え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~ 作:猫豆腐
新章突入です。
「やっぱり冒険者たるもの冒険をしなくちゃいけないと思うの!」
いつものホームではなく、ギルドの机にてリーダーが身を乗り出してメンバー全員に向かい主張を始める。
少し前にバイトをして金銭に余裕があったはずが、悲しいかな生きていれば金というのは減っていくものだ。
まだゆっくりはしていたい気持ちは強かったが、軽くなった財布がそうはさせてくれない。
「あたしも冒険は歓迎だが具体的に何受けるんだ?
サイレントプレーンに来る依頼なんて生活依頼がほとんどだろ」
「こっちから受注するとしても割のいい依頼なんてあらかた取られてる。残っているのなんて割に合わない不人気依頼だろ」
リーダーの考えなしの発言に俺とディアで反論する。
「ふっふっふ、そう言われると思ってめぼしい依頼を選んでおいたわよ」
おい、この展開にすごい既視感があるんだが。
また魔王軍との戦争の前線まで行かされるなんて今度こそごめんだからな。
あの時全力で阻止できていれば今の借金生活もなかったはずなんだ。
「今回受けるのはこれよ!」
机に叩きつけられる依頼書の音に注目を浴びるが数秒で興味を失い視線が外れる。
代わりに俺たちがその依頼書に注目した。
「……リーダー、これは、流石に……ないんじゃないか?」
「わ、わたしもこれはちょっと遠慮させていただきたいかなって、メイちゃんやモブさんが賛成ならやりますが」
「……論外」
メンバーの面々が口を揃えて拒否をしていた。
それもそうだろう、何てったってそこに書いてあるのは生活依頼でも戦闘依頼でもない。依頼書をまじまじと見返すが文字が変わるわけもなくはっきりと書いてある。
『廃棄ダンジョンの探索』
「悪いが俺も今回はパスだ。絶対碌なことにならない」
「揃いも揃って何よ!せっかく借金を減らせるように私が探してきたのに!」
癇癪を起こして机に身を乗り出してくるが、受けるわけがない。
確かに書いてある金額は多い。借金もほとんど返せるだろう。だけど廃棄ダンジョン探索においてその金額は妥当なものであった。
つまりはその金額分の難易度があると言うことが確定している。
「廃棄ダンジョンなんてモンスターの処理が追いつかなくて入り口ごと閉じ込めたか、宝やめぼしいものを取り尽くしてなんの旨みもないかのどっちかだろ」
「ギルドからの報酬はあっても割に合わないんだよなぁ。数十年でまた魔石ができるからとか言ってダンジョン自体を壊しちゃいけないし、期間も長期だから日割りにすると旨みもそこまでないしな」
俺に便乗するように頭をかきながらディアが返答する。
「そ、そこはほらあれよ、サイレントプレーンの力を合わせて数日で依頼を終わらせればいいじゃない」
「どちらにせよ人間がしばらく立ち寄っていない場所だ。不測の事態がほぼ確実に起こるし、内部はモンスター共の蠱毒で大変なことになっているだろが」
そんな場所に誰が好んで行きたがると言うのか。却下だ却下。
命の保証もない。旨みもそれほどじゃない。拘束期間も長い。
受ける理由がない。
「じゃあどうするのよ。お得意様からの依頼はこの時期薄くなるし、良さそうな戦闘系ももうしばらく出てないわよ」
そこを突かれると少し痛いがこれ以外の選択肢もあるだろう。とりあえずこの依頼はリーダー以外満場一致で否決だな。
依頼を手に取り依頼掲示板へ戻ろうと立った時、低く太い声が俺を呼び止めた。
「ああ、お前たちいいところに。ちょうどその持っている依頼書について話そうと思っていたんだ。ちょっとそれを持って執務室まで来てくれ」
「いや、俺は今この依頼書を戻しに行こうとしていたんだが」
絶対依頼受けろ的な話だろそれ。
「誰かと思えばギルマスじゃない。一体どうした訳?最近は依頼自体受けてないから何もしていないはずよ」
「まぁちょっとな。説教じゃないからそう身構えるな」
珍しく歯切れの悪いギルマスに違和感を覚えながら、ギルドの最高権力者に逆らう訳にもいかず、執務室について行った。
執務室で断れば別に構わんだろう。
◇
「早速だがな、お前たち、この依頼受けてくれないか?」
「全力でお断りします」
「お前はどんなこと頼んでも拒否するからいいとして、他のやつも顔を見る感じ気乗りしないか」
