え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~ 作:猫豆腐
「ありがとうレヴィちゃん、貴女の作る料理は王都の料理人と比べても引けを取らないよ」
「ふふっ、そう言ってもらえると張り切って作った甲斐があります」
アークライトを入れた賑やかな夕食だった。レヴィが気合いを入れて作った色とりどりの食事は、今はもう全ての皿の底が見えている。
今日も美味しい食事だった。
「おい、うちのメンバーを口説くなよ」
「ははっ、ご馳走様でした」
「いや『ははっ』て、お前なぁ」
てきとうに流すなよ、俺が自意識過剰みたいになるだろうが。
外見がかっこいいやつは言動全てかっこつけないと生きていけないのか。
とか考えていたらアークライトが食器を置いて急に真顔になる。
「僕が口説こうとしているのは君だよ、モブ」
「っうぇ!?」とか「あら」とか周りから聞こえてくるけど、みんな驚いてどうした?
いや……いや待て、今アークライトは何て言った?
聞き間違いだよな、そうじゃないならとても……とても、
俺の貞操がかつて無いほどの危機なのでは?
「……はっ?」
「急だったから驚かせてしまったかな?
でも僕は本気だよ」
いや本気なら尚のこと駄目だろ。
「お前の趣向にとやかく言わないけど、悪いが俺にそっちの気はない」
なぜイケメンに口説かれなきゃいかんのだ。続けて口を開こうとすると、リーダーとメイが勢いよく間に入り込む。
同時に襟元をディアが後ろに引っ張り席から立たせられた。
グェッ、首絞まってる絞まってる。
「ダメよ、ダメ!
モブはうちのメンバーよ、戦闘要員じゃないけど、必要なの!」
「……アークライトでも……切る」
「貴族にはそっちのやつが多いとは聞いていたがこんな身近に実例があったとはな。警戒しておくべきだったぜ」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか?
みんな何か誤解があると思うんだ」
「ご、五回もですか!?
男の子同士でそ、そんなに……」
レヴィも間に入ってくるが、たぶんこいつはまた別の勘違いをしている気がする。
顔を真っ赤にして自分の世界に入り込んでいるみたいだからほっといていいか。
それより首が絞められたままなんですが。たぶんだけど俺もレヴィと同じくらい顔真っ赤になっていると思うのですがそろそろ離しちゃくれませんかね。
ディアの腕を必死にタップした。
「おお、悪い。引っ張ったままだったわ」
悪態の一つでもついてやろうと思ったが、残念ながらアークライトを先に相手しなくてはいけない。
「それで、誤解だって?」
「ああ、口説くって言葉はただの比喩的な冗談さ」
冗談下手くそかよ。
「さて、本題を話そうか」
目を閉じて、たっぷり時間をかけたアークライトは、ゆっくりと目を開けるとようやくその口を開いた。
「モブ、うちに来る気はないかな?」
誰かの手から木製の杯が滑り落ちる音が耳に入る。
本日二度目の静寂と、全員の動揺が走った。
さっきまでの緩んだ雰囲気から打って変わり、メンバー全員がアークライトと、俺に視線が集まる。
王国きっての権力者がわざわざD級の俺を?
一体何の冗談だ?
「そもそも何でお前がそんな結論に至ったのか、一番よくわからないんだが」
「簡単なことだよ。君の力を正当に評価して、僕と周りの環境を考慮した上での最善手なんだ」
俺は今混乱しているんだよ、最善手だとか追い打ちでさらに訳がわからないこと言わないでくれ。
ただまぁ金次第ではありか、ただの雑用とかなら考慮しないでもない。
「全くもって理解できないが、参考までに給料はいくら貰えるんだ?
入ったところで雑用だから低賃金なんてオチなら話にならないぞ」
後ろでリーダーが「おい!」とか叫んでいるが、聞くぐらいはタダなんだし、別にいいだろ。
「そうだね、他の人もいるからモブだけに教えるよ。耳を貸してもらえるかな」
促されるままにアークライトに体を寄せて、耳打ちされる。
っっっっ!?
