え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~ 作:猫豆腐
燦々と照り付ける太陽がちょうど真上まで来た頃。僕はギルド通りを抜け、モブたちのいるホームの前まで来ていた。
周りに建物はなく、広々とした庭には平らに均された地面と、手入れの行き届いた植物が育てられている。
懐かしい。昔この拠点をモブたちに渡した時のことを思い出す。
あの時はたしか、まだこんなに友好関係が続くとは思ってなかった気がする。
時間が経つのは早いな。
懐かしみながら歩いていると、あっという間に玄関にたどり着いた。
扉を数回ノックする。
数秒待ってみるけど返事はない。留守かな。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいますか」
声を出して確認してみるが、依然として声が返ってくることはなかった。
残念だけど出直し、かな。
「どなたかいませんか」
やはり、不在みたいだね。
帰る前に少しだけ裏庭も見させてもらおうか。せめてレヴィちゃんのペットたちに、挨拶だけしてから帰ろう。
全身に光の魔力をまとわせる。
周りは白閃光のアークライトなんて名前で呼んでくれるが、正直少しだけ恥ずかしさを感じている。
個人的には移動が速いから、こうして便利に使っているだけなんだけど、気付いたときには僕の代名詞になっていた。
足に軽く力を入れて裏庭に回ると、裏口の扉が開くのを見かけた。
出てきた人物を見て安心する。
よかった。無駄足じゃなかったみたいだ。
「やあ、やっぱりいるじゃないか」
なぜか慌てているみたいだが、たぶん裏口からだから驚かせちゃったかな。
「なんでここにいるんだよ、アークライト……」
開いた扉から出てきたのは、僕の今日の目的。
友人のモブが快く出迎えてくれた。
◇
居間に案内され、久しぶりの談笑にお互い花が開く。
街で団長のお土産を買うついでに、モブたちの手土産も買っておいた。
みんなに喜んでもらえると嬉しいけど、どうやら今日、モブ以外は外出中らしい。
今回、目的は僕のためと、モブのための2つある。忘れないように、もう一度整理しておこう。
1つはモブと模擬戦をすること。今までも模擬戦は重ねたことはあるけど、もれはモブが僕の予想を裏切ってくるのが楽しくて、付き合ってもらっていただけだ。
今回はいつもと違う。王都を発つ前の団長との会話を思い出す。団長の言うことが本当なら、彼が僕にとって、得難い経験になるのだろう。
もう1つはモブの嫌疑を晴らすこと。モンスター騒動では、主に南の対応に追われていたので、僕も最後に合流したくらいだ。
モブがなぜ魔道具を起動したのか、そこで何があったかまでは知らない。
モブには今、王都転覆の嫌疑がかけられたまま、騎士団の預かりとなっている。事態が変わってしまう前に、彼の無実を証明しないといけない。
至った結論は、至極単純だ。
真犯人をこの手で引きずり出す。それ以外に、彼の潔白を証明する術はないと思う。
そのためにはまず、モブが本当に白なのかを判断する必要がある。
僕が合流するまでの、知らない空白に何があったのか、彼から直接話しを聞いて彼が信用に足るのかを見極めることが目的だ。
仮にモブが黒だった場合は……
いや、そんなよくない考え、今はやめておこう。
今は友人として会いに来ているんだ。
疑いから入ってどうする。
ふと、香しい紅茶の匂いが、漂っていることに気が付く。
安物ではなく貴族家でも出されるような質の良い茶葉の香りだ。
せっかく談笑しているのだし、この後の事情聴取も考えると、僕も飲み物が欲しかった。
「ところで、モブが飲んでいる紅茶美味しそうだね。僕にも一杯いただけるかな」
「いただけません。お帰りはあちらで御座います副団長殿」
断られてしまった。
相変わらず気持ちのいい対応をしてくれる。
僕に対してこんな対応してくれるのは、知っている限りモブくらいしかいない。
「ここは客人に茶も出してくれないようなところなんだね、僕は悲しいよ」
この歯に着せない言葉の応酬が楽しくて、つい口元が緩む。
ちょうどいい。事情聴取よりも先に模擬戦でもしようか。