俺もパーティメンバーの一人なんだが、あんたギルドマスターだろ。所属している人間にその対応でいいのかよ。
「廃棄ダンジョン探索なんてあんまり旨くもないからな、あたしだとダンジョンの壁とか壊しそうだし」
暴れられないディアなんて茶葉のない紅茶みたいなもんだからな。
暴れられない分の負担が他のメンバーにかかる。
溜め息を吐いたディアに代わってレヴィが口を開く。
「わたしも長期で籠るとなるとペットちゃん達の世話がありますし、連れて行くにも体が大きい子はダンジョンに入れなかったり途中で詰まってしまうので」
「……やる気……なし」
メイも含めて各人否定の意思を見せてくれる。よかったこれで誰か乗り気だったらどうしようかと思った。
全員が気乗りしないんだ。すんなり断ってさっさと退散しよう。
「みんな自信がないのかしら、大丈夫。私たちなら数日で達成できるわ」
退散しよう。と、思ったんだけどなぁ。
こいつがいた。
頼むギルマス、リーダーの言葉はほとんど無視してくれ。目の前にいるのはギルドきっての問題児だぞ、結果どうなるかわかったもんじゃないだろ。
「おお、サイレントプレーンのリーダーはやる気か、良かった。なら話だけでも聞いてくれ」
まずい、ギルマスに隙を与えちまった。
執務室の席に座るよう促され、茶まで出されてしまった。運んでくれた受付さんの笑顔に少しだけ癒される。
正面を見る。筋骨隆々の焼けた肌にスキンヘッドの壮年のむさ苦しいおやじの顔が映る。全く癒されない。帰りたい。
「で、サイレントプレーンはギルドの問題児筆頭じゃなかったのかよ。俺らに依頼なんていいのか?それも廃棄ダンジョン探索なんて」
「いいわけないだろ。俺もお前らにこんなこと頼みたくはなかった。だがこっちにも事情があってな」
「「事情?」」
俺とリーダーの声が被った。茶を啜って一拍置いたギルマスはバツが悪そうに話し始める。
「北の街外れにある廃棄ダンジョンは流石に知っているな?
実はそこで王国指定害獣の目撃情報があってな。その調査を頼みたいんだ」
「なんか引っかかるな。なんで俺たちなんだ?武闘派が揃っているここなら俺らよりも適役はいたろ」
そもそも依頼書自体あまり旨味のないものだったり、目撃情報もなぜ廃棄ダンジョン内だとわかったんだ?
王国指定害獣なら管轄は王国だろうし腑に落ちない点が多い。
「お前らに受けて欲しかったんだよ。最初から。
指名依頼だ、内密のな」
何言ってんだと言いかけた瞬間別の声が扉の方から聞こえる。気づかない内に誰かが入ってきていた様だ。
「そこからは私が説明しますよ」
その男は肉付きのいい体格の、人懐っこい表情をした初老の人物。以前依頼を受けたことのあるベルナンド氏がいた。
「ベルナンドさん、どうしてここに?」
「私が今回の依頼主だからですよ。サイレントプレーンの皆さん」
確か以前の依頼で屋敷の倉庫整理に行った記憶がある。確かにその時よく感謝してくれてはいたが話がまだ見えない。
「ベルナンドさん、説明と言うのは?」
「ああ、そうでしたそうでした。実は大変困ったことが起きましてね。ミラースライムが野放しで逃げてしまったのですよ」
ん?今とんでもないことを言わなかったか。
処理が追いつかずに固まっていると隣でディアが腕を組みだした。
「ミラースライムって王国指定害獣のあれだよな。確かモンスターじゃなくて魔獣だっけか?」
ちらりとレヴィを見ると既に目を輝かせて身を乗り出していた。
ああ、魔獣大好きモードに入ってるなこれは。
こうなると長いんだよなぁ、聞き流すか。
「ミ、ミミミラースライム!
最初に生息が確認されたのは遥か昔、王国建国前後の頃、建材を取るための森林伐採中に突如現れたのが始まりと聞いています。初めに確認されてからは数十年周期で不定期に各地で確認されてその繁殖方法は今をもってなお不明。ですが現在も確認されることから何らかの繁殖手段を持っていると予想されています。
見た目はアレですよね!ぱっと見は銀色スライム、ですが見た目に惑わされてはいけません。特性としては相手の細胞を取り込む、要は捕食行動を行うことで相手の遺伝情報を取り込むことでそれを模倣する魔獣ちゃん!
もちろんただ姿を真似るだけならドッペルなど数種該当する魔獣はいますがミラースライムちゃんのすごいところはなんと取り込んだ相手の特性など全てを模倣できること!
