え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされています~ 作:猫豆腐
「にしてもこのダンジョン広かったんだなぁ」
リーダーとメイを探し続けて合流できずに既に数時間が経過している。
現状、ダンジョン上層に繋がるような道も見つからないまま、当てもなく彷徨っているだけだ。
わずかに焦りが込み上げて拳を強く握りしめる。
何やってんだよ、リーダーとメイは。
そう思っていると不意に背中を叩かれた。
「なーに落ち込んでんだよ旦那。はぐれた仲間も無事に決まっているさ」
「ギド……」
「根拠のない慰めにしかならんが、仲間なら生きてるって信じてやるのも大事なんじゃねーのか?」
確かにギドの言う通りそうなのかもしれない。
だけど頭でそう思おうとしても心がそれを拒否してくる。
「ああ、そうだな」
言葉だけ取り繕って前に向き直った。
「急に切り替えろなんて言っても無理な話か。悪ぃな旦那、ちょっと意地悪言っちまった」
背中側からボソリと、独り言のような声が聞こえてきた。
無事でいてくれよ2人とも。
◇
長く長い通路をひたすら歩く。
途中、キャンプして仮眠を取ったりもしたが実際のところ今が何時なのか、昼なのか夜なのかすらも分からない。
その間モンスターはちらほら見かけたが特に苦戦もなく対処していた。
ギドは身軽さを利用した短剣での戦闘。ディアはいつもと同じ拳だが壁破壊を気にして思うように動けない様子だった。
そして。
「ブルーバレット!」
身をたたんだ青い鳥がモンスター目掛けて高速で飛び出して貫く。
「ありがとうあおちゃん」
ピィっという鳴き声が聞こえる。
見た目は青色の可愛い小鳥だがだまされてはいけない。
「あれ? またモブさんの方に行きたがっていますね」
「モブさんが好きなんですか~」などとのんきにレヴィが言っているが実際は逆だ。
なんどこいつに貫かれそうになったことか。
明確に嫌われているのだろう、レヴィに近づこうとすると隙あらば攻撃しようとしてくる。
レヴィはそれが懐いているように見えているらしいが、ちゃんとしつけしてほしい。
「まったくどれだけ広いんだよこのダンジョンは」
しびれを切らしたのかディアがついに愚痴り始めた。
「なぁ」
「ダメだ」
「まだ何にも言ってねぇじゃねーかよ」
「どうせ壁を壊して進もうとかだろ、最終手段だ。俺たちが壁の責任とらされたら破産する」
「うぐっ」
図星かよ。
「で、でもこのままの調子でいいんでしょうか」
「結構な時間は経っているはずだからな。旦那の仲間も外への出口もまるで見つからねぇ」
「これで不安になるなって方が無理な話しだぜ旦那」
ギドに乗っかって壁を触っていたディアも間髪入れずに口を挟んでくる。
「こんなに入り組んでちゃマッピングもできやしねぇだろ。壊しちまおうぜ」
「じゃあ壊すか」
「だからそんなこと言ったって……んえ?」
なんだそのリアクションは、俺が拒否するの前提で聞いてきたなこいつ。
「壁壊していくかって言ったんだよ」
「モ、モブさんそんなことしたら」
レヴィがおずおずと言ってくるが、正直俺も壁を壊すぐらいしかもう思いつかない。
「実際遭難みたいなもんだし、よく考えたらここは未探査領域でギルドも把握していないはずだ」
「旦那まさか」
「壁なんてなくても元からこうなっていた地形だったって言い張れば問題ないだろ」
「相変わらずそういうことには頭が動くのな」
「なんだよ嫌ならこのまま歩いていいんだぞ」
「いや、大好きだそういうの」
ディアが犬歯を見せながら口角を吊り上げる。
「なんか旦那達あれだな、冒険者にしておくのがもったいないくらいにこっちよりだな」
うるせぇ、他の冒険者がきれいごと過ぎるんだよ。
「よーしっ! 離れてろ、でかいのかますぜ」
距離をとってディアから十分に離れる。
普段のディアを見ていないせいかギドがそこそこの距離までしか後退していない。
「おいギド、もっと離れないと巻き込まれるぞ」
「んあ? 十分離れてないか? というかそもそもダンジョンの壁ってかなり分厚いんじゃ――」
