え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~   作:猫豆腐

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第37話:ダンジョンには危険がいっぱい。よろしく編

 

 湖の深層。

 

 深くて暗くて光も薄っすらとしか届かない。

 

 力を抜いてただ漂う。不思議と苦しさは感じてない。

 

 ここに在るのは俺という存在だけだった。

 他に人間はいない、それどころか魚も、生物が全くいない。

 

 ああ、一人なのか。

 

 そうだ、これは俺の心だ。

 暗くて俺以外何もない。空虚で誰にも見つからない孤独。

 

 ここはいい。泣いても叫んでも全て水に溶け込んで消えていく。背景の一部でいられる。

 

『……ブ、……モ…………ブ……!』

 

 なんだようるさいな、俺はここでいいんだよ。

 

 目の前に誰かの手が差し出される。

 

『……モブ…………モブ!』

 

 ようやく受け入れたんだから、そんな俺を見つけて手を伸ばさないでくれ。

 

 差し出された手は俺の顔まで近付く。

 

 俺は、その手を。

 

 

 ――――――――

 

 

「おい! 起きろモブ! モブ!」

 

 寝ていたようで誰かの声で強制的に覚醒させられる。

 さっきのは訳の分からん夢か。

 

「……ディアか?」

 

 重い瞼を持ち上げると濡れた髪のディアが覗き込んでいた。

 

「起きたか! 心配したぜ、飛ばされたと思ってたらお前が水中にいたからよ」

 

 水中……飛ばされた……。

 そうだあの時。

 

「そうだ、みんなは無事か!」

 

「レヴィはいたんだけど、リーダーとメイはダメだ。見つかってねぇ。たぶん別んとこに飛ばされたらしいな」

 

「そう、か」

 

 あたりを見渡すと滝と湖。

 そこから芝の生えた地面につながって俺たちのいる場所に続く。

 滝の始まりを確認しようとしたが、上の方は立ち昇る水蒸気と岩が邪魔して見えない。

 

 見る限り、どうやらここは滝つぼで、結構下の階層に飛ばされたようだ。

 

 あたりを見て気が付いたがレヴィがいない。不思議に思っていると先にディアが口を開いた。

 

「ああ、レヴィは一緒にモブを引き上げてから、周辺を確認しに行ってるからいねーぞ」

 

「なるほどな、とりあえず溺れ死なずに済んだ、助かった。俺の荷物は無事か?」

 

「ほらそこ、焚火んところだ。ついでに乾かせ」

 

 指をさされた方を見るとパチパチと火が立ち上っている。

 

「どれくらい俺は眠っていたんだ?」

 

 服を絞りながらディアに聞いた。

 くそっ火炎瓶は湿気ってダメだな。他にも数点使えなくなったのがある。

 

「焚火だけ焚いてすぐだからそんなに時間は経ってねーと思うぜ。もっともあたしとレヴィも最初は気を失っていたから、実際の経過時間はわかんねーけど」

 

 ダンジョン内で時間感覚が消えるのは割と厄介だな。せめて現在地でも割り出せればいいんだが。

 いや待て、このダンジョンに湖なんて情報はなかったし、そもそもこんな広かったり上下に奥行きがある場所なんて知らないぞ。

 

 急いで濡れてぐしゃぐしゃになった地図を広げて確認する。

 

 やっぱりこの場所に関する一切の情報がない。

 

 未探査領域。

 

 今まで誰にも見つかってない部分かよ。

 ここは元々廃棄ダンジョンで探索されてなかった場所はないはずだ。

 

 隠し扉かそれともこの場所自体が独立していて転送罠以外で来られないのかは不明だが、少なくとも救援を期待することは出来なさそうだ。

 

「はぁ、最悪だ」

 

 状況に対する落胆が思わず声に出る。

 

「生きてりゃ沈むこともあるさ、気にしない方がいい」

 

 岩場の影から渋めの低い男の声で慰められた。

 

「ああ、そうだな」

 

「それじゃ旦那も無事だったんだし、これから生きてダンジョンを出るための作戦会議と行こうか」

 

「それよりかモブが無事なのが確認できたんだし、飯が先だ」

 

「ははっお嬢ちゃんいいねぇ、たしかにまずは飯だな」

 

 …………いやお前だれ!?

