え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~   作:猫豆腐

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第34話:ダンジョンには危険がいっぱい。準備編

 

 何の因果かS級依頼を受けることになってしまったやり取りから数日。

 

 俺はダンジョン探索のための買い出しの帰路にいた。

 ホームの近くまで来ているはずだが、両手と背中にギチギチに詰め込んだ荷物の重みが物理的距離をよりいっそう長く感じさせる。

 

 ロープはまだしも特売だからと言ってポーションを買い込みすぎたか?

 

 そんなことはないはず。

 現在も活発に出入りのあるダンジョンならいざ知らず、俺たちが入るのは年に数人しか立ち入らないような遺棄されたダンジョンだ。

 

 もちろん露店なんてあるわけないし、日帰りというわけにもいかない。前の遠征依頼を思い出すが、実際それと同じか探索用の荷物がある分、より過酷なものになるだろう。

 

 いくら遺棄されているとはいえダンジョンはダンジョン。起動していない罠があるかもしれない、見たことないモンスターが発生しているかもしれない。はたまた地形ごと変動している可能性だってゼロとは言い切れない。

 ダンジョンで起こることなんて予想はできても予知はできないんだ。対応するために準備は多いに越したことはない。

 

 それにこれがパーティでの俺の役割だからな。荷物持ちにとっての戦場は準備の段階から始まっていると言っても過言じゃない。と個人的に思っている。

 

 思いに耽っていると何だかんだでホームの庭まで着いていた。

 

 あと少しだ。後少しでこの重みから解放される。とりあえず玄関に置いて茶でも飲みながら休憩しよう。

 そしたらまた荷解きを頑張ればいいさ。

 

 少しだけ視線を上に向けると多少ボロい感じはあるが、趣きだって見えるホームの壁とちょうど俺の部屋の窓が見える。

 

 一瞬窓が光った気がして次の瞬間。

 

 部屋が。

 

 爆発した。

 

 

 ――――は?

 

 部屋が爆発した!?

 

 轟音とともに空気の揺れが体に響いてくる。壁の一部が地面に落ちてパラパラと乾いた音を奏でる。

 

 背負っていた荷物が落ちた音がした。突然の出来事にいつの間にか力が抜けていたらしい。

 

 俺の部屋があった部分から立ち昇る煙が、それが現実であることから逃してはくれなかった。

 

「ぬぅあんじゃこりゃーー!!!!」

 

 ホームの庭で俺の絶叫が一人悲しく響き渡った。

 

 ◇

 

 ホームの机。

 幸い一階に被害はなかったがほのかに焦げの臭いがしている。

 発生源は間違いなく俺の部屋だろうな。

 

 苛立ちからか貧乏ゆすりが止まらない。

 目の前にはメイとディアがしおらしくして座っている。

 

 沈黙に耐えかねたのかディアが口を開いた。

 

「あのよ、今回の爆発は」

 

「……何?」

 

「あっいやなんでもない」

 

 反省だとか謝罪だとかそういう問題ではない。部屋が爆発したんだぞ。

 拠点が!爆発したんだ!

 

 身内でなかったら憲兵に突き出しているところだよ本当に。

 

「はぁ、何があったんだよ」

 

「そ、それはな」

 

「……メイから話す」

 

 十中八九ディアがやったと思っていたがメイもやらかしたらしい。

 

 いつも通りの無表情でぽつりと話し始めた。

 

「……盾が暴発した……」

 

 それだけ言うと顔を俯かせ、口を閉ざす。

 

「いや終わりかよ。さっぱりわかんねーよ。ディア、説明」

 

「いやーその、な?

 ダンジョン探索にさ、やっぱ装備新調して行った方がいいと思ってさ。メイと買いに行ったんだ、そこで衝撃を吸収するって宣伝している盾売っていてさ」

 

「待て、なんかもう落ちが読める」

 

「それでせっかくだから試してみようぜってなって、メイに盾を持ってもらったんだよ」

 

「……吸収はできた。けど……出てきちゃった」

 

「私が強くなりすぎたみたいだ。拳の衝撃がまとめてドーンよ」

 

 腕をまくり、力こぶを出す動作をしてちょっと得意げな顔をし始めた。

 それ全然誇らしいことじゃないからな。

 どんな威力で殴ってんだよ、盾が受けきれなかったらとか考えてないのかよ。

 

 つまり盾の性能を試したらディアの力に耐えきれずに暴発。咄嗟に盾を逸らしたその方向が俺の部屋だったというわけか。

 

「納得できるかバカもん」

 

「うっ」

 

「……わざとじゃなかった」

 

 ディアとメイが揃って母親に叱られた子供の様になる。いやメイはその言葉反省しているのか?無表情だからわかんねぇ。

 

「……はぁ、イラついていても仕方ないか。

 ディア、メイ、部屋とその残骸片付けるから手伝えよ」

 

 流石に2人とも反省しているのか素直に片付けを始める。

 俺も後を追っていつもの魔力糸を出して片付けを開始する。持っててよかった魔力糸、なぜこんな便利な物がほとんど研究された前例がないのかわからん。

 

 3人で協力してガラクタの山をなんとか綺麗にすることはできた。

 日は既に傾いていて影を長く伸ばしている。残念だがホームの補修とかは明日以降だなぁ。

 

「しばらくはソファで寝るしかないか」

 

「なんならあたしのベッド半分貸してやってもいいぜ」

 

