え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~ 作:猫豆腐
「グゲぇ……ギッ」
「ま、こんなもんよ」
ギドが地面に倒れている猪型モンスターから直剣を引き抜く。
「これで旦那も俺の実力を認めたか?」
「まあまあだな」
「旦那は厳しいねぇ。まっ、お嬢ちゃん達が基準ならそれもそうか」
思っていたよりもギドはちゃんと立ち回れる男だった。ノリは軽いが傭兵というのは頷ける。
剣をしまい込んでギドが背を伸ばす。
「あー疲れたぁ、しっかし未探査領域とか初めてだぜ」
「ギ、ギドさんはダンジョンは初めてなんですよね?」
服に付いた埃を払ってレヴィがギドに近づく。
「初めてって言うわけでもないが傭兵だからな、戦場がメインだ。ダンジョンは数年ぶりさ」
お前、少し前にダンジョンは初めてとか言ってなかったか。
ディアが腕を組んで唸る。
「にしてはやたらと慣れてるっつうか、詳しいな」
「ん? おぉ確かに。いつの間にか詳しくなっていたんだな。あっそこ罠の境目あるから気をつけてな」
そう言って慣れた手つきで地面を叩くと、壁から槍がせり出した。
いや、これで慣れてないは嘘だろ。
「なんだ? 顔に何かついてるか?」
「何でもない」
「旦那は少し変わっているなぁ」
お前に言われたくねーよ。
「そうなんだよ、やっぱモブは変な奴だよな。あたしが言ってもいつも認めねぇからもっと言ってやれ」
「首に手を回すなよディア。苦しい」
「照れんなって」
そう言ってディアが首に回した腕に力を入れてくる。女性特有の柔らかさの中に少しだけ筋肉を感じるがそれどころじゃない。
締まってるから、息できないから解いてくれ。
このままでは意識が落とされるともがいているとギドが突然笑い出した。
「あっはっはっは、旦那のとこは仲がいいなぁ。まるで夫婦漫才みてーだ」
「な、なっ、夫婦!? そ、そそんなんじゃないから!」
顔を赤くして否定するディアがさらに腕に力を入れた。
あっ今、なんか首からしちゃいけない音がした気がする。
「モ、モブさんが大変な顔色に! 腕を解いてあげてください」
慌ててレヴィが近づいてディアのロックから解放される。
「首捻じ曲がってないか? レヴィ見てくれ」
「ちゃんと歪曲魔獣のネックラストみたいで大丈夫です」
なにそれ知らない、魔獣で例えんな。
しかも名前的に似てたらダメなやつじゃないのか。
「旦那のパーティは仲良くて羨ましい限りだな」
「俺のパーティじゃない」
この破綻者どもに囲まれるのが羨ましいならぜひ変わって欲しいね。
「んで、お嬢ちゃんと小さい方のお嬢ちゃんのどっちが旦那のパートナーなんだ?」
ギドが下卑た顔で深堀りしてくる。
こういう勘繰りは男女混成パーティな以上は慣れているが、普通に面倒だ。
いっそそこらの娘と付き合いでもした方がいいのか?
「うちはメンバー間の色恋沙汰は原則禁止だ。面倒ごとになって崩壊するのは目に見えているからな」
あと単純に地味顔荷物持ち冒険者じゃこいつらとつり合いが取れない。
変な癖を抜かせば全員見た目はいいからな、見た目は。
「ふーん、旦那がそう言うならそうか」
「ああ、面倒ごとはごめんだね」
何となくだがギドの視線が背後の2人に向いている気がしたが気のせいか。
「それとレヴィのこと小さいお嬢ちゃんと言ったけど、うちにはもっと小さいやつもいるからな」
「ならその子はチビ助だな」
「「あっ」」
ディアとレヴィが同時に反応する。
おい、それ絶対本人にいうなよ。もれなく細切れになるぞ。マジで。
「ぜひ会わせていただきたいもんだ」
「俺は嫌な予感するから会わない方がいいと思うぞ」
「別嬪さんならぜひ紹介してくれ、旦那の相手はここにはいないんだろ?」
さっきから恋人だの話題をだしていたのはそのためかよ。
「なんだぁ? あたしとレヴィは眼中じゃないってのかよ」
腕を組んだディアがギドに詰め寄る。
「ギドさんに興味なくても全く興味持たれてないのはなんか嫌ですね。こう女としてのプライドが」
めんどくさい話題だしやがって、経験上絶対そのうち俺にも飛び火する。
「もちろんお嬢ちゃんたちも対象内だぜ。俺は甲斐性があるからな」
「なんだかトロフィーみたいに扱われてて不快です」
「気が合うなレヴィ、やっちまうか」
よくない流れだ。
ギドが2人にボコられた後に『モブさんは誰が一番モテると思いますか』だの『モブはあたしらに興味津々だよな、だってこの間も……』みたいな展開が続くのが見える。
