をどう使うかは自分次第だけど、気を付けてくれよ。稼ぎを全部すったとかじゃなくてよかった」

 

「そ、そんなこと! あるわけないじゃない」

 

 ひときわ挙動不審になって顔色も少し青ざめていた。

 リーダーが動くと、また何かの紙が俺の方に舞って床に落ちる。

 こいつポケットになんでも詰め込みすぎだろ。

 

 床に落ちたそれを拾い上げる。これは飲食店の給与明細か。

 

 目をちらりと通すと稼ぎなんてほぼなかった。皿や物品の破損に対しての補填で、案の定給料が大幅に引かれている。

 差し引いて給料銀貨数枚。

 逆によくマイナスにならなかったな。

 

「この稼ぎでギャンブルに行ったのか、そもそも行けたのか?」

 

 街にある賭博場はたしか入場料がかかったはずだ。

 給料を見た感じそもそも入場できたかも怪しいし、できたとしても遊ぶ資金は残らないはず。

 

 怪しんでリーダーの顔を見ると、顔中が冷汗にまみれていた。おまえ絶対他に何か隠しているだろ。

 

 俺が何か言う前にディアがリーダーに近づいて腕を肩に回した。

 

「正直に言った方が後々のためになると思うぜ」

 

「正直も何も別に悪いことはしてないわ! 金はしっかり稼いできたし、元の出どころなんてどうでもいいじゃない」

 

 それはそうなんだが、こいつの対応が悪いことした人間のそれ過ぎて深堀りしたくなる。

 

「悪いことしてなければ別にいえるだろ。ディアじゃないんだから」

 

「うぐっ、こっちに飛び火させんな、あたしは雇い主との秘密保持があるだけだって」

 

 ただのバイトでまったく内容を言えない秘密保持あるのがおかしいし、他人を拘束したり生死を左右しているのが既に問題なんだが。

 リーダーが終わったらディアも問い詰めるべきか、まずはリーダーだな。

 

「で、どうなんだリーダー」

 

「言うわよ! 昼間に銀貨の入った袋を拾ったの」

 

 それ窃盗だろ。十分悪いことしているじゃねーか。

 自覚あるから言えなかったんだろうが。

 

「別に持ち主が現れても増えているんだから問題ないでしょ」

 

 それが普段勇者を自称する人間の倫理観かよ。

 俺やディアよりよっぽどスラム出身者っぽいよ、お前の価値観。

 

「とりあえず中身を革袋に戻して、拾った付近まで行くぞ。落とし主がまだ探しているかもしれないしな」

 

「わかったわよ」と、リーダーが小さめの紫色の革袋を取り出した。

 

「あ、それ」

 

 レヴィがそれを指さしている。

 おい、まさか。

 

「わたしの革袋、です」

 

「「「…………」」」

 

 もう何から処理したらいいのか、わからなくなってきた。

 

 つまり整理すると、リーダーもバイトをしていたけど、補填などで給料はほとんどなく、今日を迎える。

 レヴィが革袋を落として、リーダーがそれを見つけて拾って、その金を元に賭博場に行って儲けて金貨を2枚まで増やしてきた。

 ということか。

 

「……レヴィのお金、許せない」

 

 メイがゆらりと俺の後ろから出てくる。

 

 手にはいつもの刀が握られていた。

 怒ってらっしゃる?

 

「ここは一時退散するわ」

 

 そう言うリーダーの手には俺の煙幕が握られていた。

 あいついつの間に備品取りやがった。手癖悪すぎだろ。

 絶対盗賊の方が向いているって。

 

「モブ! 使わせてもらうわね!」

 

 手を振り下ろすと同時に、部屋の中が白い煙に包まれて視界が遮られる。

 直後にドアの方向に走る足音が聞こえて、リーダーの叫ぶ声が続いて聞こえてきた。

 

「白すぎてドアが見えないじゃないの!」

 

 バカか、いやこいつはバカだった。知ってたけど。

 煙幕なんだから視界が見えなくなるくらいでいいんだよ。

 

 リーダーを捕まえようと身を乗り出した時、俺の横を何かが通り過ぎたような風を感じた。

 そしてドアの方から、重たい衝突音がして「ごふッ!」っという声と、ばたりと倒れた音が聞こえてくる。

 

 この至近距離でメイから逃げるなんて不可能だろ。

 他のメンバーはともかく、たとえ煙幕で目潰ししようともメイは気配だけで動けるんだから。

 

 少しして煙幕がようやく晴れる。

 俺の前には目を回してドア付近で倒れるリーダーと、鞘をもってたたずむメイの姿があった。

 

 結局そのあとは、リーダーがそれはもうきれいな土下座をレヴィにきめて、謝り倒すことで許してもらえたようだ。

 

 ただ、「もとはわたしのお金なんですから、増えた分のお金ももちろんわたしの分ですよね」とレヴィも有無を言わさない圧をかけて没収していた。

 

 バイトを別々にするだけでも騒がしくなったが、各自稼いでくれた金額をまとめると、だいぶゆとりのある資金になる。

 

 帳簿をつけながら、ふと思ったことがある。

 

 こいつら全員冒険者じゃなくて、バイトしていた方が稼ぎいいのでは?




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