このまま話していても、君が僕の成長につながる鍵なのかが気になって、集中できそうもないからね。
「まぁせっかく外に出るついでだ。模擬戦をしようか、いつものように」
「あのー、アークライトさん? 嫌ですが」
「まぁまぁそんなこと言わずに」
嫌がるそぶりを見せるモブの手を引きながら、玄関まで連れていく。
たしか、さっき庭を見ていた時に、模擬刀があったはずだからそれを使わせてもらおう。
「いーやーだ。絶対に模擬戦なんかしない」
「いいじゃないか、これでも僕は結構それを楽しみに今日来たんだけどな」
一応戦力としての危険度を計る名目もある。君のためでもあるんだけどな。
君はよく戦力がないというが僕はそれに懐疑的だ。
魔力の糸を使用した最小燃費の魔術。
強度や出力、速度に関してみれば彼の言う通りだと思うが、それはその魔術の本質じゃないと思っている。
もし今まで力を隠ぺいしていて、今回の騒動を引き起こすことが可能だとすれば。申し訳ないが、僕も疑いのまなざしを向けざるを得なくなる。
これは僕の目的に加えて、モブの限界を把握する目的も兼ねていた。
だから、争いを好まない君には申し訳ないけど、今回は強引にでも付き合っていただこう。
「あまり言いたくはなかったんだけど驚かずに聞いてね」
話し始めると衝撃が強すぎたせいか唖然としている。
本人からしたら訳も分からずモンスターに追われた中でやったことだ。
まさか、そんなことになっているとは露にも思わなかっただろう。
「君には今回の首謀者としての嫌疑がかけられている」
だから、君を守るためにも。
「モブ。良いように報告してほしければ僕と模擬戦、やってくれるよね」
――僕は君に。『本気の模擬戦』を申し込もう。
◇
会話もそこそこに、互いに剣を構えて向き合う。
モブは王国式の基本的な構えで、両手で刃を潰した剣を構える。
対して僕は、それを自己流に変えて、主に片手で扱う、自分の魔術に特化させた独特の構えだ。
特化といっても今回、魔術は使わないけどね。
「ルールはいつも通り『僕が身体強化含む一切の魔術の行使の禁止。モブはなんでもあり』でいいね?」
「仮にも俺を友人と呼ぶんならやめてくれないか」
モブと話していると、困り果てたような顔で僕に打診してくる。
主張を要約すると、彼は僕が単純な強さという基準でもって、彼を評価していると思っているらしい。
つまり、彼自身には僕が強さ以外の何を評価しているか、自覚がまるでないということか。
モブ。君は本当に面白いね、流石は僕の友人だ。
「じゃあ斬るね」
その言葉と同時に正面に向かって駆け出した。
魔力も小細工もないただの突進に近い動きをしてモブに一太刀浴びせようとする。
鼓膜を揺さぶる、鋭く不快な高音が響く。
僕とモブの間に、火の粉が蛍のように一瞬だけ散る。
僕の剣は、モブが構えた剣によって完璧に受け止められていた。
「さすがモブ、これに反応できるなんて」
今のは確実に終わらせるような、本気の一撃だったのに。
僕の知っているモブは、この速度に反応すらできないはずだ。
はず、だった。
それがまぐれなのか、見切られたのかはどっちでもいい。
身体が無意識に震えた。
開始数秒で既に僕の予想を覆してくれる。
しかも、今も両手で柄を握るように見えて、左の手には何かを隠し持っていて、次がある。
やめようと思っても、口角の筋肉が勝手に収縮を始めてしまう。
ああ、僕は幸せ者だ。
足りない僕に必要なものを持っている人間が、こんなに近くにいるのだから。
「じゃあこれは?」
剣を引いて同じく最高速度、最短距離でモブの横腹に軽く当ててみる。
僕がよく団長にやられている構図を思い出した。
モブは何をされたか分からないといった感じで、目を瞬かせている。
今回は反応できなかったらしい。
違うな。
これは僕がモブを本気にさせられていないだけだ。
自分の要領のなさに、申し訳ない気持ちで胸が重くなる。
せっかく付き合ってくれているのに、友人を見極めるために来たのに、何をやっているんだ僕は。
モブが予想外な反応をしてくれることに浮かれて、相手をその気にさせることもできず。
まるで一人芝居ではないか。
まずはモブにも本気になってもらうのが先だろう。