俺のためにも飛び火する前にギドに助け船を出してやるか。
「悪いんだがその話題ここで切り上げていいか。結構歩いたし野営の話しに移りたい」
「旦那! そうだな、野営だな!」
冷や汗を垂らしたギドが調子よく俺の提案に乗ってくる。
後ろの2人は何か言いたそうにしていたがさすがに状況が状況だ。大人しく引いてくれたようでディアが構えを解いた。
「確かに、時間の感覚がわかんねーけど、大分経ってるもんな。そろそろ休む所決めといた方がいいか」
「ギドさんは後でお話ししましょう」
「旦那ぁ」
知るか。お前が悪い。
すがるギドを無視して野営の準備を始めた。
◇
夜。
かどうかはわからないが食事の後、体力回復のために少しの間横になる。
俺は前衛ではないため見張り番を買って出た。
普段うるさいのに囲まれている影響からかこうして一人のときはどことなく落ち着かない。
「俺もあいつらにだいぶ影響されてるってわけか」
独り言が漏れる。
こうして一人でいると思考が鳴りやまなくなる。
リーダーとメイが離れてどれくらいたった、少なくとも一日以上は経過しているはずだ。
元のダンジョンに繋がる出口もいまだに見当たらない。
不安と焦燥、そして過去の記憶。
一度考え始めると止めようとしても洪水のように次々にちらつく。
『魔力の才能がゼロなら何やっても意味ないんだよ!出ていけよここから』
兄が俺を糾弾する声が頭に響く。
もう何年も前のことだというのに、いまだにあの時の俺を見る顔。
苦虫を噛み潰したような顔が、頭の底にこびりついて離れない。
だから一人は好きだけど独りは嫌いだ。
運動もしていないのに一筋の汗が頬を伝う。
「旦那大丈夫か」
「っ!?」
気付くとギドが隣にいた。
「そんなに驚くなって、小便に起きただけだ」
「ギドか、悪い番なのにボーっとしてた」
「常に気を張っててもしょうがないだろ、いたずらに気力を消耗するだけだぜ」
正論だ。だからこそ思考に沈んで気力を消費していたなんて見張り番失格だった。
「仲間が心配でしょうがないんだろ。そんな変な汗かいてしまうくらいに」
「それもある」
「それも?」
「ギドには兄弟はいるか?」
「ちょっと待て、コーヒーでも入れる。ちなみにいた」
マイペースな奴だ。
そうして湯を沸かし始めたギドを横に俺は話す。
「いた、か。俺にも腹違いの兄弟がいたんだ」
「それはなんとも複雑な匂いがするな」
「まぁ単純な関係とは言えないな。兄弟はそこまで重要じゃないんだ」
「ほいコーヒー」
差し出されたカップを受け取る。
「俺は見ての通り戦う力がない、だけど何もしてなかったわけじゃない」
ギドが淹れたコーヒーをすすりながら続ける。
「戦う力がないなりに考えて、創意工夫してやっと今のレベルになったんだ」
それすらも怠っていたら冒険者にすらなれなかったと思う。
「でもあることがきっかけで兄を怒らせて、その時の失望や、嫉妬とかも負の感情をごちゃまぜにした顔が……」
その時を顔を思い出して腹の中で何かがぐるぐると渦巻く。それを苦味を感じる液体で無理やり喉奥に押し込み。
代わりに何かを言葉にして吐き出す。
「忘れられなくて逃げ出したんだ」
「逃げ出した、か」
言葉に出してから今更ながらにしまったと思う。
「すまん。初対面の相手に話す内容じゃなかったな」
するとギドは微笑んでこちらを向いた。いや顔を背けていたのは俺の方か。
「俺は話してくれて嬉しいぜ。つかみどころのないどっか遠くを見ていると思っていたやつに、そんな過去があったなんてなぁ」
「それを時々思い出すとさっきみたいにボーっとすることがある。仲間も心配だけど、それ以上に自分のことしか考えていないやつだよ俺は」
「慰めはしねぇぞ、女にしか慰めたり甘い言葉はかけないって決めてんだ」
ギドは一気にコーヒーをあおって空になったカップを見つめる。
「けど、今のお前を見て言うなら、そうだなぁ。カフェオレだな」
「なんだそれ」
「わかんねぇならいいさ。ほいじゃおっさんは体力が少ないんでな、寝させてもらうぜ」
そう言って立ち上がるギドを目で見送りながら後ろ姿に声をかけた。
「なぁギド、寝る前に聞きたいことがあるんだが」
一つ、さっきから気になっていることがあった。
「なんだ」
寝る前だとしても、これだけは聞かなくちゃいけない。
「お前、手ちゃんと洗ったか」
読んでくださりありがとうございます
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