暴風。
続いて衝撃波が襲ってくる。
ディアを中心とした小型爆弾。この説明が一番しっくりくる。
「ぬあああああ!」
吹き飛ばされるギドを糸で引き寄せて襟首をつかんだ。
「警告はしたぞ」
「あ、ああ俺の見積もりが甘かった」
「しかしディアのお嬢ちゃんはとんでもねぇな」
そういうギドの視線の先には、ディアが技を打ち込んだダンジョンの壁があった。
壁は人が通れるほどの大きさの穴がぽっかりと開いており、さらに奥の数枚がぶち抜かれている。
「ま、こんなもんか。気兼ねなく破壊できるってのは気持ちがいいもんだな」
何が気兼ねなくだ。
たまにホームや街を破壊してるじゃねーか。
「はぁ~、それは何よりで」
「んじゃあ、ぼさっとしてても始まんねぇし進むか」
ディアが立ち上がって、伸びをする。
「……そうだな」
破壊癖は今言うことじゃないか。
先導して進むディアに続いて歩き出す。
ふと、足の裏に振動を感じた。
「なんだ、振動?」
「みなさん、何か来ます!」
レヴィが叫ぶ。
「なんだなんだどんどんでかくなっていってるぞ」
モンスターの大群がこちらに向かって走ってきていた。
「まーた大群かよ!」
焼き増しもたいがいにしてくれ、こんな短期間に2度もモンスターに追われる趣味はねぇぞ。
「モブ! 下がってろ」
「おいおいどんだけいんだよ」
「き、来ます!」
先頭のモンスターがこちらにぶつかる瞬間、モンスターがこちらを避けてすり抜けていく。
「っ!?」
「ああ? 何が起きてんだこりゃあ」
モンスターたちは、俺たちを避けて後ろに去って行った。
「旦那、これはいったい……」
「俺に聞くな、俺もさっぱりだ」
モンスターが人間に反応せずに避けていく。明らかに普通の行動から逸脱している。
不測の事態が多いダンジョンということを差し置いても、毎度のことながら異常事態しか起きないことに嫌気がさす。
ちくしょう、ままならない。
違う。そんなことを考えている状況じゃない、後回しだ。
今は目の前のことに集中しろ。
「反対の通路は無事だ、そっちに移動するぞ」
ギドたちが話しているのを遠巻きに荷物の確認を行う。
中をのぞくとポーションが複数割れて漏れていた。
……保存の観点からガラス素材だというのはわかるんだが、もうちょっと何とかならんのか。
激しく動く冒険者が持つにしてはいささか強度が足りない。
周りに細い鉄で装飾して強度上げたものもあるけどそんな貴族仕様買えるわけがない。
作業を続けているとギドたちの話し声が聞こえてきた。
「しかし、さっきは焦ったな」
「ああ、ギドも巻き込まれたと思ってあたしも焦ったぜ」
「はっはっは、これも俺の強運のおかげかな」
向こうでは和気あいあいとした会話が繰り広げられている。
小言の一つでも挟んでやるか。
「まだモンスターがいるかもしれないんだから気は張っておけよ」
誰も返事を返してくれない。
「……っえ」
ギドとディアに無視され、時間をおいてレヴィだけが返事をくれる。
「いや、えじゃなくて。気をつけておけって――」
苦言でも言ってやろうとみんなの方を見た。
「どうして……」
レヴィが青ざめた顔をしているが何かあったのか。
ここからだと離れていて状況が把握できない。
「てめっ何を」
ディアまで驚いたような声で顔をゆがめている、厄介ごとじゃないといいが。
「また何かあったのか」
3人に近づくとレヴィがこちらに倒れ掛かる。
「大丈夫かレヴィ?」
支える手に何か生暖かい液体の感触が触れた。
手に付いたそれは、戦場でよく見慣れた液体。
「あ、あれ何で俺? え?」
ギドから困惑したような声が聞こえてくる。
一体何が起きている。
何を見落とした。
なんでこんなことに。
なんでレヴィが腹から血を出して――
「何やってんだ! ギド!」
俺の目の前には、血に濡れた短剣を持って立ちすくむギドがいた。
読んでくださりありがとうございます
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