え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~   作:猫豆腐

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第27話:拳でしか語れないことも……お前のそれは暴力な

 

「うぉ〜い、モブ〜、飲みにでも行こうぜ」

 

 まだ昼間だっていうのに、ディアがいやな感じのダル絡みをしてきた。

 

 手には酒瓶を持っていて、既にだいぶ飲んだのか、中身がほとんど無くなっているのが見える。

 

「そんな数字ばかり見てるとよ〜、頭がバカになっちまうぜ」

 

 少なくともお前以下になることはないから安心しろ。

 帳簿を閉じてディアに向き直った。

 

「お前の金だからあまり言いたくないけど、最近金使い荒いんじゃないか」

 

「あ~ん? あまり硬いこと言うなよぉ。この間のバイトで、みんな久しぶりに余裕があるんだからさ」

 

 事実このパーティにしては珍しく、本当に珍しく資金に余裕があった。

 

 備品整備や借金返済分、各自の生活費などを考慮しても向こう一か月は持つだろう。

 だからこそ節約をしないといけないと思うのだが。

 

 目の前で酒瓶を持ちながら、ふらふらと揺れているこの人間を見るに、後のために節約や貯金という思考は存在しないらしい。

 かれこれ一週間もクエストにもいかず、この調子だ。

 

「あとで金無くなってもパーティ資金から出したりしないからな」

 

「それくらいわかってるって、ちゃんと考えて飲んでんの」

 

 たぶん嘘だと思う。考えているというより、無くなったらその時にまた考えればいいやという思考だろうな。

 

「他のやつとはいかないのか?」

 

「リーダーはおしゃれな店とかに行きたがるし、レヴィはあの酒癖だろ?

 メイも騒ぎながら飲むタイプじゃないから、消去法でお前しかいないんだよ」

 

 消去法で俺かよ。

 

「いいじゃねぇかよ~、最近金欠だったし久しぶりに行こうぜ~」

 

「……今はいかない」

 

「そっか」と、ディアの眉が下に落ちる。

 

「だから夕飯でなら行くよ」

 

「おぉ、やっぱり話が分かる男だなお前は」

 

 行かない理由はいろいろあった。

 でも、結局のところ俺も酒は好きだし、帳簿つける毎日から逃げて、気分転換もしたかったということだ。

 

 ◇

 

「がっはっはっは、やっぱ酒だよなー!」

 

 目の前で木製の大ジョッキを持って、酒を一気に流し込む姿を見せるのはディアで、上機嫌なのがこっちにも伝わっていた。

 

 あの後、俺とディアは2人で行きつけの酒場に来ていた。

 酒しかないバータイプでなく、食事もメインに楽しめる場所だ

 店自体治安が良くない方寄りの立地にあって、加えて外観が割とぼろい。

 みんな入店をためらうのかそこまで混雑することはなく、基本安価な割に味がいいので穴場としてよく利用している。

 

 とはいえ店の中は食事時には常に満席で、以前にもっといい所に構えたり外観工事しないのか不思議で聞いたこともある。

 店主曰くここの客層が気に入っていて、店を変えることで逆に敷居が高くなることが嫌なんだとか。

 言われてみれば俺たちもこの雰囲気が好きでここを利用していたんだった

 誰もが大声で話していても気にしないし、ひどく酔えば喧嘩などがすぐ起こるこの喧騒は、確かに大通りや中央区に出したら雰囲気が変わってしまうだろう

 今もあちこちで楽しそうに談笑しているごろつき達が見える。

 一概にきれいになることだけがいいことでもないか、俺たちも今夜は楽しく過ごさせてもらおうか

 

「おまたせしましたー」

 

 酒を煽りつつ待っていると店員が料理を運んできた。

 年季が入っていて、凹凸のある木製のテーブルに今夜の夕食が並べられる。

 

「きたきたー!」

 

 今日は一段とテンション高いなお前。

 

「で、何があったんだよ」

 

「何ってだから言ったろ。久しぶりに飯でも行こうぜって」

 