「モブ、僕に加減はいらないよ。次からは当てるからそのつもりで」
かかってきてくれ。その言葉を最後まで発することはできなかった。
視界が土埃のような色で包まれたと理解すると同時に、粘膜。
人間が鍛えることのできない部位である眼球に、乾いた手で直接触られたと錯覚する刺激が、僕を襲う。
声を上げて叫ぼうと思った。
けど、一瞬息を飲み込むしかできない。
出そうとした声が、喉で詰まって表に出なかった。
続いて鼻から耐えがたい刺激を感じてくしゃみがでる。
そこでようやく胡椒を投げつけられたのだと気付いた。
「手に何か持っているだろうなって予想は経験上していたんだけどね。それを使用するタイミングが完全に予想外だったよ」
本当にどっちなんだいモブ。
今のは僕が本気で君に当てる気がなかったのを見越して、あえて油断を誘うように振舞ったのか。
それとも偶然、僕の意識を外れるタイミングで投げつけたのかい。
さっきまでの、叫びたいほど強い刺激なんてどうでもよくなってしまう。
モブを本気にとか言いつつ、一番本気ではなかった自分に恥じた。
涙溢れるまま、モブを視界に入れる。
君との戦闘はいつだってそうだ。
僕の予想の外からやってくる。
「だから面白いんだ」
「なんでもありって言ったのはお前だからな」
一直線にモブがこちらに走り出した。
途中で自分の得物を投げつけてくるが、普通の戦術は使わないのが君だからね。
一見暴挙に見えるこれも次の布石なはず。
弾き飛ばしてもよかったが、あえて剣を地面に叩き落とした。
「モブのことだから、ただ投げたわけじゃないんだろう?」
言うと同時に落としたはずの剣が、僕を狙って突き上がって飛び出す。
やはり、ただ投げただけじゃなかったか。
でも残念だけど、似たような戦術を以前見たことがある。
首を少しだけ傾けて避けさせてもらう。
再び地面に落下した剣に目を凝らすと、柄から魔力糸がうっすらと見えた。
「魔力糸。ということはモブもようやく本気になってくれたってことかな」
足元の剣が自立して動き、モブの手元に吸い寄せられる。
ついでに周辺に魔力糸を張り巡らしたようだ。
モブは接近してこない。なら今度はこちらから行かせて頂こうか。
なぜか糸使いの糸は強固で、対象の切断などできるような認識を持っているけど、少なくても彼の糸は別物だ。
身体に糸が触れるが強度はなく容易に千切れる。
今のも次への布石か、それともただのブラフか。
さぁ、目の前にまで近づいてしまったよ。
このまま剣を振り下ろせば、次は何を見れてくれるんだい。
振り下げた剣がモブに届くことはなく、体を滑るようにいなされてしまう。
心臓が一度大きく跳ねた。
動きが荒いが団長の動作を彷彿とさせたからだ。
もう一度すぐに切りかかってみるが、今度は剣に当てることもかなわず、半身だけ動かして最小の動きで避けられてしまう。
動きは明らかに僕の方が上だった。モブは様になっているが別に突出して剣術に秀でているわけでもない。
でも、当てることができない。
次も、その次もだ。
これは……魔力糸で動きを読んでいるのか。
まだこんな技を隠し持っていたなんて。
なぜ、ただの荷物持ちの君が、非戦闘員の君がそれを使えるんだ。
驚愕と歓喜に湧く心が同時に溢れてやまない。
ぶつかり合う鉄塊同士の無機質な音が、まるで僕とモブの2人だけのエチュードのように、規則正しく音が奏でられる。
頭の片隅に嫌疑がどうとか、底を見極めるとか雑音が入った。
それを無視してモブに切りかかる。
そんなものなんかに2人の邪魔はされたくなかった。
剣を振る腕自体が、残像を伴って視認できなくなる。
鉄塊が触れ合う無機質な音が聞こえるたびに加速していく。足りない何かを埋めるように一打ごとに満たされていくのを感じる。
モブ、君が僕の答えだったんだね。もっと、もっと一緒に上に行こう。
永遠に続いてほしかった時間に、陰が差し込んだのは僕の剣がわずかにモブの速度を上回ったその時だった。
律動がずれる。先ほどと同じようにいなし、避けて対応するが僕の剣が当たり始めてしまう。
「模擬戦だからってやりすぎだろ」
モブの声に、一気に冷や水をかけられた気分になる。
少し、はしゃぎ過ぎてしまっただろうか。
