え、俺も前線にいくんですか!?~ただの一般モブなのに自称勇者のヤバい女に荷物持ちやらされていますが、いつの間にか立場逆転しそうです。そんなことよりポーションの補充します~ 作:猫豆腐
「パーティ名を決めるわよ!」
差し押さえ騒動があった翌日。
朝からリーダーのいつものが始まった。
拠点を人質に取られ、莫大な借金を背負ったというのに、この女の脳内はどうなっているんだ。
「パーティ名かぁ。確かにそろそろあたしらも知名度上がってきてるしな。ここいらで名前を決めて、大々的に宣伝していくってわけだな」
上がってきている知名度の内訳は、悪評のほうが多いけどな。
「ディア! そういうことよ! 今の私たちに足りないもの、それは知名度よ!」
いや、金だろ。
「名前を決めて、私たちだってわかるようにすれば、指名依頼なんかも来るはずよ!」
逆に、悪評のせいで来なくなるんじゃないですかね?
二人の会話を聞いていると、普段は振られない限り参加しないメイが、珍しく自分から口を開いた。
「…………可愛い名前……がいい」
メイはメンバーの中では一番最近の加入だが、意外とちゃんと帰属意識があるらしい。
ちなみにレヴィは魔獣に餌をあげに行っている。
俺もそっちに混ぜてもらいたいくらいだ。
いや、食われそうだからやっぱなしで。
「可愛い名前ね。それもいいけど、私はもっとこう、勇者らしい……『ダークネスライト』とか!」
案の定、リーダーの中二病が炸裂した。
自称でも勇者名乗ってるなら、闇(ダークネス)を混ぜるな。
「いや、もっと『龍頭会』とかはどうだ?」
それは裏の組織名だろ。
「…………ふわりぃず……」
ギャップが激しすぎる。
嫌だぞ、『ふわりぃずの荷物持ち』なんて肩書き。
次第に三人の議論は白熱し、『仏恥義理』だの『スーパーテーブル』だの、もはやパーティ名ですらない単語が飛び交い始めた。
これ、いつ終わるんだ?
「……ちょっと、庭でレヴィの様子見てくるわ」
「あ、逃げる気ねモブ! 戻ってきたらあんたの意見も聞くからね! 荷物持ちらしい、地味だけど堅実で、でも華がある名前を考えといてよ!」
注文が矛盾しすぎてて無理だ。
俺はリーダーの叫びを背中に受けながら、現実逃避のために勝手口を抜けた。
◇
庭に出ると、そこはもう「庭」という概念が崩壊した場所が普段通りに展開されている。
巨大な魔獣たちが数体、レヴィの指示に従って整列……というより、庭の土を熱心に掘り返していた。
「よう、レヴィ。ペットたちは元気か?」
「あ、モブさん。おおむねみんな元気ですよ。……ほら、ダメですよゴルゴン、モブさんを食べようとしちゃ」
挨拶代わりに、巨大な顎が俺の頭をかすめる。
生温かい吐息が首筋にかかった。
レヴィが慌てて魔獣の鼻先をペシペシと叩く。
こいつは魔獣使いとしての腕は超一流だが、いかんせん基準がズレている。
普通は命の危機が今しがたあったのにペシペシなんて可愛い動作で済ませていいわけがない。
ふと俺の命の価値がレヴィの中でその程度なのかとよぎったが、もしそうなら立ち直れなくなりそうなので思考を断ち切った。
「リーダーたちがまた妙なことを始めてな。今度はパーティ名を決めるらしい」
「パーティ名ですか……素敵ですね。私も、この子たちがもっと世間に受け入れられるような、優しい名前がいいです」
優しい名前、か。
俺はレヴィの後ろに広がる、無惨な光景に目をやった。
魔獣たちが「お遊び」と称して走り回った跡は、土が均され、岩は粉砕され、まるで最新の整地用重機が通った後のように平坦になっている。
「……なぁレヴィ。この地面、お前がやったのか?」
「ええ。この子たちが走り回りやすいように、ちょっと『お掃除』してもらったんです。障害物があると、この子たちが足を挫いちゃいますから。遠征先でも、みんなが寝やすいように、こうやって地面を平らにしてたんですけど……喜んでもらえたでしょうか?」
俺は一瞬、遠征先の味方のやぐらや仮拠点が「更地」になっていたことを思い出し、嫌な汗が背中を流れるのを感じた。
あの時は、敵の防衛施設があったはずの場所が、翌朝には見事な「平地」になっていた。
俺はてっきり、軍の工兵部隊が頑張ったのかと思っていたが……。
「……喜ぶっていうか、畏怖されてる可能性はあるな。メイが『あそこの陣地、一晩で消えた』って無表情に言ってたぞ」
「え? 畏怖……ですか? でも、掃除しただけですよ?」
レヴィの無垢な表情を見ていると、それ以上は言えなかった。
こいつら、自分たちが「破壊」を「掃除」と呼び、「蹂躙」を「運動」と呼んでいることに、本気で無自覚なんだ。
そんな平和(?)な会話をしていると、勝手口が勢いよく開いた。
「モブ! レヴィ! ぐずぐずしてないでギルドに行くわよ! 名前を決める前に、まずは稼ぐためのクエスト選びよ!」
結局、逃げ切ることはできなかった。
俺とレヴィは、鼻息の荒いリーダーに引きずられるようにして、再びギルドへと向かう羽目になった。
◇
ギルドに入った瞬間、空気が変わった。
喧騒が、潮が引くように消え、俺たちが歩く道筋にいた冒険者たちが、まるで示し合わせたかのように左右へ割れる。
「なんだ? 今日は随分と道が空いてるな。あたしらの覇気にあてられたか?」
ディアが満足げに笑う。
たぶんこの反応は、覇気じゃなくて恐怖だ。でも、なぜ?