「それ嘘。お前が俺を誘うときは、大抵何か悩み事を抱えているときだ」

 

 持っていたジョッキを置いてディアが固まる。

 最近気づいたが、自分で解決できなくてどうしようもなくなると、俺と飲んで愚痴を聞いてもらって発散しようとするんだ。

 自覚があるのは知らないけど、今までの経験上今回もそうだと思う。

 

「暴力で解決とかはできないけど話くらいなら聞いてやるぞ」

 

「なんかお見通しみたいで癪だけど」

 

 ディアが頭をかきながら言う。

 

「悩んでいることがあるのは正解だよ」

 

 それからぽつりぽつりと話し始めた。

 

「何と言うか最近あたしを狙ってくるやつがいてさ、あたしも最初はあしらっていたんだけど、どうにも相手の諦めが悪くてね」

 

「なんだ? また暗殺者にでも狙われてんのか?

 だから危険な仕事はほどほどにと日ごろから口酸っぱく」

 

「違うんだよモブ。今回はそういうことじゃないんだ」

 

 じゃあ何なんだよと言おうとしたタイミングで、店の入り口からひときわ大きな声が聞こえてきた。

 

「ようやく見つけたぞ!

 探し回ったとは言え、最終的に見つけられるんだ。やはり運命は2人を結ぼうと祝福してくれている」

 

 だいぶお花畑なことを言うやつがいたもんだ。

 年齢は俺たちと同じくらいに見える。

 姿を見るに平民以上のそこそこ身なりの整った服装、ここの住人ではないな。

 茶色の明るい髪もくすんでいないし、顔にシミや汚れがなくて綺麗すぎる。

 

 服や指に装飾品が多数ついていて、売ればそれなりの金になりそうに感じる。

 こんなところに来るなんて店から出たら襲ってくださいと言っているようなものだ。ごろつきどもの視線は既に装飾品などに向いている。

 だからこそ両脇に取り巻きのような人間を引き連れてきたんだろう。

 だけど守らせるということは、逆に言えば私は金持ちで価値がありますよと宣伝しているようなもんだ。

 

 こういうのに慣れている貴族や、一代でたたき上げの奴とかは金を持っていないように偽装する。

 そういったことをしないで、金持ちであることを顕示しながらスラムの近くに来る世間知らず。

 

 大方、金持ちのお坊ちゃんか下級の貴族の箱入りだろう。

 せっかくいい身なりも大きく飛び出した腹部で台無しだ。

 

 常識知らずの素性なんてどうでもいいけど、俺の自意識過剰じゃなければこっちを見て言ってないか?

 

「ヤバい。あいつだ」

 

 ディアの方から声がして向いてみると、テーブルの影に隠れるように身をかがめていた。

 縮こまるディアとか珍しいものが見れたけど、それより気になるのは――

 

「おい、もしかしてだけどさっきの話の狙ってくるやつって」

 

 言い終わる前に入り口にいたやつが、客をかき分けて俺たちのテーブルの前まで着く。

 そして胸を張りながら宣言しだした。

 

「テーブルに隠れてどうしたんだい。もっとも隠れても君の美しさがあふれ出てしまって隠しきれていないがね。さすがは僕のフィアンセだ」

 

 あっ鳥肌。

 

 急いで俺も身をかがめて、テーブルの下のディアに小声で問いかける。

 

「お前を狙っているやつって間違いなくこいつのことだよな」

 

「そうなんだよ。何とか協力してくれないかな」

 

「協力って言っても何するんだよ。ていうか状況が把握できないんだけど」

 

「そんなところでこそこそと、内緒話なんてどうしたんだい。僕と君の仲に内緒話なんて水臭いじゃないか」

 

 目の前の男もいつの間にかかがんで、こちらを覗き込み会話に入ってくる。

 こいつ絶対人の話を聞かないタイプって言うか、話通じない人種だろ。

 

「ディア、もうとっくにバレてんだから、とりあえず上に出てこい」

 