一説によればなんと記憶や性格でさえも模倣しているとか!!」
顔を真っ赤にしながら力説したレヴィはやや酸欠になったのか、肩で息をしながらまた席に着く。
すごいな、普段じゃ考えられない早口だったぞ。
息切れしたせいかレヴィは大切なことを解説し終えていない。
問題はそいつが過去に国を滅ぼしたことのある王国指定害獣に相応しい凶悪さを備えていることだ。昔学んだ知識では当時の魔王を捕食してしまい、たった一晩で国民も含めて全てを捕食。残ったのは突然神隠しに遭ったような有様の建築物だけらしい。
いや無理だろ、この依頼。
「すまん。荷物持ちの立場だが言わせてもらう。これは無理だ。受けられない、というよりギルドでどうにかなる案件じゃない」
どう考えても素直に国が対応するべき話だ。
「そんなことは百も承知だ。だがなぁ」
「それでもどうしても、あなた達に受けていただきたいのです」
ギルマスの言葉にベルナンドさんが頭を下げながら被せてくる。
「以前私の屋敷の倉庫整理を行なってくれましたよね。実はあの時見つけてもらった金属容器の中身なのですが」
ここまで聞いて最悪のシナリオが頭に思い浮かんだ。
嘘だと言ってくれ、頼むから。
俺の思いとは裏腹にベルナンドさんの口から告げられる。
「容器の中に『ミラースライム』が入っていましてね。危険だと思い手放すために管理局まで輸送していたのですが、廃棄ダンジョン付近を通過中にその輸送車が盗賊に襲われてしまいました」
考えうる限りの最悪じゃねーか。
「何とか生き残った護衛が言うには、盗賊が容器を開けてしまいミラースライムがその場で食い散らかしたそうでして。その後廃棄ダンジョン内部に入っていったそうです」
説明を終えたベルナンドさんは「いやはや、困りました」などと額の汗を拭いつつ言うが、全くもって困ったで済む話ではなかった。
眉間に皺を寄せたままギルマスが唸る。
「そこでだ、表にことがバレたら色々と困るから事情を多少知っているお前たちにこのミラースライムの回収をーー
「無理、大人しく王国審問会にかけられてください。ではそういうことで」
勢いよく席から立ち上がりギルマス達に背を向けた。
命がいくつあっても足りん。
ベルナンドさんには悪いが俺は俺の命を優先する。
リーダーも今回ばかりはきっと断るだろう。
「私たちは困っている人の味方よ。ベルナンドさん、安心して。
私たちが何とかするわ」
背後からとんでもない声が聞こえてきた。
大人しく聞いてると思ったら、何口走ってやがんだあのアホ。
反射的に勢いよく振り返ってリーダーを見てしまう。
そこには普段より一層キラキラした目でこちらを見ているリーダーの姿と、やれやれ仕方ないかみたいな顔でその様子を見る仲間たちの姿があった。
何で依頼を受ける雰囲気できてんだよ、無理だから。
戦闘力云々以前の問題だから!
周囲を見渡したギルマスが俺を見てニヤつく。
「王都の遠征依頼、失敗したんだってな。いいのか放っておくと噂っていうのは尾をつけて広がるもんだぞ」
ぐっ、それは、確かにそうだけど。
そうなんだけども!
「冒険者なんてのはろくに後ろ盾がない信用商売なんだ。この先もやっていくならここらで大口の顧客を掴んでおく方が色々有利かと思うがなぁ」
白々しく頭に手を当てながらギルマスが言う。
わかってるからそのわざとらしい演技やめろ。
どうやって断ろうか考えていると袖が引っ張られた。目をやるとメイが依頼書をこちらに出してくる。
「……これ、新しいの」
「指名依頼に更新されたやつか」
準備がいいことで、最初から断らせる気ないだろ。
新たな依頼書に一応目を通すが最初の依頼書とは書いてあることがだいぶ違うことになっていた。
ーー討伐、捕獲依頼。
廃棄ダンジョンに逃げ込んだミラースライムの対処。安全になるためなら手段問わず。
これだけなら内容を適切に変更しただけだ。
注目したのはその達成報酬である。
3倍。
3倍だ。
依頼書を持つ指先に力が入り端に皺が寄った。
借金返済どころか、それをも大きく上回って手に残る大金に変更されている。
依頼書から目を離すとベルナンドさんと目が合う。
「書いてあることは真実です。しっかりとうちの商会を通してお支払いいたします。
今後は依頼の優先に加えまして、我がベルナンド商会が後ろにつかせていただきます」
それは冒険者としては非常に心強い提案であり、後ろ盾が付くということは単純に文字としてより意味合いは重い。
今後活動していく際に間違いなく俺たちの助けになる提案であった。
掲示された情報をもとに損得を整理する。
知恵熱が出そうだよ、本当に。
ギルマスとベルナンドさんが期待の眼差しで俺を見ている。
「……モブ、受けましょう?」
そしてリーダーと目が合った。
…………。
俺の足掻きもここまでか、よく粘った方だと自分を褒めてやりたい。
「わぁったよ。やるよ。俺も行けばいいんだろ。どうにでもなれだ畜生」
どうせ全員揃って懇願されたら押し切られるんだ。せめて自分で選んだという結果だけは残しておきたい。でないと何かあった時に心の中でこいつらを言い訳に使ってしまうからな。
「いやぁ、よかった!
これでお前らが、というかモブが断ろうもんなら差し押さえてるお前らの物件を盾にするところだった」
そのギルマスの言葉を聞いて肺から深く息が漏れる。
どのみち断る選択肢なんてなかったんじゃないか。依頼書の準備がいいとかも納得だ。
「モブ、やるわよ!」
隣を見るとリーダーがやる気満々といった顔をして、澄んだ瞳でこちらを見ている。
依頼書の推奨クラス。『S級』の文字を見て再度溜め息をつく。
かくしてB級のサイレントプレーンはS級依頼を受けることになってしまったのだった。
読んでくださりありがとうございます
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