君が想像以上だったから、途中から僕の方が熱くなってしまったみたいだ。
足元に魔力糸が巻き付けられ、モブが後ろに飛んだ。
僕の間合いから逃げようとしているらしい。
「最後がそれだなんて少し、残念だ」
もう少し2人のあの時間を堪能していたかったのに、それが許されないなんて。
せめてのお礼に、最後は僕の奥義を披露しよう。
巻き付けられた魔力糸なんて、足に力を入れて片足を後ろに引くだけで、いともたやすく切れる。
そのまま足を後ろに引いて体勢を低くした。
たしか似たような技術があったはず、居合いとかそんな名前だった気がする。
地面を全力で踏み抜く。
『たが君自身が素直すぎる。間合いを意識しろ、反応できないほど速く動けても、先を読めてしまえば意味がない』
団長の言葉を思い出した。
この間合い、この瞬間、モブは空中にいて身動きは取れない。
そこを狙い、不可避の一撃を放てばそれで終わる。
モブに向かって、最高速度で剣を振り切るために力を入れた。
悪いが今回の勝負。
僕の勝ちだ――
「予備動作見せるなんて優しいじゃねぇか」
目の前で歯をむき出しに、獰猛に笑っているモブと目が合った。
空中でさらにモブが動く。
あたるはずの剣がすり抜けた。
「そこはまだ俺の間合いだ」
しまった。と思うにはあまりにも遅すぎた。
剣で防御を、いや既に剣は振り切っている。引き戻す時間はない。
避けようにも足は地面から離れている。
僕の顔に魔力糸が意志を持って迫る。
無視するには粘膜に攻撃されたことが、あまりにも痛烈に、頭にこびりついて離れなかった。
あの糸。針金よりももろく、されど人体の内側を破壊するには十分な強度を持っている。
これが顔ではなく、目、鼻、耳、あるいは口。
どこから侵入しても壊滅的な被害が出る。
時間の感覚がやたらに引き延ばされたと自覚する中で、迫り来る魔力糸が、僕にはまるで死神が手を伸ばしている様に見えた。
「……っ」
無意識だった。
気付いたときには、庭の端まで移動している。
魔術を使うつもりはなかったのに、使わされた。
縛りを設けた上での本気じゃない。
副団長としての本気を、無理やり引きずり出されたんだ。
恐怖。
僕はあの瞬間、モブの攻撃に恐怖を覚えたのだと、わずかに震える指を見て自覚する。
「おい、アークライト、ルール違反だろそれ」
魔術を使って避けたことに対する非難だろう。モブが近付いてくる。
「……モブ、君は今、何をしようと」
「何でもありっていうなら顔面もセーフじゃないのかよ」
「顔、だって?」
僕の考えすぎなのか。
「そうだよ。あまりにも玩具みたいに扱って来るから仕返しにな」
胡椒を使った攻撃すらも、僕に粘膜を意識付ける作戦の一つではないのか。
実際、あの角度、速度はいつでもそういった攻撃を可能にするものだった。
『そういうやつは得てして、いつも予想の外から攻撃してくる』
団長の声が頭の中で聞こえる。
「考え事するんなら外じゃなくて中でいいだろ。茶でも入れるよ。事情聴取もあるんだろ」
「あ、ああそうだね」
ホームに戻るモブを後ろから目で追い続けた。
◇
中に入ると同時に、モブはポーションを一気に飲み干す。
「あー、マジで痛かった。アークライトお前、ポーション代請求するからな」
「もちろん。いくらだい?」
「今飲んだのは特別なポーションでな、高級なやつだから、俺をボコボコにした慰謝料と合わせて銀貨50枚といったところかな」
たぶん嘘をついていると思う。僕も詳しくはないけどポーションの色がくすんでいた。
仮に相場よりいいやつだっとしても、高級ではない物なのは明らかだった。
僕もちょっと熱くなりすぎてしまった自覚はある。
野暮なことは言わず、今回は治療費として素直に受け入れよう。
「モブ、ごめんね。今手持ちで銀貨50枚は持っていないんだ」
「しょうがねーな、ならある分だけでいいよ」
「銀貨はないから金貨で今回は手打ちにさせてくれ」
そういってテーブルの上に金貨を一枚置く。
これでモブの気持ちが収まってくれると嬉しいんだけど、足りなかったかな。
「おまっ、これっ、……はぁ、貴族のお坊ちゃんはこれだから。
いいよ、いらない。多過ぎだ」
金貨はそのまま僕の方に置かれてしまった。
多いなら別に構わないのではないだろうか?