 そして目の前にいる、やたらキザなこの金持ちを説明してくれ。

 

 気乗りしないのか、のそりとテーブルから黙って這い出てくる。

 普段のハツラツとした様子からは考えられない動きの遅さだ。

 

 というか基本暴力ですべてを解決してきたこいつが、明確に避けようとしているなんて異常事態に他ならない。

 こいつの暴力でどうしようもないほど強いとかなら、俺はもっと何もできないぞ。

 ディアがこの様子じゃ俺が話を振らないといけないのかよ、面倒くさ。

 

「俺たちは飯食ってたんだけど、騒ぎなら他所か後でにしてくれないか?」

 

「おや、すまない僕としたことが矮小な市民ゆえ、自然と視界に入っていなかったようだ。

 すまない悪気があったわけじゃない。ただ僕のディアとあんまりに不釣り合いだったものだから、同席していることが理解できていなかったんだ。

 君は召使いやパシリかな、同じ席に座らせるなんてディアは慈悲深い。

 おっと申し遅れたね、由緒ある名家の子息として恥ずかしい限りだ。僕の名前はジェン――」

 

 ヤバい、もうげんなりしてきた。ディアには悪いが放置して先に帰らせてもらっていいかな。

 自己紹介が始まっているが相手の名前とかどうでもいい。

 

 とにかくこいつは金持ちの息子で、ディアがそいつに付きまとわれているってことだろ。

 一人で実家の凄さを語り始めた男に、顔だけを向けながらディアに小さな声で話しかける。

 

「結局お前何したんだよ」

 

「あたしだって知らねーよ。この間のバイトで護衛をしていたら気が付いたらこの始末だ」

 

「きっかけがないとおかしいだろ。あとお前のことだから物理的にあしらったりしないのかよ」

 

「あたしだって最初はぶん殴って、これ以上近づいたらぶっ飛ばすって言ったんだよ。そしたら『これが君の愛の形なら受け止めよう』って、余計に付きまとわれるようになった」

 

 ディアの目に光がなく、うつろな表情で続ける。

 

「そしてそれ以来、どれだけ殴っても起き上がって寄って来るんだ」

 

 目の前の男とディアどっちからツッコんだらいいかわかんねぇな。

 とりあえず言葉の前に殴る癖はやめとけ、俺もその被害にあっているから。

 

「じゃあなんだ。何もしてないけど惚れられて、殴ったら愛だと思われてさらにってことか?」

 

「そう」

 

「そう、じゃねーだろ」

 

 それがもし本当ならあの男だいぶイかれているぞ

 

「だいたい相手はお前のことフィアンセとか言ってるじゃないかよ」

 

「あたしも訳がわかんなくて怖いんだよ。気が付いたらそう呼び始めてるし、こうやって店にいてもなぜか見つけてくるし」

 

「君!

 僕の話をちゃんと聞いているのかい。今ディアと僕の新婚生活について話しているんだからちゃんと聞き給え」

 

 ……イかれているのであってんのかよ。

 

 せめて何かしら事情があって欲しかった。

 こんなのお手上げだろ。

 

「この前の放置プレイはなかなかよかったね、愛の巣に戻ってまた続きでもしようか」

 

 聞き捨てならない言葉に、勢いよくディアに向く。

 

「お前も何やってんだよ!」

 

「ち、違う! 誤解だって」

 

 両手を振って否定してくる。

 

「この間のバイトしてたろ、こいつがあんまりにもしつこかったし、金も欲しかったから」

 

「おい待て、それってつまり」

 

「迷惑料でももらおうかと拘束して監禁してただけで、やましいことはしてないから!」

 

 収支報告時のディアの言葉を思い出した。

 

『ならよかった。あいつを消さないで済みそうだ。解放しても問題ないな』

 

 あの時のあいつが目の前の男ってことか。

 頭が痛くなってきたな。

 

 これじゃこの男がストーカーか監禁被害者かわかんねーよ。

 幸いなのは監禁されていた本人に自覚がないってだけで、金持ち相手にやってんだよ。

 あっ金持ちだからやったのか。

 

「さあ、行こうかディア」

 

 俺のことなんかすでに眼中になくなったのか、目の前のジェなんとかはディアを連れ出そうと手を差し伸べていた。

 

「何度きてもあたしはいかねぇって言ってんだろ!