俺の視界には、震える手でジョッキを握り、俺たちから必死に目を逸らそうとするベテランたちの姿が映っていた。
「おい、あいつらだ……間違いない……」
「例の石、見たか。鑑定士が真っ青な顔して抱えて走ってたぜ……」
「噂では爆弾だったらしい。あんなモンを平然と机に置くなんて……正気じゃねぇ」
「歩く災厄……『静かなる平野(サイレント・プレーン)』……」
リーダーが、その言葉にピクリと耳を動かした。
「……ねぇ、今、かっこいい名前聞こえなかった?」
やめろリーダー。
絶対に関わるな。悪い予感がする。
俺の制止も虚しく、リーダーは隣のテーブルで震えていた中堅冒険者の肩をガシッと掴んだ。
「ちょっとあんた! 今、私たちのことなんて呼んだの!?」
「ひ、ひぃっ! 許してくれ! 侮辱したわけじゃない、尊敬の念を込めた呼び名なんだ!
あんたたちが通った後は、敵も、地形も、軍の施設も……文字通り『何も残らない』って有名なんだよ!
まるで最初から何もなかったみたいに、ただの平野になっているって……!」
リーダーの顔が、ぱあっと輝いた。
「静かなる平野……! 何それ、かっこいいじゃない!
私たちが通った後は、嵐の後の静寂が訪れるってことね!
ディア、聞いた!? これよ、これこそがブランド力よ!」
「なんだかよく分かんねーが、強そうでいいじゃねーか!」
「…………しずかな……へいや……。響き……好き」
メイまで同意してしまった。
だが俺の頭の中では、庭でレヴィが言っていた「お掃除」の話と、遠征先で崩れかけた施設を片っ端から片付け。
仲間のミスの隠ぺい工作て回った記憶が、どうも変な形で噛み合う。
あー、そういうことか。
レヴィの魔獣が踏み荒らし、リーダーたちが破壊し、俺がその後始末を完璧にやりすぎた。
その結果、戦場に「不自然なまでの平坦な地平」が出来上がってしまったわけだ。
俺が掃除しすぎたせいかよ!
俺が「何もなかったこと」にして平地に戻しすぎたせいで、世間では「通った場所を消滅させる不気味な掃除屋」みたいに思われてんのかよ。
「よし決めたわ! 私たちのパーティ名は、今日から『サイレントプレーン』よ!
ギルマス、今すぐ登録しなさい!」
リーダーがギルドの真ん中で高らかに宣言する。
周囲の冒険者たちが、
「自ら名乗ったぞ……」
「隠す気もないのか……」
「次はどこの街が更地にされるんだ……」
と、絶望の表情を浮かべて後ずさる。
「なぁリーダー。その名前、たぶんいい意味で呼ばれてるわけじゃないと思うぞ」
俺の必死の指摘も、新たな「パーティ名(悪名)」を手に入れてご機嫌なリーダーの耳には、微塵も届かなかった。
「さあ! 名前も決まったことだし、片っ端から依頼を受けるわよ! 第一弾は……これね!」
リーダーが掲示板から剥ぎ取ったのは、依頼書に不吉な印が書かれた、明らかに「まともな神経の人間は手をつけない」汚れ仕事だった。
俺は深く、本当に深くため息をついた。
こうして、俺たちの『サイレントプレーン』としての、本当の地獄が幕を開けたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
明日土曜日は6話7話を20時~21時くらいで投稿します。