「申し出はありがたいけど流石に色々と問題あるだろ」

 

「ならあたしがメイの部屋に行くからモブが使ってくれよ。部屋破壊してソファで寝させるのはあたしもバツが悪いんだ」

 

 そこまで言うならお言葉に甘えさせてもらおうとしたときだった。メイが鋭い目つきでディアを睨む。

 

「……寝相悪いから、イヤ……」

 

 うん、たしかに。

 

 布団を剥ぎ取ったり蹴るくらいならまだいい。ひどいときは背負い投げや羽交締めにされてそのまま落とされる時がある。

 

 酔拳の達人かお前はと何度思ったか。

 

「はぁ、いいよ。ソファで寝させてくれ、お前らの部屋奪うとか逆にこっちが気を使うから」

 

 それより気にしていることは散らばった俺の荷物だ。せっかく探索の準備をしていたのにやり直しどころか、破損があったらまた買いに行かなくてはいけない。

 

 そう考えていると一階からリーダーの悲鳴が聞こえてきた。

 

 俺の荷物よりもまずリーダーへの説明が先だな。

 

 ◇

 

「こ、ここ、ここここここ」

 

 テーブルを挟み、俺の目の前で鶏のようになっているのはリーダーだ。

 今回に関してはいつものおふざけでこうなっているのではなく、ホームが半壊していることに対する怒りからだろう。

 

 証拠に顔まで真っ赤にしてこめかみあたりがピクピクと痙攣している。

 まぁ無理もないか、人一倍思い入れが強いリーダーだ。帰ってきたら半壊しているとか自分に置き換えても想像したくない。

 

 あれっ、俺が一番の被害者だよな?

 

 なんでディアとメイと一緒に俺も座っているんだ?

 

「これは! 一体! どういうことかしら!

 納得のいく理由が見当たらないならあなた達全員減給よ!」

 

 ならこのパーティ辞めます。お疲れ様でした。

 

 とは言えないよなぁ。

 

 けど納得のいく理由かぁ、そんなのないんだから困るよなぁ。

 

 ディアが目を泳がせながらあははなんて愛想笑いを浮かべた。メイも俯いているがよく見れば脂汗のようなものが見てとれる。

 

 あるのは自分勝手に走り切った欲望と深く考えなかった短慮だからな。

 

「申し開きはないわけ!? どうなのモブ!!」

 

 えっ俺被害者ですが!?

 

 普通に身の潔白を説明しようとしたらテーブルの下で俺の太ももにディアの手が置かれた。

 何事かと横を見ると、大量の冷や汗を流しているディアが懇願するような目で俺を見ている。

 

 そんな助けてくださいみたいな、屠殺前の何かを察した動物のような目で見ても事実は変わらんぞ。

 

 嘘はつかないからな。あとは自分でなんとかしてくれ。

 

「俺も途中からだから詳細はこいつらに聞いて欲しいんだが、新しく購入した盾が原因らしい。衝撃吸収が付与されていて今回のダンジョン探索に使えそうなんだと」

 

「あ、ああなんか役に立つものがあれば戦力増強になるかなって」

 

 冷や汗を飛ばしながら身振り手振りで必死に訴えている。

 

「日頃からサイレントプレーンの先頭で矢面に立つリーダーへのプレゼントらしい」

 

「そうなの?」

 

「そ、そうだぜ! いつもありがとうなリーダー!」

 

「……その盾は私が買――っむぐ」

 

 ディアが素早い手つきでメイの口元を押さえた。今武器マニアが完全に余計なことを言おうとしていたな、よくやった。

 

「というわけだからこいつらも悪意でやったことじゃないんだ。ここはリーダーとして器量を見せてもいいんじゃないか」

 

「そ、そうかしら。……リーダーとしての……」

 

 誘導しといてなんだが、ちょろすぎないかこいつ。俺らのリーダーがこんなんでいいのか逆に心配になってくる。

 

「ま、被害状況見た感じモブの部屋だけっぽいしね」

 

 ああなるほど、そういうことか。

 はっ倒すぞ!

 

「でもいったいどーするのよディア。明日にはダンジョンに篭る予定だったのにこれじゃ行けないわ」

 

「まぁ荷物が全部ダメになったわけじゃないから一応最低限は準備可能だが、正直心許ないのも事実だな」

 

 誰かさん達がホームの中で武器の性能試したりしなければよかったんだが、これ以上当人達に言うのもくどいか。

 既に2人とも一回り小さく見えるし。

 

「ミラースライムなんて一刻を争うんだ。俺の部屋だけ布で補強しておいて、修理は今回の依頼が終わってからってところが落とし所じゃないか?」

 

 リーダーが頭に手を当てて唸り始める。

 

「むむむむ、決めた! 延期はなし、予定通り明日ダンジョンに向かうわ。モブ明日までに探索の準備を終えなさい」

 

 また無茶を言う。

 

 明日は寝不足だな。そうなるように軽く誘導したんだから不満はない。

 ただなんとなく、なんとなくの直感だが依頼を受けることになったときから魚の小骨が喉に引っかかっているような。

 そんなまとわりつく不快感のような嫌な感じがずっとしているんだ。たぶんミラースライムなんてものに関わることになったせいで気が滅入っているんだと思う。

 

 いつの間にか頬を伝う汗をぬぐって俺は荷物の準備を始めるためにその場を後にした。




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