何か気に触ることでも、してしまったのだろうか。
本人がいらないと言う以上、どうしようもない。
その後は団長の言っていたことを確かめたくて魔力糸がどこまで出来るものなのか、詳しくその性能を聞いたりした。
ひと段落したところで、本題の聴取に入る。
用意してもらった紅茶から、模擬戦の熱を緩やかに下げるような心地よさを感じた。
「これからモブに聞くことは友人としてではなく、王国近衛騎士団副団長としてだから、そのつもりで」
「へいへい、つっても俺に何を聞きたいんだ?
俺だって何が何やら分からない中で生きるために動いていただけだ」
「まずは事実から確かめていこう。僕が合流するまでの間、君達サイレントプレーンに何があったのか」
「そんな改まって説明するほど大したことじゃねーよ」
モブがあの日何があったかを詳細に語ってくれた。
「ってわけでユニオン渓谷で一網打尽にするつもりだったけど叶わず、うちのバカリーダーが自爆しようとしたところに、お前が都合よく来たってだけだ」
僕が合流するまでの空白の間も、おおよそ予想通りで安心する。
「起動したのは俺のところにあった一つだけで、その他の魔道具は俺の魔力は検知されてないはずだ。怪しいかも知れないが証拠不十分だろ」
「騎士団の体調や一緒にいた商人の話しと齟齬はないみたいだね」
「なんだ、親方から既に聞いてんのかよ。なら話した通りで、合流した後はお前も知っての通りだ。俺は無実だよ」
たしかに証拠不十分ではあるが、逆に言えば潔白ともいえない状態ということだ。
でもまずは、モブの口から自分の仕業ではないと聞けたことが嬉しい。
「それを聞けてよかったよ。心からそう思う」
「なんだよ急に。キモいな」
「それじゃあ、僕のやることは終わったし時間も遅いからね。モブに嫌われないうちに、そろそろお暇させてもらおうかな」
玄関先の扉が勢いよく開かれる。
サイレントプレーンの面々が続々と帰宅したようだ。
メンバーの無表情なお人形さんから「……ごはん食べてく?」と問われる。
個人的にはご一緒したがったが、友人はそれを望んでいないだろう。
「いや僕はもう」
「夕飯、食っていくんだろ」
断ろうとした僕の声に被せるように、モブが聞いてきた。
「いいのかい?」
「お前がご相伴にとか言い出したんだろ。帰ってもらっても構わないぞ」
僕は目を閉じて考える。
そうだった、目の前の人は口が悪くて、冷たく感じることもあるけど単純に素直じゃないんだった。
「いや、ぜひお願いしようかな」
僕は僕の、アークライトとしての顔で、モブに笑いかけた。
少し離れたところでは「なら今日は奮発ね」「肉だレヴィ」「腕によりをかけて頑張ります」「……メイも手伝う?」と口々にして僕を歓迎してくれている。
「そういえば事情聴取したけど、調書は大丈夫なんだろうな」
無実を証明できない以上、余計な心労をかけさせたくない。
僕は君を友人として守りたいと思った。
君は僕に嘘をついたことなんてない。
誤魔化したりふざけたりはするけど、大切なことはいつだって自分に不都合になる選択をとってしまうお人好しだ。
そんな彼だから、僕は君と友達になりたいと、君の高潔な精神にあやかりたかったんだった。
それは、嘘偽りのない僕の思いだった。
英雄でもなく、副団長としてでもない。ましてや勇者候補へでもない。
僕の経験の糧になるとか、二の次の理由にしかならない。
ただのアークライトとして見てくれるモブの存在は、僕にとってかけがいのない存在だった。
そんな大切なことを忘れていたなんて。
自分に可笑しくなって笑いそうになる。
ならば――
「ごめん、嘘なんだ」
今日のことは知らなくていいことだ。
君は嘘をつかない高潔な人だけど、ごめん。僕は嘘をつく人間なんだ。
「いや、いやいやいやいやどこから」
「君に嫌疑がかかっているってところから」
君は君のままでいい。犯人は僕が必ず捕まえて君の嫌疑を晴らそうじゃないか。
僕は友人として君の生活を守ろう。
「てめぇアークライト! 模擬戦強硬するためにはめやがったな!」
「そうでもしないと、してくれないじゃないか。嘘も方便って聞いたことあるかい」
「しらねぇ、お前と模擬戦なんかもう二度としねぇ」
だから嘘だったということにしておく。
君には真実は伏せておこう。
「モブ、少しいいかな?」
だから、たとえ否定されてしまっても、君を守るために僕はこの提案をしようと思う。
読んでくださりありがとうございます
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