 なんでわからないんだよ、諦めろよ」

 

「いや諦めない。家に襲撃してきた強盗相手に、命を奪われる瞬間を助けられたんだ。

 あの姿はまるで戦神のように美しく、そして力強かった。あの瞬間だけは忘れられないさ」

 

 指を組んで、虚空を見ながら語る男の目に理性は感じられず、まるで狂信者のように見える。

 これじゃあディア教の敬虔な信徒だな。

 

「ガラスを破って助けに来た君の姿は戦神や女神に他ならなかった。

 宙に舞うガラスが反射して君を照らす姿は粗暴な感じなど一切なく、一つの絵画のように完成された美に他ならなかった」

 

 語り終わったのか一呼吸置いたジェなんとかは、ディアに向き合って再度話し始める。

 

「君の要望には可能な限りすべて叶えよう。金ならある」

 

 こいつは少し大きめに息を吸い込んで、真剣にディアの目を見つめて続けた。

 

「だから僕のものになってくれ」

 

 その言葉を発する顔だけは、狂信者だとか茶化して言うことのできるものではないと感じた。

 よく見れば手も震えている。

 変な奴だけどディアに対する思いだけはきっと本物なんだろう。

 

 だからこそ厄介だ。

 

「あ、う」

 

 横を見るとディアが顔を赤くしてうろたえていた。

 まぁこれは完全に告白か、なんならプロポーズだ。

 

 変な男とはいえ逆にここまで正面からいったんだ。

 同じ男として、こいつからこれ以上逃げるのはやめてほしいと思ってしまう。

 安い同情だから声には出さないけど。

 

「モ、モブは」

 

 俺の名前?

 

「モブは嫌じゃないのかよ」

 

 ディアが顔だけこちらを向いて目線はあらぬ方向を見ていた。

 なんでそこで俺なんだよ。お前の問題だろうが。

 

「……そうか、そういうことか」

 

 声のした方を見ると、これまた顔を赤くしたジェなんとかが、拳を握りしめて震わせていた。

 どう考えてもこっちは照れとかの赤面じゃないよなぁ。

 ディアが紛らわしい発言するから。

 

「あー、ジェ……ジェードマンさん?

 ディアの今の発言は別に恋愛とかの意味合いはなくてだな」

 

 ジェなんとかが固まった。

 青筋が浮き出て、さらに拳に力が入ったのが見える。

 

 もしかして名前間違えたか、それっぽいと思ったんだが。

 

「ぼぼぼぼ僕の! 名前は! ジェンドリック・バッカーマンだ!

 ここまで庶民にコケにされたのは初めてだ!

 ディアと僕の仲を引き裂さいただけじゃなく、僕の告白を邪魔して、さらにディアをたぶらかそうとする悪い虫め」

 

 間違えたようだ。

 しかもそれを切っ掛けにブチ切れさせてしまったらしい。

 真っ赤になった顔のまま脇にさしてあった剣を抜いた。

 店の中でそんなもん抜くなよ。

 というかいったんまずいかこれ。

 

「成敗してくれる!」

 

 両手で柄を握って、剣を大きく上に振りかぶるが、その時点で動きが止まる。

 

「あっ、なっ剣が」

 

 ジェなんだっけ名前、そいつが剣を振り下ろそうと力を入れるが、剣は空中に固定されたままだ。

 

 ゆっくり剣を出す動作が見れているんだもの、そりゃあ切られないためにこっちも動くでしょ。

 こんな風に魔力糸を数本束ねて、剣を振り上げた瞬間に剣自体に巻き付けるとか。

 強度に不安のある糸でも、振りかぶる勢いがつく前に糸で逆方向に引いてしまえば、力が出せないだろ。

 ましてやどう見ても剣を扱いなれてない素人だ。戦闘力ないと言ってもさすがにこれくらいには負けない。

 