 

 咄嗟に魔力糸を出して目の前の我が物顔で居座る男を縛り上げた。

 知らんぞこんな奴。

 

「うぉ、なんだこれ」

 

「誰だこいつは、うちのパーティにはこんなおっさんはいなかったはずだぞ」

 

 普通に会話に紛れ込んでいたけど、全く知らない。

 

「わりぃ、言うの忘れてた。あたし達が目を覚ましたらこの人もいたんだ。あたしたちより前に転送されて生き延びていたらしい」

 

「そこからは俺が話させてもらおうか」

 

 縛り上げた男の声でそちらを向いた。

 伸びたまま手入れをせずにぼさぼさになった頭、無精ひげに日焼けの跡。服装は動きやすさを重視した革製品、だけど手入れは雑でほつれや汚れが目立つ。武器は刃こぼれした直剣に短刀か。

 

「傭兵か盗賊か?」

 

「なんでわかった! 精神干渉系の魔術か!?」

 

「新人冒険者でもなければ見た目で相手の属性なんてなんとなくわかるだろ」

 

 そしてたぶん性格はガサツだ。なんとなくうちのアホを思い出すな。

 

「そういうことか、中々いい観察眼を持っているな。ご明察通り俺は盗賊だ」

 

「ディア、よくこいつを信用したな」

 

「んお? まぁ敵になったら殴ればいいし、味方は多い方がいいだろ」

 

 一理ある気はするが、そういうものでいいのか。

 

「安心してくれ盗賊、といっても入ったばかりの新人だ。一般人相手に殺しは働いたことはない。この間まで傭兵稼業のなんでも屋をしていたんだ」

 

 何でも屋ねぇ、腕に自信がないとそういうのはしないと思うんだが装備見る限り実力者には見えない。

 

「おっと、待て待て! そうは見えないとか言いたいんだろう? みくびってもらっちゃ困るぜ! 金さえ払えば誰の元へもつく、今日のダーケットは明日の依頼主、何でも屋のギドとは俺のことだ!」

 

 演技っぽいわざとらしい声色で「きまった」としたり顔を浮かべている。俺に縛られたままの体勢で。

 

 こいつよく喋るな。

 

「どうだ?これでわかったか?」

 

「何でも屋のギド、知ってるかディア?」

 

「いや全く」

 

 無名じゃねーか。

 

「ふっ俺の名声はこんな田舎まではまだ届いていないか。まぁいいさ、これから有名になったときに今回のことはいい思い出になるぜ」

 

 ……とりあえず怪しくはあるし素性もしらんが、こいつからはリーダーと同じアホの香りがするし。

 まぁ、大丈夫だろ。

 ただの盗賊程度なら俺でもなんとか対処できるし。

 

 魔力糸を解いて解放する。

 

「短い間だけどよろしくな、名も知らぬただの盗賊さん」

 

「何でも屋のギドだ!」

 

 ◇

 

 あの後しばらくしてレヴィも戻り聞いたところによると、この辺はモンスターがまばらにいたそうだ。

 ダンジョンにモンスターが出てこなかったのが、ミラースライムが片っ端から食い荒らした結果だとするならば、こっちまでには来てないってわけか。

 

 リーダーとメイと合流するべくこうして歩いているがギドがさっきからうるさくてしょうがない。

 

「俺は傭兵だから戦場にいたことはあっても、ダンジョンなんて初めてだからなんだかわくわくするな!」

 

「冒険者でもダンジョンは専門外の方もいますし、入るのは腕に自信がある方が多いですからね」

 

「わざわざ傭兵を雇うくらいの腕なら、はなから参加資格がないってわけだ」

 