「なっ、お前、本気で言ってんのか?」
掲示された額は明らかに雑用としてのそれでは無い。
俺たちの借金なんて数ヶ月で返し終えることのできるものだった。それどころかあれやこれも――
「どうかな、もし足りないのならば僕の権限でもう少し増やすことも可能だよ。もちろん引き抜き料としてパーティにも別で支払おう」
例えばあれだって、趣味のコレクションだって、そのお金があればお金が、お金、金金金
「やります」
「何金に釣られてんのよ!」
急に頭を叩かれた。
リーダーの声にハッとする。いかん。
反射的に乗ってしまった。冷静に考えろ俺、上手い話なんて世の中には存在しない。
甘い話しがあったのなら、それは俺を陥れるための罠だ。
「すまんリーダー。目が覚めた」
「いいかアークライト、この際だからはっきり言うがな。騎士団と金、じゃなくて俺が釣り合うわけもないし、俺に贅沢三昧……ではなくて戦闘能力は皆無だって金欲しい」
「モブさんが壊れちゃいました。ど、どうしましょう」
「まかせなレヴィ。こういうのはな。叩けば直るんだよ」
金に汚染された脳で意識できたのは、金貨の海に飛び込む俺の脳内妄想と、視界に飛び込んできたディアの拳だけだった。
◇
「――だからこの――モブは絶――――いい!」
「そのモブが問――、この先――」
話し声が聞こえてくる。確かディアにぶっ叩かれたんだっけか?
耳に入ってくるこの声はリーダーとアークライトだ。
どれくらい眠っていたんだ。ディアのやろう思いっきりやりやがって。
あいつの頭には加減とか躊躇という言葉がないのか。
まだ気怠い目を開けると言い争う二人と、俺の顔をそばで覗き込むディアの顔があった。
「おお、起きたか。びっくりしたぜ、急に気を失うもんだから、当たりどころが悪かったのかと」
「当たりどころが悪かったから倒れたんだろうが」
「すまん」
……日頃から力加減がわかっていないとか、すぐ暴力に走るのやめろとか罵詈雑言がいくつも思い浮かぶが一旦置いておく。
「で、なんであの二人は言い合いをしているんだ?」
目線の先では声を荒げて抗議するリーダーと、それを涼しい顔して流しているアークライトがいた。
「原因はお前だよ、騎士団に入れるかどうかであれから小一時間こんな感じだ」
まじか、俺が気を失ってからずっとあの調子かよ。珍しくアークライトが強情だな。
「アークライト、話すべき相手はリーダーじゃなくて俺自身じゃないのか」
「ああ、目が覚めたんだね。よかった、今モブと話す前に、雇用主である私を通しなさいと言われちゃってね。困っていたところだったんだ」
「起きたのねモブ。聞いてよ、アークライトがやれモブは騎士団にいる方がいいだの、その方がモブのためだの、わけわかんないこと言い出して話にならなかったの」
これは俺が間に入らなくちゃいけない展開か、面倒だけど自分のことだししょうがないか。むしろここまでリーダーが引き止めるとは思わなかった。
てっきり引き抜き料金次第では、喜んで俺を売るかと思ってたよ。
「リーダー後は俺が話すよ。俺自身のことだし、金とか関係なしに俺の気持ちとしてな」
少しだけ勿体無い感じはあったが、金のためにこのパーティにいるわけじゃないからな。
そもそも金だけならここ以外にいた方が稼げるし。
「まず整理するぞ、お前は俺を騎士団員にしたいんだよな?」
「そうだね、君がこちらに来てくれれば全て丸く収まるんだ」
「そこだよ、俺を引き入れたい動機が曖昧なんだ。相場以上の給料を掲示したり、わざとぼかしているな?
なんか変だぞ。今日のお前」
これでも長い期間関わりがあるんだ。お前の下手なごまかしなんて流石に見てりゃわかる。
微笑みの表情のままだが、アークライトがピタリと固まった。
「……君は本当に『よく見ている』ね。指摘の通り、僕は君を引き抜きたい動機をあえて全部は話していない」
肩をすくめたアークライトは「嘘に関してはノーコメントで」と言い残し、それからいつもの柔和な顔つきに戻った。
「つまり俺のことを評価してとか言ってるけど、結局は訳ありってことだろ?
訳も聞かずにはいそうですかなんて言える訳ないだろが、まずは伏せていること全部話せ」
「うーん、困ったな。伏せていることは確かにあるけど、本当に君のために言っているんだ」
「だからそれを言えって」
「ごめん、それは言わない。
ところで君はD級だからと実力以上に侮られることに憤りを感じることはないかい?」
「D級はD級だろ、万年D級から上がることのできない冒険者なんて侮られて当然だと思うけどな」
まぁ、侮られていい気分はしないが。
今それを言うと、こいつの欲しい言葉を投げかけることになりそうだから黙っておく。
「この際だ。腹を割って話そうか、君は実力を隠しているね?