 できれば剣を納めてほしいが男としてのプライドがそうはさせないだろうな。

 痛いのは嫌だし、相手を傷つけるのも得意じゃないが、この喧嘩に最後まで付き合ってやることにする。

 ここで喧嘩を流されたり正論で諭されたら立ち直れない、好きな女の前ともなればなおさらだ。

 

 ジェードマンには申し訳ないと少し思うが、剣を先に抜いたのはそっちだからな。

 勝敗は文句の言いっこなしだ。

 

「このっ!」

 

 糸を振りほどこうとしているうちに少し離れておく。

 周りの客は慣れているから、こういう時には店の中央だけ開けて隅に避けてくれる。

 ありがたいというか、単純に見世物が始まったという感じだ。

 ジェードマンの後ろを見ると既にどちらが勝つかの賭けが行われている。

 スラム付近の住人はほんとたくましいよ。

 

「貴様に勝ってディアをもらうんだあああああーー!」

 

 剣を諦めて手放し俺に向かって走ってきた。

 

「言っとくけどあいつは景品にしちゃもったいないやつだぞ」

 

 たぶんお前が惚れたのはお飾りの景品じゃなくて、ディアの縛られない自由さとかじゃないか、知らないけど。

 

 無策でまっすぐ向かってくる姿は嫌いじゃないけど、俺やお前みたいな物理的に弱い人間は対策しなくちゃ、やっていけないんだよ。

 

 指先から出た糸を前方に飛ばしてジェードマンの足元に糸を張り、一緒に両足をそろえるように糸を巻き付けた。

 ブツリと糸がすぐに切れるが、体勢は崩せたようで、勢いがさらに直線的になる。

 

 みんなみたいなイカれた身体能力は持っていないけど。

 

 体勢を崩したまま、よろめきながらもこちらに突進してくる。

 

 俺だって荷物持ちとして背負っているんだよ。

 

 拳を後ろに引き絞って大きく振りかぶった。

 

 荷物で鍛え上げられたこの拳を食らえ。

 

「ぐっ……」

 

 俺が拳を突き出すのと同時に、そこにジェードマンの体が勢いよく飛び込んで拳が贅肉の付いた腹部に吸い込まれる。

 

 腹に刺さった拳を引くとそのままジェードマンは鈍い音を立てて倒れた。

 

 スラム育ちの庶民なめんな。

 

 とか言いたかったが、こいつのために黙っておく。

 報復とか怖いし俺のためでもある。口は災いの元だ。

 

 倒れてすぐに取り巻きのやつが近づいてきて身構えるが、介抱しに来ただけの様だった。

 そういえばこいつら参戦してこなかったな。

 

「こいつ手助けしなくてよかったのかよ」

 

「私が命じられているのは坊ちゃんの監視ですから、命の危険がなければ問題なしです。むしろこれも経験かと」

 

 意外とスパルタな教育方針だった。

 

 というかうちのアホは俺に任せてどこに行きやがった。

 

 周囲を見渡すと賭けの勝敗で盛り上がっている客に紛れて見つけた。

 なんなら賭けてやがった。

 

「お前の問題だろこれは」

 

「いやぁ、珍しく張り切っているもんだから邪魔しちゃ悪いと思って」

 

 絶対思ってない。ただの言い訳だ。

 どうせ賭けに参加してしまったから、マッチポンプ回避のために自分が参加するわけにはいかなくなったとかだろ。

 

「で、賭けはどうだったんだ」

 

「もちろん、お前に全ベット」

 

 恐ろしい賭け方しやがる。

 

「もし負けたとしても責任は取らないぞ」

 

「お前が負けるとは思ってないから大丈夫。実際勝ったし」

 

 笑顔で親指を立ててくる。

 たまに出てくる俺に対してのその評価の高さは何なんだ?