「これでも俺も腕には自信があるんだぜ。なんて言ったって何でも屋のギドとは俺のことだ」

 

 こんな話しをさっきから何回も繰り返している。長い通路も相まって同じ時間を繰り返しているのかと錯覚してしまいそうだ。

 

「で、なんで何でも屋の傭兵が盗賊なんてやってたんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれた。実は数日前に何も食べてなくて行き倒れていたところを盗賊に拾われてな。恩を返すために期間限定で入れさせてもらったってわけだ」

 

 それが本当なら腕に自信とか嘘じゃねーか。

 実力者が空腹で行き倒れる訳がないだろ。

 

「はっは、困ったことに行商隊を襲ったらしいんだが、何かわけのわからん奴に襲われてな。方々に散って逃げたんだが安否はわからん。俺と一緒にダンジョンに逃げたやつも途中ではぐれちまった」

 

 こんな奴をリーダーと合わせたくない、絶対に二倍以上のやかましさになるはず。

 普通に話しているけど事の発端はたぶんこいつの盗賊団だろ。

 

「いい歳して迷子になってるとか困っちまうよな。あいつら見かけたら、そばから離れないように言っておかないと」

 

 ギドが腹を抱えて笑っているが、状況的にそれお前が迷子側では?

 

「あっ、他の盗賊の方はたぶん」

 

 おいレヴィ今それを言うなよ!

 せめてダンジョン出てからだろ。

 

 立ち止まり人差し指を立てて、黙るように合図を送る。

 

 レヴィは一度首をこてんと傾けた。

 

 かわいい、じゃない。余計なこと言わんでくれ。

 

「たぶんみなさんミラースライムに襲われたので壊滅状態かと思います」

 

「なっ! 壊滅!?」

 

 あちゃー言っちゃったかぁ。

 手を頭に当てて上を仰ぐ。

 

「壊滅って嘘だろ!? あの盗賊団は50人以上いたんだぞ!」

 

「こんな嘘つく必要はないだろ。ちなみに俺たちがここにいる理由もそのミラースライムだ」

 

「そんな……信じられねぇ。なんてことだ、俺を助けてくれた団長もみんなやられちまったっていうのか……」

 

 呆然と立ちすくむギドはそのまま俯いてすすり声が聞こえてきた。数滴の雫が地面を湿らせる。

 

 想いの強さは時間じゃない。入ったばかりとは言っていたがその想いは計り知れないくらい重いのかもな。

 

「くうぅ、団長…………よし、泣いた! スッキリだ、進もうか」

 

「「おいおいおいおい」」

 

 待て待て待て。

 

 ディアと俺の声が被ってギドを引き留める。

 

 切り替えの高低差おかしいだろ。

 何普通に行こうとしてんだよ、切り替えの早さにこっちがまだ追いつけてないぞ。

 

「ギドさん過去は引きずらないタイプなんですね」

 

 レヴィもなんかズレてるし。

 引きずらないとかそういうレベルじゃないだろ。さっきの涙は何だったんだよ。

 

「ギドよぉ、いくら何でも切り替えよすぎねーか。ちょっと薄情に見えちまうぜ」

 

「おっと、そう見えちまったんならすまねぇ。傭兵なんてやってるとな、想いを引きずるってことがそのまま自分の死に直結するんだ」

 

 ギドが一瞬だけ戦場でよく見かける、戦士の目つきになった気がした。

 

「いわば傭兵特有の癖だな。団長達のことは本当に悲しいと感じているさ。だけどそれとこれは別だ。ダンジョンから出たら思う存分にまた泣けばいい。だろ」

 

 なんだよ、軽薄な物言いだから口だけの素人かと思ったら、ちゃんとプロじゃないか。

 

「ちょっと今のカッコよかったな。カッコよかったよな旦那?」

 

「言わない方がカッコよかったのにな」

 

「はっはっは、ちげぇねぇや」

 

 とりあえず内面に関しては信頼できるやつ。

 なのかもしれない。




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