確かにA級やS級の戦闘能力ではないかもしれない。でもD級の戦闘能力とも明らかに違う。モブ、君は一体何のために隠しているのか教えてくれないかな」
こいつなんか盛大に勘違いしているわ。
最悪だ。これから反論するのに、自分がいかに弱いかを主張しなくちゃいけないだなんて。
罰ゲームだろこれ。
「第429回ギルド入団及び昇級試験。俺が入団した時の記録がギルドの執務室にとってある。
正式に実力を見せた上でD級に振り分けられたんだ」
「君は……自分の力に対する評価が低すぎる。それはギルドの審査基準に問題があるだけではないのかい。君の能力の戦闘利用は試験でなく、実戦で評価されるべき力だよ」
あっそれ俺の地雷。
踏み抜きやがったなこいつ。
「おい、言っておくが俺の力は暴力が本質じゃないってだけで、誰も卑下したりしてねーだろが。
むしろこの能力の応用力を考えれば大半の冒険者連中よりは俺は上だと自認しているからな。
自己評価が低いだの何だの好き勝手に言いやがって、俺の能力をお前の尺度で決めてんじゃねぇよ」
もう一回目玉に胡椒ぶちまけるぞ。
「違う、僕が言いたいのはそういうことじゃ無くて。戦闘力単体でも――」
反論をしようとするアークライトの前に、勢いよくテーブルに手を叩きつけて、リーダーが身を乗り出してきた。
「モブが自分を過小評価しているのなんて、出会った頃から知っているわ。私たちは一緒にいてそれを見てきたの。推測と模擬戦で語るあなたとは解像度が違うわ」
おおリーダーがそれっぽいこと言っている。もっと言ってやってくれ。
「戦闘力がどうとか、実は強いとか覚醒だとか真の力に目覚めるとか、仮にモブにそんな力があったとしても関係ない」
リーダーの勢いに負けたのか、アークライトがたじろいで少し後ろに下がる。
「モブの居場所はここよ。サイレントプレーンの便利な便利な荷物持ち、それ以上でも以下でもないわ」
あまり茶化す場面じゃなくなっちまったな。
そうだった。俺は前に出なくてもよくて、隣にも居なくていい。
ただ後ろで背負っていればいいんだった。
ならこの話の結論は最初から出てたじゃないか。
「アークライト、悪いがどんな理由があろうと騎士団には行かない。最初の契約なんだ、リーダーとの」
腕を組んだアークライトはたっぷりと唸って、ようやく自分の中で整理がついたのかその答えを出す。
「そっか、残念だよ。これでモブが来てくれれば毎日僕と模擬戦できたのに」
「嘘つくな、他に理由があったんだろ。しかも俺が入団した方が俺のためになる何かが」
「……それは、その……」
「いーよ、言わないで。その代わり俺も騎士団には入らない。そのせいで俺に不都合があっても跳ね除けてやるさ」
「かっこいい事言ってるけどこっちは迷惑かけないでよね」
「えっ? パーティルールで一蓮托生とか言ってなかったか?」
「自分から選んだんならまた話しが変わってくるぜ」
「薄情者たちめ、レヴィとメイは俺のこと見捨てたりはしないよな」
「……火の粉は自分で払うべき」
「あれっレヴィは?」
「……ペットの餌……あげに行った」
「なぁアークライト、今からでも騎士団の話し受けていいか」
「ぷっ、あはははは。そうだね騎士団に誘うだなんて、野暮な提案だったみたいだ。君はここが一番あっているよ」
味方なしかよ。俺の優雅な休日がこれじゃ普段と変わんねーよ。
「それじゃあ僕も用事は済んだし、ここら辺で退散するとしようかな」
「帰れ、もう二度と来なくていいぞ」
「ああ、わかった。また近いうちに」
「ちゃんと聞けって、もういないし」
俺の話しを聞かずに目の前が光って姿が消える。
そのまま帰ったようだ。
最後まで自分勝手な悪友にへきえきしながらふと空を見る。
すっかり日が落ち、雲一つない夜空にひときわ強く輝く星を見つけた。
なぜかアークライトみたいだと感じてしまう。
急に来たと思ったら模擬戦でボコられ、俺を騎士団に勧誘して結局何がしたかったんだ。
あいつがよくわかんないのは前からだから考えたところで無駄か。
そんなことを考え、視界に入る夜空を見てからホームに戻った。
読んでくださりありがとうございます
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