 

「なんでもいいけど、そこのジェードマンとは今のうちに話しておけよ。目も覚めたみたいだし」

 

「ジェンドリックな。どうでもいいやつと判断した人の名前。てきとうに覚えるのやめた方がいいぞ」

 

 癖みたいなもんだ。

 簡単には治らないし欠点で言えばお前らの方が多いだろ。

 お互い様だ。

 

 ジェンドリックの元へディアが歩いて近づいていく。

 痛みが抜けないのか腹部をさすり、壁に背を預けて座っていた。

 

 ディアがしゃがみ込んで目線を合わせる。

 ジェンドリックはばつが悪そうに顔を反らして、その先で俺と目が合い、またディアに向き直った。

 

「君にふさわしい僕でありたかったけど、庶民に負けてしまった」

 

 俺の場所からだとディアの頭側しか見えないから、今どんな顔でそれを聞いているのかわからない。

 さすがに変顔などはしてないと思いたいけど自信がない。

 頼むからこれ以上そいつのプライドを折らないでやってくれ。

 俺が思うのもお門違いか。

 

「ここまで派手にやって君に愛を示すことができなかったんだ。君に愛想つかされて当然の人間だ」

 

「なぁ」

 

 周りの喧騒の中。ディアの声が俺にはなぜか入ってきた。

 

「悪いがあたしにも気になっている奴がいるんでね。

 この間の仕事であんたを護衛していたから、悪いやつではないのは分かっちゃいるけど」

 

 本人でもないのに胸が苦しくなる感覚を覚えてしまう。

 それは次にディアが発する言葉を察してしまったからだろうな。

 

 ディアが今度は顔を反らさずにジェンドリックに告げる。

 

「諦めてくれ」

 

 喧騒は変わらないがそれでも一瞬だけ空間が静かになったような錯覚を覚えてしまう。

 

 ジェンドリックは数秒ほど目を閉じて、ゆっくりと開けた。

 

「そうか、わかった。

 恋人との食事の邪魔をしてすまなかったな。戦いにもそれ以外にも負けた敗者は、大人しく去るとしようか」

 

 ゆっくりと立ち上がって、

 取り巻きの肩を借りて店の扉にゆっくりと向かって行った。

 

 俺のそばを通るとき、ちらりと目が合ったが、お互い声はかけずにそのまま通り過ぎていく。

 

 扉に手をかけたとき、ディアが少し大きめの声でジェンドリックに声をかけた。

 

「ジェンドリック、一つだけ訂正な、モブとは別に恋人とかじゃないんだ。同じパーティで一緒に暮らしている家族さ」

 

「家族か。いい拳を持った家族だ」

 

 振り向かずにそれだけ言うと外の暗闇に紛れて見えなくなる。

 

 いい拳とかなんだそれ。やっぱり変わっている奴だな。

 

 姿が見えない状態で店の外から声だけが聞こえてきた。

 

「ディア、僕は諦めないぞ! 君にふさわしい男になってまた出直してくる。

 君にふさわしい男になっていた時は、僕が隣で君を守ることを検討してくれ」

 

 俺の隣でディアがポカンと口を開けて呆気にとられている。

 

 それっきり声は聞こえなくなり、帰ったようだった。

 

「変なやつに好かれたな」

 

「ああ全くだ」

 

「そういえば最初にテーブルでジェンドリックにプロポーズされたとき、なんで俺の名前を出したんだ?」

 

 思えばあの一言がなければ、今回俺が出張ることもなく、平和に終わっていたのではないかと思う。

 

「あー、あーれはそう、モブに助けてもらおうと思ってさ。最初に言ったろ」

 

「そんなことだろうと思ったよ」

 

 酒の影響か話すディアの頬はやや血色よく上気している。

 

 酒と言えば途中だった飯の続きとするかね。

 席に戻るとテーブルにジェンドリックの剣が落ちていて、台無しになっていた。

 

 魔力糸の解除タイミング考えてなかった……




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